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王様になりたくないのでざまぁされます

作者:I・B
0


緩くうねるガーネットの髪。
甘く蕩けるような優しい微笑み。
隣にいてただ安らぎをくれる少女には、男心を擽られずにはいられないことだろう。

ああ、俺は……この少女が、欲しい。
















1


アルツトーリ王国第二王子にして次期国王。
それが、俺に与えられた身分だった。幼少より帝王学を学び、あらゆる礼節を叩き込まれ、息をする間もなく学問と調練に身を費やし、十二を数える時に古代に残されたとあう「テセーシヤー神」の預言書に従い、辺境の地で身分を隠して冒険者として過酷な世界で生きることになり……気がついた。

「なぁ、王族のイメージって?」
「硬っ苦しい世界でいいもの着ていいもの食べて勉強する」
「まぁ、そんなところだよなぁ……?」

あれ? なんか俺、苦労しすぎて無い?
冒険者としてやっていくと、自動的に世界なんて見えてくる。底辺からそこそこまで、ピンとキリまで見てきた俺から言わせてもらうと、ド底辺でも俺ほど苦労していない、という事実だった。
喰うに困ったことがないのは十二まで。それ以降は仕事がなくて普通に飢えたこともある。死にかければ助けてもらえるだろうもいう淡い期待が消滅したのは、朦朧としながら雑草を食べていた時のことだった。
それから甘えは一切捨てて、野うさぎに襲いかかり飢えを満たして、ただの冒険者として生きてきた。するとどうだろう、王族に拘っていた時よりも遥かに楽という事実。
腕利きの魔法使いとパーティを組んで早二年。下級貴族よりもよっぽど稼いでいる現状に戦慄を覚えたのは良い思い出。
今更、王太子に戻ってくださいね! なんて言われても、嫌すぎるというのが本音だ。十二歳まで俺のために使った金額は返すから、解放してほしい。

そう、この楽しすぎる生活を満喫していた俺にある日突然書簡で告げられた内容は、まさにそれ。

「なぁ、ルル。もし俺が王太子だって言ったらどうする?」
「あのさぁアル、不敬罪って知ってる? 相棒が広場で晒し首になるのは見たくないかな」
「……だよなぁ」

王太子って言えばあれだろ?
きらびやかで楽しげでふわふわしてて優しくて威厳に溢れているあれだろ?
正しく、俺とは正反対。王太子って奴の顔を見てみたいぜ……って俺のことか。そんなレベルの話なのに、今更、王太子として学園に通えって?
おいおい、バカなの?

「はぁ……」
「なーに? 悩み事とか珍しいわね。聞いてあげよっか? 格安で」
「お、言ったな。じゃあ雇わせてもらおうかな、格安で」
「……うひゃあ、まさかホントに厄介事? ま、他ならぬ相棒の頼みなら、受けてあげましょ」

どうせこれ逃げられない奴なんだ。
こう、断ったら指名手配とか目に見えている。国外追放なら諸手を挙げて喜ぶが、王族の血を易々と逃すとは思えない。
そして、どうせ逃げられないのならば、どうしたらいいかなんてものは随分前に学習している。

「三年間、学園で俺の護衛をしてくれ」
「はぁ?」

逆境?
上等だ。持てる手段を尽くして楽しみきる。
せいぜい、この状況を利用しようと思わなければ、やってられないからな。




















2



王立魔法学園に入学してからは、怒涛の日々だった……なんてことはなく、硬っ苦しい世界にぶーぶー文句を言いながら侍従のフリをしてくれる相棒に爆笑されながら、完璧な王太子を演じる日々。相棒が居なければ退屈で死んでいたことだろう。
学問は十二までに習ったことで卒業まで賄える程。武技では教員相手でも手加減を強いられる。唯一魔法は相棒という俺より強い相手がいたから退屈せずに済んだが、互いに本気を出せないのは窮屈だった。
だがそんなものが些細なことだと思えるほどに驚いたことが一つあり、俺の目下の悩みの種だ。

「本当に、なんなんだよ、婚約者って」
「もー、それ何回目?」

相棒に窘められたが、本当に何回目だかわからない。婚約者が居ます。顔合わせ? ないよ。十二まで自分磨きという名の拷問以外知らなかったし。ははっ。
そんなこんなで学園入学前に着飾って紹介された相手は、それはそれはまぁ美人な女の子だった。だがどーするよ。こんな、王族生まれの野猿貰って嬉しいか? 可愛そうだわ。
どうにかしてやれないかと、王太子としての仮面をかぶりながらそこそこ上手くやっていたんだが、ある日、相棒に言われて気がついた。

あ、この子、一個上の第一王子に惚れてる。

「兄貴に恋する女の子をぽっと出の俺が娶るとか、俺、悪役じゃね?」
「悪辣王子だね。なんか頭悪そう」
「おいこら、不敬罪はどうした。一生タダ働きさせんぞ」
「いやだって、アルが王子ってこと以上の詐欺はないわよ? 私だってまだ騙されているんじゃないかと疑ってるのに」

俺が一番疑っとるわ。
そう言いたくなるがここは大人になってぐっと我慢。あの俺に阿呆みたいな教育かました父上も、母親の身分が低いとか気にせずに継承権格上げすればいいのに。
そうすれば俺だって辺境に引っ込んで冒険者生活を謳歌できるっていうのに。

「なんか美味い話が転がってこないかねぇ」
「逃げちゃえば?」
「……国に愛着も出てきた。生きやすい治世だとは思うんだよ、平民から見て、な」
「あー、まぁそうだね」
「だから、王族として生まれて、王族として国のために生きるのは望むところだ。だが」
「王様は嫌すぎる、って?」
「そーなんだよなー」

辺境で魔物を押し止める為に、国に貢献しながらやりたいこともやって生きる。最高じゃないか?
そうでなくても、王はなぁ。自由がなさすぎる。
王にしたいんだったら、自由を教えるべきではなかったし、庇護されるべき対象であるという認識を捨てさせるべきではなかった。正しい王とは誰よりも死んではならない者だ。だから戦闘は護衛に任せなければならないが、俺だったら自ら先陣を切る。最後に信頼できるものは、培った力でしかないからだ。

「どうしようか、ルル」
「果報は寝て待て」
「んじゃ、膝借りるぞー」
「はーい、金貨一枚にございます」
「高い。買った」

結婚。
継承。
どっちも俺には相応しくない。本当に、どこかにいい話はないことか。そう思わずにはいられなかった。



















3



いい話というのは、いつだって予想もつかないところから来るものだ。悪い話と同じように。
学園に入学して二年。二年の終わり、三年生の卒業準備にかかる頃だった。こんな中途半端な時期だというのに一年生に編入生が入ったのだ。鮮やかなガーネットの髪の少女で、特待生というだけあって才能に満ち溢れてる。
話上手で聞き上手。男女ともに友人はと多く、隣にいると安心感をくれる、なんとも男心を擽る少女だった。
偶然、会う機会が度々あり、俺も何度か話をしたが、エレイナと名乗った彼女とは良く話があった。それこそ、時間を惜しんでしまうほどに。だからだろう、未だ恋知らぬこの身。王太子として生きてきた俺は、彼女の陽だまりのように生きてきた在り方に、惹かれずにはいられない。

「そう……禁断の恋と知りつつも」
「ぶっふぅっ……くくくっ、ね、ね、今のもう一回!」
「そう……禁断の恋と知りつつも」
「あははははっ! 才能あるよ、アル!」
「だろう? 俺はなんでもできるんだ」

はい、ということで、編入生の女の子は凄かった。手練手管とでも言うべきか。瞬く間に学園でも有力な男達にそれとなく取り入り、浮気扱いされる一線を綺麗に守りきり、次々と懐柔していく。
国のために生きると決めた俺からすれば、彼女ほど欲しい人材はいない。既にどこかの国や組織の手のものではないと調べはついているので、どうにかこうにか手元に置きたいのが本音だ。ああ、早く優秀な諜報に鍛え上げたい!

「なぁルル、どうしたら配下になってくれると思う?」
「恋すれば?」
「嫌でも、あれ、欲しいのは身分だろ? 俺、王様になる気ないしなあ」
「えー、我儘ー。んー、他に選択肢をなくさせる、とか?」
「あー、って言ってもあの様子なら、誰か庇う男の一人か二人か、確保しているだろ」
「じゃ、やっぱり燃え上がるような恋ね」
「あのなぁ。……ん? ああ、いや待てよ」

そうか、恋か。
いや、これは、なんという幸運。一度にいくつもの問題が解決する糸口が見えてきた。

「……根回しが必要だな」
「あ、アル、悪い顔してる」
「賢そうだろ?」
「そ、ソウダネ」

俺の婚約者は、俺の兄貴に惚れている。
俺にその気がなくても、それなり以上のスキャンダルがないと婚約者は外れない。だが、そのスキャンダルが起こると、俺は王太子から外されることだろう。
さて、俺は王になりたくない。そして、最近俺に近づく魔性の女がいる。この状況、おいしくはないだろうか?

「ルル」
「はいはーい」
「手伝ってくれ」
「いいよー。面白そうだから、特別に半額ね」

決行は、そうだな、卒業パーティがあったな。そこでことを起こす。その後はまぁ、なるようになるだけだ。
だが、まぁ。

「いざとなったら逃がしてくれ」
「ふふ、その場合は立場が逆ね。一生こき使ってあげる」
「おーこわいこわい。よし、考えをまとめる。膝、借りるぞ」

学園に来てから楽しいことなかったが、くくく、十分に楽しめることができそうだ。






















4



それからというもの。
俺はまぁエレイナと仲良くした。王太子の仮面被ったまま、本当のあなたを見せて欲しいと請われて「王太子であったのなら」という前提で本来の自分という名の仮面をかぶったのはご愛敬。ルル相手に「私はアルクレリオール」とか言って爆笑されたのは良い思い出だ。気持ち悪いって言うなし。
そんなこんなで月日が経てば、ぼちぼちと噂になる。エレイナを慕っていた男達も「王太子相手では」と諦めて、俺だけに的を絞る。そうするとエレイナは、ルルに監視してもらっていなければ分からないほど巧妙に、セラエル……ああ、俺の婚約者に苛められたかのような状況を作った。
中でも決定的だったのは、セラエルが公衆の面前でエレイナを注意し、エレイナがまるでセラエルに押されたかのようにすっ転んで見せたことだ。調度品に突っ込むっておまえそれ、良くやるよ……。

(まぁ、その件はなんだ、兄貴とくっつけてやるから許して欲しい)

いやー、女って怖い。ルル? いや、おまえは良いんだよ。何年の付き合いだと思ってんだ。ほとんど兄妹だわ。

「いや、私が姉だよ?」
「鏡見て言え」
「おおっと、急にアルの黒歴史を広めたくなってきたなぁ」
「申し訳ございませんルルフィシアお姉様!」

影に表に工作して、笑ったり戦慄したり女同士のあれやこれやに冷や汗をかいたりして、ついに卒業パーティの日取りがやってきた。
これで失敗したら、仕方ない、王様くらいやってやろう。エレイナは逃がさないけど、セラエルは逃がしてやろう。ルル? 雇い入れるに決まってんだろ。っていうかおまえ、王妃やれよ。めんどい? 俺だってめんどいわ!
いやしかし、泣いても笑ってもこれがラストチャンスだ。せいぜい気合を入れて、ダメな王太子を演じさせてもらおう。なに、父上に許可は取った。「卒業パーティで騒動を起こす許可」でしかないけど、まぁ良いだろう。
父親としてはド底辺だが、王様としては超優秀だ。無理を通してまで俺を王に据える利がないと分かれば、すぐ様、兄貴を擁立してくれる事だろう。そのためには俺もまぁアホになる必要があるがね。

「アホに、なるの?」
「おいこら、何が言いたい」
「べっつにー」

準備も整った。
猫だっていつでも被れる。

「さぁ、エレイナを迎えに行こう。付いてきてくれるね? ルルフィシア嬢」
「は。仰せのままに。アルクレリオール様」

うん、我ながら今日も気持ち悪い。
だが、上手く行けば今日で最後だ。一世一代の大舞台。役柄は甘やかされて育ったとされる間抜けな王子。
せいぜい失笑を頂戴できるよう、滑稽に踊り切らせていただきますかな!



















5



眩い黄金の髪の貴公子が、わたしに手を差し伸べてくれる。
優しい笑み。蕩けるような、熱にうかされた瞳。

「私にエスコートさせてほしい。良いかな? エレイナ」
「アルクレリオール様……はい、喜んで」

その手を取って、確信する。
この勝負は、わたしの勝ち。栄光の日々はわたしにこそ相応しいのだと。










貧乏だった。
食べるものは硬いパン。塩味のスープなんて一週間に一度だけ。運良く肉が食べられる日もあったけど、大抵は、私腹を肥やしている孤児院のデブ院長の機嫌がいい時のみ。
他人の機嫌をとるのが上手かったから生き延びてきたわたしにも、ある日転機が訪れる。なんでも死んだ両親とやらは駆け落ちしたお貴族様とやらで、わたしがひもじい思いをしていたのもそのせいらしい。どうにかこうにか見つけ出してくれたお爺様も、権力欲の塊みたいな俗物な上に貧乏男爵。いつになったら餓えずにすむのやら。
それでもなんとか機嫌を取りながら生き延びてきたわたしに命じられたのは、位の高い旦那を学園で引っ掛けてくることだった。それに一も二もなく頷いて、高級娼婦を雇って手練手管を教わり、いざ乗り込んだ学園男子はちょろかった。その中でも一番位の高い男子を篭絡してみたら、なんと相手は王太子。王妃は流石に厳しいか? いや、大丈夫だ。わたしは贅沢な暮らしのためならなんでもやる女。王妃だってやり切ってやる。そんな覚悟でことに当たれば、甘っちょろい世界で生きていきた女どもなど恐れるに足らず。冤罪を被せて王子の婚約者の評判を落とした結果、王子もちゃっかり落ちてきた。
その結果が、「これ」である。わたしに蕩けるような微笑みを向けて、婚約者を差し置いてエスコート。羨望と戸惑いの視線を一身に浴びても平気そうなのは、阿呆なのかメンタルが強いのか。学園に来るまでは引きこもっていたとかいう内向王子がメンタル強いとも思えないし、まぁ阿呆なのだろう。王様としては優秀になるのかな? まぁ、無能だったら周りがどうにかするか。

「これから、君には厳しい場面になることだろう。けれど絶対に、君は私が守る。ついてきてくれるな? エレイナ」
「……はい。相対されるのですね」
「ああ。落とし前は、つけなくてはならないなら」

アルクレリオール様はそう言って、わたしを背にかばいながらエスコート。
パーティの主賓のひとりとして佇むセラエル様に近づいて、それから声を張り上げた。

「セラエル・リリトリリ公爵令嬢! 君には失望したよ。悪いが、私は学友を一方的な妬心で殺そうとするような女性を王妃に据えるつもりはない」
「アルクレリオール様? なんの、ことでしょうか?」

セラエル様は、それはもう美しい方だ。
銀髪碧眼にすらっとした体躯。わたしもまぁカワイイ系だが、こんな美人には敵わない。同じ舞台で勝負する気もないけれど。
そんなセラエル様も、今は美しい顔に戸惑いばかりを浮かべている。まぁそうでしょうね。私だったらそうなる。

「白を切るか! もういい。今この場で宣言しよう! 私、アルクレリオール・フォン・アルツトーリは、セラエル・リリトリリとの婚約を破棄する! 同時に、この類まれなる美しい心を持つ令嬢、エレイナ・テックスとの新たな婚約を誓おう!」

ああ、勝った。
だが、勝負の世界は最後までわからないのだ。気を引き締めて、流れを観察しなければ。

「お、お待ちください、殿下! この婚約は陛下とお父様が交わした契約にございます! 勝手に破棄できるものではありません!」
「同じことだ。おまえが犯罪者として追放されたら、どちらにせよ空席になる。それを、罪を認めて自ら破棄に合意するのであれば情状酌量くらいは考えたものを……」
「っそのようなこと、記憶にございません! 考え直してください、殿下!」
「ええい見苦しい! エレイナを突き飛ばし、怪我をさせただけではなく、口汚く罵り、私物を破壊したこと、既に証言は取れている! 言い逃れできる状況だと思うな!」
「あ、あの、アルクレリオール様、わたしは……」
「ああ、いいよ、大丈夫。優しい私のエレイナ。すぐに終わるから、怯えないで」

いやあの、そうじゃなくてね?
想像していたよりもずっと阿呆だった王子様のせいで、諍いと騒動がどんどん大きくなる。王太子の権力でさくっと終わらせてくれんじゃないの?
こんな、大騒ぎになってしまうのはわたしの想定するところではない。どうにか諌めようとしても、王子は完全に浸りきっていた。このまま勢いで乗り越えられるのなら言いけれど、陛下と王妃さまもわたしたちに気がついて近寄ってくる。
そんな中、わたしたちの輪に割り込んできた姿があった。確か彼は、そう、赤い髪の王子……第一王子様だ。

「アルクレリオール」
「っ兄上?」
「君がそこまで言うのなら、証拠はあるんだろうね」
「証言ならいくらでも! 見ていたものも多いのですよ、兄上!」

継承権を持たない兄。
王子はその存在を、どこか侮っているように思えた。侮りは怖い。けれど、わたしが口を挟む日まもなく、場は進む。
だが、わたしの偽装工作は我がことながら完璧だ。つけ入れられる隙があるとも思えない。

「僕は証拠と言ったのだよ。……陛下、アルクレリオールはこの場で矛を収めるつもりがない様子。パーティの途中ではありますが、証拠の提示を許可していただきたく存じます」
「……うむ。許そう」

すぐ後ろまで来ていた国王陛下に、慌てて頭を下げる。まずい、言い訳できなくなった。無許可で発言してその場で斬首なんて、わたしはいやだ。
いやでも、証拠? 第一王子まで、セラエル様を追い落としてくれる? そんなはずは、ない。だって、それにメリットはないのだから。

「今朝、学園生徒会より渡された証拠だ。魔法捜査により、全てが証明されている」

魔法、捜査?

「魔法による音声記録には、婚約者のいる男性に近づくな、という当たり前の忠告しかない。私物の破壊にも、破壊されたという彼女の私物からはエレイナ・テックス。あなたの生体反応のみが検出されている」
「だ、だが、兄上! 突き飛ばした件はどうなる?! 公衆の面前で、彼女は調度品に頭を打ち付けた。一歩間違えれば死ぬところだったのですよ?!」
「……その場面を、心配してみていたという生徒が、撮影していたよ」
「な、にを?」

提示された魔法による固定映像表示。
わたしが吹き飛ぶまでの一幕の中、セラエルさまがわたしを突き飛ばす様子はない。
そう仕向けて、わたしに手を伸ばし、まるで周囲から見たら突き飛ばしたように見えるという角度で撮影されていた。

「そ、そんな、エレイナ? これはいったい? な、なにかの間違いなんだろう?!」

どうしよう、どうしよう、どうすればいい?
弁明の機会は与えられるだろう。だが、ここまで来て愛がなかったと言おうものなら幽閉からの事故死は目に見えている。
そうだ、最後まで愛を貫けば、王子と引き離されて幽閉、までで止められるか? 飢えることだけはなさそうだ。
っここまできて? 贅沢な生活も、あと少し、だったのに?

「は、はは、そんな……こんな、ことが」
「して、アルクレリオールよ。此度の騒ぎ、どのように責任を取るつもりだ」

そうだ。
滑稽な道化でしかなかった彼は、いったいどうするというのであろうか。もしアルクレリオール様がわたしに騙されたと言えば……。
思わず顔面から血の気が引く。どうする? どうしたらいい? でも、この間抜けな王子が頭のいい手段をとるとも思えない。それじゃあ、八方塞がりではないのか?

「陛下……私は、未熟でした。どうか、継承権は兄上に譲っていただきたい」

はぁ?

「アルクレリオール……君は」
「兄上……。私は愚かでした。人を見る目も養えず、ただ、罪なき令嬢に謂れもない泥を被せるところでした」

えっ、ちょっ、改心早すぎない?
混乱から回復できない。畳み掛けるような流れに逆らえない。それはどうもセラエル様も同じなようで、感動した様子なのは第一王子くらい。

「では、アルクレリオールよ。己の罪状は己で決めて見せよ。それが相応しいものであれば、その娘の贖罪はおまえに任せよう」
「ありがたき幸せにございます。では、私は今後辺境の地に身を起き、生涯を賭して魔物と戦いましょう」

辺境で魔物と戦う?
甘ったれなお坊ちゃんに出来ることではない。死にに行くようなものじゃないか!
いや、わたしには関係ない。関係ないけど、本当に関係ないで、済むの?!

「些か重すぎるようにも思えるが……相応しいと思うのであればそれで良いだろう。では、娘の処遇は?」
「……結ばれることは望みません。子もなさぬと誓約します。ですから共に辺境に連れていき、せめて彼女が真っ当な人間になれるように更生させていただきたく存じます」
「うむ、良いだろう」

辺境?
更生?
贅沢もできず、こんな間抜けな王子の側で?!
いやでも、ここは大人しくしていた方が無難だ。わたしのような王家に邪魔な存在は、抵抗して切り捨てた方が得なのだから。
まさかこんな、こんな結末になろうとは思いもしなかった。ただ、俯いて沙汰を待つしかできない。あ、でもお爺様の罪はあとで告発しよう。情状酌量狙いではあるが、こんなことさせておいて自分だけのうのうと贅沢とかさせられない。

「セラエル……色々と、済まなかった」
「い、いえ、正直なところ、なにがなにやら?」
「この婚約は破棄される。ということは、そのまま婚約は兄上に引き継がれることだろう。そうですよね? 陛下」
「うむ」
「だから、どうか……兄上、セラエルをお任せしますよ」
「アルクレリオール……ああ、必ず、幸せにするよ」

見つめあって手を取り合う第一王子とセラエル様。そんな彼女達を一瞥して、みじめな私達は会場から去り馬車に乗り込む。
乗員は、わたしとアルクレリオール様と侍女が一人。どうしてこんなことになったのだろう。やはり、高望みしすぎた方が原因なのか。でも、王太子の、王妃の立場が手に入りそうになるなんて、そんな奇跡、望まずにはいられないじゃないか。












ずっと貧乏だった。
ずっとずっと、幸福に憧れていた。
なら、わたしが間違えたのは、きっと手段だ。人をけ落としたあとに訪れる結末としては、相応しい。ふ、ふふ、なによ、こんな。
なんで、世界は、いつまで経っても平等ではないのだろうか?

「いやー、見たか? ルル、俺の名演技!」
「見てた見てた! 笑いをこらえるのに必死だったわ。陛下にどこまで許可とってたの?」
「素のままで、騒動を起こすって言ってあった」
「素かー。なるほどねぇ」

は、うん?

「で、なにもかも想定どおり?」
「いや、エレイナの頭脳は想定以上だ」
「は? え? ちょっ、ちょっと待って!」

キョトンと首を傾げるアルクレリオール様と、そんな彼に何故かタメ口の侍女。そして今までの会話の意味するところを考えて、考えて、たどり着いて言葉を失う。
考えてみればおかしいところはあった。まるで、わたしがやらかすことを前提としているかのように用意された証拠。罪が暴かれてからトントン拍子に進んだ展開。あからさまに用意されていた馬車、見たこともない性格のアルクレリオール様。

「も、もしかして、わたしは、嵌められた?」
「おいおい、そんな疑い深い顔をするなよ。これから共に辺境で暮らしていく仲間だろ?」

ああ、間違いない。疑念が確信に変わる。
わたしはいっぱい食わされたのだ。

「チッ……素直に従うとでも思うの?」
「従うなら、そうだな、贅沢はさせてやれるぞ。なにせ、辺境で魔物を狩っていた方が儲かるのは実体験済みだ」
「ぜいたく? で、なにをやらせたいの?」
「切り替え早いな?! だが、その方がやりやすい」

もう、後にも先にもお先真っ暗。
だったらこの崖から飛び降りて、暗闇の下に潜む黄金を勝ち取る以外に道はない。
切り替えが早い? 開き直ったっていうのよバカ王子!

「ま、詳しい話は辺境でやるぞ。だが、楽しみにしておけ。度肝を抜いてやる」
「あははははっ、アルがこう言うんだから、楽しみにしておいて損は無いわよ? なにせ、アルと居るのは飽きないからね」

……こうして、わたしは悪知恵ばかり働く元王太子と、悪辣な魔女のもとでこき使われることになった。
この先がどんな未来かなんて想像もできない。でも、何故だろう。贅沢な生活ができると学園で確信した時よりもずっと、幸福が掴めるような、あるいは、退屈だけはさせてもらえないような、そんな予感があった。



















6



辺境にある巨大な土地。
領民なんか一人もいないが魔物はじゃんじゃん出るような場所に、伯爵として就任した。だが、魔物なんかどれだけ出てきても、俺とルルに勝てる魔物なんかいない。魔王? 冒険者時代に屠ったわ! それっぽいの、だけど。
エレイナには諜報員としての仕込みをして、他国のパーティでガンガン情報を収集してくれる。王家にこっそり売り払ってる情報だけで金貨の風呂に入るのが日課だそうだ。
ルルはそんな俺たちを金蔓として認めてくれて、専属として雇い入れることが出来た。それ自体は助かるが、エレイナが「もうあんたら結婚しろよ」と言ってくるのが理解できない。ただの相棒だぜ?
兄上とセラエルも、無事に婚約成立。セラエルはまだ時折首をかしげながらも幸せそうにしているというのだから、やはり俺の行動は正しかったのだろう。そんなこんなで俺達は、兄上の婚約成立を、遠きこの地から祝うという名目で、グラスを打ち合わせていた。

「カンパーイ!」
「いえーい!」
「そのテンションはなんなのよ……」

なんだと言われても、なぁ?
やっぱり、ハメを外して飲み食いするなら名目がないと、ね?

「いやーめでたい! めでたいから贅沢をする。間違っていないだろ? エレイナ」
「まぁ、その名目には全面同意だけどさ」
「ほらね? エレイナ。退屈はしないでしょ?」
「ルルのいうことは信用できるわね、ほんと」
「あれ? 俺は?」

なんだよーなどといじけて見せながらも、グラスを傾けるのは止めない。
兄上は感激やでお人好しだが、優秀で思慮深い。俺たちが目を光らせて邪な輩を排除していれば、間違うことはないだろう。
物理的な脅威は、俺とルルでなんとかなる。情報はエレイナが制している。領地にも、冒険者時代に世話したりされたりしてた強者たちが集まりつつある。俺には王も領主も向いていないが、荒くれ者たちのリーダーだったら適任だろう。住みやすい我が国を守って、毎日笑って過ごしてやる。こうやって気の合う仲間と酒を飲み交わして、如何なる脅威も笑って防ごう。

「なぁ、ルル、エレイナ」
「ん? なに?」
「なによ、改まって」
「これからも、よろしくな!」

笑われて、気持ち悪いと引かれて、そうやってなお、俺は俺の選択が間違っていなかったことを理解する。


なにせ、今日以上の幸福が、明日も続くのだと確信できたのだから……。
「テセーシヤー神」

「転生者」
全ての元凶。乙女ゲームで王子がやらかして国が滅ぶなら、予言で「王子を甘やかすな」って書いておけば大丈夫だよね! とやらかして、アルクレリオールが苦境に。

「アルクレリオール・フォン・アルツトーリ」
金髪碧眼のイケメン。本来は乙女ゲームの完璧王太子だったが、古代に生まれた知識チートの転生者のせいで過酷な環境に置かれ、やさぐれた。ハイスペックの肉体チートは生まれつき。

「ルルフィシア」
山吹色の髪に橙色の瞳の少女。乙女ゲーム未登場の魔力チート。楽しいことが好きで退屈が嫌い。アルクレリオールと居ると退屈しないので、金銭よりもそちらが理由で相棒になった。

「エレイナ・テックス」
ガーネットの髪に同じ色の目。乙女ゲームの主人公だったが、現実世界は乙女ゲームよりも厳しくやさぐれる。お金は好きだがそれ以上に贅沢が好き。

「セラエル・リリトリリ」
銀髪碧眼のスレンダーモデル美女。普通に常識人で普通のいい人だったが故に、アルクレリオールという狸たちの手で踊らされた挙句、幸せになった人。乙女ゲームでは悪役令嬢。

「エルカトラール・フォン・アルツトーリ」
赤茶髪に鳶色の目の穏やか美少年。攻略対象。感激屋でお人好しだが、物事を俯瞰してみることが出来る。アルクレリオールの企みに途中から気がつくものの、「自分たちのためになんてイイヤツなんだ」と感激していたため、言葉に出来ず。時期国王になった上に初恋の人と結ばれた。
継承権が低かった理由は、作中ではさらっと触れたが母親の身分が低いため。

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