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ラスト・プレゼント

作者:はしもと


 今年のクリスマスは大変です。
 このままではサンタさんがひとりぼっちになってしまうからです。




 みんなが知っているとおり、サンタさんはクリスマスイヴにプレゼントを世界中の子供たちに届けるお仕事をしています。


 それ以外の日は、仲間たちと一緒におもちゃ工場でクリスマスプレゼントを一年かけて作ります。
 ただし仲間たちはクリスマスの日はお休みします。家族や友人、恋人と過ごしたいからです。
 クリスマスイヴに働くのはサンタさんとトナカイだけです。


 しかし、今年からはトナカイも家族と過ごしたいとのことで、クリスマスイヴに働くことをやめました。
 毎年重たいソリを運ばされるので、トナカイはサンタさんのことがあまり好きではありませんでした。
 サンタさんは本当は一緒にいてほしいと思っていましたが、自分のことが嫌いなトナカイに無理に一緒にいてもらうのも申し訳ないので、引き止めませんでした。



 サンタさんには家族がいませんでした。
 とうとうサンタさんはひとりぼっちになってしまいました。



 サンタさんは1人でお仕事することが寂しかったので、助手のアルバイトを1名募集しました。
 11月から募集をかけていましたが、応募は1件もありません。
 それもそのはずです。


 ケーキ屋さんやおもちゃ屋さんは、その日に働くために準備していますが、わざわざクリスマスの一日だけにアルバイトをしたいという物好きはいません。



 そのことに気付いたのは12月23日でした。


 泣き虫サンタさんは、ひとりぼっちで泣きながら配達の準備をしていました。
 近年はゲーム機やパソコンが欲しいとの要望が多く、それらは精密機械なうえに重たいので重労働です。
 それが悪いとはいいませんが、サンタさんはどこか時代に取り残されたような気持ちになり、また涙を流しました。


 その涙が落ちた音に気付いたように、サンタさんの家の黒電話が鳴りました。
 サンタさんはびっくりして涙を引っ込めてしまいました。


 電話のベルが鳴り止まないうちに、あわてて受話器をとりました。



「もしもし、サンタさんですか? アルバイトの求人を見たのですが、もう募集は締め切っていますよね……?」




 女の子の声でした。その声は鳥のささやきのように小さかったですが、どこか安心させてくれる声でした。


 サンタさんは誰も応募がなかったと伝えるのが恥ずかしかったのですが、背に腹は代えられないので、ここは素直に伝えることにしました。
 女の子はそれを聞くと喜び、よろしければ応募したいとのことでした。
 サンタさんは照れ隠しをしながら、この場で採用しました。





 *  *  *  *





 クリスマスイヴの夜。
 サンタさんの家のチャイムが鳴らされました。
 洋風の玄関の扉をあけると、雪が降っていました。
 その雪の中に赤いマフラーをぐるぐる巻きにしている女の子が立っていました。頬をマフラーに負けないくらい真っ赤に染めて、寒さのせいで震えていました。サンタさんは家に招きいれると、温かい紅茶とケーキをだしてあげました。



「あっ、すみません。自己紹介がまだでした。
 アルバイトの電話をしたものです」
 女の子はケーキを食べている途中に、思い出したようにあわてて自己紹介をしました。
 その声は電話口で聞いたときよりも、温かいものでした。



「どうも、サンタクロースです」
 サンタさんは赤い帽子を脱いで、ぺこりとおじきをして自己紹介しました。

「それくらい知っていますよ。サンタさん」
 女の子はクスクスと笑って返しました。
 サンタさんも、そういえばそうかと思いました。


 女の子はストーブで冷えた手を温めているところでしたが、そろそろ時間です。出発の準備は終わっていますので、あとはソリに乗り込むだけです。
 サンタさんは女の子を車庫まで連れていきました。



 車庫にはソリがありましたが、女の子が予想していたものとは随分と違っていました。

 女の子はてっきり、木製のスノーモービルのようなものを予想していましたが、なんとそこには新幹線の頭のような形をした乗り物が用意されていました。



 トナカイが仕事を辞めてしまったので最新型のソリに買い替えたそうです。
 女の子はイマイチ状況がつかめず首を傾げていましたが、考えても無駄だと気付くとサンタさんのソリに関する説明を聞きました。



 最新型のソリはマッハ3000で移動可能。秒速に直すと1040㎞。
 急停止急発進高速移動の際に起こるソニックブームの発生を完璧に抑え、さらに自動操縦可能で、ナビにルートをセットしておくと眠っている間でも配達可能。プレゼントもオートで射出されること。

 高速移動中のプレゼントを置く際に起こる弊害の全てのエネルギーを相殺するエネルギーを出すことができ、壁を透過する機能もついているということ。

 座席は世界一の素材を使用していて長時間の搭乗でも負担は軽く、エコノミー症候群にならないための様々な工夫が凝らされているということ。

 プレゼント置き場は四次元空間になっているため、無限に収納可能だということ。




 説明しているサンタさんも、ソリの紹介をしているサイトをスマートフォンで見ながらの解説だったので、おそらく理解はしていないのでしょう。女の子も終始あたまの上にはてなマークを浮かべていました。


 次にサンタさんはルートの説明をしました。
 今年は約9億世帯を回ること。夜の10時から出発で、西向きに移動することで32時間に締め切りを増やせるということ。


 説明しているサンタさんも、スマートフォンを見ながら説明をしているので、おそらく理解していないのでしょう。女の子もやっぱり終始あたまの上にはてなマークを浮かべていました。



 お互い、イマイチわかっていませんが時間が来てしまいました。ソリと呼ぶには無理があるロケットに乗り込んで、シートベルトを締めます。

 ソリの中はコックピットのようになっていましたが、ボタンは一つだけしかありませんでした。どうやらソリ屋さんの配慮で、ボタン一つで全世界の子供たちに配達出来るようにしてくれたみたいです。



 サンタさんはハリボテのハンドルをF−1レーサーのように握ると、興奮気味にスタートボタンを押しました。いきおい余ってサンタさんは突き指をしてしまいました。
 女の子はそんな子供っぽいサンタさんを、呆れながらも微笑みながらみていました。


 だって今日は楽しいクリスマス。
 どれだけ悲しくても、きっと幸せになれるはずです。




 *  *  *  *




 2人を乗せたロケットのようなソリは、誰の目にも止まらない速さで世界中を回っていきます。

 流れ星を追い抜いて、オーロラのカーテンをくぐります。
 雪で真っ白になった砂漠を滑走して、凍った海も乗り越えていきます。


 子供の枕元にある靴下にプレゼントが入っていきます。
 子供たちはみんな、幸せそうに眠っています。
 きっと、明日が待ちどおしいのでしょう。



 サンタさんはいつも思うのです。
 配達前までは働きたくなくてどうしようもないけれど、
 こうして子供たちの幸せそうな顔を見ることが出来るのなら、この仕事もそこまで悪くはないと。
 子供たちの明日に希望の花を添えることが出来て嬉しいのだと。
 いつも配り始めてからようやく気づくのです。


「あの、サンタさん?」
「なんだい?」
「私、なにかお手伝いすることありますか? 今のところソリに乗っているだけなのですが」



 女の子はあえてロケットとは言わずに、ソリと呼びました。
 正式な名前がなんであろうと、サンタさんがソリだと呼んでいたので、自分もソリと呼びたくなったからです。


「じゃあ、僕と一緒に子供たちの幸せそうな寝顔を見ておくれ。
 ここにある幸せを君も一緒に見つけてくれれば、この世界の幸せは2倍になる」


「分かりました。たくさん見つけて、たくさん覚えておきます」



 サンタさんと女の子は、1つの幸せを2人で見つけました。
 この世界の幸せは、2つずつ生まれていきました。



 誰にも見えないスピードで、2人を乗せたソリは空を飛びます。
 誰にも見えないサンタさんと女の子は、誰にも見つけてもらえないので寂しくなりました。


 前のガラスから世界を見渡して、自分たちを見つけてくれる人を探しましたが見つかりませんでした。



 でも、隣を見ると自分を見つけてくれる人がいることに気づきました。
 この世界を探さなくても、すぐそばにいてくれたのです。


 女の子はサンタさんがアルバイトの募集をかけた意味が、なんとなく分かったような気持ちになりました。なんとなくだったので、言葉で表すことは出来ませんでした。





  *


  *


  *


  *


  *






 太陽に追いつかれないように、なんとか32時間の長い旅行が終わりました。
 自宅に戻ると、サンタさんはもう一度温かい紅茶と美味しいケーキをだしてくれました。


「お手伝いをしてくれて、どうもありがとう」


 サンタさんは白いヒゲに生クリームをつけていいました。
 女の子はキレイに拭き取ってあげました。


「来年のクリスマスは、君も誰かと楽しく過ごせばいい。このお仕事は僕1人でもできそうだ」

 泣き虫サンタさんは、泣きませんでした。
 強がりではありません。ウソをついたわけでもありません。

 ただただ、すなおに、
 女の子に、来年は誰かと過ごしてほしいと思ったからです。



 世界中の誰にも見つかってはいけないお仕事をするのは、自分だけでいいと改めて思ったからです。来年からは1人でクリスマスを過ごすけれど、そのぶん誰かが幸せになってくれるなら、素敵なことだと思ったからです。


 そう思えたので、もう寂しくはありません。

 

「今年も楽しく過ごせましたよ」
 そんな悲しいことを考えているサンタさんに、女の子はあたたかい声で伝えました。


「私は、あなたとクリスマスを過ごしたかったのです。だから応募しました」


 サンタさんはびっくりしました。
 そして、大粒の涙を流しました。

 泣き虫サンタさんはやっぱり泣きました。
 でもこれは
 悲しいからでも、辛いからでもありません。

 サンタさんにとってあまりにも温かかったのです。



 サンタさんにとって、クリスマスは誰かと過ごす日ではありませんでした。
 トナカイは仕事が終わるとすぐに家族の元に帰っていましたので、サンタさんと過ごしてくれる人は今まで1人もいませんでした。

 それは自分がサンタさんだから仕方がないことだと、
 思い込んで諦めていました。
 思い込んでいたことすら、サンタさんは忘れていました。


「あなたと過ごせた一日は、私にとって最高のクリスマスプレゼントです」
 女の子は幸せそうに目を細めて、笑っていました。 
 どんなプレゼントよりも一番欲しいものだったからです。



 それはサンタさんにとっても同じでした。
 今までプレゼントを配る側でしたので、初めてプレゼントをもらいました。

 それは目には見えません。
 ふれることもできません。


 でも、だからこそサンタさんの一生の宝物になりました。
 一生消えることのない宝物になりました。



 それは誰かに見せびらかして自慢することもできません。
 売り払ってお金に変えることもできません。
 宝石のように光り輝くこともありません。
 誰かにとっては、ガラクタのようなものなのかもしれません。


 でも、だからこそ自分だけの宝物だと思えました。
 それを宝物だと思えてよかったと思いました。


 この宝物を大切にすることが出来るのは、この世界でたった2人だけです。




 女の子が家に帰り、誰もいなくなった広くて静かなお屋敷。
 窓の外には、しんしんと降りつもる白い雪。
 ベッドの中で、サンタさんはぎゅっと宝物を抱きしめました。



『また来年のクリスマスもよろしくお願いします』


 女の子との優しい約束を思い出して、
 子供たちと同じように幸せな顔で眠りにつきました。


 一年後のクリスマスイヴを楽しみに待ちながら。



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