日常に潜む嘘……?
魔術師の少年は言う。
「俺は、好きで魔術師になったわけじゃない。仕方なく、魔術を学んでやってるんだ」
魔法使いの少女は言う。
「私は、魔法使いに生まれてよかったと思ってるよ。毎日、色んなことを学べて楽しいもの」
とある学園の、中庭での光景である。
それぞれ、魔術師と魔法使い、異なる能力を持って生まれた若き少年少女は、毎日行動を共にしていた。
恋人というには冷めているし、親友というのもまた違う。二人の関係は、周囲が決められるほど単純なものではなかったし、彼らもお互いの関係にラベルを付けたりはしなかったけれど、会話中にこぼれる言葉は本物だった。
少年は嫌々魔術師をしている。一方 、魔法使いの少女は、生き生きした表情で自分の立場を語った。
そんな、刺激もなく退屈で、かつ、安定した毎日が卒業まで続くと思っていたのに、最終学年になった年、魔法使いの少女は理由も告げず学園を去った。
置いてきぼりを食らったように感じた魔術師の少年は、その時初めて、自分 素直な気持ちに気付いた。
「俺は、何だかんだ文句を言いつつも、魔術師でいる自分が好きだった……」
彼女にグチをこぼし、 甘えていただけだったのだ。
――数日後。 少年は、魔法使いの彼女が学園を辞めた理由を知った。
理事長から聞かされた話であ る。
「彼女は、あなたといることで、自分の気持ちに正直になれたのだと言っていました。本当は、魔法使いとしての自分に疑問を持っていたのだそうですよ。
今、彼女は、魔法使いではなく、普通の人として生きるべく、異世界・地球に旅立ちました」
「そんな……」
思いもよらない話に、少年は立ち尽くすしかなかった。
“彼女は、俺に気を遣って、本当のことが言えなかった んだ……!”
嘘つきだった自分が、彼女を正直者にした。少年は、それを痛いほど思い知らされたのだった。
これからは自分に嘘をつかない。そう誓って……。
《完》
2025.7.14誤植など、一部修正しました。




