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自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました! 作者:冬塚おんぜ

第三章 魔女達の在り方

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第六十六話 「この音が聞こえるか!」


 夜明けの淡い陽光が、横合いから差し込んでくる。
 湖がそれを上手い具合に反射させたのか、近くの山脈を鏡のように映す。

 だが、俺はその光景に感動している暇なんて無かった。

 これから向かうのは、廃都ローレキア。
 歌い竜カグナ・ジャタとの戦いが待っている。

 ちなみにヴェルシェは相変わらず爆睡してた。
 だから結局、俺はファルドと協力して座席に放り込んだ。


「もうすぐだ」

 空が明るくなっていくにつれて、遠くに見える廃墟がゆっくりと姿を見せていく。

 その中心部。
 崩れた廃城の屋上に、奴は悠然と佇んでいた。
 遠くからでも姿を確認できる程の、巨大なドラゴン。

 本来は二本あったであろう角は、片方が根元から折れている。
 だが、そんなものはハンデには成り得ないだろう。
 原作ではファルド達が北へ逃げ延びている間に、メルツホルン線の巨大ゴーレムを楽々と葬ってしまう程の力を持っているのだから。

「いいか。さっきも言ったが、カグナ・ジャタは先制攻撃してこない。気を強く持て」

 俺は半ば自分に言い聞かせるようにして、みんなに伝えた。
 カグナ・ジャタの目の前に着陸する。

「汝、我の前に現れて何を為すや」

 でけえ。
 前足の指一本だけで大人一人分はある。
 四足歩行で背中に翼を持つ、巨大なドラゴンだ。
 鱗は一つ一つが黒曜石のように透き通った色合いで、星空のように煌びやかな模様がある。
 何というか俺の貧弱なボキャブラリーでは“すげえ”としか言えない。

 俺は無言でみんなに目配せし、飛竜から降りる。

「歌い竜カグナ・ジャタで間違いありませんね?」

「然様。我の名を知る者よ。汝は何者だ」

「僕はシン。石版の予言者です」

 ここからが本番だ。
 滅多な事を言えば、もろとも消し炭にされる。
 今までとは違って、死ぬリスクがめちゃくちゃ大きい。

 何せ、魔物図鑑・魔王軍編によればカグナ・ジャタは歌に関して非常にうるさい。
 ちょっとでも機嫌を損ねたら、凡百の歌を奴の耳に届けようものなら、即座にブレスで焼き払われる。
 正面から戦うよりはいいのだろうが、それでも大きな賭に出ているのは間違いない。

 みんなを説得するのも、時間が掛かった。
 そりゃあ、言ってみれば一発アウトの勝負なんだからな。
 にもかかわらず、俺は不思議と落ち着いていた。

「――そして、貴方を退ける者でもあります」

「小賢しい。汝が如何様にして我を退けるというのか」

 などと嘲笑うカグナ・ジャタ。
 ここまでは想定内だ。
 俺はパソコンであらかじめ開いていた音楽ファイルを開き、再生する。

「この音が聞こえるか!」

 ヤック・デカルチャー!
 シンセサイザーをみょんみょんに利かせた電子音の奔流が、この廃都に響き渡る!
 ここへ来る直前に、音量を最大にしておいたのだ。

「ほう、興味深い。我は千を越えた辺りで己の齢を数えるのをやめたが……斯様な代物は、これまで見た事が無い」

 興味津々だな。
 これは、行けそうな気がする。

「他にもあるのだろう? なあ人間」


 それから数十分、色々な音楽を聴かせてみた。
 ある時は巨体を揺り動かしてノリノリになり、またある時は真顔(ドラゴンにも真顔ってあるんだな)になった。
 様々な反応を見せつつも、総合的には気に入ってくれたようだ。

 〆にミランダの歌を聴かせたのが、何より効き目があったらしい。

「素晴らしい。失われた国の、人魚姫を想起させる歌声だ……存外、楽しませてくれるではないか」

「それじゃあ――」

「――だが、足りぬ」

「え!?」

 嘘だろ!?
 ここに来て雲行きが怪しくなってきやがった!
 だが次にカグナ・ジャタの放った言葉は……。

「やはり、音はその場で奏でる者がいてこそだ。そうは思わぬか、人間」

「ええ、まあ」

「我の前に、歌声の主を連れて来るのだ。小娘共の命は預かっておく」

 そう言って、カグナ・ジャタはファルド以外の全員を、手招きして呼び寄せる。
 みんな死にそうな顔をしていたが、俺は何とかなだめて指示に従わせた。
 ごめんな……すぐ戻るからな。


 *  *  *


 俺とファルドは飛竜に乗って、ボラーロのクラブへと急行した。
 クラブではミランダの楽団が丁度、演奏を終えて帰ろうとしている頃だった。
 すぐさま俺は舞台上に駆け寄り、緊急事態を告げる。

「万が一の事があれば、僕が責任を取ります。力を、貸して下さい!」

 土下座を交えての交渉。
 必死の形相が伝わったのか、ミランダは承諾してくれた。

「わかりました。私の歌が助けになるのならば」


 所変わって、再び廃都ローレキアへ。
 楽器を運ぶのはさぞかし骨が折れるだろうが、飛竜には頑張って貰った。
 ピアノを両足で挟みながら移動する飛竜って、割と前代未聞なんじゃなかろうか。

「ふん、蝿でも飛んでいるのかと思えば。先刻の雑魚か」

 カグナ・ジャタは嘲笑するが、飛竜は涼しい顔でそっぽを向く。

「可愛げの無い奴よ。近頃の同胞は、愛想を棄てたのか」

 見つめ合う二匹の竜。
 互いの体格差は歴然としていながらも、飛竜は余裕を全く失っていない。
 楽団は気絶しかけている奴が出ているのにな。

「何? ふはは。そうだな。本題は汝ではなく、歌であったな」

「もうそろそろ宜しいですかね?」

「待ちくたびれたぞ。人間。そこの者達が、我に歌を捧げるのか」

 いや、旦那。そりゃねーですぜ。
 あっしは旦那の茶番が終わるのをずっと待ってたんですぜ。

「そ、そうです……」

「良い歌だという事は知っておる。存分に奏でよ」

 瓦礫を幾つかどかして、簡易のステージを作る。
 そこに、飛竜にピアノを配置して貰う。

 やっぱり足がすくんで動けない奴も、楽団の中にはいた。
 だから俺がカグナ・ジャタの許可を得て、ルチアに加護を使って貰った。
 恐怖を直接和らげるような加護は無いが、気休めでも何もしないよりはマシだろう。

 そうして準備にもたつきながらも、ミランダ達による廃都ローレキアでのライブを開催する。
 人の気配が途絶えた廃墟に、彼女の歌声が響き渡った。


「気に入った。気に入ったぞ! 可能な範囲で、願いを聞いてやる」

 カグナ・ジャタを魔王軍に引き入れたのは、魔王が直接歌声を聴かせたからだ。
 それと同じパターンを、俺達はやったというワケだ。
 だから俺は魔王がかつて「俺の下に就け」と言ったように、拡大解釈可能な曖昧な願いを用意しておいた。

「人間を襲うのをやめて頂きたい」

 だが、駄目だった。
 カグナ・ジャタは残念そうに首を横に振る。

「……それは、ならぬ」

「駄目ですか!」

「我は魔王に忠誠を誓った身。あやつの戯けた態度は気に入らぬが、我は負けたからな」

「魔王を裏切るのは不可能、ですか」

「ああ。悲しいか?」

 悲しい。とても悲しい。
 と、そこへミランダが俺の肩をとんとんと叩く。

「シンさん。私に任せて頂けないかしら」

「ミランダさん?」

 ミランダがカグナ・ジャタのすぐ近くへと歩いて行く。
 その気になれば一口で喰われるであろう距離まで。
 何というクソ度胸。

「歌姫よ。汝は殺さぬ。汝が良ければ、魔王に頼み込んで眷族にしてやろう。その歌声を永遠に愛でてやる」

「いいえ」

「何だと!」

「もしも貴方が人間への攻撃をやめないと仰るのなら……私は、この場で命を絶ちます」

 どうやらしれっと持ってきていたらしい果物ナイフの切っ先を、ミランダは自身の喉元に当てた。

「正気か、歌姫!」

「ええ。頭はスッキリしていますのよ。今までの人生で、一番と言っていいくらい」

「ぐ、ぐぬぬ……我は、どうすれば良いのだ」

 リアルぐぬぬとか初めて聞いたわ。
 何か、山場を一つ超えたせいか、あんまり怖くなくなってきたな。
 とはいえミランダほどの度胸は無いが。

 あ。
 ミランダがカグナ・ジャタに手招きして顔を下げさせている。
 そして奴の顔を撫でながら、囁いているな。
 どれどれ、早速読み取りスキルを発動だ。
 俺は、意識を集中させる。

「私と共に歌い続けては下さらないかしら。
 魔王軍の下らない戦いよりも、ずっと、ずっと貴方を満足させられるでしょう?」

「……」

「殺すという事はね。可能性を奪うという事なのよ。
 それは、もし殺さなければ素晴らしい歌を歌っていたかもしれないのに、無駄にしてしまうかもしれない。悲しいとは思わなくて?」

「む、むう……」

 あと一押しって感じだな。
 それにしても恐ろしい。
 ミランダの甘い声が、少しずつカグナ・ジャタの心を侵蝕してるのが目に見えて解ってしまう。

「私一人では、駄目なのよ。沢山の人が聴いてくれて、近くにいた人が支えてくれたからこそ、私は歌い続けられた。
 だからお願い、カグナ・ジャタ……私の歌を奪わないで?」

「ぬうううう……! ええい! 良かろう! 人間は殺さぬ! だが、条件を加えて貰うぞ!」

「どうぞ、仰って?」

「汝の楽団に、我を入れよ!」

「もちろん。歓迎しますわ」

 おめでとう!
 歌い竜カグナ・ジャタは、ミランダの仲間になった!

 ……マジで?
 そんな展開アリなのか!?
 てっきり歌を聴かせたら、襲うのは勇者一行だけにしてやる程度までが限界かなって思ってたんだが。

 これは、想定以上の収穫になりそうだ。
 ミランダの歌声が、魔王軍のドラゴンを離反させたのだから。
 これは歌姫伝説の始まりだぞ。


 歌い竜の角笛
 歌い竜カグナ・ジャタから切り落とされた角を加工した角笛。
 一吹きするだけで、誰も聴いたことの無い音色を奏でるという。

 カグナ・ジャタは二本の角を持っていたが、その両方を自らへし折った。
 初めは魔王に、残りは一人の歌姫に、それぞれ差し出した。

 カグナ・ジャタは、自らが良いと思った物に対して対価を惜しまず支払いたがる性格だった。
 だからこそ、己の鱗を突き破るほどの硬さと鋭さを持つ角を分け与えることに、何ら躊躇は無かった。
ふつつか者ですが、ランキング登録しておりますのでよろしくお願い申し上げる次第です。
小説家になろう 勝手にランキング
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