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アゲイン
作:カトラス



12時間空の旅(6)


 あいかわらず、私のシートの液晶画面は青一色の太平洋と縦に一本、日付変更線が表示されているだけの退屈なものである。シカゴの空港までの距離は8000キロをきったぐらいの位置表示。ということは、私は3時間弱ほど寝ていたことになるのかな? とにかく、あと8時間ちょっとでシカゴにはつくみたいである。貴子はロンの事をバカにしながらもハリポタを夢中で見ている。私はさっきの夢のせいか、映画を観る気にならなかったので、貴子が持っていた電子辞書をいじってみることにした。とりあえず、今から行くシカゴっと。電子辞書によると、シカゴはアメリカで三番目の都市のようだ。イリノイ州にあってミシガン湖のほとりにある街。農業も工業も発達していて、アメリカにおいて水陸交通の要のようなところ、日本でいったら名古屋ってところなのだろうか?
ご丁寧にも漢字で書くと「市俄古」になると電子辞書は教えてくれた。結構、電子辞書って便利なものだなぁ。私がシカゴにもっているイメージはピザなのであるが、そんなことは全くもって書かれていない。
「あぁ、面白かった。祐ちゃん、何してるの?」
 どうやら、貴子が観ていたハリポタが終わったみたいであった。
「うん、今から行くシカゴをちょっと調べていたのさ、ところでシカゴのどこ観光するの? 行くとこ辞書で事前に調べてみるよ!」
「ハァハァーン?」
 私は嫌な予感がした。それと、この貴子の「ハァハァーン」は、字幕で映画を観た影響であろうか、さきほどまでのイントネーションと違い、よりやばい方向に向かっているように思える。そして、予感は見事なまでに的中した。
「シカゴで観光なんかせえへんでぇ。あそこは飛行機乗り換えるだけよ」
 私のほうこそ「HAHA−N?」である。飛行機乗り変えるって、いったいどこに連れていくのだよ貴子さんよぉ? まさかアラスカ行くとか言うんじゃないだろうな! 私はビビリながら聞いてみた。
「で……どこ目指すの?」
「花の都ニューヨークよ」
 花の都って、違うだろうよ、貴子さん。
「ニューヨークに行くのかぁ? だったら乗り換えなんて手間かけないで――直行便でいかないの?」
「予約がとれへんかったのよ。急に決まった旅行だから仕方ないでしょう。なんかぁ文句あるん?」
 そうだったのか! どうりで……あのお喋りな貴子がシカゴの話題をしてこなかったわけだ。
「祐ちゃん。そんなことより、シカゴで入国審査あるのだから、このガイドブック見て練習しといてよね」
「入国審査って簡単だろう! 新婚旅行でハワイ行ったときなんて、ほとんどスルー状態じゃなかったけぇ?」
「祐ちゃん、ハワイが特別なだけなのよ! アメリカ本土はハワイみたいにアロハでスルー出来るような甘い入国審査じゃないみたいよ。ましてや、9.11のテロ以降、入国に関してはピリピリしてるそうなのよ」
 そうなのかな? 私は半身半疑で貴子の話に耳をかたむけた。まぁ、用意周到にこした事は無い。
 私は貴子から旅行に関するガイドブックの本を受け取ると、早速、入国手続きのページをめくった。

 本によると、入国審査とは最初に着いた空港で行うとなっている。そのことを利用して審査の厳しい本土で審査をせずに、審査の比較的緩い、グアムやハワイでいったん乗り継ぎして、その際に入国審査を済ましてしまう日本人もいると書かれている。なるほど、まんざら貴子の言ってることもあたっているのかもなぁ。
 まず機内で出入国カードを記入するとなっている。これは、新婚旅行の時に一度書いたことがあるから問題無しだろう。空港についたら審査官に帰りの航空券と関税申告書を提示することになるので、事前に用意しておくこと。提示したら、簡単な質問がされるので、この問答集をみてはっきりとした英語で答えられるようにしておこうと書かれている。もはや、アロハだけでは到底無理なんだな。本には、アジアで唯一のビザ免除プログラムが適用されているので、まだ、中国や韓国の人に比べたら楽なので、臆することのないようにと【】で注釈されている。それと、2004年9月30日以降、指紋の採取とデジタルカメラでの人物撮影がビザ免除者でも義務化されていると書かれている。
 私は問答集に書かれている審査官との会話例に目を通した。そんなに難しいことは聞いてこないみたいなので安心した。
 What is the purpose of your visit?(旅行の目的は何ですか?)
 こう聞いてきたら、私はSightseeing(観光です)と答える。
 How long are you staying(どのくらい滞在しますか?)
 うーん? 旅行はどれくらいするのだろうか? 貴子に聞いてみた。
「何泊するの? この旅行は?」
「あなたの体調次第よ」
 そんな回答を聞きたいのじゃないって、貴子さんよぉ〜。そんなんじゃ、審査官に別室連行されるだろう。
「真面目に答えてくれよ」
「何怖い顔してるのよ、旅行行く前に言ったでしょう。聞いてない祐ちゃんが悪いのじゃないのよ! それに
実際問題、祐ちゃんの体調次第ってのも本当のことじゃないのよ!」
 貴子は少し顔を膨らませて、早口で言った。やばい、やばい。貴子のヒスが出たらややこしい事になるからなぁ。ここは一つ自重して素直に謝っておくのが得策だ。君子危うきに近寄らず。
「ごめん、ごめん。そんなつもりでいったんじゃないのだよ」
「じゃ、どんなつもりで言ったのよ」
「そう、イジメないでよ。貴ちゃん。まじで何日滞在するの?」
「一ヶ月よ」
 一ヶ月も旅行するのかよ。正直、体が持つのかどうか不安である。
「なんかぁ、言ったぁ?」
「嬉しいなぁ、一ヶ月も旅行できるのかぁ。めちゃくちゃ、俺嬉しいよ!」
「そうでしょ、いろんなとこ行くんだから」
 どうやら、危機的状況は回避できたみたいで、貴子のご機嫌は直った。
 と云う事は、「Oun mouth」(一ヶ月です)でいいのだな。
 What is your occupation?(あなたの職業は何ですか?)
 うん? 銀行員って英語で何て言うのだろう? 辞書で調べてみよう。そっかぁ、Bank clerkっていうのか、なんだかぁ、かっこいいじゃないか! I am a bank clerk(銀行員です)
 私は、その他2,3の質問の練習をした。よし、なんとかなるだろう。
 この時までは、入国審査を楽観視していたのだが……  

 つづく。







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