某オカルト雑誌編集部内で,編集長は室内全体に響き渡る大声で
記者に罵声をあびせていた。
ここ数週間、毎日のように繰り返される光景である。
本日の槍玉にあがってるのは、記者歴八年になる山田という男。
「おい、山田。何年記者やってんだよ!
こんな記事で読者が満足する訳ないだろう。
だから、お前はいつまでたっても、”ヒラ”なんだよ」
編集長はネチネチひつこく山田をいびる。
周りで傍観している他の記者たちも、いつ自分が編集長に
呼ばれて罵倒されるかビクビクしていた。
「全くお前には才能ないなぁ〜
うん?……なんだぁ〜その反抗的な目つきは文句でもあるのか?」
そう編集長は言うと、山田のほっぺたを平手うちした。
ここでは、暴力も日常的にワンマンの編集長によって行われている。
「いつものように、この箱に罰金いれろ」
編集長は山田にダンボールで作った箱を机の上におくと、
山田から強制的に金を徴収した。
ここでは記者の記事が編集長のお気に召さなかったら貴重な時間を浪費させたと云う理由で、一回あたり千円の罰金を罰金箱に入れないといけなかった。
そうして山田は罰金箱に金をいれると、はんべそをかきながら自分のデスクに戻っていった。
編集長は椅子にふんぞり返ると、今度は女子事務員の遠藤に、
「おい、遠藤。コーヒー早くもってこい」
と命令した。
慌ててコーヒーを持ってきた遠藤にたいして
「あれれ、今日は遠藤ちゃん顔色悪いねぇ〜
昨日は彼氏の家にでもお泊りしたのかな? それともあれの日かな!」
編集長はスケベな笑みをうかべて遠藤の尻をなでた。
「やめてください」
遠藤は、か細い声でそう言うと逃げるようにして自分の場所に戻っていった。
この職場、セクハラも日常茶飯事である。
こういった職場で作られた雑誌だけあって雑誌の発行部数は
毎月減っていき、職場のあちらこちらでは返本されてきた雑誌の山が
崩落しそうになりながら平積みされていた。
もはや廃刊は時間の問題である。
編集長は一時間前に宅配業者が小包と一緒に届けてきた返本の山を見ながら、
雑誌が売れないのは記者達がへぼい内容の記事しか書けないからだと、
自分の責任は棚にあげて真剣に考えている。
実際に雑誌に載せるかどうか判断するのは編集長の仕事にかかわらず自分の非では無いと思っている。
そうして返本の山が、さして広くない編集部内の空きスペースを埋め尽くすせば埋め尽くすほど、
編集長のストレスは返本の山と同じように大きくなり、
それを発散させる為に部下に当り散らすのだった。
そんな時、興奮した様子で新人記者の加藤が編集長の元にやってきた。
「編集長! 大変ですよ〜 さきほど読者から送られてきた小包に凄いビデオが――
今からその内容を見てみてください」
編集長は加藤の並々ならぬ様子からビデオに興味を示さすずにはいられなかった。
早速デスクにあるビデオデッキにテープを挿入して中身を確認した。
最初に送り主からのメッセージがテロップで書かれていた。
テロップは黒い画面にくっきりと映えるように赤い字体になっている。
”私は貴社が製作している雑誌の熱烈な愛読者であるが、
最近貴社が取り扱ってる内容にいささか不満がある。
それで貴社の雑誌に渇と刺激を与える為にこのビデオを進呈する。
これは、私と私の勇志が撮影したやらせ無しの、殺人を収めたビデオである”
どうぞ、私のコレクションを楽しんで見てくれ!”
その後、映像が流れ出した。
画像はいささかぶれていた。
広いコンクリートがむき出しになった四角い部屋に女性が全裸で目隠しをされて、
椅子に縛りあげられている。
床には透明のシートが所狭しと敷かれている。
そこに手術用のような青い服を着た男が現れた。
男は顔が分からないように、西洋の悪魔儀式につかわれるような
二本の角がとびだしている牛の頭部のかぶり物をしている。
男は全裸の女性に近寄ると目隠しを外した。
女性は自分の於かれている異様な状況と男の不気味な風貌で叫び声をあげた。
男は女性の様子を見て笑っているのだろうか、かぶり物の二本の角が揺れている。
男はしばらくしてから、おもむろにポケットからアイスピックを取り出すと
女性の目を躊躇無く突き刺した。
女性の叫び声が絶叫にかわった時だった。
そうして視神経とともに取り出された眼球が無残にもカメラによって映し出された。
映像は場面が変わって更に続く。
今度は片方の眼球を取り出された女性が無機質なパイプベッドに縛れていた。
その横に、さきほどのかぶり物をした男が立っていてナイフを取り出すと、
女性の胸から腹にかけて真一文字にナイフの刃をたてた。
恐らく気絶していたと思われる女性が再び絶叫の声をあげた。
絶叫の声が途絶えた時には、女性の内蔵が床に敷かれたシートに散乱していた。
最後にチェーンソーが白い煙をあげて女性の体をバラバラにしているところで映像は終わった。
そして、また赤い字体で書かれたテロップが流れた。
”如何だっただろうか? 恐らくこれを見た者は偽者じゃないかと思うだろう。
こんなもの作ろうと思えば作れるからな! これが真実の映像かどうか確かめたかったら、
下記連絡先に電話してこい。もっと凄いものを見せて上げられると思うよ。
勿論ただと云う訳にはいかないが……”
こうして時間にして三十分にも満たない殺人ビデオは終わった。
ビデオの内容を見て、編集長は見る前と違ってがっかりしていた。
(やはり、これは偽者だ! 結局のところ謝礼を見込んでのものだろう)
でも、せっかくのネタだから使わない手はないだろうと考えた。
実のところ最近掲載するネタにこまっていたから渡りに船だ。
読者はリアルな物を求めたる傾向だ。
もうUFOやら未知の生物、心霊写真や怪奇スポットには飽き飽きだろう。
この手の殺人ビデオは業界ではスナッフ物といって確実に読者数を稼げるネタだからだ。
編集長は早速送り主に連絡をとるように指示した。
二時間後、新人記者加藤がまたも興奮して編集長のところに報告に来た。
「編集長!さきほどの送り主と連絡がとれまして!」加藤の話では送り主は、今晩編集長と会いたいということだった。
会ってくれたらもっと凄い物を見せれるということだった。編集長はもっと凄い物と送り主のいった事が気になった。
都合のいいことに、ちょうど今晩は何の予定も入ってなかったので、
加藤に今晩九時に会えるようにセッテングするよう指示をした。
加藤は大きな仕事が与えられたせいか、生き生きとしているように編集長には見えた。
午後八時五十分。約束の時間十分前に編集長と加藤は港区にある、
今は廃業している工場の倉庫の前に来ていた。
ビデオの送り主がここで会いたいといったからだ。
編集長は一人で会うのはさすがに怖いが加藤が同行しているので安心だった。
そして編集長は倉庫の入り口にある扉のノブを回した。
鍵は掛かって無くすぐに倉庫の中に入ることが出来た。
さすがに中は電気がついていないため真っ暗だった。
こんなこともあるかと持参した懐中電灯で照らしつつ倉庫内の奥に進んでいった。
加藤は編集長の後ろから付いてきている。
最初、編集長は加藤に先頭にたてといったが、
入る前からブルブル震えていたので無理だと判断したため、
後ろなら多少怖くないから「付いて来い」と言ったからだ。
懐中電灯の明かりから見える倉庫内は見覚えがあった。
殺人ビデオで女性が無残にも解体された現場なのだ。
その時であった。
後ろにいた加藤がいきなり編集長の体を羽交い絞めにした。
そして、倉庫内の電気がいきなりついた。
「おい! 何するんだ加藤! いいから離せ」
「……」
加藤は無言でますます編集長の体をしめあげる。
若いだけあって編集長の力では引き離せない。
編集長の前方からはビデオに出ていた牛のかぶり物をした男が近寄ってきている。
男は編集長の腹を思いっきり殴った。
あまりの痛みで編集長は気絶した。
しばらくしてから、編集長は強制的に水をかけられて意識をとりもどした。
気づくと編集長はあの殺人ビデオにでていた女性と同じように全裸で椅子に縛り付けられていた。
正面には、女性を解体した牛のかぶり物をした男がたっていた。
その横には加藤の姿もある。
加藤の周りにも人が三人いた。どれも編集長が見慣れた顔ぶれである。
そう今まで編集部内で罵倒してきた記者達と事務員の遠藤だった。
そして、かぶり物をした男が聞き覚えのある声でいった。
特徴的な声からして男は山田である。
「編集長さん! あなた少々やりすぎたのですよ!
ここにいるみなさんはあなたの事をひどく恨んでますよ〜
いくらバカなあなたでも、もう気づいていると思いますが、あの殺人ビデオは偽者ですよ!
あなたをおびき寄せる為の罠ですよ」
山田は少し笑ってから続けた。
「でもねぇ〜 今からは本物の殺人ビデオを作りますよ。あなたを使用してね!
だって本物じゃないと雑誌の読者は満足しないでしょう」
しばらくしてから、チェーンソーのけたたましい音と共に編集長がバラバラになった事は言うまでも無い。
書店では本当にあった殺人ビデオというタイトルで、
編集長の無残に解体される様子が雑誌のDVD付録としてつけられていた。
あの編集部は皮肉にも編集長の死によって生きながらえた。
もう返本の山がないことで窺えしれる。
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