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ある奥方が離婚して自由を満喫するまでの独り言

作者: 桜鳴 颯祈







 懺悔をひとつ。



 わたしは代替品です。知っていました。きらびやかな妹と同じ血を引いているだけのお人形だったのです。彼はだからわたしを娶ったのです。

 どちらかといえば、異常なのは妹のほうだったように思います。わたしの家族は妹を除けばみな凡庸。それでも優しい、優しい家族です。優秀できらびやかな妹は成人してすぐに華やかな王都へ行き、沢山の成果を挙げました。優しさだけでは満足できなかった?いいえ、ひとりだけ際立っていたゆえに疎外感を感じていたのでしょう。妹もまた、可哀想なのです。だからといってわたしが妹に感じる劣等感や憎悪が減るわけではありませんが。


 ・・・ええ、そうです。わたしはすべて知っていましたがその上で代替であることを承知したのです。


 妹が愛した彼は、妹を愛していました。けれど妹は愛され慣れ過ぎていて彼は気後れしてしまったのです。おそらくわたしが一言言えばすべては良い方向に変わったのでしょう。それほどまでに妹と彼は誰にもわからないようお互いを想っていました。お互いにもわからないほど隠されたそれはお互いを慮ってのことでしたからこれは妹と彼に焦点を当てればこれは悲恋の物語でしょう。あるいは、わたしを悪女とした恋物語。わたしは彼を好いているわけではありませんから。わたしはただこれ以上惨めになりたくなかっただけなのです。わたしは妹を愛しているあの人が好きで、ええ、だから、わたしの想いが叶わないのに妹だけが幸福になるのが許せなかった。

 わたしと彼の結婚が決まったときの妹は見ものでした。絶望と悲哀と嫉妬。それを必死に押し隠して祝福するその顔で胸がすぅっとしましたとも!

 ただ勘違いしないでほしいのはそれでもわたしは姉として妹を愛していたのです。憎悪が愛に勝ってしまったというそれだけのこと。だからこそ誰一人わたしを疑いませんでした。むしろこれまでのわたしの行状を見てわたしを疑える人間がいるならば見てみたいものです、と言い切れるほどにはわたしはこれまで妹の良き姉でした。妹を妬む人、愛する人に何を言われ何をされようとも、姉であり続けたのです。それもまぎれもなく本心から。それにこの婚姻は表向きにも裏向きにも政略結婚でした。わたしを疑う余地などどこにあったのでしょう。

 式は華やかとはいえない、慎ましいものでした。妹はいまや国有数の資産家でしたがお金を出させるつもりは流石にありませんでしたので、下位貴族同士の式としては実に一般的なものでしたが。

 妹は、完璧に隠し切りました。式の間必死に涙を堪えるその姿は姉の婚姻に感極まる妹としてしか捉えられず、わたしに対しても彼に対しても祝福を述べる気丈な姿に、当然わたしは真っ当な姉としての喜びだけではありませんでした。いつも家族と親友以外には比べられ、愛する人も妹を選び、それでも妹の本当にほしい人はわたしの手中。ああ、罪悪感とその暗い快感でどうにかなってしまいそうでした。



 でももう良いのです。



 三年という短くも長くもない期間。妹はずっと彼を愛していました。彼は妹を愛していました。わたしの身勝手な欲望で二人を傷つけて、本当に、何をやっているのかと不意に目が覚めました。離婚の理由はわたしの浮気で良いでしょう。浮気相手は適当な商売男で。罪滅ぼしにもなりませんが、それで二人が愛し合うことに疑問を持つ人もいないでしょう。わたしは最後まで悪人でありたいので、当然逃げます。家族には迷惑をかけますがまあ最後の迷惑です。許してもらいましょう。浮気なんて別にしていませんし、今もってあの人が好きなわけですが、最初から叶うわけのない恋です。いまさらどれほど悪名が響こうとどうせわたしはこれから辺境へと行くので気にしません。辺境へ行くのは仕事の都合で本来は誰でも良かったのですがこれ幸いと名乗り上げて今は竜車の中です。離婚に必要な書類等は家に置いてきましたし、二人で幸せになってほしいものです。これもまた勝手な話ですけれどもね。

 それにしても今日は良い旅立ち日和です。青空が澄み渡って、綺麗。今のわたしの心を例えればきっとこんな風なのでしょう。

 ・・・手紙は全部受け取り拒否っと・・・それにしても、足取りを追わせないようにするのって面倒ですね・・・こんなにやらなければいけないとは、正直、億劫です。ですが妹は術士ですからね、こうしておかないとすぐに見つかりますし。そんな間抜け嫌ですよ。




 さて、この書類がすべて終わればわたしは晴れて自由の身。辺境に着いたら何をしましょうかね?

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― 新着の感想 ―
[一言] なんか本能のままに生きている感じだった。
[良い点] ハラハラして良かった(o・v・o) [一言] 続きが気になります(;∇;)/~~主人公妹はイラってしました
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