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異世界で本当にチートなのは知識だった。  作者: 新高山 のぼる
ヒントは常に歴史にあり。だからチートなんです。
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魔女たる所以

 重京に帰った俺は、1日で急ぎの仕事を済ませて、次に日の朝早くに重京を出発した。

 未だ帝国軍は再侵攻の兆しを見せておらず、もう少し余裕がありそうだったが、重京を離れなければならない仕事は出来るだけ早く済ませたかった。

 それが、今、朝早くに1人で馬を走らせている理由だ。

 今回は少し危険なため、桜香は連れて来ていない。護衛の尚蓮も、今回の件では少し役不足の為、今日は久々の一人旅だ。

 因みに、尚蓮が役不足なのは、結構後先考えずに行動する事があるからだ。

 今から向う交渉には不向きなのである。

 重京を出て街道とは別の道、人が行きかう事が無くなって草に半ば覆われている道を進む。

 途中で2回、遺棄されて廃墟と化した村を通り過ぎ、昼前には目的地に到達した。

 そこには湿地帯の中にひっそりと建っている一軒家があった。一応、家の周りには木の柵が囲っており、柵の中の庭には家庭菜園の様な畑があった。

 家自体は、すこし大きな平屋で、河南国では一般的だった藁葺の家だ。


 俺は柵に馬の手綱をくくってから、家の扉に向かって歩き始めた。

 しかし、歩き始めて直ぐに家の扉が開いて中から2人の男性が出て来た。

 どこかで俺の事を見ていたのか、それとも、何か来客を知らせる仕掛けがあるのだろうか。状況から考えて、何か魔法的な仕掛けがしてありそうだ。


「ここに何の用だ?」


 始めに家から出て来た男性がそう俺に問いかける。すこし、凄みを利かせたような、脅すような口調だ。

 そんな彼の口調と、彼が持っている武器を見ると、普通の人間なら逃げ出すだろう。

 彼は結構な長身だが、そんな彼に比べても、彼の持っている大剣の方が長い。

 ガルガラが持っている大剣と長さは同じ位だろう。少し、彼が持っている大剣の方が細いから、軽いとは思うが、それでも相当な重量を持っているはずだ。

 そんな大剣を彼はやすやすと肩に担いでいた。

 ガルガラの場合は、その体格から納得がいくが、彼は身長こそあれ、体格は結構細い。なので、その大剣は俺の目からも異様に映った。


 もう1人、そんな彼の後ろに控えているのは、四角い男だ。

 何が四角いって、まず、体が四角い。

 身長はあまりないが、ガッチリとした体格と広い肩幅のせいで、全体として四角く感じるのだ。

 そして、顔もご丁寧に、えらが張り出した四角い顔をしている。

 そんな四角い彼が持っているのは、またもや体に似合わない木の棒である。

 木の棒と言っても、長さは2m位ある細長い棒だ。

 ちょうど、槍の穂先を外した柄だけの棒のようだ。両手棍と言うのかな?ちょっとその辺の知識がないから分からないが。

 しかし、その棒はただの棒でないのは解る。

 なぜなら、その棒にはびっしりと古代ギリシャ文字のようなものが彫られていたからだ。

 魔法的な何かが掛かっていると考えて間違いないだろう。

 魔法武器と言うやつか。こっちの世界に来てからも初めて見る。


明玲ミンレイ殿と少し話したい事があってここに来た。」


 とりあえず俺は、素直にここに来た目的を、こちらを睨んでくる大剣使いの男に話す。

 明玲殿とは、俺がこの前行った奇人登用作戦で唯一部下が連れてこられなかった『魔女』と呼ばれている人だ。

 人?多分、人だ。


「お師匠様は、お前のような奴には会わない。分かったらとっとと帰れ。でないと痛い目を見るぞ。」


 大剣男はその切っ先を俺に向けて脅してくる。

 片手でその大剣を操る腕は認めるが、少し頭の回転は遅そうだ。

 奴の受け答えだけで結構な情報が得られる。


 彼らは『魔女明玲』殿の弟子で、彼女の力目当てにやってくる輩を排除するのが役目だろう。

 しかし、俺でも会われなければ、いったいどのような人物なら会えるのだろうか?


「名乗りもしないうちから門前払いですか。あなたの意見ではなく、明玲殿にお聞きになってこられた方がよろしいのではないですか?」

「ほざけ下郎が!誰が来ようと一緒よ。お師匠様は誰ともお会いにはならない。とっとと立ち去れ!」


 そう言って大剣男は、その大剣に炎を纏わせた。

 そしてその炎を纏った剣を振り下ろしてくる。

 俺めがけて。

 俺は初めて見る魔法剣に目を奪われかけたが、慌てて後ろに跳び下がって大剣を躱す。

 地面に接触した大剣は周囲に熱風と土砂をまき散らして突き刺さった。

 そんな大剣をまたもや軽々と肩に担ぎ直す大剣男。

 なるほど、これほどの力、代々の土地の実力者が見逃すはずもないか。

 ならば、こいつらは俺の正体を知っているのかもしれないな。

 知っていてのこの攻撃なら、少々お仕置きが必要みたいだ。


「ちっ、うまくかわしやがる。だが次はないぞ。」

「次ですか?そんな攻撃、何回来ても一緒ですよ。炎を纏わせるのは凄いですが、剣の腕はそれ程でもないようですね。」

 

 俺は少し挑発するように言い返した。

 もっとも、大剣男の剣の腕がそうでもないのは本当だ。

 俺はもとより、尚蓮やガルガラ、修二郎さんにもかなわないだろう。

 あくまで剣の腕だけを見ればだが。


「ほ、ほざけ貴様!もう帰れると思うなよ!」


 俺の見え見えの挑発に素直に乗る大剣男。

 魔法の力は知力によるところが大きいと言うのは、どうやらゲームのなかだけの様だ。

 大剣男はその後何度も大剣を俺に振り下ろしてくるが、俺は余裕で躱していく。

 敵の攻撃を躱す良い訓練だ。

 しかし、動きが単調で攻撃方法も振り下ろしと右からの薙ぎ払いしかないのでは、見切りの訓練にはならないな。

 そんな事を考えながら大剣男の攻撃をかれこれ十数回躱したところで、焦り出した大剣男が、もう一人の今まで観戦していた四角い男に何か命令をした。

 たぶん、四角い男は大剣男の弟弟子なのだろう、釈然としない顔をしながらも、棒を振るった。

 その瞬間、俺の背筋に寒気が走る。

 俺は大剣男の攻撃を少し大きめに躱しながら、今まで一度も抜かなかった青龍を抜いて、四角い男の方に構える。

 キキキィン!

 構えたと同時に、青龍から鋭い金属音がして、危うく青龍を弾かれそうになった。

 青龍にぶつかった、陽炎のような空気の揺らぎが、方向を変えて遠くに飛んで行った。

 あ、危なかった。これは、カマイタチか。

 奴は緑魔法の使い手か、それともあの魔法武器のような棒の技なのか。少し面倒な事になった。


「はぁはぁ、王商オウショウの……「風切」を見切るか。……なかなかだな。……だがこれまでだ!」


 大剣男はさすがに体力が無くなったみたいで、肩で息をしながら強がりを言う。

 しかし次の瞬間、大剣男が突き出した手から大量の炎が飛び出して、俺の周りを取り囲んだ。

 取り囲んだ炎は消えずにそのまま円を描いて俺の周りで燃えている。

 大剣男は剣士としてはそれなりだが、魔法使いとしては一流みたいだ。

 俺は青龍を地面に突き刺して、魔力を送る準備をする。


「殺れ、王商!」


 大剣男が四角い男に向かって叫んだ。


「で、ですが、義兄さん。これはやり過ぎでは?」

「構う事はない!さっさと殺れ!それとも、俺の命令が聞けないのか?!」


 四角い男は、大剣男に怒鳴られて、しぶしぶ棒を振った。

 振られた棒からまたもや、空気の揺らぎが飛び出して、俺に向かってくる。

 もちろん、周りは炎の海だから俺には躱す事は出来ない。

 しかし、魔力の注入は終わっていた。

 俺の目の前に巨大な石の壁がせり上がる。

 ガガガガガッ!!

 もの凄い音がして、四角い男の技が石の壁の表面を削るが、突破する事は出来なかった。

 そして、その間に送って置いた魔力で今度は周囲の炎を消す。


 炎を消すのは簡単だ。

 燃えている地面を地中の土と交換すれば消火できる。

 最も、これは酸素を遮断する事による消火方法であり、魔法にも効くかどうかは解らなかった。

 炎をあげているので多分有効だろうと思ってやってみたが、どうやらうまく行ったようで、炎は消えた。

 炎を消えた所で、石の壁も元に戻した。


「!?き、貴様、何をした?俺の『炎海』をどうやって消した?!」


 大剣男が狼狽している。

 四角い男はただ目を見張っていたが、少し後ずさり始めていた。


「さて、では、次はこちらの番でしょうか?」


 俺は満面の笑みを作って、魔力を地面に送って行く。作るのは、ガルガラや尚蓮を捕えたあの砂地獄だ。

 満面の笑みをたたえながら、大量の魔力を地面に送って行く俺に恐怖したのか、2人とも顔を一気に青ざめさせる。

 良いですね。すこしは反省してください。

 そう思って、魔法を発動させようとした瞬間。


「やめな!!お前たち、いったい何と戦っているんだい!?」


 突然家の扉が大きな音を立てて開かれて、中から出て来たおばさんがそう叫んだ。

 俺は、その「やめな!!」の一言につい素直に従ってしまって、魔法を中断してしまった。

 おかげで折角注入した大量の魔力は、発動することなく霧散してしいく。


「お前さんがこの大量の魔力の持ち主かい。まったく、とんでもない化け物だねぇ。」


 そう言って腕を組んで仁王立ちするおばさん。

 まったく、人を物扱いしたと思ったら、今度は化け物扱いですか。

 先ほどの言動から察するに、このおばさんが『魔女』なんだろうけど、だいぶイメージと違うな。

 俺の中の魔女とは、真っ黒なローブを着た、鷲鼻のおばあさんか、ボンキュッボンな体でエロ服を来たお姉さんなんだが、いたって普通のおばさんだ。

 とりあえず俺は、青龍をしまって挨拶をすることにした。


「お初にお目に掛かります。私は新たにこの土地の領主とさせていただくことになりました、サウザンエメラシー皇国男爵、五十嵐颯太と申します。

 明玲殿は、この辺りでは他に追随を許さぬ程、魔法に習熟したお方とお聞きしております。

 つきましては、少しお話をお伺いしたく参りました。」

「ほう、あれほどの魔力を持っているのに、領主とは意外だね。

 まあ、どうやって領主になったのかは聞かないでおくよ。私も命は惜しいからね。

 どうぞ、お入り、少しくらいなら話に付き合ってあげるよ。」

「それはどうも、ではお邪魔致します。」


 とりあえず、話は聞いてくれるみたいだ。

 俺は、明玲殿に案内されて家の中に入る。

 俺が中に入ると、明玲殿は外で腰を抜かしている2人の弟子は放って置いて、扉を閉めた。

 そして俺は、4人掛けの食卓のある部屋に案内されて、そのうちの1つの 椅子に勧められるがままに腰かけた。

 明玲殿も俺の正面の席に座る。


「黄鈴!お客だ!茶を出しな!」


 明玲殿は、席に着くと台所に向かってそう叫んだ。

 何もそこまで大声で怒鳴らなくても聞こえると思うのだが。

 明玲殿が叫ぶと、台所の方から少女が顔だけを出した。けっこう可愛い少女だ。


「はい解りました。」


 少女は可愛い声でそう答えると、直ぐにお盆にお茶を2つ持って来て、俺と明玲殿の前に置く。

 置き終わると、一礼して、逃げるように台所に帰って行った。


「で、話とはなんだい。」


 2人ともお茶を少しすすった後に、明玲殿がそう切り出した。


「ええ、実は教えていただきたい事がありまして。」

「ほう、この私に、教えを乞うと。ずいぶん頭の低い領主様だね。」

「それは良く言われます。」

「ほう、そうかいそうかい。

 まあ、良いだろう。今までの領主や国王みたいに、私の魔術書を寄越せと言ってこない所はみどころがあるね。

 そうだね、私も1つ教えて欲しい。それに答えてくれたら、私も何なりと教えてあげるよ。」

「解りました、何が知りたいのですか?」

「あんたの魔力の秘密。

 あんたの魔力量は異常だね。いや、異常というのさえぬるいくらい。そんな魔力量を持つ人間など、ありえないんだよ。

 いったいどうやって、それだけの魔力を手に入れたんだい?」

「なるほど、そうですね、誰にも話さないと約束してくれますか?」

「もちろん。私はまだ死にたくないからね。

 おっと、そう怖い顔をしないでおくれ。冗談だよ。

 安心しな。私は普段、弟子たち以外の人とは話しをしない。だから私の口からあんたの秘密が漏れることはないよ。

 もちろん、弟子たちにも話さないから安心しな。」

「まあ、信用しましょう。もっとも、話しても信じて貰えるかはわかりませんがね。」

「もったいぶるね。まあ、良いさ。で、どんな秘密なんだい?」

「そうですね。一言で言うと、私はこの世界とは別の世界からやってきました。」

「なんだ。あんた落人おちうどだったのかい。だったら、たしかに納得できるね。」

「落人、ですか?」

「おや、知らなかったのかい?

 落人とはね、上位の世界からこの世界に落ちて来た人たちの事さね。この世界は平行世界が上下に沢山重なっているからね。

 そして極稀ごくまれに、上から下に落ちて来る人や物がある。

 でも、落ちて来る事はあっても、上がる事はできない、だから、残念だが、あんたも元の世界には戻れないよ。」

「そんなこと、なぜあなたは知っているのですか?」

「以前にこの世界の事を調べていた時に偶然気付いたんでね。この世界の他にも世界がある事に。で、いろいろ試していたらそんな事が解ったんだよ。」

「さすがは『魔女』と呼ばれるだけの事はありますね。」

「おや、失礼だね。でも、納得だよ。上位世界に存在する物は、人も含めて、すべてが、下位世界の物よりも強い力を持っているみたいだからね。

 だから、あんたの魔力量もそのせいだね。」

「ですが、私が元居た世界には、魔法なんてありませんでしたよ。」

「ふぅん、そうなのかい。でも、この世界には魔法が当たり前だから、魔力もきっと、この世界の常識以上の物になったんだね。

 まあ、推測でしかないけど、私的には納得できる内容だね。

 で、あんたは私に何を聞きたかったんだい。

 まさか、元の世界に戻る方法とかじゃないだろうね?」

「ええ、もう元の世界には戻れないのは何となく気が付いていましたから。

 あなたに聞きたいのは、魔晶石の持つ力に、方向性を持たせる方法です。」


 俺が聞きたかったことを明玲殿に話すと、明玲殿は腕組みをして、目を閉じ、考え始めた。



 俺はしばらくお茶をすすって待っていると、明玲殿は考え事が終わったようで目を開けた。


「そんな事を考えたのは、あなたで2人目さね。」


 そう、俺にやさしく答えると、今度は大声で台所に怒鳴った。


「黄鈴!王商を呼んできな!多分まだ庭で座り込んでいるよ!」


 その声を聴いた少女は、台所から飛び出して、部屋を通り抜け、玄関の方に走って行った。


「あんたと同じ事を、私の弟子の1人が考えた。そして、それをずっと研究していてね。

 少し尋ねるが、あんたはどんな方法でそれをしようとした?」

「魔晶石の形を変えれば何とかなるかと思ったのですが……」

「うまく行かなかっただろう。魔晶石は傷つけると、そこから魔力が逃げるからね。」

「はい、その通りです。」

「ちょっとした、コツがいるんだよ。あいつが発見したところによるとね。」

「では、可能なんですか?」

「ああ、直ぐに来ると思うから、あいつから直接聞きな。」


 たしかにしばらくすると、さっき庭で戦った四角い男が少女に連れられてやって来た。


「王商、領主様がお前の研究内容を聞きたいそうだ。説明して差し上げな。」


 明玲殿がそういうと、四角い男改め、王商殿は「準備してきます。」と言って部屋から出て行った。

 そして、直ぐに小さな箱を持って帰って来た。


「領主様でしたか、先ほどは失礼いたしました。」


 まず、席に着く前にそう謝る王商殿。


「いえいえ、こちらも名乗っておりませんでしたから。それに、主に攻撃を仕掛けて来たのは、もう一人の方でしたし。」

「すみません。」


 何が「すみません」なのかいまいち解らなかったが、話が進まないので、先を促す事にした。


「で、王商殿でしたか。貴殿は魔晶石の加工に成功なさったようで。それを見せていただけないでしょうか?」

「ええ、もちろんよろしいですよ。ではまず、こちらをご覧ください。」


 そう言って、王商殿は持って来た小さな箱から、緑の魔晶石を取り出した。

 そして、その魔晶石は、よく見る石型ではなく、円錐型の宝石の様に加工された物であった。

 王商殿はその魔晶石に魔力を通して、発動させてから、俺に渡して来た。

 俺はその魔晶石を受け取って、思わず驚きの声をあげてしまう。


「す、すごい。ちゃんと魔法が発動している。しかも、風が一方向のみにしか吹いていない。」


 そうなのだ、この魔晶石はちゃんと魔法を発動させていた。

 風はかなり弱いが、それでも、円錐形の先端方向に向かって、うちわでゆっくりと扇ぐ程度の、弱い風が吹いているのが分かる。

 加工されていない魔晶石は、魔晶石表面全体から、触ればわかる程度の風を発生させることしかできなかったのに。


「はい、それが、私がここで10年間研究した成果です。」

「すばらしいですね。で、この魔晶石を加工する方法を、私に教えていただけますか?」


 俺はさっそく教えてくれる様に、王商殿に尋ねたが、王商殿は明玲殿をちらっと見ただけで、答えてくれなかった。

 代わりに答えてくれたのは、明玲殿だ。


「あんた、この魔晶石の加工方法を教わって、いったい何に使う気だい?」


 『魔女』相手に嘘はつけそうになかったので、俺は素直に答える。


「残念ながら、初めは戦争の道具として、使用する事になると思います。

 しかし、もちろん、その後は民にも広く公開し、すべての人が少しでも豊かに暮らせるようになって貰いたいと思っております。」

「そうじゃない、まあ、魔法と言うのは元来戦争の道具として使われてきたからな。あんたがそのように使うのは致し方ない。

 戦争で開発された魔法が、後の世で人の幸せの為に使われるという事も良く知っている。

 だから、その件については何も問題はないよ。

 聞きたいのは、どのようにして使うのかという事だよ。

 見ての通り、この魔晶石による魔法の効果は微々たるものだ。こんな物、決して兵器にはなりえない。

 なのに、あんたは、これがもの凄い発見であるかのように話す。

 だから、いったいどのようにこの魔晶石を使うのか知りたいのだよ。」

「そういう事ですか。解りました。えっとですね。簡単に言いますと、この魔晶石は、道具を動かす動力源としたいのです。」

「どういう事じゃ、いまいち解らん。」

「そうですね。では、ちょっと試してみますか。」


 そう言うと、俺は周りをキョロキョロする。そして、台所を覗くとかまどが見えたのでそこに皆で移動する。

 かまどには、燃えかけの木が何本かあった。


「魔晶石ではなく、木を使っているのですね。」

「煙が出なければ、屋根が腐るでな。」


 俺の問いに、明玲殿が答える。


「解りました。この、竹筒も使ってよろしいですか?」

「ああ、構わんよ。」


 おれは、台所の棚にあった竹筒を手に取る。

 麺棒にでも使っていたのか、節がそのままだったので、別の木の棒で節を抜き取っておく。


「かまどに火を入れて貰ってもよろしいですか。」

「ああ、分かった。」


 明玲殿がそう言って、指を軽く鳴らすと、かまどに火が付いた。


「凄いですね。火魔法ですか。」

「魔法の初歩の初歩だ。火魔法ほど大した物ではない。で、次は、どうするのじゃ。」

「はい、では、この竹筒で、空気を火に送ってやります。するとこうなります。」


 おれは、竹筒を口元に持っていき、息を吹きかける。すると、もちろん、火は大きくなる。


「ほう、空気を送り込むと、火が大きくなるのか。これは知らなかったな。」

「では次に、この魔晶石を竹筒に入れて、魔力を通してみます。」


 俺はそう言うと、竹筒のなかに、先ほど王商殿が見せてくれた、円錐形の緑魔晶石を竹筒にいれた。

 ちょうど最初の節の所で、魔晶石の一番太い部分が引っ掛かった。

 この状態で、魔晶石に魔力を送り、魔法を発動させる。

 すると、竹筒の中を空気が通り抜ける。

 筒型のドライヤーみたいに、一方向にのみ空気が流れてくれた。

 その状態を明玲殿に確認してもらって、空気が出て来る方を火にあてた。

 火は大量の酸素を供給されて大きく燃えた。


「なるほど、そんな使い方があったのか。」

「りょ、領主様。素晴らしいです。魔晶石を竹筒の中に入れる事によって、風の通り道を作るとは。

 それに、この方法。風の量が増しています。」


 王商殿は俺から、竹筒を受け取って、いろいろ試して驚いている。


「これが、あんたの言う、道具の動力としての使い方かい?」

「まあ、ほんの一例ですが。」

「なるほど、たしかに、道具と組み合わせれば、色々な事が出来そうだね。

 でも、なぜ、魔術ではなく、魔晶石を使ってこのような事をしようと思ったんだね?魔術の方が簡単だろう。」


 そう言って、明玲殿は釜殿前に何やら魔法陣を描いた。

 すると、魔法陣の上で炎が激しく燃え上がった。

 先ほど俺が火を大きくしたのとはけた違いの大きさだ。


「はい、魔晶石を使おうと思ったのは、誰でも使えるからです。

 魔法の能力がない者でも、魔晶石を道具にすれば、使うことが出来ます。

 魔力がない人種でも、すでに起動している道具なら、使うことが可能ですし。」

「なるほど、あんた、よっぽど変わっているね。まあ、あんたの事情なら当然か。

 分かった、王商。教えてやりな。

 ただし、条件がある。」

「条件とは?」

「この王商をあんたの所に連れて行って欲しい。

 あんたの元で、研究をさせる方が、こやつの為になると思うのでな。

 まあ、あんたには、魔晶石の加工方法の見返りに、こやつの研究の手助けをしてやって貰いたいんだよ。

 特に、金銭面でな。なにせ、魔晶石はそこそこな値がするからな。」

「も、もちろん構いません。それどころか、願ったり叶ったりですよ。

 王商殿には、重京で一緒に魔晶石の研究をしてもらいたいです。

 もちろん、魔晶石は用意させていただきます。

 それに加えて、給金もだしますよ。

 専用の研究室と助手も付けさせていただきます。

 ぜひ、よろしくお願いします。」

「ほう、たいそうな待遇だね。

 王商、どうする?」

「わ、私は、お師匠様がよろしければ、ぜひお受けしたく思います。」

「では、決まりだね。王商、どうやって魔晶石を加工したか教えてやりな。」

「はい、では領主様、これをご覧下さい。」


 そう言って王商殿は、こぶし大の結構大きな白魔晶石を取り出した。魔力を送ってないので、光ってはいない。

 次に、原石のままの魔晶石を取り出す。これは、まだ、属性魔力を込めてない段階で、いわゆる空の魔晶石だ。


「私は、魔晶石の固さが、蓄えられている魔力の属性によって違う事を発見しました。

 一番柔らかいのが、空の魔晶石で、その次が、黄色と緑の魔晶石です。その次が赤と青。一番固いのが、白の魔晶石です。

 そして、魔晶石同士をこすって、研磨していくと、柔らかい方の魔晶石が少しずつ削られて行きます。」


 そう言って、王商殿は白魔晶石と空の魔晶石をこすり合わせる。

 すると、直ぐに空の魔晶石は削られて、綺麗に磨かれた部分が現れた。


「このように、魔晶石で魔晶石を削ると、理由は解りませんが魔力の流出を防げます。

 なので、この方法なら、魔晶石の性質を保ちつつ、形を変える事が可能なのです。」

「なるほど、では、白魔晶石は加工できないのですか?」

「いいえ、白魔晶石も白魔晶石同士で研磨すれば、加工は可能です。

 さらに、他の魔晶石とこすり合わせるだけでも、少しずつですが、削られるみたいです。

 この魔晶石は主に、研磨用に使っているのですが、長い間使っているうちに、このように、綺麗に磨かれてしまいました。」


 そう言って、手に持っている白魔晶石の裏面を見せてくれた。

 たしかに、その魔晶石は、裏の一部が平らに磨かれていた。


「なるほど、そのような方法があったのですか。形を変えるために、刃物で切ったり、やすりで削ったり、または金槌で割ったりしたのですが、うまく行かなかった訳です。

 いや、さすがは明玲殿のお弟子さんなだけありますね。」

「それ程の事でもないです。殆ど偶然見つけただけですから。」

「いや、それでもすごいですよ。今後は私の所で道具と共に使用した研究の方もよろしくお願い致します。」

「はい、頑張らせていただきます。」


 その後は、明玲殿も含めて、今後の事を話し合った。




 王商殿は、準備が出来次第、重京に来てもらう事になった。

 明玲殿と後の弟子2人は、このままここに、住み続けるそうだ。

 一応、皇国の国民というか、俺の領民になる事は了解してくれて、税金は俺の騎士団の魔法使い達に指南することで合意した。

 来月からは3人ずつ、騎士団から明玲殿の所に派遣する予定だ。

 最も、弟子見習いという扱いなので、雑用も結構やらされ、こき使われそうだが。それでも、色々な知識も身に着けて来るに違いない。

 俺は、明玲殿の家からの帰り道、王商殿に研究してもらう項目で頭がいっぱいになった。

 上手くすれば、かなりの事が実現できそうである。


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