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自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました! 作者:冬塚おんぜ

第三章 魔女達の在り方

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第五十一話 「口外無用と約束して頂けますね」

 次に向かったのはもちろん、モードマンの屋敷だ。
 蓄音機(仮)を作って貰う約束を取り付ける。

「南から北へと、大忙しですね」

 と言いながらも、キリオは嬉しそうだ。
 移動はその日の内というワケには行かない。
 当然ながら、数日を要する。

 だから道中では色んな話をした。
 大部分はルチアとの思い出だが。

 その中でも特に興味を惹いたのは、親子関係だ。

「実は最近、父の晩酌に付き合わされましてね」

 という切り口から始まったのは、ドナートに対する愛憎入り交じった感情だった。
 昔は本当に、理想的な親子そのものだったらしい。
 厳しくも一本筋の通った父親、ドナート。
 そして傍らにはいつも優しい母親、ローザ。

 キリオは、ドナートを尊敬していた。
 はみ出し者や後ろ暗い人達を庇い、常に矢面に立つ彼を、心の底から尊敬していた。
 ドナートはどんな時でも愚痴を言わず、超然とした態度で苦難を受け流していたという。

『もしも誰かに因縁を付けられたら、俺を頼れ。必ず守ってやる』

 ドナートは、それを口癖にしていた。
 頼りがいのある男前の彼に、沢山の人達が集まったのは必然だったんだろう。
 ……今となっちゃ、見る影も無いが。

 ルチアを邪険に扱った理由も聞いた。
 年々ローザに似てきたルチアを見ると、ローザの死を思い出して辛いからだとか。
 ローザが死んでからますます汚い仕事に手を付けたドナートは、敢えて駄目な父親として振る舞い続けた。
 ルチアだけは自分のようにはさせたくなかったらしい。

 キリオはそれを晩酌の時に聞かされて、もう一度ドナートを殴った。
 ドナートは黙ってそれを受け入れた。

 なんていうか、不器用にも程がある。
 どんなに固い信念があったとしても、それは誰かに伝わらなきゃ不幸にさせてしまう。
 実際こうしてルチアもキリオも、仲がこじれているんだからな。

「さて、後はこのロープウェイに乗って行くだけです」

 馬車をロープウェイまで動かしながら、キリオは俺に振り向く。


 そういえばもう二つ、すごく気になっている事があるんだよな。
 アンジェリカがそれについて訊かなかったのは、まだ終わってないだろうと諦めていたからか?
 幸い、ここにいるのは俺とキリオと馬だけだ。

「キリオさん。あの差出人不明の手紙って、誰が犯人か判りました?」

「……」

 キリオの表情は、いつもと変わらない。
 少なくとも見かけは。
 だが俺は胸の奥底に、何だかつっかえたような感覚があるのだ。

「口外無用と約束して頂けますね」

 だって明らかにおかしいじゃないか。
 どうしてこのタイミングで、そんな事を言い出すんだ?

「パーティメンバー以外には話さないつもりです」

「いいえ。誰にも言わないようにして下さい」

「ちょ、ちょ、待って下さいよ! それって何かおかしくないですか?」

 だって、手紙を貰ったアンジェリカや、教会所属のルチアにも言うなって事だろ?
 焦る俺をよそに、キリオは俺の耳元でささやく。

「あの手紙はですね。私が、魔女の墓場に協力して書いて貰ったのですよ」

 ――は?

 コイツ、今なんて言った?

 いや、待てよ。
 確かにそれは二つ目の質問の予定だったけど、ちょっと待て。

「残念に思われるのも、致し方ありません。ですが、こうでもせねばルチアを守る手段は無い。
 ザイトンがルチアを推薦した理由……それは」

 い、嫌だ。
 聞きたくない。
 情報を整理させてくれよ。
 一体、何がどうなっているんだよ。

「人質です」

 認めたくない。
 頭が割れそうだ。

「ひと、じち……」

 キリオの言葉を、オウム返しに口に出す。

「あの男は魔女との融和政策を企てており、魔女の墓場と関係を持つドレッタ商会を疎ましく思っていました。
 しかし、人質としては私や父では分が悪い。そこで白羽の矢が立ったのは、ルチアでした」

 俺の心が警鐘を鳴らす。
 危ない道に足を踏み入れているぞ、と。

「彼にとって、ルチアがビルネイン教の教会に勤めたのは僥倖以外の何物でも無かった。
 裏であらゆる手段を用い、ルチアを勇者ファルドに同行させる。
 もしも魔女の墓場が不都合な行為を働いたならば、ルチアを冒険中の事故に見せ掛けて暗殺する……それがあの男の狙いなのです」

 暗殺とか、何考えてんだよ……。
 ザイトン司祭は、俺が予想していたよりもずっと危険な男だ。
 やっぱりあいつは敵だったのだ。
 キリオの話が正しければ、という前提の上でだが。

「もしもルチアがドレッタ商会で働いていたら、或いは何処かに嫁いでいたら?
 あの男の計画は困難を極めていたでしょうね。ですが、そうはならなかったのは何故でしょう?」

「わかりません」

 というか、今は頭が回らない。

「奴が、言葉巧みにビルネイン教への入信を勧めたからですよ。
 私なら兎も角、権謀術数においては鼻が利く筈の父ですら、奴に欺かれた」

 ドナートを騙せる程の奴と、キリオ達は戦っている。
 そしてキリオも味方だとは限らない。
 現にキリオの口から出て来た事実。
 ――魔女の墓場と繋がりがあるという事実が、それを何よりも如実に示している。

「激化しつつある魔女との戦いで、なりふり構っていられる状況ではなくなりました。
 今は裏で手を回して、奴を妨害する事で手一杯。私がルチアに会えなくなったのは、そういう事情です」

「でも、教会には足を運んだじゃないですか」

「迷いの森に先回りして目印を付けた私ですよ? 偶然を装って教会に足を運ぶなどという事が、不可能とでも?」

「雪の翼亭でだって!」

「ファルドさん達が席を外す用事など、人の力で幾らでも作れましょう」

 さっきから俺は、震えが止まらなくなっていた。
 次々と明かされる事実は、俺を混乱させるには充分すぎた。

 ザイトンはずっと前からドレッタ商会と敵対していた。
 ドレッタ商会は魔女の墓場と繋がっていた。

 いや、事実かどうかすら怪しい。
 キリオが俺を騙している可能性だって、十二分に有り得るのだ。
 もう何を信じていいか、判らなくなってしまった。

「それにしてもあの銀狐め、見逃してやる条件があの情報だとは……神も残酷な仕打ちをしてくれる」

「銀狐……」

 ていうと、案内人か?
 いや、まさかな。

「そのお顔、どうやらご存じみたいですね? あの時、話し掛けていらっしゃったようですし」

 見抜かれているというか、完全にキリオのペースに乗せられてる?
 このタイミングでの、キリオの独り言だ。
 ちょっと出来過ぎている。
 まさか、わざと言ってみせて、俺の反応を試したのか!

「お知り合い、なのでしょう? あの魔女と」

「案内人は、魔女じゃない」

「何を根拠にそう仰るのか。魔女はすべからく、悪です。
 善良さを装って弱者に接近し、最後は根こそぎ奪っていく。
 そうして私の母が毒牙に掛けられた!」

 キリオが声を荒げる。
 憎悪に満ち溢れた、歪んだ顔。
 いつかにドナートを殴りに行った時とは、比べ物にならなかった。

「あの銀狐だってそうさ! 自分が助かる為に、ザイトンを売ったのだ!
 ザイトンはさぞかし良き理解者だったろうになあ……薄情者だよ、奴は!」

「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、そう言いたげですね」

 ふと、口を突いてそんな言葉が出てしまった。
 俺はキリオに恐怖している筈なのに。
 心の中に留めておきたかったのに。

 いつかアンジェリカが魔女になる時、キリオは魔女の墓場を率いて容赦なく襲い掛かるのだろう。
 そんなの、嫌だ。

 あの案内人だって、悪い奴かどうかまだ判ってないんだ。
 どんな意図があったのかも確かめてないのに、死に別れるなんて絶対に嫌だ。

「……身内を殺められて、その仇敵を少しでも怨まずにはいられますまい」

 胸の奥が、ズキリと痛む。

「復讐は何も生まないというのは、悲しみを乗り越えられた強者か、或いは無関心な第三者だけが放てる言葉でしょう。
 たとえ仇敵が既に死していようとも、その同類が居るのならば、人は際限なくそれを刈り取ろうとする。
 解りやすい存在であれば、身近な存在であれば、より一層、生け贄としての価値を発揮するのです」

 キリオは、俺の両肩をがっちりと掴む。
 背筋が凍る程の笑顔で、こう言ってのけた。

「シンさん。私は貴方が良き友人であると信じております」

 違うよ……そんなのって、違うよ。
 差別主義者とかヘイターとかの理屈じゃないか。
 言いたかった。
 だが、通じるとは思えなくて、俺は口を噤んだ。


 そうこうしているうちに、ロープウェイはヴァン・タラーナへと辿り着いてしまった。
 俺達は今、モードマン邸のドアの前にいる。
 キリオは以前と変わらぬお澄まし顔で、ドアをノックする。
 クラウディアがドアを開け、出迎えてくれた。

「お邪魔いたします」

「どうぞ、研究室までご案内いたします」

 ……蓄音機の話は、キリオが何から何まで進めてくれた。
 その立ち振る舞いからは、さっきみたいなどす黒い感情は見えてこなかった。
 だがそれがかえって、キリオの薄気味悪さを際立たせていた。
 俺は、まともに口を利く事すらできなかった。


 だが、いつからだろうか。
 俺の心の中では「どうしようもない」という絶望よりも「何とかしなきゃ」という焦燥感が上回っていた。

 結局、魔王と戦う上では避けて通れない道なんだ。
 みんなで戦わなきゃいけない。
 だったら、キリオもいつかは……。


 歌姫の抱き枕
 美しき歌姫ミランダが描かれた抱き枕。
 清楚さの中に淫靡さが同居する彼女に、後ろ暗い妄想を抱く男達は多い。
 欲望の捌け口として作られた、この抱き枕を購入する者達は後を絶たなかった。

 ミランダは遠洋に住まう人魚と、幼き日に出会い、そして別れた。
 その記憶が彼女に、歌姫としての道を歩ませたというが……。
ふつつか者ですが、ランキング登録しておりますのでよろしくお願い申し上げる次第です。
小説家になろう 勝手にランキング
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