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先生が見つけた虹の色

作者:なつ
 先の先の未来の、遠いような近いような場所の、そんな感じの過去の誰も知らない世界。
 その世界の端っこにある小さい村の端っこの端っこ。

 黒と緑に彩られた森の奥深くに私達より少しだけ長生きで、私達とは大きく違っている不思議な人、つまり魔女が隠れ住んでいる――らしい ?

* * *

「先生さようなら」
「さようなら先生。また明日」
「はい、さようなら。明日も元気に勉強しましょうね」

 沢山の子供たちがすれ違うたびに、カイルに別れの挨拶をしていきます。彼は、その溌剌とした声を聞くたびに明日も明後日も、その先も、この子達が元気に学校に来てくれます様にと心の中で祈るのです。

 カイルは、村の小さな学校の先生。学校と言っても勉強を教える先生はカイル唯一人。
 小さな小さな学校。でも子供たちは先生の事が大きく大きく大好き。

「さぁて、明日の準備でもしましょうか」

 子供達を見送り教室に戻ろうと、くるりと後ろを向き歩き出しました。
 彼の頭の中は明日の授業の事でいっぱいです。
 だから気付く事が出来なかったのです。

 背後の森の奥から黒い何かが、じっと様子を伺っていた事に。

 これから恐ろしい何かが始まろうとしていた事に………。


* * *

「もがっ ! もがっ ! 」

 歩いている所を行き成り襲われ、気を失ったカイルが目を覚ますと、そこは薬草と花の匂いがする小屋の中。
 彼は、その冷たい石の上に転がされていたのです。手も足も縄で縛られ、口は布で塞がれて居ます。

――――いったい何がどうしたって言うんだっ ! ? 誰か説明してくれっ ! !

 混乱するカイルの耳に、ふと楽しそうな鼻歌が聞こえてきました。

「ふんふんふん~ん」

 縛られた身体をずらし顔を上げると、石やレンガを積み上げた暖炉に大きな大きな鍋が掛けられ、それをまるで船を漕ぐオールの様なヘラで掻き混ぜている人が居ます。

――――魔女……… ? 。

 カイルは鼻歌を歌うその人を見て、驚きました。
 フード付きのズルズルした服を着るその人の髪が、目の覚めるような黄金色だったからです。カイルは、そんな髪の色を見るのは初めて。村にも、町にも、一人もいません。

 小鳥が元気に羽ばたき、歌う日の朝日を、ぎゅっと集めた色。
 自分の黒い髪とは全く違う色。
 なんて美しい色。
 カイルは今の状況も忘れ、輝く光に見ほれ思わず呟きました。

「ももが………(光ってる)」
「あ、気が付いたか」

 大鍋を掻き回しながら魔女が振り返ると、その顔を見てまた吃驚。
 此方を見る目の色が紫だったから。
 宝石の様な透き通った紫色の瞳――そうだあれです ! 。この間、トトリ小父さんの雑貨店で買ったスミレの飴。あれと同じ色です。
 カイルの頭の中に、スミレの飴の優しく仄かに香る春の味が蘇りました。

 自分達とは違う朝日色の髪。自分達は持っていないスミレ色の瞳。
 自分達とは全く違う――――、やっぱり魔女 ! 。
 でも、恐いとか気持ち悪いとかいう気持ちは湧いてきません。

 懐かしい……… ?
 そう、何故か懐かしいのです。一度も会った事など無い筈なのに。

 カイルは何だか魔女と話してみたくなりました。軋む間接の痛みを堪え、後ろ手で縛られていた手を前に回し、口の猿轡を剥ぎ取ると、恐る恐る問い掛けます。

「わ、私をいったい如何するつもりですか ? 」
「ん 。どうするって ? お前はスープになるんだよ」
「スープ ? ! まさか私をその大鍋の中に入れる気ですか ? 」
「うん、そう。お前はスープ。そしてメインディシュは――――あちらだ」

 驚くカイルに魔女は入り口のドアを開き外を指差します、そこには丸々とした牛が一頭繋がれていました。

「モォォーーー」
「私がメインではないのか………」

 牛に負けたカイルが変な所で落ち込み、心なしか弱々しい声で訴えます。

「魔女よ、ちょっと話し合いましょう」
「誰が魔女だっ ! 私は男だぞっ ! 」

 手に持っていたヘラで頭を強かに叩かれました。本気で叩いたわけでは無いでしょうが堅い木で出来た大ヘラです。痛くないわけがありません。

「いたっ ! 痛いですっ ! って男っ ? ! 男なのですかっ ? じゃぁ、貴方は………魔男 ? 」
「馬鹿者っ ! 『まおとこ』とは何だっ ! 魔法使い様と言えっ ! 」

 さっきよりも強く叩かれ目から火花が散りました。魔女、もとい。魔男、もとい。………魔法使いは、かなり短気なようです。

「まったく何が魔女だ。まぁ、私が余りにも美しいから間違うのも仕方が無いんだけどなっ ! なーー、鏡さん ? 」

 浮かれた口調の魔法使いは足取りも軽く、壁に掛けられた子供の身長くらいはある大鏡に向かって問い掛けました。

「随分大きな鏡ですね」
「この鏡は『真実の鏡』。その名の通り本当の事を映してくれる。ちなみに国宝」
「国宝ですか ? ! 」

 どうしてこんな所に国宝の鏡が有るのでしょうか ?
 思わず疑うカイルに魔法使いはムキになります。

「本当だぞ ? 私は凄いんだから嘘なんか付かないんだ ! いいか、よーーく見ていろよ ! 」

 くるりと鏡に向き直り、優しい声で囁きます。

「鏡よ、鏡よ、鏡さん。世界で一番美しいのは、だぁあれ ? 」
すると鏡の表面が静かに波打ち波紋が大きく広がると、誰かの人影が浮かび上がります。

『それは北の城のお姫様です』

「 ! ! 」 
「おおーー ! 」

 映し出された美しい女性にカイルは思わず鏡の中を覗きこみ、歓声を上げます。それほど美しい人でした。
 でも、納得していない人が此処に一人。明らかにイライラしています。だって肩が震えてる。

「………………じゃぁ、二番目は ? 」

 魔法使いが震える声で聞きます。その問いに鏡は無機質な声で厳かに答えました。

『二番目に美しいのは、南の国の皇女様です」

「ぶっこわしてやるっっ~~っっ ! ! 」

 鏡が最後まで言い終わる前に怒った魔法使いが何処から出したか、金槌を持って振り回し始めました。

「馬鹿者ッ! 私が一番美しいに決まっている ! お前なんか壊してやるっ ! 割ってやるっ ! 」
「わぁ ! ! 待って、待って ! 国宝なんでしょ ? ! 壊しては駄目です ! 」

 カイルは縛られている手首と足を庇いながら、暴れる魔法使いを抑えます。彼の手や肘が当たって痛かったけれど、頑張って耐えました。もし、この鏡が本物の国宝だったら大変ですから。

「ねぇ、鏡さん。良く見てみて下さい。この人、魔男ですけど美しいでしょう ? 三番目位には入っているんじゃないですか ? 」

『入ってない。どっこにも』
「ど、どうして ? 」

 不思議です。
 この魔法使いは男ですがカイルが思わず見入ってしまう程、美しい顔をしています。三番目か四番目には絶対入っていると思ったのです。カイル自信、納得できません。ですからその理由を聞く事にしました。その間も怒りに歯を剥く魔法使いを押さえるのは忘れません。

「それはどうしてですか ? 」

『だって馬鹿なんだもん。知性が無いよね。まるで無いよね』

 普通なら言い辛い言葉を淀み無く鏡はキッパリ言い切りました。何故か段々、鏡の口調が崩れて来ている様な気がするのは気のせいでしょうか ?

―――― ぶち。

 最悪の言葉に魔法使いの堪忍袋の緒が切れました。唯でさえ気が短い怒りん坊です。そんな事を言われたら暴れるに決まっています。カイルが止めに入る間もありませんでした。
「あ」っと、思った時には後の祭り。
魔法使いが近くにあった椅子を振り上げ、鏡に向かって――――・・・

――――――ガッシァァンッ ! !

 空に鏡の破片が飛び散り、日の光を受けてキラキラ。魔法使いの瞳に移りこみ、そこでまたキラキラ。部屋中キラキラ。キラキラ。
 粉々になった鏡・・・・。太陽の光を反射して床に転がり、もう言葉を紡ぐ事はありません。その物言わぬ鏡の破片の中で魔法使いが、どんよりと膝を抱えてしゃがみ込んでいます。彼の丸まった背中を見て何だかカイルは彼が可哀想になって来ました。

「あぁ、そんなに落ち込まないで下さい」
「………」

 彼は怒っています。悔しいのです。でも、それ以上にとても悲しいのです。
 魔法使いが唯一自慢出来る事、それは自身の美しさだったから………。

「どうせ私は馬鹿だ。字だって読めないし、書けないし・・・・」

 うじうじと、魔法使いが言います。さっきまでの勢いはもうありません。

「え ? 字が書けないのですか ? 魔法使いには、魔道書が必要不可欠だと思うのだけど、薬の調合とかは、どうするのですか ? 」
「そんなの皆、頭に入ってる。もし、書いた文書が誰かに盗まれたりしたら大変だろうが」

 魔法使いの頭の中には無数にある花、草、木、それらから作られる沢山の薬。その薬を使って行なう難しい魔法。全てが入っているのだと言います。
凄い事です。決して馬鹿などではありません。

「ただ字が書けない」
「ではあれは誰が書いたものですか ? ほら、あちらにも。あぁ、こっちにも」

 気をつけて周りを見回してみると、部屋の中にある沢山の物に字が書かれています。
 さっきまで持っていた大きなヘラ。
 机の上のゴブレット。
 手作りらしい額縁。
 一つの物に一つ、字が書いてあります。

「私が書いたんだ。自分の名前だけは書けるんだ」

 「ほらな」と、白いマイマイ石で床に『にじ』と書きました。その字は不恰好で、とてもでは無いけれど綺麗とは言えない形です。ですがカイルは学校の先生ですから、その字が一生懸命書いた字だと見て分かります。

「にじ、ですか」

 この魔法使いはこの字を大事に大事に大切にしているのでしょう。そう思うとカイルの胸の中に暖かい思いが溢れます。可愛らしい白い花が一輪咲いたよう。

「この字は、お父様に教えて頂いたんですか ? 」
「違う」
「では、お母様に ? 」
「違う。村の外れに住んでいた小さいのに教えてもらった」
「子供ですか? 」

 彼は床に座ったまま、モジモジと肩を揺らします。心持ち頬が赤くなってきました。美しくキラキラです。
 朝日色の髪。スミレ色の瞳。色づき始めた紅玉色の頬。身体の中に沢山の色を持つ魔法使いには「にじ」と言う名前がぴったりだと、その姿を見て思いました。きっと字を教えた人も、この美しい容姿と名前に心を打たれ親切に字を教えてあげたのでしょう。
 それにしても何故でしょうか。

「村の外れの子供、にじ………金色の髪………紫の瞳………」

 聞いた事があるような ? 見た事があるような ?
 記憶に眠る昔々が蘇ります。

 ちょっとづつ――――。
 ちょっとづつ―――――。

「その子供は私が村人達と違っていても怖がらなかったし、泣かなかったし、怒鳴らなかった。字が書けない私を馬鹿にもせず優しく文字を教えてくれたんだ」

 魔法使いが紅の頬を益々赤らめ、カイルの顔を見ながら懐かしそうに嬉しそうに言います。

「ちょっと、お前に似ている」
「あ――――」

 それはそうです。だってそれは自分ですから。
 カイルは懐かしい昔の思い出の一場面を思い出しました。自分の家は村の外れにあり、その又隅っこに小さいですがとても透き通った水の池があります。辺には珍しい花が咲き、カイルは子供の頃その花を目当てに良く遊びに行ったものです。そこで薬草を採取しに来ていた魔法使いに会ったのです字が書けないと言うので教えた気もします。

 カイルが昔の事を思い出している内に、丸まっていた魔法使いが、すっと立ち上がりテーブルの上に置いてあった肉切り包丁を手に言いました。

「だから、あの小さいのに似ているお前を食べれば字が書ける様になると思って ! 」
「ええぇっ ! 何ですかそれはっ ! 無理ですよっ ! 私を食べたって字は書けも読めもしませんよっ ! 」
「五月蝿いっ、食べてみないと分からないだろう ? ! 私は絶対に字が書けるようになって、世界で一番美しい魔法使いになるのだ ! 」

 叫ぶ彼は本気です。
 本気でカイルに包丁を突きつけています。その包丁は鋭く研がれていて今にも自分を傷つけそうです。

「わっ、私が教えますッ ! 私が教えれば絶対に字が書ける様になります ! 何故ならば昔、貴方に字を教えた小さい子供、それは私なのですから ! 」
「嘘だっっ ! あれはもっと小さかった ! 」
「それは子供だったからです。随分と長生きな魔法使いと違って 私は唯の平凡な人間なのです。ですから成長するのですよ。何時までも小さな子供ではないのです」

 カイルの言葉に驚いた魔法使いは、口をあんぐりと開け信じられないと言った顔。
 でも、懐かしい小さな顔と今のカイルの顔が重なって見えて来て、振り上げていた包丁を下げました。

「お前が、あの小さな子供だったなんて………」
「私が貴方の先生になりましょう。きっと、いいえ。絶対に字が書ける様になるでしょう。ね ? 良い考えでしょう ? 」

 カイルの提案に魔法使いが何と答えたかと言うと、それは勿論――――。


 数日後。
 村の小さな学校の片隅にキラキラ輝く『にじ』の色。

「違うっ ! 真面目にやりなさい ! 」
「うっうぅぅーーー」

 今日、何度目かの叱責がにじに飛びます。傍に置いたスタァプランツ入りのジュウスが波打ちました。
 叱られたにじはカイルを睨んでいますが、怒鳴り返したりはしません。怒りん坊の口をぎゅっと引き結んで我慢しています。
 しかたありません。今は、カイルが先生。にじは生徒なのですから。

「速く字が書ける様になると良いですね」

 にじは大変頭の良い生徒です。きっと直ぐに字を使いこなす事でしょう。そうしたら、にじには生徒から先生になって欲しいと思っています。彼は字を書くこと意外、その他のことは驚くほど物知りです。どの花が何の薬になるのか。どのキノコが毒なのか。葡萄酒の中に十字石を入れて置くと身体に良いなんて誰も知らなかった事を知っています。

 カイルも、トトリ小父さんも知らないこと。
 それを子供達に教えて欲しいのです。
 きっと子供達は物知りなにじ先生が大好きになるでしょう。

 村で一つしかない学校。
 今は一人しか居ない先生も、きっと直ぐに二人に。

 教室中がキラキラ輝く光景を思い浮かべるとカイルの顔に笑顔が浮かびます。カイルにもキラキラがうつった様です。

 森の奥のキラキラが教室でもキラキラ。そしてそれは広がって、村の人もキラキラ。
 たくさん、たくさん広がって。
 すっかり世界を飲み込んで。
 そうした頃には、真実の鏡も言うでしょう。

『この世で一番美しい人、それは―――――、』















この後のカイル先生の苦労が予想されます。でも、何とか上手くやって行くことでしょう。めでたし、めでたし ? 

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