ありがとう、さようなら
僕の小さな世界は突然に崩壊した。
原因は父さんの転勤だった。場所は東京らしいから、きっと新幹線でも戻って来れない。
姉さんはとても悲しんでいた。どうやら父さんに色々と抗議したみたいだけど、母さんに説得されて、残りの毎日をただただ泣いて過ごしている。
でも僕はそうでもなかった。仲の良い友達と別れるのは、それは辛い事だけど、嫌いな奴だって結構居るし、第一いつまでも一緒って訳がないじゃないか。いずれはみんな別々の学校に進学して、昔は仲が良かった、前の学校のクラスメイト、って感じで過去形の存在にされるんだ。
だから僕は最後の一ヶ月を、転校が決まる前と何も変わらないようにすごした。クラスのみんなには転校の事も、こっちに居られるのもあと一ヶ月であることも言ってあった。
最初はみんな悲しんだり、引き止めようとしてくれてたけど、それは一週間も経たないうちになくなっていった。やっぱりこんなもんだ。
そうやって一ヶ月もあっという間に過ぎ去って、学校の終業式は訪れた。
校長先生の長い話も、生活指導の休日の過ごし方指導も、生徒には関係がなく、本当に興味があるのはこれから担任が配る通信簿と、その後に待っている長い休みだけだ。それ以外にはきっと興味がないと思う。
クラスの教室に戻って、この学区での最後のイベント、通信簿を配る作業は教室内の温度をやっぱり上げ下げした。
僕の成績は……まあどうでもいいや。もうこの学校にくる事も無いし。
そんな感じで、何事もなく最後のホームルームを過ごした。
これで終わりか。それ以外なんとも思わなかった。
先生が最後の起立の挨拶を促し、
「それでは皆さん、休みの間も勉強を怠らず、適度に遊んで、適度に休んで下さいね。では、起立!」
皆が立つため机の軋む音が教室内に広がり、
「さようなら!」
さあ家に帰って引っ越しの準備をするか。そう思って鞄の紐を手で握った時、周りのみんながそのまま着席したことに僕は気が付いた。
あまり広いとはいえない教室、30人いるクラスメイトが居る中で、僕だけが一人立っていた。
どうしたのか解らず混乱していると先生が、
「これで学校はもう終わりです。でもまだ終わりません。ゴトウ君、前まで来て下さい」
僕は戸惑いながらも先生に言われるがまま黒板の前まで行き、教卓の横に立たされた。
「ゴトウ君はもう学校に来る事は出来ません。皆さん言いたい事は何かありませんか?」
僕は恥かしかった。嫌な気分だった。こんな事急に言ったって、誰も答えなんてくれる訳がないじゃないか。そう思って、先生を恨んだ。
そうしたら、一人の生徒が突然立ち上がった。よく見たら僕の一番嫌いな、いっつも威張っていて、不良ぶっていて、騒がしいイシガキだった。
「えっと、転校は残念だけどさ、まあ何かあったらさ、戻って来いよな! そしたらさ、俺が……おっ俺……!」
イシガキはうつむきながら、周りも気にせず泣いていた。
僕は驚き、周りのクラスメイトを見回すと、男子も女子もみんながすすり泣いていた。
なんだよこれ、どうしてみんな泣いているんだよ。この一ヶ月、普通だったじゃないか!
そして僕の一番の親友、ショウタが席を立ち、僕の目の前まで歩いてきた。泣きながら、手には何かを持っている。
「こ、これな、クラスのみんなで作ったアルバムな……んっだっよ。みんなのさ、住所とか電話番号とか思い……でとか、書いてあるから……。これがあればみんなと連……らっく……うっ、うぇっ……」
ショウタも、みんなも、ずるいじゃないか! こんなの反則だ! せっかく、せっかくここまで我……ま……ん――
「ぼ、僕は、転校なんて、し、したく……ないよぉ!」
涙が止まらなかった。何度も何度も部屋で泣いてきたのに。みんなの事忘れようとしてきたのに。頑張って、頑張って涙を止めようとしたんだけど、それでも頬をつたって涙が零れ続けた。
結局、僕も姉さんと共に引っ越しについて父さんへ抗議をしたけど、やっぱり駄目だった。
僕は転校して新しい世界を作らなければいけなくなって、それは結構大変だった。でも僕は頑張る事が出来る。
道が繋がっていたから。僕の小さな世界は崩壊してしまったけど、もう戻れない所じゃないから。
今、僕には多くの友達がいる。それは二つの世界の友達――
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