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アゲイン
作:カトラス



12時間空の旅(5)


 飛行機は太平洋海上を高度一万メートルを維持して優雅に飛んでいる。もし、機内に天窓があったなら、きっと満天のプラネタリウムのような星空を眺められるのに違いないと思う。そんな、少しロマンチックなことを考えていたら、突然激しい睡魔が襲いかかってきた。恐らく食後に飲んだ薬の為であろう。せっかく新作映画を見ようと思っていたが、やはり睡魔には勝てない自分がいる。
 貴子の様子を見ると、デザートのハーゲンダッツのアイスを美味しいそうにほおばりながら、音楽でも聴いているのか、簡易式ヘッドホンをして小声で歌詞らしきものを口ずさんでいた。
 
 私はリクライニングシートを最大限に倒すと寝る体勢に入った。
「祐ちゃん、寝るの?」
「うん。薬飲んだら眠たくなったよ」
 貴子は備え付けの毛布を体にかけてくれた。
「これも、使うといいよ」
 貴子は飛行機に乗る前に、免税店で買った安眠セットなるものをわたしてくれた。
 早速、私は安眠セットのアイマスクと耳栓をすると瞼を閉じた。
「おやすみなさい」
 貴子が、私のシートの照明を切るスイッチの音が聞こえた。
 すぐに、脱力感と共に眠気がおとずれる。そして、私はものの5分としないうちに眠りの世界に入った。
 
 私は夢を見た。
 夢の中では、今にも壊れそうな木造式のアパートから親子が出てきた。母親は道路に出ると、子供の手をつないで歩き出す。手をひかれている黒いランドセルを背負った子供は私であった。母さんの顔は少し強ばっているように見える。母さんは私の手を強く握り、ぐいぐいと私を引っ張って歩いていく。そうだ、この夢は、
父さんが肝臓ガンで死んでしまって、生活のために引越しをして――初めて転校先の学校に登校するところじゃないか! 場面が変わって、私と母さんは校長室にいる。母さんは校長先生に何度も頭を下げていた。
「学童保育に入れます。校長先生どうぞ、この子をよろしくお願いします」
 そうだ、この日から授業が終わると学童保育に預けられたんだ。校長室に若い女の人が入ってきた。
「祐介君の担任になる星野先生です」
 校長先生は女の人を母さんに紹介した。
 そうだ、そうだ、星野先生だ。夢の中で記憶が蘇る。いつも、優しく、私の面倒をよく見てくれた美人の星野先生。

 クラスのみんなが、私に注目している。教壇の前に立ってる私……なんだか、とても恥ずかしい。
「転校生の三浦祐介君です。みんな、仲良くしてあげてよ」
 星野先生がクラスメートに紹介してくれている。
「みんな、返事――」
「はーい。先生」
 でも、クラスメートの返事は嘘だったんだ。転校してからしばらくの間、みんなにいじめられたんだ。

 体育の授業だろうか? ドッジボールをクラスメートとしている私。相手側にボールが渡ると、みんなは私の顔面めがけてボールをなげてくる。私は必死に逃げ回る。でも、無情にもボールは私の顔を捉えている。
勢いよく後方に倒れこむ自分の姿が見える。みんながケラケラ笑っていた。
 たった一人の女の子を除いては……
「ええ加減にしときやぁ。祐介君かわいそうやろ」
 おさげ頭にクリクリした目をしたその女の子は、少し怖い顔をしてクラスメートに意見した。
 私にとっては、見覚えのある顔。みんなに意見してくれた女の子は、私の妻……貴子であった。
「転校生いじめて、何がおもしろいねん。祐介君も負けてたらあかんでぇ、やられたらやり返すんやぁ」
 確かに貴子の言う通りだと思うのだが、貴子はクラスメートに比べて一回りぐらい体が大きい。体格がいいのだ。それに比べて、私は痩せていて貧弱に見える。貴子が大根だったら、私はもやしみたいなのである。
それゆえに、クラスメートにいじめられていたのじゃないかと思っている。
 ボールが当てられたので外にでた私に、ボールがパスされた。さっき私にボールをあてた奴にリベンジするチャンスがおとずれた。私はクラスメートの一人に照準を合わせてボールをふりかぶった。そして投げようとした時、大地が揺れた。地震かと思った時、夢から覚めた。

 目覚めると、機内放送でシートベルトを締めてくださいとアナウンスされていた。どうやら、夢の中で地震だと思ったのは、飛行機が乱気流にもまれて少し揺れただけのようである。しかしながら、少々夢の続きが気になる。そのあと、どうなったのだろうか? クラスメートにボールを当てる事ができたのだろうか? うーん思い出せない。ただ、わかっている事は、あの日のドッチボールをきっかけに、貴子に知り合う事になったのと、クラスのみんなとそれ以降、急激にうちとけあう事ができたということだった。貴子に助けられたのだった。
「祐ちゃん。起きたんかぁ」
「うん」
「さっきの揺れで目覚めたんやなぁ。なんか、うなされていたみたいやけど、怖い夢でも見たんか?」
「怖い夢とちゃうけど、懐かしい小学校時代の夢みてたんや」
「そうかぁ、小学校時代の夢か、私、夢の中ででてきたの?」
「うん。でてきたよ」
「可愛かったやろ」
「うんうん。頼もしかったよ」
「頼もしかったぁ? いったいどんな夢みてんねん」
「まぁ、ええやん。ところで、貴子はなんで目に涙うかべてんの?」
 貴子の目は涙目になっていた。
「そやそや、祐ちゃん寝てる間、映画みてたんよ」
「何の映画観てたの?」
「ハリポタの不死鳥の騎士団」
「感動して泣いてるの?」
「違うよ。ロンがあまりにも、不細工な顔になっていたので、おもしろすぎて涙がでてきたの! 子役の時はおぼこい顔してたのに――よくもあそこまで変貌したものやわぁ」
 どうやら、聞いた私がバカだったようだ。とりあえず、ハリポタのロンさんよ、ごめんなさい。
 こんな妻を許してやってください。
「見て見て! 祐ちゃん。ほんまぁ、ロンの顔おもろいなぁ」
 貴子はそう言って、液晶の画面に写しだされているロンの顔を指差して笑っていた。
 ドリフのコントじゃないが、私の心はダメだこりゃである。







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