のんびり行こうよ?(6/14)縦書き表示RDF


ゆすらに想いを寄せる翡翠は、ついに、彼女に告白!
しかし…
のんびり行こうよ?
作:維月十夜



戀蕾―こいつぼみ―


「とりあえず、ゴハンよゴハン!おいで翡翠っ」
ぱちん、と妄想が弾けると同時に引っ張られ、翡翠は転んだ。
「ってて…腹が減っては戦はできん、て言うしな」
腰をさすりながら言う彼を、ゆすらはねめつける。
「なに言ってんだか、はい、ゴハン」
「おう、あんがと」
ゆすらは、なにかイヤな予感を感じつつも、味噌汁をすすった。
(戦って、こいつ…なんかするつもりかしら?)
「おかーり」(おかわり、と言っている)
そう言って茶碗を差しだす翡翠。
「おかわりって、もう?」
同じに食べ始めたのに、翡翠の皿は、すべてがからになっていた。
「お前が遅すぎンだよ、食べないンなら、俺が食うぞ?」
「あたしはこれが普通なのっ、ほら」
「おう」
おかわりしたご飯を、かき込む翡翠に、ゆすらは一筋、溜息をついた。
(なにか、するつもりじゃ、ないでしょーね?)

 台所を片付けながら、ゆすらは翡翠の方を見ていた。
さっきはなにか、不穏な物を感じたが、今はというと。
そんな様子は、微塵みじんも感じられない。
くわえタバコで、テレビに集中している。
どうだ、この馴染みようは!
まぁ、このご時世…人に化けて、生活をしている妖怪は数多い。
あたしの知っている妖怪は、殆どその部類にはいるだろう。
「お、ゆすら…ご苦労さん。ほれ、コーヒー」
翡翠が、さっき自分が飲みかけていたコーヒーを、渡してくれた。
「あ、ありがとう…」
温かい…。
気を、つかってくれたようだ。
「どーいたまして」
にっこりと笑いかけてくる翡翠に、自分は不覚にも、赤面してしまった。
どうもコイツには…いつも負ける。

 「ふあー、眠ィ」
欠伸をしながら台所へ行く彼に、ゆすらは慌てて釘をさす。
「翡翠、眠いからって、ヘンな場所で寝ないでよ?この前なんて廊下で寝てて、踏んづけちゃったんだから」
尻尾を踏みつぶされた、猫のような声を上げた割には、無傷だったらしい。
「ああ、ちゃあんと寝るさ…自分の部屋で」
「よろしい。じゃ、おやすみ」
(間があいたぞ、なんだ…今の間は!)
ちら、と横目で翡翠をぬすみ見る。
昼間のこともあり、一応、警戒しているのだ。
「ん…」
そんなことには、全く気づいたふうもなく、彼は、欠伸をしながら元の、黄兎の姿に戻った。
っていうか、かなり邪魔なんですけど…。
「んだよ、どしたい?寝ないんかよ」
じ――‐‐‐っと見あげる翡翠に、ゆすらは慌てた。
気配は消していたはず。なのに気づかれるとは!
「なっ、別に…言われなくても、もう寝るわよっ」
「なぁ、なんで、怒ってるんだ?」
背中を向けていたゆすらは、ぴたりと動きを止めた。
ここからでは、表情を見ることはできない。
できない、が、その声で彼が、困りきっているのが分かった。
「いきなり、そんなのって…ないじゃない。キス、初めてだったのに」
翡翠の方に向き直った、ゆすらの顔は真っ赤だった。
「…それが、なにか問題なのか?」
(は?って、アンタ…どこまでデリカシー0なのよ)
眩暈めまいを感じたゆすらは、額を強くおさえた。
「昼間のことは、悪かったと思う…謝る。けど俺、お前がいいんだ。一緒にいると、ここが、あったかくなる」
翡翠は、そっと胸に手を当てて、呟くように言った。
そんな翡翠に、ゆすらは、くらく笑う。
「あたしには、近づかない方がいいわ…あたしの傍にいたら、必ず、後悔する」
「なっ、なんでだよ!しねえよ、後悔なんてっ」
「もうおやすみ、翡翠…」
ゆすらは、屈んで、翡翠の頭を撫でて言った。
「ゆ…すら?」
翡翠は、凍ったように、その場から動くことができなかった。
彼女が、もう全てを諦めているような、それでいて、なにかを思い詰めたような顔をしたからだ。

 「気持ちだけ、もらっとくね?」
自室の障子を閉めて、ゆすらは、ぽつりと呟いたのだった。















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