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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「隙間から覗く暗がりに潜むもの」シリーズ

いつも、空っぽになった毒薬の瓶を眺めている。

作者: まいまいഊ

 僕は、いつも空っぽの毒薬の瓶を眺めている。


 そして、僕は……


 何もしない、なにも。


 何も求めない。


 本当のところ、誰も僕には求めていない。だから、僕は誰にも助けを求めない。


 僕は何もしない。

 誰も見ていない。


 何も無い。

 何も残らない。


 ただ、僕の前から、いなくなるだけなのだから。

 だから、僕は、他人の死なんてどうでもいい。

 すでに、死んでいるんだ。僕は。心が。






 僕には、自殺をしようとした友人がいる。

 ……しようとした、と言うからには、もちろん死んだわけではなく、僕とは関係のないところで、今も元気に人生を謳歌している。



 あの時、友人はそう言ってきたのだ。僕にそう言って相談をしてきたのだ。

 その時、僕は何もできなかった。何もしなかった。


 いや、ありあまるほど言ってしまった可能性はある。その自覚はある。



 僕は、自殺を止めはしない。

 その悩みに対しての助言もしない。

 当事者ではない自分は相手の気持ちを正しく理解はできないのだから。




 僕が、口にするのは、自殺の方法についてだけ……


 僕が、彼女に提供するのは、自殺の方法だけ……




 いつも笑っていた君は、あの日は、泣いていたね。

「ごめんね」

 彼女は、誰に言っているか分からない言葉を言う。

 どんな慰めの言葉も、効かないと分かっていた僕は、何も言わなかった。


 彼女は、自殺したいと、僕に言う。

 僕は「自殺以外に道はないのか」と問う。

 その僕の口から出た言葉は、意味が無いことを知っているのだけれど。


「『彼』に自殺、やめろといわれたら、止めようかな……でも、誰にも、ぜったい言わない。絶対に」

「でも、どうして、僕なんかに……? 僕が止めるかもよ?」

「そういうことしないの知っているもの。何年一緒にいると思ってるの? それに、内緒と言ったことは、絶対誰にも言わないでしょ?」

「まあ、そうだけど……」



 彼女は、僕にあることを相談する。

「何か、無いの? そういうの詳しいでしょ?」

 僕の部屋の本棚には、毒物や自殺のマニュアルと言った、本来高校生では買えない本が何冊か置いてあった。


 僕は、自殺の方法を口にする。


 列車飛び込み、残された家族に多額の金額が請求される覚悟が必要だ。家族に迷惑をかけたいのならご自由に。


 ビルからの飛び降りは、下に人がいないところでやってくれ、君は一応、他人を巻き込みたくは無いのだろう?


 灯油かぶっての焼死は、失敗すると死にたくなるやけどを負うよ。それから、燃えやすいものの近くではやらないでくれよ。君が悶え転がって周りに燃え移ったら、それこそ迷惑きわまりない。


 首吊りは、純粋に美しくないから、僕はあんまりお勧めしないけれど、お手軽簡単だ。独りこっそり、誰にも知られること無く死ぬこともできる。だが、さっきも言ったけれども、美しくないから、僕は嫌いだな。



 有名どころは、美しくないから嫌いなんだ。





 睡眠薬? 今の時代、弱めのしか手に入りにくいから、たくさん飲まなくてはいけないから大変な作業だ。3・4箱分も飲めばいいんじゃないかな。 薬が効き始める前に、全部飲んでね? 頑張ってね? たくさん入るように、お腹は空っぽにしておいた方がいいかもね。最後においしいもの食べて、自殺したいって考えちゃだめだね。


 一酸化炭素中毒は、下準備の手間の多さは、一番なんじゃないかな。密閉のガムテープ貼りなんて、かなりな労働だと思うよ? 途中でテープが足りなくなったら、買いに行かなきゃ行けないしね。場合によっては、外に出るためにはがさなきゃいけないかもしれないね。

 あぁ、それから、くれぐれも部屋ではしてくれるなよ? ガムテープごときじゃ、完全な密閉はまず無理。運が悪ければ、隣の部屋の住人も巻き添えになる。




 美しくし寝るように死ねるものは、手間隙かかって、面倒くさいったらありゃしない。

 購入に金もかかるし、万が一失敗したら、医療費でさらに金がかかる。

 面倒くさいったら、ありゃしない。

 僕には、そんな気力ないし、こんなことに払う財力も無いよ。



「この中で、やりたいのがあったら、いってごらんよ。もっと詳しく解説してあげるから」



「……なにか、毒薬は持ってないの?」

 あ、やっぱり、あの中から選ぶのはやめたんだ。僕は、そう思った。


「毒薬……あることには、あるけれど……」

「あるんだ!それは、驚き」

 僕が犯罪・毒物マニアということは知っていたとはいえ、本当に持っているとは思っていなかったようだ。

 僕は、話しながら思い出した。

 そう、僕は毒薬を持っている。


 これを飲めば、苦しんで死ぬ。口内、食道、胃等の粘膜が強アルカリに侵されて、のどが食道が……ただれて死ぬ。

 僕は、これ以上、思い出さないようにしなくてはいけなかったはずだ。

 ただただ、あの薬品の毒性については、隠さなくてはいけなかったはずだ。






 ――僕は、思考とは裏腹に、一つの瓶を机に置いた。

「これは、水酸化ナトリウム」


 水酸化ナトリウム。化学式はNaOH。別名、苛性ソーダ。

 この薬品は、石鹸を作るときに使う。薬局で買うことができる手軽な薬品。


「なんであるの?」

 彼女は、震えた声で言う。

「石鹸を作るために必要だから……印鑑と身分証明があれば意外と簡単に手に入る毒物なんだよ……まだ新しいから、劣化もしていないと思う」

「そうなの……?」

「そうだよ。だから、安心して死ねるよ。……ただし、かなり苦しいよ」

 僕は自分が一体何をしたいのか、すでに分からなくなっていた。

 僕は、彼女に瓶を手渡す。

「で……でも、この薬渡したことが、警察とかから、疑われたら、どうするの?」

 彼女は、心配してくれているようだ。

「それは大丈夫。僕と君で、よく石鹸を作っていて、水酸化ナトリウムは僕が購入したけれど、分けたとでも言えば、疑われないさ」

 こんな会話しているとは、誰も思わないわけだから、普通にしていればいい。もし、聞かれたとしても、「僕のせいで……」と、呆然としていればいい。僕には、それくらいできる自信はある……


 彼女の自殺を止めることが出来る言葉は一つ。

「死なないでくれ」

 しかし、その言葉は喉の奥に、眠ったままだった。


 僕は、何もしないのだから。

 僕が何か言ったところで、彼女は変わらないのだから。


 だから、僕は何も言わない。何もしない。

 ただ、机の上の薬瓶を見つめているだけ。




 僕が話を最後まで聞いて、君が僕に求める。

 僕は、死ぬ方法について語る。


 自ら命を絶つのだ、あっさり死のうなんてムシが良すぎない?

 誰にも迷惑かけないでひっそり死にたいなんて、そんなこと考える余裕あるの?


 死んだ後の見た目を気にしているようじゃ、本当に死にたいなんて口にしちゃいけない。




 それに……



 僕は、知っているんだ。

 彼女は、本当に死にたいわけじゃないことを。



 だって、ほら、君は、この薬を手にしない。


 僕はため息をついて、実は空っぽの薬瓶を元の位置にしまう。



 そう僕は、知っているんだ。

 彼女が、本当に死にたいわけじゃないことを。


 ただ、話を聞いて欲しかっただけと言うことを。









 すでに、死んでいるんだ。僕は。心が。

 だから、僕は、他人の死なんてどうでもいい。

 ただ、僕の前から、いなくなるだけなのだから。


 何も残らない。

 何も無い。


 誰も見ていない。

 僕は何もしない。


 本当のところ、誰も僕には求めていない。だから、僕は誰にも助けを求めない。

 


 何も求めない。


 何もしない、なにも。



 そして、僕は……


 僕は、いつも空っぽの毒薬の瓶を眺めている。

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