「うぁーん。うぁーん。春じゃんのばかぁ。春じゃんのばかぁ」
「うっさいわねえ。一口食べただけじゃん」
「うぁーん。うぁーん」
春子は弟の肉まんを一口ちょうだいと言って口がデカいので三分の一くらいになってしまった。
「黙らないと殴るよ!」
拳を振り上げたら弟はぴたりと泣き止んだ。
「今がチャンス」
春子は弟の持ってた肉まんの残りにかぶりついた。
なくなっちゃった!
「うぁーん。うぁーん。春じゃんのばかぁ。春じゃんのばかぁ」
弟は幼い手で春子に殴りかかってきた。
「やったわね!」
春子は弟を持ち上げると窓に向かって放り投げた。
窓を突き破り落下していく弟。おいおい。ここマンションの八階だぜ?
春子は焦った。やりすぎた。
春子は背中から羽根を出した。白い羽根。もちろん飛ぶことができるよ。
春子は弟が開けた窓の穴から飛び出した。
くるくる宙を舞う。
鳥だ。その姿、まさしく鳥だ。
春子はそのまま急降下した。弟はまだ地面に激突していない。
今ちょうど、四階の前くらいを落下してる。急げ、春子!
「こめお! がんばれェ!」
春子は羽根をばたつかせ、弟を追う。
「春じゃぁん。春じゃぁん」
弟はさかさまに落下しながら恐怖のあまり鼻水と涙で顔がぐしゃぐしゃだ。もちろん、失禁もしてる。
「こめおぉぉぉぉ!!」
「春じゃぁぁぁぁん!」
追いつかなかった。弟は地面に激突してしまった。
葬式。
みんながしくしく泣いている。
それから一年後。
「うぁーん。うぁーん。春じゃんのばかぁ。春じゃんのばかぁ」
「うっさいわねえ。一口食べただけじゃん」
息子は春子のことを春ちゃんと言う。春子は息子のあんパンを一口ちょうだいと言って口がデカいので三分の一くらいになってしまった。
「黙らないと殴るよ!」
拳を振り上げたら息子はぴたりと泣き止んだ。ママが怒るとチョー怖いのをよく知ってるのだ。
「今がチャンス」
春子は息子の持ってたあんパンの残りにかぶりついた。
なくなっちゃった!
「うぁーん。うぁーん。春じゃんのばかぁ。春じゃんのばかぁ。ペチャパぁイ」
「なんだとこのやろう!」
どうにも最後の一言が春子の逆鱗に触れたようだ。
春子は息子を持ち上げると窓に向かって放り投げた。
窓を突き破った。
春子は焦った。やりすぎた。
背中から白い羽根を出そうとしたその時、開いた窓から息子が飛び込んできた。
春子を目指して一直線で飛んでくる。
よく見りゃジェット噴射だ。
「春じゃんのばかぁ。春じゃんのばかぁ」
息子はジェット噴射でずっとずっと追いかけてくる。
「ひやあ。助けてえ」
春子は白い羽根でずっとずっと逃げ回るしかなかった。(了)
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