のんびり行こうよ?(2/14)縦書き表示RDF


口の悪い、でも可愛いウサギ妖怪・翡翠に逢い続けるゆすら。
しかし、二人に別れの時が来た。

のんびり行こうよ?
作:維月十夜



さよならから…


次の夜も、ゆすらは一人、ホテルを抜け出して森に来ていた。
「え――――‐‐‐と、あ…いたいた、ウサちゃん」
ゆすらは、木の根本に座る彼を見つけると、頭を撫でた。
「おう、ゆすら…ふあぁ、なんか、持ってきてくれたか?」
昨夜に比べて、かなり縮んだ彼を抱き上げて、ゆすらは尋ねた。
「なんか、サイズダウンしたね、どうしたの?ウサちゃん」
「うっ、ウサちゃん言うなっ、ちゃんと名がある!」
彼は、ゆすらの腕から脱出すると、足を鳴らした。
「名前?そう言えば…知らなかったわね」
「ったく、オレの名は翡翠ひすいだ、ヒ・ス・イ、もうウサちゃん言うンじゃねぇっ」
翡翠は、後ろ足で頭を掻きながら、めんどくさそうに言った。
「今のサイズのままなら、可愛いのにねぇ」
「はー…それだが、今日は月が出てないだろう、こういう夜は、妖力が半減しちまうんだよ」
「ふうん、月華げっかを吸ってるんだね」
月華とは、月の光のことだ。
月はすべてに、なにかしら強い影響を与えると言われている。
「ああ。なあ、ゆすら…お前は、旅行者なんだろ?」
「ええ」
「いつまで、ここに来れるんだ?どこから来たんだ?」
小兎の、緑青の瞳が、不安げに揺れた。
「たぶん、今日が最後、明日の朝の便で、日本に帰るわ」
「それまで、ここにいるんだよな?」
翡翠は、寂しそうに、ぺしゃりと両耳を下げた。
「うん」
「いいモン見せてやるっ、ついてこいよ」
「え、あのちょっと、翡翠っ?」
翡翠は、走り出す、ゆすらも後を追った。

 森の中を、ひたすら走り、藪を掻き分け、川を渡って、景色が一望できる高台に登った。
辺りはまだ暗く、遠くに、街の夜景が星くずのように、明滅している。
ゆすらは、翡翠を抱きあげる、すると、翡翠はゆすらに顔を寄せてきた。
「翡翠?」
「寒いか?もうすぐ夜明けだ、待ってろ」
「う、うん」
そうするうちに、いつの間にかネオンが消え、空が白み始めた。
「見てろ、明けるぞ」
「うわ…すご、い」
朝焼けが、赤く、世界を染めていく…
生まれたての、柔らかな風が、二人を優しく撫でた。
「だろ?俺な、この瞬間が、一番好きなんだ」
「ありがと、翡翠…いい子ね」
ゆすらに撫でられた翡翠は、気持ちよさそうに、目を細めた。
「照れるぜ…」
「お別れだね、翡翠…短かかったけど、元気でね」
翡翠の茶色い毛皮を、ゆすらの涙がぬらす。
「おいおい、別れってのは、笑ってするもんだぜ?泣くんじゃねー」
翡翠は、ぺろり、とゆすらの頬を舐めた。
「そだね、そうだね…」
ゆすらは、涙を拭いて、翡翠を降ろしてやった。
「行け、もう振りむくなよ?」
「う、うん!」
去っていく、ゆすらの背中を、翡翠は、いつまでも見送っていたのだった。
そうして、ゆすらの中国旅行は、静かに幕を閉じた。
…ように見えた。















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