5月28日日曜日 朕とツネ
ひたひたと、べたべたと朕の素足は音を立てて部屋を出ていった、のだった。朕は一度は。
だがふと、身の危険を感じた。なぜかと言えばそれは勘。だが、勘にも根拠はある。なぜかこの日は身の回りが全体的に狂っていて、家族の狂気がピークに達していた。家族全員の不満がリミットを叩きぐだぐだの発狂菌が一気に蔓延していくのが目に見えたほどである。
こんな事が起きたのだ。だからと言ってこれが小股家だけのことであるとは限らない。もしかしたら日本全土いや、世界中が発狂菌に感染してしまってどいつもこいつもがヤバくなって暴れたらいかに朕といえども次は肋の骨折程度では済まぬかも知れない。だがだからと言ってすんなりと狂人の群に殺されてしまうわけにはいかぬ。自分はまだ役割を終えていないような気がするのだ、これも勘だけどなんてカッコつけてるけどぶっちゃけていえば死にたくないってことが言いたいんだけどね。
朕はテレビの残骸に手を突っ込んで満子の武器であった巨大な中華包丁を拾い上げ、とりあえず肩に担いで今一度部屋を出た。
物音がしていた。なんだ、珍しいこの陰気な区域でこんな真夜中に。朕は興味を持ってそちらに目を向けた。
螺旋が渦巻く階段の踊り場。朕の慎重よりも20センチほど高い場所にその小さな窓はあって、朕はヒョイと飛びつきムキムキと盛り上がる自分の腕の筋肉を見てうれしそうににやりとしながら懸垂をするように身を持ち上げ、その窓から外の風景を見た。
浮浪者が呆然と立ちつくしていて、その前の地面というかそこはゴミ捨て場で、といってもかなり奥まった場所にあるため人目に付きにくいからか、少し離れた場所にある工場地帯の連中が時々やばそうな廃棄物を持ってきたりもするのだが、見た目上その産業廃棄物っぽい透明のビニール袋の中に入った黄色の液体がこぼれ出るその中にOLの無惨な死体があった。下半身が剥き出しになっているところから見て、この浮浪者によるレイプ殺人と言うところなのだろうけど、朕はこの浮浪者の後ろ姿に何となくインテリジェンスを感じてしまった。
突如、浮浪者はぬるぬるの地面に膝をついて号泣し始めた。
なぜかはわからぬが、朕の頬にも涙が伝っていた。
朕は浮浪者に自分の存在を知らしめるために中華包丁を投げ、腕に力を込めて身を引き上げ、小窓から上半身を血と廃液の臭いが充満する外に出した。
でかいツネ。ちびの朕。
知性的なツネ。野生的な朕。
巨根のツネ。その件に関してはノーコメントを貫く朕。
なかなかの名コンビになりそうなのであった。
とりあえず女の死体を廃液袋の山に埋めてから、二人は夜明けの光が差し始めた路地を出た。
道ばたで拾ったスポーツバックに中華包丁を忍ばせ、大通りに出たのだけれど、何となく気恥ずかしくなって通りを渡り、また路地に入った。路地にいれば安心だと思えた。
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