いらっしゃいませ。
どうぞこちらへ。
本日はいかがなさいますか?
甘い香りのバイオレットフィズ?
それとも、危険な香りのテキーラサンライズ?
はたまた、大人の香りのマティーニ?
わかりました。本日のスペシャルですね。
少々お待ちください。
本日のカクテルの名前はスパイラルでございます。
ごゆっくりどうぞ。
俺はボルト。
知ってるかい?
俺達が出来る前はリベットっていって、穴にそいつを入れて頭を潰して抜けなくするのが支流だったが、奴らは取り外しが厄介。
そこいくと、俺達ボルトは回すだけで、締める事も外すことも出来ちゃう。
どうだいっ。凄いと思わないかい?
俺が生まれた時は、10ミリで短いボルトだった。
俺はドリルの持ち手を固定するのが初めての仕事。
しかし、毎日毎日振動と、埃まみれでかなりツラい生活だった。しかも扱いは雑で、油も注してもらえないし、ろくに掃除もされずに、とうとうドリルの刃先の留め金が折れて、俺はドリルと共に廃棄処分になって解体された。
それほど長い仕事じゃなかったが、はじめてのボルト生活にしてみれば、こんなものか。
溶かされた俺は、次にもう少し太いボルトになった。
今回の仕事はラジオの本体を合わせて留めるボルトだった。
前とは違い、心地よい音楽が俺をいつも楽しませてくれた。
いい気分だ。やはりボルトも捨てたもんじゃないと思った。
でも俺が留めているラジオから、嫌なニュースが聞こえてきた。
戦争を始めたのだと言う。
俺達ボルト業界にはかなりの影響が出る話に、みんなが耳を傾けた。そしていくらも経たないうちに俺達は招集されて、分解されることになった。
俺は戦闘機の翼を支えるボルトになった。
空を飛べるなんて最高だ。
ボルト仲間は皆、俺を羨ましいがった。
しかし、現実はそんなに甘くはなかった。
次々に仲間のボルト達は戦闘機の機体などと共に、バラバラと散って行った。
海に落ちてしまった奴らはきっと、また戻ってくるのは難しいだろう。
俺達も明日は我が身だった。
そして、ある日俺の機体もやられる羽目になった。
敵の銃弾は、俺の支えている主翼に飛弾して、みるみる炎が俺の周りを覆った。
もうだめだ!墜ちる!機体はバランスを失い、真っ逆さまになって墜落した。
しかしそこは何とか、陸地だった。
俺はボロボロになりながらも、ホッとした。
そして俺はそれからしばらくの間、そこで眠ることとなった。
戦争は終わったようだった。
俺はようやく回収されてバラされた。
工場で溶かされた俺は次に、細長いボルトにされ、自動車のタイヤを支えるボルトになった。
この仕事はキツかった。
いつもいつも俺は遠心力との闘いだった。
しかし、俺と今回のナットとの締め付け具合は最高だった。
俺は奴に惚れ、奴も俺に惚れた。
相思相愛だった。
俺達はいつも仲良く手と手を離さなかった。
しかし、自動車は俺達より先にエンジンがやられて動かなくなった。
俺達はスクラップ工場に運ばれ解体されることとなった。
無情にも俺達はガリガリという音と共に引き離された。
俺は叫んだ。
ナットーっ、またどこかで会おう!
奴も叫んだ。
わかったわっ!必ずやまた!
二人はバラバラになり、そして溶けあった。
俺は大きなボルトになった。
電気を送る鉄塔を支えボルトになった。
今度の仕事は風との闘いだった。
何とか倒れないように俺達はお互いを強く引き合って耐えた。
その時隣になったボルトはかなりのつわもので、俺と話しがあった。
俺達は長い時間そこでボルトについて語った。
ボルトとは何だろうか。ドコから来てドコに行くのか?
ボルトとはどうあるべきか?
ボルトとはこの先どうなるのか?
ボルトに未来はあるのか?
ボルトの夢は?希望は?
ボルトに科せられた運命とは?
長い長い間。
そして俺達は静かに時を重ねた。
俺達はとうとうバラされることになった。
電気の線は地中に埋まり、俺達の鉄塔は用済みとなった。
俺達ボルトは工場に運ばれて溶かされた。
久しぶりのいい風呂だった。
心も体もポカポカだ。
しかし湯上がりの俺は、俺は鉄の延べ棒になった。
俺は首を傾げた。未来はボルトは必要ないのか?
俺は悲しくなった。
こんな終わり方があるか!
俺はまだやれる。やれるぞ!
どれくらい寝ていたのか、俺は起こされた。
久々にまたあの、忘れていた熱さで目が覚めた。
俺は小さなボルトになった。
次の俺の仕事はロボットの部品を留めるボルトだった。
赤子を寝かしつけるための揺り篭ロボットのボルト。
しかも相手のナットは奴だった。
久しぶりに会う奴は相変わらずいい締め付け具合だった。
俺達はお互い微笑みあった。
赤子はスヤスヤと寝ていた。
これは夢か?
こんな幸せなボルトがあるのか?
まぁいい。夢でも。
俺は赤子の寝息に、うとうとしたのだった。
おしまい。
いかがでしたか?
今日のオススメのカクテルの味は。
またのご来店、心よりお待ち申し上げております。では。
|