12時間空の旅(3)
機内は慌しく、客室乗務員が手際よく機内食を各座席に配り初めていた。さきほどまで静かな10席ほどしかないファストクラスの乗客も機内食が配られるとざわめきだしていた。私達の席にも客室乗務員がメインデッシュが盛られたプラスチックの皿を片手に持つと、シート前面にある収納式テーブルを引っ張りだして料理の盛った皿を笑顔でおいてくれた。高級レストランのフルコースのように一品ずつ料理をもってきてくれるわけではないが、それでも、料理は素晴らしい内容のものである。料理の横には、お品書きなるもの紙が置かれていて料理の詳しい名前が記載されている。
メインデッシュは舌を噛みそうなネーミングが書かれている。仔羊肉のソテー香草風味と仔羊肉のプロヴァンス風トマトソース和えコンビネーションミックス添えとなっている。貴子はお品書きを見て一言。
「なんのこっちゃ?」
メインデッシュの横にはサラダが上品に盛られている。大海老とトリュフの山海ミックス風サラダ。
貴子はさらに一言。
「なんでも、風ってつけたらいいものとちゃうでぇ!」
確かにメニューのネーミングに関しては貴子の言う通りのような気がする。ちなみにスープはミネストローネスープである。スープからは美味しそうな匂いと湯気がたちこめている。
「それじゃ。いたたぎましょうか」
「うん」
私達は手を合わせて合掌のポーズをとると、ビニールの袋に入ったフォークを手に取った。
さてと、どれから頂こうかなぁ。そういえば最近、食欲がわくなんて無かったような気がする。
私は、まずスープを口につけた。スープはいつ調理したのだろうと思うぐらい温かくて、口に入れたとたんマイルドなトマトの味が口いっぱいに広がり食欲をうながしてくれる。次にバスケットに入っているぶどうパンをちぎって口に入れた。まんべんなくパンに混じっている干しぶどうの甘みが良い、ひさびさに食事が美味しいと感じた。貴子の方はラム肉を口に入れていた。貴子はまるで、料理番組のタレントになったかのように、肉を噛みしめながら、うんうんと首を軽く上下に振っている。
「祐ちゃん。この肉、むちゃくちゃ軟らかくて美味しいわぁ、はよぉ、食べてみい」
私は貴子に促されるように仔羊肉にフォークをさして口に入れた。貴子の言ったように、肉は大変軟らかくて、ラム肉特有の臭みが無く、肉を噛んだとたんに肉汁が口内に広がり美味い。
「ほんまぁ、美味いなぁ!」
「でしょ、でしょ」
パンフレットに書かれている一流シェフが丹精込めて作りあげていますってのは伊達じゃなかった。
よし、次は山海サラダを食べてみよう。レタスを中心にした野菜の上部には白い粉チーズのようなものがふりかけられていて、中には黒っぽい固形のものが混ざっていた。サラダの周囲には食べやすいように、ボイルされた大海老がサラダを取り囲むように6匹盛られている。パンフレットの山海サラダ注釈には、最高級黒白トリュフのハーモ二ーをお楽しみくださいと書かれている。なるほど、この粉チーズのようなものが白トリュフで黒っぽい固形のものが黒トリュフなんだなぁ。うーん。世界三大珍味の一つトリュフって一体どんな味がするのだろうか? 私は、恥ずかしながらトリュフなるものを食したことが無かったので、食に対する探求心が巻き起こりワクワクしていた。でわでわ、白トリュフをいただきますか。
私はレタスごと白トリュフを食べてみた。
白トリュフの味は少しマイルドな酸味があって上品であった。早速貴子に感想を言ってみた。
「白トリュフ、むちゃくちゃ美味しいなぁ。なんて言うかぁ、このマイルドな酸味がたまらんわぁ」
貴子は少し返答を考えたのか間をあけて言った。
「ハァハーン、何言ってるの祐ちゃん! マイルドな酸味って! ハァハーン、それはサラダにかかってるドレッシングの味よ! トリュフってのは、ほとんど無味でせいぜいしてもナッツみたいな味なのよ」
ガーン。そうだったのか、しらんかった。しかし、貴子のやつは、どうして? 私が食べたことが無いトリュフの味を知っているのだろうか不思議である。よし、聞いてみよう。
「なんで? トリュフの味知ってるんだよう。そんなもの一緒に食べたこととかないだろう!」
貴子は即答であった。
「あぁ、あなたがいないときに、近所の主婦仲間なんかと、ランチなんかに一緒に行って食べたことが何度もあるのよ! ハァハーン」
ガーン、ガーンである。私は非常にショックであった。聞くんじゃなかったとも思う。しかも、ランチだとぉ、私が少ない小遣いでマイホーム購入のために、昼飯を、今日は牛丼にしようか、100円マックで安くあげようかとやりくりしているのに、貴子ときたら……正直頭にくる。さらに、なんだ、このハァハーンと言う、人を小バカにしたような言い草は……それに、俺は外人じゃないし……
「どうしたのよ? 何ぃ、むくれているのよ」
「別にぃ、ちょっと考えごとしてただけだよ」
私はやけになって大海老だけを残して、一気に白黒トリュフのサラダを平らげた。
それを見て、貴子は言った。
「もっと、味わって食べなさい。めったに祐ちゃんはトリュフなんか食べられないのだから……」
やはり、この女、いや私の妻貴子は只者では無い。私を傷つけたことなど、全く知る良しもないのだった。
しかし、貴子の言動は今に始まったことじゃないし、いちいち気にしていたらきりが無いので、私は忘れる事にした。さぁ、気をとりなおして食事を楽しもうじゃないか! その4に続く。 |