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『青大将と可憐な打ち首』編(急)
 絶式√の握る血染めの切っ先が、距離1mmと置かずに眼球の真上に据えられている。向こうの手元が狂わなくとも、何かの拍子に頭が揺れただけで失明しかねない。
 ただそれよりも、その奥で切っ先よりも鋭利な殺意を向けてくる彼女の奈落の様な瞳が、彼には恐ろしかった。
 ただこうしているだけで、命が削り取られていく。
「……わ、分った」
 意思よりも先に。
「分かったから……」
 身体よりも先に。
「言うから」
 命が屈服した。
「俺の雇い主の名は、■■■■■」
 と。
 その口は確かに、真実を告げた。
 しかし。
「正直に言うつもりはない? あるいはやっぱり。ボクは君の身体に聞くしかないのかな? もう一度だけチャンスをあげる。誰?」
 絶式√は拒絶した。
「……ほ、本当だぜ? お前の妹を誘拐し、……そして……殺す為に俺を雇ったのは■■■■■」
 奈落の中の、闇が揺れた。
「馬鹿な事……それ以上言わない方が良いよ?」
 刃が移動し、下瞼のすぐ下の窪みへ。
「次は君の右眼を掻き出してから尋ねる事になるから」
「ほ、本当――」
「生憎だけどね」
 彼女の言葉が遮った。
「その人はもう死んでるんだ」
 と。
 そこで。
 疑惑が彼の心に生まれる。その程度までに彼の恐怖心が薄れたのは、彼女の声に動揺の色が隠れていたから。
「……知らねぇのか?」
 改めて確認するよう、聞き返す。
「何が、かな?」
 彼はそして、確信する。
 ――――。
「……いや、『知らされて』ねぇのか」
「だから、何が?」
「そこの、キツネみたいな女から」
「何……が?」
「絶式○(ゼッシキ・ループ)は、お前の母親は、そこの、キツネみたいな女は――――」


 その日、どうして極彩色綾乃は登校してこなかったのかを、倒記海人はもう少し早く疑問に思うべきだったのかもしれない。
 あるいは。
 出会ったその日に、気付くべきだったのかもしれない。
 彼女は分り易く言っていたではないか。
 彼女――極彩色綾乃の目的は、
 一つでも多くの『法則破壊』を消し去ることだと。
 そしてまた同時に。
 きちんと一人一人を扇子で指しながら言っていたではないか。
 絶式√も。
 乃枯野雲水も。
 リリアナも。
 『法則破壊』者であると。
 彼女が消し去るべき、存在であると。 


「……ウソだよ」

「それこそ、俺の身体に聞いてみるか?」

「ウソだよ」

「これだけ多くの人間が殺されて、冗談みたいに生き返らされて、それどころかお前自身だってそうなのに。どうして、母親だけが例外なんだよ?」

「うるさいよ」

「あるいはそんな無茶苦茶をするやつが、完全無欠の母親だったとして、説得力はないのか?」

「……黙ってよ」

「むしろ俺なんかより、お前の方が見覚えあるんじゃねぇのか? その女に?」

「……ない……よ」

「…………オマエからも、何か言ってやらねぇのか? 『娘』が泣いてるぜ?」


 さて。
 大層困ったものじゃな。
 ここでこの極彩色綾乃からの法則破壊である。
 金の切れ目は縁の切れ目と言うが、この場合は何が切れたが故にこの極彩色綾乃の正体がこの土壇場で割れる羽目になったのであろうかな。
 ミューに刺された時も大概であったが、この時に再び壊れたルートがこの男に働いた暴虐の限りも大概じゃった。やれやれ、しかし我ながら皮肉な名前かな。
 ループとは。
 円環とは。
 無限とは。
 輪廻とは。
 生死とは。
 な。
 さて。
 大層困ったものじゃな。
 この極彩色綾乃は既に世界の傍観者とは一つの約束をしておったな。この世界はハッピーエンドで終わると。もちろん約束は破る為ではなく守る為にある。故にやはり、これはそうあるべきなのであろうな。
 故に。
 そうするとしよう。
 そんな無茶苦茶なと思うかも知れぬがまぁ見ておるが良い。この極彩色綾乃は自称とは言え奇跡師じゃ。見事ハッピーエンドに締めくくってくれる。しかと見ておれよ次の一話。ふふふふ。ではな。バイバイブーである。


結言:『なし』 


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