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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

終末は週二日制。

作者:千条 悠里
※ゾンビ物です。苦手な方はご注意ください。
 階下から迫る無数の足音と呻き声に吐き気を感じながら、少年はひたすらに屋上を目指して階段を駆け上がっていた。疲労は既に限界まで蓄積されて、身体は悲鳴を上げている。
 だが、立ち止まる訳にはいかない。
 追跡者に捕まることは――死を意味するからだ。

「くそ、しつこいんだよ……ゾンビ共……!」

 ゲームや漫画、それから映画などで描かれる架空の存在でしかなかった生きる屍、ゾンビ。
 それはある日突然、少年を含めた全人類にとって悪夢の様な現実となった。
 創作の中と違うのは、超常的な力を持ったヒーローなんて現れず、人類は緩やかに滅亡への道を進んでいること。
 そして架空のお話と異なる、何よりも大きな相違点。それは――。

「――つ、着いた!」

 少年・新堂しんどう拓真たくまは、屋上への扉に辿り着く。
 本来なら観光の目玉として全国でも有名なタワー。その最上階にある大展望台。
 市民のジョギングコースなどにも利用されている階段には、少年を追ってきたゾンビ達が列を成している。

「終末の終わりまで――あと5分もあるのか、くそ!」

 腕時計に表示された時刻を確認して、拓真は悪態をつきながら前へと駆ける。
 駆ける勢いそのままに錆び付いた扉を開け放ち、すぐに閉じる。
 閉める直前、扉の隙間からゾンビの姿が垣間見えて、拓真は大慌てでその場から逃げ出す。
 どこにでもいる平凡な学生である彼には、迫るゾンビを素手で返り討ちにするなんて芸当はできない。
 故に、ひたすらに逃げるしかなかった――終末のタイムリミットを迎えるまで。

「残り3分……いや、2分……!」

 時計の示す秒数にまで気を払いながら、拓真は大展望台を駆ける。
 階段を駆け上がってきたゾンビ――だけではない。大展望台の中にも、所々に腐臭を漂わせる生きる屍達が獲物を探している。
 走っていては足音でこちらに気付かれることは理解していたが、それでも走り続けるしか生き残る術はなかった。

「1分……30秒……!」

 あともう間もなくで今回も終わりだ、と安堵することはできない。
 少年の背後では、亡者達の群れがすぐそこまで迫っている。
 振り返る余裕もなく、少年は生き残るために前へ、前へと突き進んでいく。
 しかしそれも、やがては限界を迎えた。
 少年の周囲には至る所に、損壊した肉体を物ともせず蠢くゾンビ達が集っている。
 大展望の内部に、最早逃げ場などどこにも残されていなかった。
 ――たったひとつの、無茶なやり方を除いて。

「15秒……10秒……! もう、行くしかない……!」

 少年は残りの時間を確認すると、覚悟を決めた。そうしなければ、待っているのは死だからだ。
 否、ゾンビに噛まれたら最後、人間として死ぬことすらできなくなる。
 生きる屍の一人として、誰かに終わらせてもらえるその日まで、生者を襲う亡者と成り果ててしまう。
 そのような末路を拒むのであれば、生き残るために決死の覚悟を決めるより他になかった。

「うおおおおおお! くそったれがああああああ!!」

 何の捻りもない罵声を叫びながら、拓真は――大展望台のひび割れた窓ガラスを突き破り、大空へと飛び出した。
 当然、空を飛べるはずもない一般人の少年の肉体は、重力に引かれて大地へと墜落していく。
 窓ガラスの破片で身を切られながら、拓真は両手両足を広げて少しでも空気抵抗を得ようと試みる。
 どう足掻いたところで、地面までの落下時間は大して変わらないだろうことは理解している。
 しかしその、一秒にも満たないであろう落下時間の誤差が生死を分けるのだから、やるしかない。

「間に合え……間に合えええええええ!」

 迫る地面。デジタル表示の腕時計が示す残り時間。
 少年の肉体が、額から地面に叩きつけられる――寸前。
 腕時計が午前6時を示すと共に、彼の存在は淡い光に包まれて、ゾンビの蔓延る終末世界から跡形もなく消失した。


  〇



「――――!!」

 自室のベッドから転げ落ちた新堂拓真は、我が身の無事を確かめようと身体のあちこちを触れていく。
 肉体の感触が確かにあることを実感した少年は、荒れる息を整えようとするが、死線を乗り越えるために限界まで張り詰めていた精神が平常に戻るには、中々に時間がかかりそうだった。

「いき、のこった……今回、も、なんとか……生き残ったぞ、くそったれ……!」

 なんとか人心地ついた少年は、乾ききった身体と心に潤いを与えようと、自室を出てリビングへと向かった。
 冷蔵庫からお茶のペットボトルと食料を掴み取ると、貪り食うように口へと放り込んでいく。
 終末世界での2日間は、ろくに飲み食いができない上に、生き延びる為に肉体を酷使しなければならない。
 元々はそれほど大食漢ではなかった新堂拓真も、生存した日の朝だけは腹がはち切れそうになるまで飲み食いしなければ気が済まなくなっていた。
 やがて、冷蔵庫の食料を食い尽くす勢いで食べ終えた拓真は、リビングの机の上に放置されたリモコンを操作して、テレビの電源を入れた。

「――本日のニュースです。我々人類が週末……つまり、土曜日の深夜0時から日曜日の早朝6時までの期間、未だ謎に包まれた終末世界に送り込まれるようになってから、今日でちょうど半年になります」

 世界が狂ってしまってからもうそんなに時間が過ぎてしまったのか、と拓真は唖然とする。
 毎週の週末を生き延びることに必死で、過ぎ去った日々を考える余裕なんて少年には残されていなかった。
 家族のいない――いなくなってしまった家の中、テレビに映るニュースキャスターの声に耳を傾ける。

「大勢の方々が犠牲となり、今も尚それは続いておりますが、未だこの怪奇現象の原因は特定されずにいます。
 また、終末世界から帰還した生存者の自殺も、留まることを知りません。そして我々の世界の秩序もまた乱れており――」

 多くの人間にとって休日であり、人生の楽しみな時間であった週末。
 それは半年前のある日、唐突に地獄へと変わった。
 金曜日から土曜日に変わる深夜0時。全ての人類は人種、身分、年齢に一切関係なく、一人残らず終末世界と名付けられた異世界へと送り込まれる。

 正確には異世界、と呼んでいいのかは分からない。多くの物品が錆び付き、水道も電気も機能しなくなって、ソンビが蔓延っているが――広がっている風景は、自分達の世界と同じなのだから。
 研究者による仮説には、「終末世界は、我々の未来の世界なのではないか」という説がある程だ。
 何百年も経過したかのように腐敗が進んではいるが、土曜日の深夜0時になる前に存在していた物が、終末世界でも同じ場所に置かれていることから「終末世界=未来の世界」という説は有力視されている。
 同じ場所に同じ物が存在しているのなら、食料や水を保管して週末世界に持ち込めるのではないかという試みも行われたが、成果は微妙なものとなっている。
 終末世界では電気が止まっているために冷蔵庫も機能せず、そもそも仮に正常に機能していたところで、推定でも数百年の時を超えてはいかなる食料も水も無事では済まない。

 銃器を初めとした武器の類も、そもそも拓真の住む日本では販売されておらず、終末世界の騒動が始まってからは各国で護身武器が奪い合うように多額で取引されている。
 政府の高官や軍人、警察官といった立場にいる者達ならともかく、ごく普通の一般人でしかない拓真には手の届かない代物だ。
 最も、実際に手に入れられたところで使いこなせる自信はなく、またソンビ達は銃声などの騒音を聞きつけて集結する性質を持っているため、銃器を使うと逆に危険かもしれない。

 格闘技も習得しておらず、頼れる銃器もなく、特別なヒーローでもない普通の少年。
 そんな拓真にとって、生き残る術はただひとつ。
 週末の2日間。終わってしまった世界を逃げて、逃げて、逃げ続けるしかなかった。

「……皆様、残された時間をどうか、大切にお過ごしください」

 ニュースキャスターの締め括りの言葉を聞き終えて、拓真はテレビの電源を消した。
 残された時間……それが後どれだけあるのかなんて、少年自身にも分からない。
 家族を失い、友人を失い、日常を失った拓真は、それでも生き残るために足掻いていた。

「俺は……生き抜いてみせる。このまま訳も分からず、終わってたまるか……!」

 研究者の説には、続きがある。
 終末世界が自分達の未来の世界であるならば、一体何時、ゾンビなんて存在が現れてしまったのか。
 それは数百年後なのかもしれないし、数十年後かもしれない。
 あるいは――もう数日も、残されていないのかもしれない。
 事態が収束する兆しなど未だ欠片もなく。
 人類はただ、いずれ訪れるであろう結末までの時間を、必死で生き足掻いていた。



 どこか遠くで、けたたましいサイレンの音が響いた。
 何かの事件を解決するために、パトカーが出動したのか。
 あるいは――ついに訪れてしまった終わりの始まりを告げる、終末の鐘の音なのかもしれない。

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