のんびり行こうよ?(12/14)縦書き表示RDF


恋人・翡翠と引き離されたゆすらは、強敵・朱明の術中に陥っていた。
霊感少女で、始末人の神崎ゆすらと、態度がでかくて、口の悪いウサギ妖怪・翡翠の珍道中(ラブコメ風味)。
のんびり行こうよ?
作:維月十夜



幻惑


どこまでも、見わたす限りの黒い世界。
ゆすらは、一条の光も届かない、闇の中にいた。
「ここは、どこ?」
問いかける声は、響きもせずに、くるりと虚空が吸い込んだ。
「翡翠…」
ぽつり、と呟いて座り込んだゆすらは、急に人の声をとらえて、慌てて立ちあがった。
「声が…!」
しかし、ゆすらは、その目を大きく剥くことになる。
「ねえほら、見てよ…来たわよ、例の『霊感少女』気味悪〜い」
「あの人って、気さくだけどさ…なんか暗いよね」
「そうそう、なんていうか…あれ、近寄りがたいってヤツ?」
「そういえば、あの人…天涯孤独らしいよ?」
「うそ、マジぃ?それ」
「うん、らしいね…友達が同じサークルでさぁ」
ゆすらの前に現れた人影は、大学のクラスメートである、数名の女子だった。
ああ、そうだった…。
急速に、ゆすらの表情が、かげっていく。
陰口。
冷たい視線。
やはり、自分たちとは違う者を、人間は攻撃・および隔離する。
そんなもの、もうとっくに慣れたはずなのに。
なのに。
凍えてしまいそうだ。
次第に、声同士が重なり合い、よく聞き取れないノイズとなって、ゆすらに迫る。
怖れ。
不安。
好奇心。
妬み。
嫌悪。
さまざまな念が、黒い炎となって、彼女をあぶり出した。
無数の目が、ゆすらを見る。
ゆすらは、走り出した。

 走っても、いくら走っても途切れることのない、永劫の闇。
転んで、つまづいても。
立ち止まっているヒマはない。
無数の目は、ざわざわとノイズを伴って、追いかけてくる。
もう、逃げられない。
彼女が足を止めた瞬間。
目の前の足場が、突然に消えた。
「…ああっ!!」
落下していく体。
どこまでも果てなくちて。
このまま、終点に叩きつけられるのか。
きつく目を閉じた刹那、彼女の背中は、固い地面の感触をとらえていた。
一つ、瞠目をする。
闇に慣れた目が、そこに、見慣れた人影を映した。
目の前に、翡翠がいたのだ。
彼女の表情が、嬉しさに染まった。
「翡翠!来てくれたのね、よかったぁ…早く、うちに帰り」
ゆすらの言葉が、そこで途切れた。
抱き締めるゆすらを押し返すと、翡翠は背中を向けたのだ。
「ひ、すい?」
「触るな人間!」
冷たく、殺気のこもった彼の双眸そうぼうに、ゆすらは凍りついた。
「冗談よね?翡翠…お願い、こっちを向いて」
しがみついた彼女の頬に、一条の傷が生まれ、鮮血が飛び散った。
「そんな…翡翠!」
叫ぶゆすらを、ちらりともせずに、翡翠は抱きついてきた、別の女の背中に腕を回す。
「いいのかい?翡翠、あんたを呼んでいるようだけど」
女が、三日月形に目を歪ませて、ニィ、と笑った。
「別に。あれは人間の女。俺を置いて、遠からず去ってしまうものだ…。俺はそんなものより、同族のお前の方がいい」
「そうかい、やっと、わかってくれたんだねぇ」
憮然と言った翡翠に、女は華やいだ声で応える。
今までなら、自分が、翡翠の腕の中にいたはずなのに…。
その女の、勝ち誇ったような笑みは、ゆすらの自信を叩き割るのに充分な威力を持っていた。
「どうして?」
ぽつり、と言ったゆすらに、女・朱明しゅみんは、ケタケタといやらしくわらう。
「どうして、だって?アンタ、自分をよく見てみな。血まみれじゃないか。あぁ…おぞましい。その手で、いくつ命を狩ったんだい?翡翠はねぇ、そんなお前の正体に嫌気がさしたんだよ。そんなことも判らないのかい、このケダモノが!」
ゆすらは、戦慄せんりつした。
清潔だったはずの服は、黒く血に染まり、両手は勿論、頭から足のつま先まで、血で濡れていたのだから。
「ああ…そんな、翡翠」
涙の溜まったゆすらの瞳は、翡翠だけを見ていた。
どうして。
ドウシテ、ミンナ、アタシヲヒトリニスルノ?
新たに、涙の盛りあがったゆすらの視界の端で、一際、濃い闇が膨らんだ。
「さぁ…お前たち、目の前にいるのは、お前たちをそんな目にわせた女だよ。存分に、いたぶっておやり」
ゆすらは、妖艶にわらった朱明から、必死に後じさる。
「翡翠、翡翠!行かないでっ、あたしを独りにしないで!?」
声を限りに叫ぶ彼女に、闇が、覆い被さってきた。
肉が食いちぎられて。
あかい、赤い血がしぶく。
鋭い牙に、爪に腹を裂かれ。
内臓が引きずられて、咀嚼そしゃくされる。
悲鳴を、あげる間もなかった。
「‐‐―――――‐‐っ!?」
ゆすらは、永劫えいごうの闇の中で、声にならない断末魔を上げ続けた。


こんばんわ、維月です。
『のんびり行こうよ?』の11部のお届けにまいりました。
翡翠とゆすら、ただ今引き離されてます…。(汗)
ええと、朱明、彼女はどうしましょうか…。
妖艶な彼女は、かなりしたたかな女ですよ。
わが子達の中でも、かなり濃いキャラですね。
翡翠と、ゆすらのラブコメディー、これからももしよければこの先もおつきあいくださいますよう、お願い申し上げます。それでは、ごゆるりと、ご賞味くださいな♪











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