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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

私は偽物

作者:三浦安針
児童虐待描写がありますので、苦手な方はご注意ください
 私は偽物です。

 物心ついたときには、特訓という名のしごきを受けていました。
はじめての記憶は、木の棒で叩かれていたことです。
挨拶の際にお辞儀の角度が一度傾けすぎだったみたいなんですよね。
当時三歳だった私は、痛みなんて麻痺していたから、早く終わらないかなと思っていただけでした。
完璧な角度の何が大事かわかりませんでしたけど、これが終わらないと次の授業に遅れたことで怒られますから、
「ごめんなさい。次は言われた通りにします」

 謝り続けました。

 百叩きと言われていましたけれど、礼儀作法の先生が疲れたからって、十三回で済ませてくれたおかげで、遅刻をギリギリしなくて済んだことを覚えています。


 私は、史上希に見る幸運な生まれなんだそうです。
元々、私は、ハビネス選帝侯家の当主夫妻の一人息子カール様の妹として生まれました。
一人息子なのに妹というのが奇異に思えるかもしれません。
そんな難しい話ではありません、私は公式には存在しないんです。
だから名前すらありません。
区別の必要があるときは、名無しと呼ばれてます。
必要になること自体、滅多にないんですけどね。

 カール様とは双子なんですよね。
もし、私が男だったら、産声をあげる前に殺されていたみたいです。
双子は、継承権争いの種だから、仕方ないことみたいですね。
幸い、私は女でしたから、継承権には関係ないから殺されることは免れました。

 カール様に呪われた予言が下ったことも、私には幸いしました。

「十歳までの間、屋敷の外に出てはいけない、外に出れば悪の精霊が必ずや拐うであろう」

 なんて予言が下ったそうです。
世迷い言を告げたとして、予言者は処刑されましたが、万が一を考えたら家の外に出すわけにはいかないとなったようですね。

 でも、現実として神事やどうしてもはずせないイベントに参加させる代役が必要になります。
貴族の務めとして、学校にだって通わせないといけませんし。

 そこで白羽の矢がたったのが私だったわけです。
双子だから顔立ちは似ているし、貴族にしか入れない場所も血筋的には貴族ですから、血の貴賤判定の間を通り抜けて問題なく入れます。

 ですが、代役をやるからには、最低限以上のことを求められます。
結果、その日から特訓が始まりました。
まだ寝返りも打ってませんでしたから、強制的に転がし続けたり、手足を無理やり動かすといったことを繰り返したようです。
記憶には当然ありませんので、先生達の雑談を漏れ聞いただけなのですけどね。
言葉を早く覚えるように、聖書を聞かせ続けて、終わる前に寝たら叩いて起こすと言うことをされたみたいです。
その成果あって、初めて話した言葉は、

「神様、救いを!」

 カール様の初めて話した言葉として、選帝侯家自慢のネタになっているんだそうです。
そんなにスゴいことなのでしょうか?

 実際のカール様の初めての言葉は、

「父さん」

 とのことですが、そちらの方が普通なのでしょうか?
名無しのくせに生意気だと先生達には言われますが、聖書の言葉しか聞いてないなら、聖書に関することしか話せないと思うんですが。
普通の人は、違うのでしょうか?
カール様の初めての言葉は確かに違ったようですし、私が偽物なのでそのような言葉を発したのでしょうか。

 代役ができる程度には、才能があったようです。
赤ん坊の頃からの特訓の成果で、五歳のお披露目の前には、二桁の掛け算、割り算程度の簡単な読み書き計算はマスターしました。
なかなかできるようにならない私は叱られ続け叩かれ続けましたが、なんとか間違えずにできるようになりました。
礼儀作法も、ある程度は様になりましたし、読み書きも日常に使う分には問題ありません。
剣の素振りも、百回ぐらいはなんとかできるようになりましたし、魔法の方もそれなり。
理論的なことの勉強がメインで実技はまだまだだですが、何事も基礎が大事ですからね。

 代役を下ろされない程度にはなれましたから、当面は殺されずに済みそうです。
ここまで生きてこれたのは、確かに私が幸運だからかもしれませんね。


 お披露目が始まりました。

「カール・ハピネスと、申します。お見知りおきいただければ幸いです。本日は、私のお披露目のためにわざわざ、遠方からお集まりいただきありがとうございます」

 ちゃんと噛んだりせずに言えましたよ。
本当は聖書に絡める挨拶とかの方が良いようですが、下手に長く言い過ぎて代役だと発覚しないように、短めにしました。
表情も笑顔に見えるように頑張りましたが、上手くいきましたでしょうか?

 会場は静寂に包まれています。
これはどうも、問題のある挨拶でしたのでしょうね。
叱られてしまうことを思うと少し憂鬱になります。

 それでも予定通りに、出来るだけ優雅に見えるようにお辞儀した後、挨拶のみで退出します。
本来は、個別に挨拶することもあるようですが、私はただの偽物です。
近くで見られては偽物と分かるかもしれませんので、最低限のことしか行いません。

 退出してから大広間が騒がしくなりました対応のためか、誰も来ません。
すぐに叱られずに済んで助かりました。
少し間が空けば、感情的に対処されることも少ないでしょうからね。
名前も知らない騒ぎを起こしてくれた人に、感謝です。

 お披露目の後で、ハピネス選帝侯家の嫡子カール様は、神様が現世に遣わされた贈り物であると言う噂が広まっているそうです。
私が犯してしまった失態を挽回するために噂を流したのでしょうけれども、教会の儀式に招待されることが頻繁にありますので何とか挽回に成功できたのでしょうね。

 おまけで叱られることが目に見えて減りました。
噂効果でしかありませんので、全力で頑張り続けないといつまた叱られ続けるか、代訳に適さないと判断されて殺されるかわかりませんので、必死になるしかないですけどね。

 私は両親にお会いしたことがありません。
公式の場で間違えることが無いよう絵姿は見せていただいていますが、実際に見ることは許されない生まれの私です。
選帝侯家の当主夫妻ですから優れた方達だとは思うのですが、先生達も特に何も言われませんので、よくわからないんですよね。
特に困るわけではないのですが、一度ぐらい言葉を交わしてみたいとは思うんですよね。
現実にはそんなことが許されないのは、私の生まれが原因と理解しております。

 六歳になり、貴族のみが通うことを許される学校に入学する時期がきます。
偽物と発覚する可能性が高くなる危険性を考えて、攫われる等のトラブルに巻き込まれぬよう護身術を叩きこまれています。
学外では、カール様のふりをするために護衛がつくのですが、学内には護衛は入ることはできません。
皇帝陛下のご家族の方ですと貴族の騎士が護衛につくようですが、選帝侯家レベルでは認められないようなんですよね。
学内でのトラブルは自力で切り抜けなければなりませんし、私は偽物で性別まで別ですから何かあっては、発覚する原因になりかねません。
未然に防ぐためには、礼儀作法も護身術の一つになります。
出来るだけ目立たないようにする為に気配を消すことも学びました。
トラブルを起こさないためには、存在感をなくすことが一番だそうです。

 でもそうなることが分かっているなら、神様に遣わされた贈り物みたいな噂を流さない方がやりやすかったと思うんですけどね。
私の負担なんて本来考える必要ないことでしょうから、その辺は私が対処すればいいってことなんでしょうね。

 さまざまな特訓が効果を表したことは、私が史上稀に見る幸運な生まれだったことによるのでしょう。
子供ながらもそれなりに筋肉がつき、子供用の剣の素振り程度であれば苦にならなくなりました。
読み書き計算も問題なく出来るようになり、暗算でも検算しながら計算できるようになりました。
魔法も理論を上手く使って、効果を調整できるようになりました。
使える種類は大したことありませんが、威力だけを高めたり精度を高めたり、逆に効果を弱めたりという調整をすることで、別の効果を副次的に出すことも、まだ初歩の段階ではあるものの可能になっています。
剣技や護身術は上達の余地があると痛感はするものの、相手の動きを予想して対応することも少しはできるようになりました。

 この国のことも学んでいます。
この国は、全体では帝国です。
他国からは帝都がパティア地方にあるため、パティア帝国とも呼ばれるようですが、
公式にはただ帝国とだけ国号を定めています。
帝都も他国は、パティア市と呼ぶようですが、公式には帝都です。
皇帝陛下は、十八人いる選帝侯と三つの帝国都市の市長により選ばれます。
今の陛下は、選帝侯の一人でもありますが、人格に優れるなどする場合、選帝侯以外の貴族から選ばれることもあります。
事実五百年の帝国の歴史の中で三人もの方が、選帝侯以外から選ばれています。
残念ながらご三方とも在位期間は短かったのですが、優れた見識をもって統治されたそうです。
その経緯もあり、ご三方とも教会により列聖されています。

 帝国は、十八人の選帝侯の所領と皇帝直轄領である三帝国都市により治められています。
選帝侯は帝国全体の政治が主になるため、所領はそれぞれ代わりになる貴族たちが治めており、有事の際には、貴族軍をそれぞれの選帝侯が指揮し、皇帝陛下が最高司令官として君臨することになるようです。
一見すると、選帝侯家が力を持ち過ぎと思えますが、選帝侯家自身は常備軍を持たないため、上手い具合にバランスが取れているのだそうです。
過去に自立を目指した貴族もいたようですが、選帝侯家を通じて帝国軍との戦いに瞬殺されたとのことですから、平和を保つためには優れたシステムなのでしょう。
帝国直轄領には皇帝陛下直属騎士団が駐留しており、帝都を含む帝国都市の治安を守っています。
帝国騎士に登用されることは騎士として最高の誉れとされ、選帝侯家の騎士も帝国騎士になることを目指すことは珍しくないそうです。

 カール様が次期当主となる予定のハピネス選帝侯家もそういった選帝侯家の一つであり、他国とは殆ど境を接していないこともあって、平穏な統治が続いている家のようです。
もっとも選帝侯家は直接統治に関わらないしきたりであり、ここの最近の当主は、一生領国に行かないことも珍しくないようです。
それでうまくいくのですから、問題はないのでしょうね。


 学校に入学したことによりこれらの試験や実技を試す機会が訪れました。
カール様の代役である以上、劣った成績を残すわけにはいきません。
今まで学んだことを全力で発揮させます。

「さ、流石は、ハピネス選帝侯家の嫡子でございますね。これだけのことが出来ますとは」

 震えるように先生が言われます。
実力が不足すぎてどう取り繕うか苦労されているのでしょうか?
申し訳なさでいっぱいになります。
いくら代役に過ぎない私とはいえ、私の成績はカール様の評判につながります。
私じゃなくても背格好顔立ちが似ていれば、いくらでも別の代役がいるでしょう。
代役で無くなってしまえば生きることが出来ない以上、もっと頑張らないといけませんね。

 これでも筆記試験は得意だと思っていたんですよ。
勘違いのミスがたまにある以外はほぼすべてを答えることが出来ます。
恐らくは、そのミスもなくさなければいけないんでしょうけど、そこが私の限界なのでしょうか。

 剣技は、散々です。
生徒と組むだけのレベルが無いようで、先生としか組ませてもらえません。
選帝侯家への悪評が立たないようになのでしょう。
先生がお情けで時折負けてくれますが、そこまでしないと私では勝てないと言うことなのでしょうね。
毎朝全力で鍛錬をしているのですが、なかなか追いつけないようです。
私が女である為に、力が足りないと言うこともあるんでしょうね。
ですが代役である以上、カール様の評判を落とさないようにしないといけない為、どうすればいいのかと悩んでしまいます。

 魔法だけは、何とか人並みにはできているようです。
理論的な裏付けで制御することはできますし、新たな魔法を開発することも出来てはいます。
でも授業ではイメージが中心である為、ちょっと違っているなとなります。
もっとも術の発動はしっかりできている為、特に叱られることなく済んでいます。
上手く発動できないクラスメイトもいますので、人並みにできているのだろうと勝手に判断しています。

 授業以外では、基本気配を消している為、話しかけられることも殆どありません。
下手に話すことで私の正体が発覚するリスクを考えれば、助かっているんですけどね。
カール様の将来の交友を考えれば友人を作っておく必要もあるんでしょうけれども、下手に偽物の私と親しくすることで本物のカール様が行動しにくくなることの方が問題です。
特に家の方で学校での生活態度について言われることもありませんので、現状で良いのでしょう。

 貴族だけの学校ですので、帝国騎士の表敬訪問を受けることもあります。
七歳前後の私達と手合わせもしていただけますが、当然勝てる筈もありません。
七歳に負ける帝国騎士があり得ないのも確かですが、私と手合わせされる方は余裕からか、苦戦している演技までしていただけます。
魔法を使えば逆転勝利できるのではないか? そんな錯覚をしてしまうほどの演技は凄いと思います。
勿論私が使う場合は帝国騎士の方々も使うでしょうから、そんな逆転勝利があり得るわけもないんですけどね。
特訓してくださいと願い出てみましたが、相手にされる筈もありません。
恐らく選帝侯家を敵に回す可能性が視野に入るのでしょうね。
狼狽されながら断られました。

 何とか授業に追い付いて、他の生徒と戦いを許される程度の実力を付けたいんですけどね。
正直私の目からは他の生徒達の手合わせは、あまりにも遅すぎてわざとそうやっているようにしか見えないんですよね。
恐らく私が見ることが出来ないレベルの早技が繰り出され続けているのでしょうけど、それを見ることのできない私からはでたらめに剣に振り回されているように見えるんでしょうね。
せめて見えるようになる為にしないと実力も上がりませんね。
目を鍛えるには、どうすればいいんでしょう。

 宮廷魔術師の方の表敬訪問もあります。
今まで学んできた魔法分散理論の欠点と思えることについて、こうした方がいいのではないですか?と質問をしてみました。
あまりにも幼稚な質問だったのでしょうね。
どう答えればいいのか悩ませてしまったようです。
深く考えられた上で、確かにそのような考え方の方が合理的ですねと言う風にお答えいただけました。
選帝侯家を怒らせないようにするには、どう答えるべきか考えさせてしまったのでしょうね。
申し訳ないですが、そのことについて論文を書いてみる方がいいと言っていただけましたので出来る限り読みやすいように書いてお渡ししました。
形だけでも真面目に対応してもらえましたし、論文の数が多ければ評価されるとのことですからカール様の評判も多少は良くなるでしょうか。
私の実力不足な部分は、こういった社会的評価で補うしかないとも思いますし。

 選帝侯家も少しでも宣伝する機会が欲しかったのでしょうね。
ハピネス選帝侯家のカール様が神に愛された美少年であると言う噂が帝都中に広まっています。
魔法にも剣技にも優れ、画期的な論文を子供の身でありながら書きあげる等、まさしく神様が地上に遣わした贈り物に違いないとのことです。

 こんな噂が必要なほど、私の実力は劣っているのでしょう。
代役を別の人と言われないように少しでも実力を高めないといけませんね。


 学年が上がっても、筆記での勘違いによるミスが少し減って満点に近くなった以外は、大した進展があるとは言えません。
先生相手に手合わせを行ってお情けで負けていただくことが増えてはいますけれども、そこまでしなければ選帝侯家の体面が保てないと判断されてしまっているんでしょうね。
最近では、帝国騎士の方までお情けで負けてくださることすらあります。
正直手を抜いてくださっている以外あり得ない話ですし、それだけ選帝侯家の次期当主相手には逆らえないと言うことなのでしょうね。

「カール様は、今すぐにでも帝国騎士になれる実力です。魔法にも長けておられるのに、剣技だけでも我々帝国騎士ですらも、これだけの体格差があるにも拘らず、対等に戦えますとは。奇跡と言っても差し支えありません」

 こんなことすら言って下さる帝国騎士の方までいます。
身分差のある相手と対するためには、こういった気遣いも必要となるのですね。


 九歳になりました。
来年は、本物のカール様が家を出ることが可能になる時期です。
お役御免になるわけですが、出来ることなら殺されたくないと思っています。
本物のカール様であれば、私などよりも遥かに高い実力であられるのでしょうけれども、私も私なりに頑張ってきた自負があります。
結果は出せてないにしても、このまま頑張りたいなと思えているんですよね。

 魔法に関する論文も何回か完成させています。
よく子供の論文を真面目に論評してもらえるなと思いますが、カール様の評判を高める為には必要なことですし、ご厚意に甘えることにします。
今まで二回ほど、皇帝陛下も論文について謁見を許していただき勲章をいただいております。
皇帝陛下も選帝侯家の嫡子ともなると、気を使わざるを得ないんでしょうね。
二回目の時には、

「貴殿の魔法理論に関する識見をそのままにすることは惜しい。本来ならば宮廷魔術師になっていただきたいほどだ。選帝侯になっても己が才能を磨かれよ」

 等と冗談じみた賛辞までいただいております。
優れた魔術師でも一度勲章をもらえさえすれば一生の栄誉となるそうですが、子供でありながら二回も勲章をいただけたのはカール様のご身分ゆえでしょう。
子供相手にこんな賛辞を言わねばならないとは、皇帝陛下も大変ですね。

 嬉しいことに筆記試験で勘違いをなくして満点を取ることが出来ました。
学年が上がっていたこともあり、いつもよりも遥かに難しい内容でした。
授業でこんなことをやった記憶が無いだけに、今後は教えられたことを理解し、それを自分の中で発展させないといけないと言うことなのでしょうね。
自習していた内容ではありましたから答えることはできましたが、今まで以上に努力をしませんと来年以降のカール様への評判を悪くしかねません。
次回に向けて、更なる努力が必要であると痛感します。

「何故、この問題をすべて完璧にお答えになれるのですか。これは卒業試験の問題ですよ」

 そこまで言って、先生はカール様を立てようとされています。
あまりに無理な賛辞を言うのには抵抗感があるのでしょうね。
倒れそうなほどの動揺を隠せていません。
貴族だけが通う学校だけあって、身分が絶対なのでしょう。
先生もおべっかを使うことは本意ではないでしょうに、厳しい世の中ですね。

「この問題は、難しく感じました。これからもっと難しくなるんですね。もっと簡単に解けるように努力したいと思いますので、色々教えてください」

「これ以上、努力されるのですか? カール様が神様に遣わされた贈り物であると言うお噂は、本当だったのですね」

 本心から言ったことにまで賛辞で返されます。
私よりも実力のあるカール様であれば、その賛辞に値する内容なのでしょうけれど、私相手では無理して言わせてしまっているなと言う感がいっぱいです。
私も頑張っているとは自分で思っているだけに、結果が思うように出せない自分が寂しくなってしまいます。
今回こそ何とか満点が取れましたが、一度だけでは意味が無いですよね。


 タイムリミットが迫る今、すべてを完ぺきにこなせるよう全力を尽くしています。
筆記試験は更に難しくなりました。
本当に満点を取れるのは僥倖としか言えないと思います。
正直これ以上難しくなると純粋にわからなくて間違えるが出てきてしまいそうです。
代役としての限界が来ているのかもしれませんね。
答案を返す際に顔面蒼白で返されるだけに、不完全な回答も正解として返していただいている等の不正が行われているのでしょうか。
返された答案を見て、学術書と見比べてもそれ以外の正解が導き出せないだけに、自分の実力不足を痛感してしまいます。
分からないことを先生に聞きに行くことは、カール様の評判を下げかねないと避けていましたが、今度こそ聞きに行かないといけないのでしょうか。
所詮私は、偽物だったのですね。
成績が目に見えて落ち始める前に、本物のカール様に引き継がないと手遅れになるかもしれません。

 剣技についてですが、皇帝陛下が謁見される御前試合に参加させていただけました。
私みたいな子供相手にわざと負けてくださることは、申し訳なく思いますが、私もカール様の評判を守る義務があります。
ご厚意に甘えて勝利させていただきます。
決勝では、総力を尽くしたものの勝つことができませんでしたが、良い勝負を演技していただけました。
騎士の面目として決勝での勝利は譲れないものの、カール様の立場を守るために全力を尽くしていただけたということなのでしょう。
本当は対戦相手にお礼をしてまわらないといけないのでしょうけれど、そんな不正を皇帝陛下の前で行っているなんてなったら大問題になります。
ここは、心の中で感謝するにとどめましょう。

「貴殿、魔法だけではなく剣技も子供でありながら、それを感じさせぬレベルと言うのももったいないほどに優れているのか。神様は二物を与えずというが、貴殿は例外のようだ。朕の次か、次の次の皇帝にふさわしいのかもしれないな」

「そのような過大な言葉をいただけますとは、誠にありがたきことでございまする。一生忘れませぬ」

 皇帝陛下もこれが茶番であることは分かっているんでしょう。
それでも賛辞を言わないといけない為に、将来の皇帝にふさわしいなんて言う大げさすぎる発言になっていると思うんですよね。
皇帝陛下は実質的には選帝侯家の第一人者に過ぎないと言う現状から、他の選帝侯家には最大限の配慮が必要になるのでしょう。
こんな感情を抱くのも恐れ多いことなのですが、大変ですねと同情してしまいます。


 とうとう、タイムリミットの十歳の誕生日が来ました。
良くて幽閉、悪いと口封じの為に処刑でしょう。
逃げることも考えましたが、名前すら持たぬ才能の乏しい十歳の私が生き抜けるほど世の中甘いとも思えません。
運命を受け入れるしかないという結論に至りました。

「キャロライン、十年の務めを果たした報酬として、名前を与える。カールの為に尽くしたことは認める。認めはするが、やり過ぎだ」

 絵姿で見た当主様が前におり、処分を下されます。
キャロラインと言うのが、私の名前になるようです。
今まで名前が無かった私としては、名前をもらえることが嬉しくて仕方ありません。
今まではカール様の偽物でしかありませんでした。

 でもこれからは違います。
キャロラインの本物になったのです。
でも、やり過ぎとはどういうことでしょう?
私の才能のなさで足を引っ張りすぎたということなのでしょうか。

「代役として評判を落とさないようにしていたのだとはわかる。わかりはする。だが、もう少し抑えても良かったのではないか?」

 どういうことでしょう?
家の立場を活かして、優遇されていたことが問題視されているのでしょうか。
確かに、無理がありすぎる展開が連続されていましたからね。
それが断罪理由であるのであれば、致し方ないですね。

「キャロライン、今のお前の立場をカールが代わりになれると思っているのか?」

 あまりにも悪すぎたのでしょうか。
そのわりには、名前をいただけたの不思議です。
処刑された後の神様の前で審判を受ける際に不便がないように、憐れんでいただけたのでしょうか。

「キャロライン、お前を私の娘であると公表する。カールの影武者を勤めていたことを認め、今までカールが行ってきたとされたことは、キャロラインがやっていたと公式に認めよう」

「どういうことでしょうか? 私の成績が悪すぎたのですか? カール様の代役を務めきれなかった為に一からカール様の経歴をやりなおされると言うことなのでしょうか?」

「……もしかして、まさかと思うが根本的にわかっていないのか?」

「確かに、先生や騎士様、宮廷魔術師様には、選帝侯家の体面を汚さぬように配慮されて、わざと負けていただいたり論文に論評をいただいたと言う自覚はあります。ですが、本物のカール様であれば、私よりも遥かに優れておられるのですから、虚像に過ぎない評判を実際のものにすることが出来る筈です。皇帝陛下に賜った言葉も実際にすることが出来るのではないですか?」

「……やはり、わかっていなかったか。と言うよりも、どうやったらそんな勘違いが出来るのだ?」

 わけがわかりません。
ご当主様は、私の認識と違うようなのですが、わざわざ噂を流されたぐらいです。
私の犯した失態を噂で打ち消すように動かれていたと思うのですけどね。

「私があまりにも上手く出来ていないから、噂を流されていましたよね? カール様が神様に遣わされた贈り物である等の。そう言った噂で隠さなければいけない程私のレベルは低かったのかもしれません。それでも、私は全力を尽くしたのです。やはり、結果を残せなかったのが罪なのでしょうか?」

「……結果は、残しすぎているだろうに。本当に不思議だ。何故こんなに自己評価が低いのだ。そもそもその噂は、私は流させていないぞ。あまりにも評判の高い噂は問題であると打ち消す為に動いたほどだ」

「悪い結果を残しすぎてしまったのですか。申し訳ございません」

「頭が痛くなってきそうだ。何故……いや、私達がいけなかったんだろうな。直接会って褒めてやると言うことをしてこなかったのだから。キャロライン、はっきり言おう。おまえは優秀すぎるのだ」

「優秀すぎるですか?」

 不思議なことを言われました。
私が優秀であったこと等、一度もないと思うのですが。
確かに、五歳のお披露目の後からは、叱られることが一気に減りましたし、学校では叱られることがありませんでした。
でも、神が遣わされた贈り物であるという噂があったから先生達が控えたのでしょうし、学校では選帝侯の嫡子相手に叱れなかっただけだと思うんですよね。
決して、私の実力ではない筈です。
あれ? でもさっき、噂は流したのではなくむしろ止めたと言われていましたよね。
何が本当なのでしょう?

「キャロライン、最近の試験がおかしいと思ったことはないか?」

「おかしいですか? 極めて難しくなったように感じておりました。このまま難しくなるのでは、ついていけなくなると不安でしたので、満点を取り続けながらカール様に引き継ぐのは、そろそろ限界かもしれないと思っておりました」

「一応難しいとは思っていたのか。それでも満点を取るのであるから大したものだ。私も聞いて驚いたのだが、定期試験と称して行われた試験は、皇帝陛下が介入われていたのだ。学校の卒業試験、宮廷魔術師入隊試験、宮廷魔術師昇進試験といった具合にな。既に、論文では上級宮廷魔術師にふさわしい実績を残している。御前試合での成績も、準優勝であると言うことで、帝国騎士にふさわしいと認定されている」

「え? そのような試験だったのですか? 普通の試験だとばかり思っておりました。でも、御前試合は違いますよ。帝国騎士の方々が手抜きをして茶番試合をやっていただいたのです。そうでもなければ、子供の私が帝国騎士に勝てるわけがないではありませんか」

「……ふぅ。それはお前と対戦した帝国騎士の前では言ってやるなよ? 彼らのプライドを粉々に打ち砕くことになる。そもそも御前試合で手抜きなど出来るわけが無かろう! いい加減自分の実力を認識するのだ。おまえは優秀すぎるのだ」

「それはあり得ません。普段の授業では、先生としか相手してもらえませんでした。他の生徒と比較するとレベルが低すぎる為に、先生が手を抜くことで対処していただいておりました」

「逆だ。おまえが優秀すぎて、他の生徒では相手にならなかった為に、教師でしか対処しようがなかったのだ。あまりにもレベル差がありすぎては、双方が不幸になる。もっとも教師陣でもお前の実力についていけずに負ける教師もいたとのこと。規格外にも程がある」

 私、優秀なんでしょうか?
あまりにも現実味が無くて、頭が話についていけません。

「しかもだ。カールは、体型に難がある。恐らく一日中家に閉じ込めて育てたのが、災いしたのであろうな。見事な狸となっておるからな。顔こそお前と似ていると言えるが、体型で一発でばれる。成績もお前には遠く及ばぬし、とてもお前の築いてきた人生の続きを行うことなどできはしない。そこで最終手段を決断した。おまえの存在を公式に認め、今までカールとしていた存在は、キャロラインであると発表すると。多少の混乱を招くことにはなるだろうが、カールだと言い続けることが無理すぎる以上、いたしかたない」

「ご当主様がそれで構わないのであれば、私は問題ありませ……」

「何故、私をご当主様と呼ぶ?」

「はい?私のような生まれの卑しい才無き者がご当主様とお呼びすることは失礼でしたか。申し訳ございません」

「私の娘の生まれが卑しいわけが無かろう! 何故、お父様と呼んでくれぬのだ?」

 すごく不思議なことを言われた気がします。
確かに、私はご当主様の娘ではある筈ですよね。
今までは存在していないとされる為に、お会いすることも許されなかっただけで。
お会いした後も、特に私を娘と呼んだわけでもありませんし、急に言われても混乱に拍車がかかるだけです。

「ああ、公式の場でお会いした時の為に慣れなければいけないというお話ですね。ご安心ください、演じることには慣れております、ご当主様」

「……やはり、お前は私達のことを恨んでいるのか」

「私がなぜ、恨まないとならないのですか? 忌み子として殺される運命にあった私を生かしていただき、名無しの才無き女の身でありながら学校にも通わせていただいたのです。感謝こそすれ、恨みを持つなどできるわけないではありませんか」

 本当、そうですよね。
経緯がよくわかりませんが、私の不始末のせいで代役に不適格になったというのに、自分の娘であると認め、キャロラインという名前すらいただけたのです。
なぜ恨みに思うなどの発想に至るのでしょうか。

「キャロラインには、まずは自己評価を正しきものにさせる必要があるな。ここまで勘違いができるとは、我が娘ながら不憫で仕方がない」

 ご当主様は、相変わらず不思議なことを語られていましたが、叱られずに済んで助かりました。



 それからが大変でした。
私の正体が発表され、カールではなくキャロラインであることが正式に知られたのです。
ハピネス選帝侯家には、幸いにも処罰は下されませんでした。
私自身は、偽名にて勲章を受け取った罪で二つの勲章が取り消され、新たにキャロラインの名前で勲章を一つ賜りました。
女性への勲章は、后妃を除くと建国後初めての快挙となったそうです。
選帝候家へのおべっかで出した勲章だけに、整合性に困ったのでしょうね。
さすがに二つそのまま残すわけにはいかないにしにせも、完全に没収としては、遺恨が残りかねない。
その妥協の産物が、今回の措置となったのでしょう。

 帝国騎士の混乱は大変でした。
女子の私に負けていたとわかったわけですから。
選帝侯家の嫡子相手だからと手を抜いてわざと負けていたのでしょうが、とんだ仇になったようです。
特に御前試合で敗北していただいた騎士は、自主退団を願い出る騒ぎとなったようです。
女子に負ける騎士が帝国騎士の重責を担えないとのことですが、カール様でも子供相手だったことには変わりがないと思うんですけどね。
男子相手には手抜きして負けても問題ないけど、女子相手では問題となるのでしょうか。
ま、確かに御前試合で手抜きをしていたと認めるわけにはいかないから、と言うのが大きいんでしょうけれども。

 形だけなのでしょうけれども、何度も帝国騎士にならないかと誘っていただけるのは、ちょっと自分に実力があると勘違いしたくなりますね。

 宮廷魔術師団からも、熱心に誘いが来ます。
貴族の女子は魔法の鍛練などしませんから、珍しいというのもあるんでしょうね。

 一番多いお誘いは縁談です。
これは納得できますね。
私と結婚すれば次期選帝候の義弟になれるんですから。
こんな美味しい物件は、なかなかないかと思えますものね。
私ではなく、私の夫の立場が目的なのはわかりきっていますから、まともに相手する必要も感じません。

 貴族の結婚は政略ですから、愛する相手となんて、あり得ないのもわかってはいますけどね。
でもここまであからさまだと、引いてしまいます。

 教会からは聖女になっていただけないかという打診が来ています。
聖女って、打診されてなるものなのでしょうか?
それに私みたいに才がない人を聖女にするのはどうなんでしょう?

 社会に混乱を与える存在を教会の奥深くに隠してしまおうと言うことなのかもしれませんね。
それなら納得ですが、今はもう少し努力をしてみたいと思っています。

 学校には通い続けることはできませんでした。
流石に不文律で男しか通わない学校に女の私が通うわけにはいかなかったのでしょう。
卒業認定を受けると言う形で学校には行けなくなりました。
カール様は、一年生から入学されるそうです。
本来私が代役をして年齢相応の学年から引き継ぐ予定でしただけに、代役の役割すら果たせなかった私がこうして表舞台に出していただけるとは、確かに史上まれにみる幸運なのでしょうね。

 魔法の研究をしながら、剣技を鍛え知識を増やそうと努力する日々です。
礼儀作法や女性らしい裁縫・ダンスといったことも覚えなければいけないので大変ですが、毎日が充実しています。
偽物としては力不足でしたが、キャロラインの本物として、頑張って行きたいですね。



 後世の歴史家は言う。
パティア帝国の歴史は、聖女キャロラインの活躍の時期を前後に大きく社会体制が変わると。
聖女キャロライン登場前は、女性は社会に進出することを許されず、双子は忌子とされ殺されていた。
だが、聖女キャロラインが双子の妹であり、神に遣わされた贈り物であったことから、大きく人々の認識が変わった。
女性にも教育の機会が与えられるようになり、双子はむしろ神に祝福された存在となった。

 聖女キャロラインは常に自分は才無き一人の女に過ぎないと言い続けていた。
人々は違うと知っていたが、聖女キャロラインは常にそう言い続けて高みを求め続けたという。
転生なしでチート状態ということを書いてみたくての投稿です。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

12/4 一か所表現ミスがあったことに気付き訂正しました。

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