逆
「ちょっと貴方、それ見せてくれませんか」
とある街のカジノで、ジョニーが興味深そうにとなりの客の首元に視線を送った。その男がしていたのは、奇妙な形をしたネックレスだった。
「へへ、いいだろ。こりゃ二年前に手に入れた、幸運のネックレスなのさ」
男もまんざらでもなさそうに、周りにいる客に聞こえるように語りだした。
「幸運のネックレス?」
「ああ。ちょうど二年前ここに引っ越してきたとき、とある掛けで勝ちまくってな。すっからかんになった相手が、最後にこのネックレスを掛けてもう一勝負して欲しい、と行ってきたのさ。それで偶然手に入れたんだ。あの日以来、俺は掛けと言う掛けに負けたことがねえ」
そう言って男は大きな笑い声を上げた。事実、男の席には先程から莫大なコインが積み上がっていた。
「さあお前ら、もう降参か?何ならこのネックレスとコイン、全部掛けたっていいぜ!」
「じゃ、じゃあ俺はこの幸運の腕時計を掛けるぜ!」
「私はこの奇跡の指輪を!」
カジノに男の声が響き渡り、客たちの大歓声が上がった。
「行こう」テーブルが盛り上がる中、連れにそう声を掛けジョニーはそっと席を離れた。
「良かったのかいジョニー。折角幸運のネックレスを手に入れるチャンスだったのに」
男から離れたところで連れが首をかしげると、ジョニーはとんでもない、とでも言うように肩をすくめた。
「馬鹿言うな。あれは持ち主が三年で死ぬって言う、曰くつきのネックレスさ。この地方じゃ有名なんだ。本人は偶然手に入れたつもりだろうが、多方わざと負けてあの男に擦り付けたんだろうな」
みんなあのネックレスの正体を知ってるから、誰もあいつとの勝負に勝ちたがらない。それどころか、ほかの曰くつきの品物を、負けたフリしてアイツに押し付けてるんだ。そう言ってジョニーは眉を潜めた。二人が振り返ると、テーブルの向こうで男が戦利品の「幸運の」腕時計を振り回して、大喜びしているところだった。