表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/19

ワンオフカード3

 二人はゲームセンターの出口まで来たところで足を止める。


「かなり面倒なことになりましたわね」

「そうだな」

「いっそのこと私たちで勝負を挑んではいけませんの?」


 それは大和も一度は考えた。相手が強者と戦うことを望んでいるだけならば、大和と千華がタッグを組んで勝負を挑むのは有効な手だろう。その代りにカードを返してくれと言えば、意外と返してもらえたかもしれない。しかし、澄の持っているカードで事情は変わった。

 澄が持っているのは、世界に一枚しかないワンオフカードなのだ。そしてそれは、元々は正人の物だった。それだけのことが分かっていれば、必然的に結論は出てくる。


「もう分かってるだろ? 相手の狙いは十中八九ワンオフカードだ」

「やっぱりそうなのですのね」

「ああ、じゃなきゃ倒せるはずの奴を倒さずに、自分の店に誘い込む理由は無い。その正人って人の思い出のカードを取ったのも、澄を焚き付ける為だろうな。だから俺達で勝負に挑んでも、受けてくれないだろうさ。それこそ別のワンオフカードでも賭けない限り」


 もし相手が最初からワンオフカードを狙って正人に勝負を吹っかけていたのだとしたら、正人の手にすでにワンオフカードが無い時点で、標的は正人から澄へと変わる。しかし澄の性格からすれば、いくら焚き付けてもアンティルールでの試合などしないだろう。そこで、兄の思い出のカードを奪い、そのカードとワンオフカードをアンティルールで互いに賭ける。そうすることで、澄からワンオフカードを奪う算段なのだと予想していた。


「けど一つ気になることもある。相手がタッグの試合を望んでるってことだ」


 澄からカードを奪うだけなら、澄と個人戦で試合をすればいい。そうすれば簡単にカードを奪うことが出来るはずなのである。しかし相手はそれをせず、あえて強い奴の介入できる隙を作った。その理由が分からない。

 強い奴から新たにカードを奪いたいのかとも考えたが、それでもワンオフカードを奪った方が、その後の勝率も格段に上がるはずなのだ。


「そうですわね……本当に強い方との戦いを望んでいるとか? 実際に実力はあるようですし」

「そんな奴がレアカード賭けて試合とかするか?」

「分かりませんわ。どちらにしろ、今は想像の範囲からは出ませんもの」

「それもそうだな」


 なんにしろ、相手がワンオフカードを狙っている可能性が高いのは事実だ。ここのゲームセンターじゃ割と有名な事だったようで、他のゲームセンターの奴がその情報を聞きつけても何もおかしくは無い。

 そしてワンオフカードを狙ってくる以上、澄が強くなければならないのも、また事実だ。


「とにかく明日から俺は澄を鍛える。せめてⅣレアぐらいには上げてから試合させないとな」

「ならわたくしも協力させていただきますわ。本当ならランキング二位である、わたくしがやらなければならない仕事ですもの」


 現状、ランキングから考えれば、ディメンジョンで一番強いのは千華ということになる。今日たまたま大和と試合して大和が勝利したために、澄は大和に声を掛けたが、もし大和がいなければ千華が声を掛けられていただろう。


「ああ、助かる」

「当然ですわ。ディメンジョンの女性プレイヤーは、わたくしが守りますもの!」


 オーホッホッホとお嬢様な笑いを発しながら、千華は近くに停めてあった車に乗り込む。その車もリムジンとどこまでもお嬢様だった。

 車が発進し、大和も帰ろうとしたところで、後ろから声が掛かる。


「あれ? まだここにいたのか?」


 その声の主は和馬だった。後ろには他の三人もいる。


「ああ、ちょっと千華と話してた。お前らはどうしたんだ? 試合してくんじゃなかったのか?」


 千華と話し込んでいたとはいえ、まだ十分程度しか経っていない。全員が試合をするのには無理がある時間だ。


「どうも人が増えてきちまってな。今日は諦めることにした」

「感覚的には、もうゴールデンウィークに入ってるからな。この時間から増えるのか」


 翌日が休みになると、ゲームセンターに来る人の数も増える。そうなれば必然的に競争率の高いWFは順番待ちが長くなってしまうのだ。いくら十六台設置してあるとはいえ、試合に時間がかかる分、回転率は遅いのだ。


「ならみんなで帰るか」

「だな」


 幸い、途中まではみんなが同じ道を使うと言うことで、全員で歩いて帰ることになった。


「そう言えばちょっとした疑問なんだが」


 千華と話していて、不意にディメンジョンに来たときの違和感を思い出した大和は、全員に尋ねる。


「なんかディメンジョンって、女性の率多くないか? 前いたところは、ほとんど男ばっかりだったんだけど」

「ああ、それは千華さんがいるからよ」


 答えたのは、いつの間にか大和の隣に移動してきた澄だ。


「千華さんがランキング二位っていう高順位にいるから、女性プレイヤーも気軽に参加できるようになってるのよ。千華さんも、女性プレイヤーのサポートとか良くしてくれてるし」

「あー、言ってたな。ディメンジョンの女性プレイヤーは私が守りますもの! って」


 話している中でも、意外と面倒見が良さそうだとは思っていた大和だが、そんなことまでしているとは思っていなかった。おかげで、千華の株価が大和の中で急上昇していく。


「まあ、千華さん女の子大好きだしね」


しかし、佳奈美の一言で、その株価は大暴落した。


「大好き程度で済めばいいんだけどな。何か百合って噂もあるぞ?」

「そ、そんなことはないと思うけど……」


 佳奈美の発言に、和馬も流れている噂を思い出し追撃する。澄はやんわりと否定していたが、その声に自信はうかがえない。


「みみみも最初のころは、よく声掛けてもらってたよね?」

「え? ええ、けど本当にそんな程度よ。ルールとかは理解してたから、教えてもらう必要も無かったし。もともと最初のころは兄の試合を見てる程度だったし」

「つまり毒牙には掛かってないと」

「あ、あたりまえでしょ! なにってるのよ!」

「だって大和先輩。みみみはまだ純潔ですぜ」

「あんたはもう黙ってなさい!」


 ニッシッシと笑みを浮かべる佳奈美に澄が襲い掛かる。素早く大和の後ろの回避した佳奈美は、大和を盾にしながらさらに澄の攻撃を躱す。

 自分の周りで追いかけっこを始めた二人に、大和は何をやってるんだかとあきれるしかなかった。

 しばらくして澄の体力が尽き、佳奈美の勝利で追いかけっこは終了する。


「お、覚えてなさいよ」

「さて、何のことか忘れちゃったなー。良かったら教えてくれなぃ?」

「この……」


 澄はとぼける佳奈美に拳を握るも、すでに体力は底を尽き、追いかけることは出来ない。その姿に、さすがに哀れに思えてきた大和が、佳奈美を諌める。


「佳奈美、その辺にしとけ。澄がキレるぞ」

「はーい。それより先輩、この後時間あります?」

「ん? まあ、家に帰って特訓メニュー考えるだけだが」

「なら今から敵情視察行きません?」


 佳奈美の言葉に、全員の頭に疑問符が浮かぶ。


「結局試合も出来なくて、早く帰ってきちゃいましたし。どうせなら、今からその正人さんのカードを奪った人たちのいるゲーセンに行きません? もしかしたら、相手の対戦が見られるかもしれませんよ?」

「ああ、それ良いな。こっちも人数は揃ってるんだし、俺も暇だし」


 和馬が佳奈美の意見に賛同する。理由がいささか不順だったが、大和もその意見はありかと考える。敵情視察はゲームセンターの雰囲気を知るためにも重要だし、もし対戦相手が試合をしている場面を見ることが出来れば、相手の戦術からこちらも何かしら対策なりを立てることが出来る。しかし、一つ不安があるとすれば、澄の存在だ。

 澄は一度向こうに行って顔がバレてしまっている。そうなると、ゲームセンターを訪れた時点で勝負を吹っかけられる可能性もあるのだ。拒否すれば済むだけの話なのだが、周囲がそれを許さない雰囲気を作る可能性もある。そうなると、この人数ではいささか不安だった。

 とりあえず澄の様子を伺おうと視線を向けると、目が合った。


「わ、私なら、大丈夫、よ。みんなが、良いなら、今から、でも、案内するけど?」

「どうですか大和先輩」

「うーん、まあ俺は構わないけど」

「なら決定ですね! みみみ案内よろしく」

「ちょっと、まって。休憩させて……」


 息も絶え絶えに、澄は休憩を要求した。その姿を見て、大和は澄の特訓メニューに体力増強を加えることを考えるのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ