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異世界で本当にチートなのは知識だった。  作者: 新高山 のぼる
ヒントは常に歴史にあり。だからチートなんです。
40/46

貴族のルールは複雑怪奇

 重京にて帝国南方方面軍の主力を撃退した5日後、俺は皇都の皇城内にある自分の執務室にて書類作業に追われていた。

 俺がここ皇都を出発してから早2ヶ月が過ぎ、当時は肌寒かった皇都も、季節が春に変わって日差しが暖かい。

 都のあちこちでは桜に似た花が咲き、心も暖かくしてくれる。

 

 そんな、昼寝日和に書類と格闘しているのはもちろんサボっていたからだ。

 いや、別に故意にサボっていた訳では無くて、重京に出撃している間に溜まりに溜まっていたのだ。

 昨日は久々に、皇都の自分の屋敷で泊まり、小次郎さんと梅さんの料理を堪能した。

 桜香たち奴隷娘3人も心身ともに成長していた。

 特に、勉強にかなりの力を入れたみたいで、その辺の貴族の子息たちには負けない程になっていて驚いた。

 今日は、午前中はとりあえず、急ぎの書類仕事を終わらせて、午後からは、赤穂将軍に会うことになっている。

 明日、国王様も含めた戦略会議が開かれるので、その為の準備という意味合いが強いが、話す事は山ほどありそうだ。

 そんな事を考えながら、書類を片付けて行く。


 普通将軍は皆、ここ皇城の執務室にて各自が指揮する騎士団の報告を受けて、指示するのだが、俺の場合は騎士団の駐留地がここ皇都から遠い。

 それに、戦闘の最前線にいないと現場の事が解らない。なので、俺はどうしても重京に居る必要がある。

 実際、今こうして皇都に来ている訳であるが、重京の事が気になる。

 街を囲む城壁が一応完成し、敵主力を撃退したこのタイミングでなら、重京を離れられると考えて、主に国王様への報告の為に皇都に戻って来たのだが、ずっとここに居る訳にはいかないのである。

 国王様には、例外的に俺が重京に居る事を認めて貰うつもりだ。しかし、皇都を2ヶ月離れただけで、これだけの書類が溜まるというのは問題だ。

 誰か、書類の運搬係を雇わなければならなそうである。それに、この執務室に詰める俺の代役も必要だ。

 帰って来て、久々にこの執務室に詰めていてくれている、連絡係の小枝子さんにあったが、面会希望の言伝が山ほどあった。それに手紙も。

 そういった事を処理してくれる人間が必要なのだ。

 しかし、この人選は難しい。なにせ、一般人、たとえば重京の街を任せた 公徳さんみたいな人を、この場に詰めて貰っていてもたいして意味がない。

 なぜなら、いくら俺の代役とは言っても、重要な話を持って来る皇国の貴族や将軍達が、彼の様な一般人は相手にしないだろうからだ。

 ここに詰めて貰う俺の代役が勤まるのは、せめて副将軍。できれば、皇国の貴族であって欲しい。

 しかし、そんな人材は今の俺にはいない。

 一応候補としては、鉄次さんと楓さんが当てはまる。

 しかし、鉄次さんは、今後も重京というか俺の領地で必要だ。

 楓さんは貴族であり、副将軍と十分に基準はクリアしているが、残念ながら、こういった件を任せられるほど経験がない。

 何せ、成人してから直ぐに軍に入った人だ。それ以前も、あまり貴族同士の社交界などには出ず、野山を駆け回っていたとか。

 さすがに、その武は認めるが、文の方は怪しいのである。

 この問題の解決策はあるにはあるのだが、あまり使いたい手ではない。

 結局この件も先送りするしかなさそうである。


 書類仕事に目処がついて、桜香が入れてくれた紅茶を飲みながら、皇都に居る間にしなければいけない事を思い出す。

 すでに、それらはリストにまとめて優先順位をつけて桜香に渡してある。

 桜香はそれを基にスケジュールを組んでくれているので、後はこの桜香のスケジュールを通りに動けばいい。すでにアポもとってくれている。まさに、秘書様々である。



 昼食後、俺は優先順位1位だった赤穂将軍との会談の為に、赤穂将軍の執務室を訪れた。

 供は桜香と尚蓮である。皇都ではずっとこのメンバーで行動する予定だ。

 赤穂将軍の執務室をノックすると、いつもの執事さんが扉を開けてくれた。

 中に入って勧められるままソファーに腰かける。赤穂将軍も、書類仕事を一区切りして、前に座った。


「少し見ない間に、美女をはべらせるようになるとは、さすがは五十嵐将軍だな。」


 赤穂将軍が座るなり、ニヤニヤしながらいきなりそうおっしゃる。


「見た目だけではなくて、中身も凄いですよ。

 彼女は尚蓮、私の副官をやって貰ってます。この尚蓮は河南人ですが、剣術の腕は私の上を行きます。」

「ほう、五十嵐将軍よりも腕が立つとは、凄い御嬢さんだ。」

「は、恐縮です。」


 ソファーの後ろで控えていた尚蓮が頭を下げている。


「さてと、そちらの事はだいたい手紙で聞いてはいるが、なにか他に聞いておいた方が良い事はあるかな?」

「いえ、多分すべて手紙にかいた通りだと思います。」

「そうか、では当分の間帝国からの侵攻はないと判断して良いのだな。」

「そのように思います。しかし、私はなるべく早く重京に戻りたいと考えております。」

「そうだな、将軍が居ない間に、帝国に奇襲をかけられて重京を取られては大変だからな。

 そうそう、貴殿が皇城に詰めずに、重京にて陣頭指揮をとる件だがな、国王様に了承してもらっている。

 国王様も、対帝国の防人として将軍には重京にいて貰いたいようだ。貴族院も満場一致で了承した。

 河南国占領以来、帝国は常に心配の種だからな。」

「そうですか、ありがとうございます。皇城の執務室には誰か適当な人材が見つかり次第、代役を送るつもりです。」

「そうか、その方がいいだろうな。普通は領地に奉行をおくのだが、貴殿の場合は特殊だからな。」

「はい。」


「それでは、こちらからの連絡だが。まず、将軍から依頼が来ていた銅貨の件だが、こちらで手配しておいた。」

「本当ですか、ありがとうございます。」

「うむ、いろいろあってな、ちょっと複雑になったが、明日、国王様から頂けるだろう。」

「国王様からですか?」

「うむ、まあ、訳ありでな。」

「はあ、まあ、私としましては、銅貨を用意して頂ければ、それだけで大変助かります。」

「うむ、それで思い出したが、戦勝祝いとして、軍馬を50騎、北条侯爵から預かっている。」

「北条侯爵からですか?それも50騎も?」

「うむ、そうだ。」

「そんなにたくさん、いただいてよろしいんですか?」

「別に、くれると言ってるんだから、もらっておいても良いと思うぞ。」

「見返りは何ですか?」

「貴殿に対してはないと思うぞ。」

「それはどういう意味ですか?」

「自分の影響力を示したいのだと思う。仲介を私に依頼したのもそのためだろう。

 北条候はこれまでほぼ独立的立ち位置を守って来たが、ここにきて、私の影響力が大きくなってきたのを警戒しての事だろう。」

「つまり、政治的な事ですか?」

「政治と言うより、貴族間の優劣と言うやつだよ。皇都周辺の加賀派だった貴族たちも、私に近づこうと色々しておるしな。」

「はあ、なんか大変そうですね。」

「何を他人事のように。騒動の中心人物は貴殿だぞ。」

「え、私がですか?ですが、私はまだ、ようやく辺境の領地をもらった男爵にすぎませんが?」

「だが、その領地は既に私や加賀将軍の領地に匹敵している。

 今後、もっと北に攻めるとすれば、どれほど広がるか。

 旧河南国をすべて併合すれば、将軍は皇国一の領地を得る事になる。」

「皇国一ってさすがにそんなにたくさんの領地は貰えないでしょう。」

「いいや、国王様は『占領した帝国華南部の領土は五十嵐将軍の領地とする』と言われたではないか。

 それはつまり、旧河南国の領土は占領すればすべて将軍の物にすると言うのと同義だ。」

「しかし、そんな事、加賀将軍が黙ってないでしょう。」

「もう忘れたのか?将軍の領地がないから、帝国領をせめて将軍の領地としようと言い出したのは、他でもない、加賀将軍だったではないか。」

「そ、そういえば、そうでしたね。」

「うむ、国王様も認められておるし、四侯爵の内、二侯爵が認めておる。となれば、これはもうすでに決定事項なのだよ。」

「だから北条侯爵が私に軍馬を贈ると。」

「そうだ、四侯爵の中で出遅れた感があるからな。」

「と言いますと?」

「私は将軍に対してわりと影響力があると思われている。」

「たしかに、赤穂将軍には色々とお世話になっておりますから、頭が上がりません。」

「ふふふ、そんなに気にするほどではないぞ。まあ、少しばかり心に留めておいてくれればそれで良い。

 でだ、伊勢侯爵もエルフの件で将軍と少なくない関係を持っていると思われているのだ。」

「なるほど、エルフの件はこういった事でも利用されていたのですか。」

「そういう事だ。

 それに対して、北条侯爵は未だ将軍とは面会した事がない。これでは皇国の四侯爵としてはなはだ都合が悪いのだよ。

 そこでだ、今回の戦勝祝いと称して、軍馬を贈れば、将軍と面会位は出来るだろうという考えだと思うぞ。」

「なんか、深いですね……。」

「これぐらい、貴殿もこの先皇国の貴族として生きていく中では必須だぞ。」

「頑張って良い部下を探します。」

「自分でやろうとは思わないのかね?」

「私には到底不可能な分野ですから。」

「まあ、それでも良いだろう。それに、貴殿がそういうことが苦手なら、私の影響力は大きくなりそうだしな。」

「私としては、信頼する赤穂将軍にすべてを任せても良いと思っておりますが。」

「そこまで、信用してもらえると、逆に裏切れないな。将軍の為に頑張るとしよう。」

「よろしくお願いします。」

「ところで、伊勢侯爵と面会の予定は?」

「予定にはいれているはずです。桜香、どうなっている。」


 俺は隣に座っている桜香に尋ねる。


「はい、伊勢侯爵様は現在皇都におられないようです。

 この先も皇都に来られる御予定はないそうですので、皇都を離れる際にランドマークに寄っていただく事になると思います。

 一応伊勢侯爵様には一週間後に、ランドマークの御用邸まで伺う旨の手紙を送らせていただいております。」

「だ、そうです。」

「ふむふむ、貴殿は奴隷にもの凄い教育を行ったのだな。まるで何十年と仕えた執事の様ではないか。いや、素晴らしい。」

「ありがとうございます。これも彼女たちの頑張りによるものです。」

「奴隷にこの様な使い方があったとはな。やはり貴殿の発想はすごいな。

聞いたところによると、帝国の主力もとんでもない奇想天外な方法で撃退したとか。まさに頼もしい限りだ。」

「お褒めにあずかり恐縮です。」

「うむ、で、どこまでいったか。そうそう、伊勢侯爵と会う予定があるのなら問題ない。軍馬の礼を言いに北条侯爵にも会ってやっておいてくれ。」

「解りました、ではそうさせていただきます。」


 そう言って、隣を見ると、すでに桜香はスケジュールを確認していた。


「後は、そうだな。そうそう、貴殿の騎士団の強化も決まった。

 一応明日行われる会議で決定の予定だが、貴殿の晴嵐騎士団が2000名まで、増員が認められる予定だ。」

「騎士団の増員ですか。これはありがたいです。」

「そうだな。これで、貴殿の騎士団は加賀将軍と私の騎士団の次に大きな騎士団となる。」

「そんなにですか。」

「そうだ、皇都で貴殿が騒動の中心人物になるのが解っただろう。

 伯爵位を拝命する案は、残念ながら実現できなかったが、すでに貴殿に対する結婚の申し込みも殺到しておるぞ。」

「え、結婚ですか?」

「そうだ、少しでも社交界での優劣を上げたい者や皇国に対する発言力が欲しいと思う貴族は、こぞって将軍に娘を差し出すであろうな。」

「そ、そうですか……」

「まあ、心配するな。そういった話は全て断ってある。」

「ほ、本当ですか!ありがとうございます!」

「うむ、今の所、貴殿は忙しいだろうし、こんなことで煩わせて帝国の侵攻を許すわけにもいかないしな。」

「しかし、無下に断っては、後々ややこしい事になりませんか?」

「そんな心配はいらんよ。貴殿は既に侯爵相当の地位を持っておる。

 いや、いまや帝国撃退の英雄扱いだから、もっとかもしれんな。

 いずれにしよ、伯爵程度の面会など、忙しいと断っても問題にはならんよ。」

「そうですか、でしたら良いのですが。

 あ、まさか、赤穂将軍のご息女と結婚しろとかわ言わないですよね。」

「ああ、それも考えたのだが、残念ながら、私の娘は既に嫁に行っておってな。

 息子の子供たちで唯一の娘も、今年で5歳になったばかりなのだよ。

 5歳の娘で良いのなら貰ってもらいたいが……」

「丁重にお断りいたします!!」

「だろうな。君の周りは若い娘が多いと聞いて、少しは期待しておったのだが、やはり無理か。」

「さすがに若すぎるかと存じます。」

「私もそう思う。心配するな、強要はせん。」

「ありがとうございます。」


 その言葉を聞いて心底安心した。


「とりあえず、貴殿に知らせておきたい事はこれ位か。

 後は、明日の会議の件なのだが、貴殿はどう思う?このまま紅河まで侵攻できそうか?」

「このままですか!?まず、不可能です。拠点となる場所が離れすぎてます。」

「やはり無理か。重京はまだ拠点には使えないのか?」

「現状、重京はまだ収益が期待できません。まだかなりの額を投資し続けれねばならないでしょう。

 ですから、とてもではないですが、後方拠点としては使えません。

 物資を集積しようにも、消費する量の方が圧倒的に多いのですから。」

「では、現状拠点となるのは?」

「カーラシア村までないと考えるべきでしょう。」

「そこから次の目的地まではどのくらいだ。」

「私が集めた情報によれば、王京はもう使い物にならないでしょう。となると、上香まで中継地点なしで攻めなければなりません。」

「途中に町や村はないのかね。」

「有りません。すべて帝国によって潰されております。」

「上香までの距離は?」

「一日半。その後の戦闘を考えれば、2日は掛かるでしょう。」

「カーラシアから、いや、ゼノンから重京までも2日掛かるから、合計で4日か。確かに遠いな。」

「はい、皇都からゼノンまでよりも遠いです。」

「たしかに、距離的には皇国を横断するくらいあるか。確かに現状では無理そうだな。貴殿は何は策はないかね?」

「なにも……。重京が拠点として使えるようになるまでは、防戦でしのぐべきでしょう。」

「どれくらいかかる?」

「せめて実りの季節が過ぎるまで、ですかね。」

「ほう、意外と早いのだな。」

「全力で整備しておりますので。」

「それくらいなら、何とかなりそうだな。何か必要な物はあるかね?」

「それは重京の整備にですか?」

「そうだ。」

「今の所、人材と資金、両方が不足しております。」

「では、私から少し援助するとしようか。」

「いえ、そんな、赤穂将軍からこれ以上援助を頂くわけにはまいりません。 資金については調達する目処は立っておりますゆえ。」

「ん、そうか。では、人材か。目ぼしいのを集めようか。」

「いえ、その人材はどうか、赤穂将軍自らの為に使っていただきたく存じます。」

「あ、なるほど、そういう事か。だか、それでは貴殿は人材不足では?」

「たしかにそうですが、もう少し重京で在野の者を集めてみようかと、この尚蓮みたいな人材が結構眠っているようですので。」

「そうか、それは結構だな。ところで、重京は今どれくらいの住人が居るのだ。」

「まだ正確には把握できておりませんが、4万程いるのではないかと。」

「4万だと!それは凄いな。1つの都市で万を超えるのは皇都と4都市だけだぞ。ゼノンの住人よりも多いではないか。」

「周辺の村々から集まって来たようで。」

「なるほど、それならまだ隠れた人材もいるかもしれないな。頑張りたまえ。」

「はい、ありがとうございます。」

「では、私はこれから明日の会議に向けて下準備をするとしようかの。」

「会議の下準備ですか?」

「そうだ、貴殿の話を聞いて、侵攻は当分無理そうだからな。明日必ず侵攻を進言してくる、加賀将軍を黙らせねばならん。その為の工作をな。」

「は、はあ、なるほど。よろしくお願いします。」

「なに、皇国の未来が掛かっておるからな。」

「では、私はこのへんで。」

「うむ、また明日たのむぞ。」

「はい。」


 これを最後に、赤穂将軍との会談は終わった。

 俺は赤穂将軍の執務室を出て自分の執務室に戻る。

 その後、しばらく書類を片付けてから、屋敷に戻った。




 次の日、朝から会議が開かれるため皇城に登城する。

 いつもの3階の部屋に入ると、すでに平民将軍の半分が来ていた。貴族将軍の中では一番だ。

 いつも通り、貴族将軍の末席にて待つことにした。

 その後、順番に平民将軍が着席していって、全員が揃った後、しばらくして初めの貴族将軍が現れた。

 確か、石田男爵将軍だ。彼は入ってくるなり俺に話しかけて来た。


「五十嵐将軍。此度の戦勝誠におめでとうございます。」

「これはどうも、ありがとうございます。」


 俺は座りながらであったが、頭を下げた。


「ところで、五十嵐将軍。将軍は今回の戦勝で序列が上がっております。

 ですから、ここから3つ上座にご移動ください。ここは私の席にてございます。」


 な、なんですと。貴族の中に序列があるのは知っていたが、それがいつの間にか上がっていたとは。


「そ、それは失礼いたしました。」


 俺は慌てて3つ上の席に移動する。


「いえいえ、将軍は戦で長らく皇都をお離れでしたから当然です。それより私は将軍と話せて光栄ですよ。」

「そう言っていただけると助かります。」


 その後、しばらく将軍が全員そろうまで、石田男爵将軍と、隣に来られた黒田男爵将軍に、貴族についてレクチャーしてもらった。

 そういえば、将軍になった時は、将軍職について色々と教えて貰ったが、男爵を拝命した後は、忙し過ぎて、その辺の事を確認するのを忘れていた。

 石田男爵将軍達に寄れば、貴族の序列は月1回行われる貴族院の会合で決められるそうだ。それ程変動が大きくはないが、今回のような場合や、政略結婚などがあった場合変動するそうだ。

 しかし、あくまでも序列は公的な場でのものであって、社交界での優劣や、発言力とは異なるという。ややこしい話である。

 追々こういった事も学んでいかなければならなさそうだ。

 めんどくさい。そんな暇があったら、戦術の1つでも考えていたいものである。



 全員が揃って、国王様が登場され、会議が始まった。


「皆ももう知っておると思うが、此度も五十嵐将軍が我が皇国に勝利をもたらしてくれた。

 ついてはまず将軍より報告を聞こうと思う。将軍よいな。」

「は、では、僭越ながら報告をさせていただきます。

 私の騎士団は、先月、重京の南側に建設されていた敵要塞を奇襲にて撃破。

 敵大将は見逃しましたが、その後、重京の街を占領する事に成功いたしました。

 重京を占領後、ただちに、防御施設を構築。敵の反撃に備えておりましたところ、つい先日、敵本国部隊と思われる主力部隊が攻めてまいりました。

この部隊も激戦のすえ過半数を撃破、撃退する事に成功いたしました。

 以上です。」

「うむ、見事な働きだ。さすがは余が見込んだだけはある。ついては、その功を認め、銅貨100万枚を褒美にとらす。」

「? あ、ありがたき幸せにございます。」


 俺はそう答えたが、『銅貨100万枚』にどうしても違和感を覚えた。

 なぜ、金貨100枚ではないのだろうか?そう思って赤穂将軍の方を見ると、とてもニヤニヤしている加賀将軍が目に入った。

 赤穂将軍は、俺と目が合って『うん』という感じで小さくうなずいただけだ。

 その2人の顔を確認して、昨日赤穂将軍が銅貨は国王様が用意してくださるという事を思い出した。

 きっと、この褒美に関しても何らかのゴタゴタがあったのだろう。

 で、それに付け込んで、赤穂将軍が手をまわしてくれた結果、褒美が銅貨100万枚という事になったと推測できる。

 事情を知らない加賀将軍は『小金持ち~』とか言って心の中で笑っている様だ。顔にかなり現れている。


「それから、これはこの会議での議題でもあるのだが、五十嵐将軍の晴嵐騎士団を2000名に増員しようと思う。

 これに関して反対意見のある者はおるか?」


 引き続き、国王様が俺の騎士団の件について話を進められる。


「畏れながら、1000名の増員は過大かと。」


 と、言葉通り畏れ多くも加賀将軍が意見を言う。

 それに対して、赤穂将軍が反論を言う許可を国王様に求められた。もちろん、国王様も直ぐに許可を出される。


「加賀将軍は過大と言われるが、五十嵐将軍は現在1人で帝国を相手に戦ってくれている。

 聞けば、すでに将軍は占領地の民を私兵として取り込み、2000近くの戦力となっているというではないですか。

 五十嵐将軍が私財をなげうって兵力を増強して、ようやく前回の戦いでは撃退に成功したのだとか。

 であるならば、戦力の増強を皇国として援助するのは当然かと。」

「余もそのように思う。他に、反対の意見の者はおるか?」


 そこまで言い切った国王様に対して、反論を披露できる将軍は他に居ないようである。


「では、晴嵐騎士団を兵員2000名とする。」


 そう国王様が宣言され、俺は頭を深く下げた。


「では、今回の戦勝についてはこれまでである。

 これより、今後について話会いたいと思うが、まず、五十嵐将軍。将軍は今後皇国はどうすべきであると考えるかね。」

「はい、私の意見としましては、まず、占領地の足固めをしたく存じます。

 重京の街は占領こそしましたが、未だ正常な街とはいえず、当分は復興にかなりの経費がかかる見込みです。

 防衛施設は、街を囲む城壁をはじめとして、何とか目処がつきましたので、当分の間は防戦でしのぐべきかと愚考します。」

「うむ、たしかに、皇国始まって以来の領土拡張である。足固めには十分に時間が必要であるという将軍の意見はもっともである。

 反対意見はある者は?」


 もちろん、真っ先に加賀将軍が手を挙げる。


「私は、敵が弱っている今こそ、追撃してさらなる領土拡大を図るべきかと。」

「なるほど、加賀候の意見ももっともだな。どうかな、五十嵐将軍。」

「はい、確かに、敵に多大なる損害を与えたとは思います。しかし、その分、私の騎士団も被害を受けております。

 残念ながら、直ぐに動かせる様な状況ではありません。」

「確かに、言われてみればその通りであるな。敵にのみ損害を与えれるなど、いかな五十嵐将軍でも、無理であろう。」

「国王様、よろしいですか?」


 と、ここで赤穂将軍が発言を求める。


「ん、赤穂候か。なんだね。」

「はい、前回の会議では、今動くことの出来る騎士団は五十嵐将軍の晴嵐騎士団のみという事で、晴嵐騎士団のみによる侵攻作戦となりました。

 現在もほとんど状況は変わっておりません。

 ただ、私の騎士団の鷹ヶ城と古鷹砦に詰めている部隊が必要なくなった程度であると思われます。

 つきましては、私の騎士団を重京に移動させて、五十嵐将軍の騎士団を休養にあてれば、早期に攻勢に出れると思われますが。

 また、他に余力のある騎士団があれば、部隊を出していただきたく思いますが、いかがでしょうか?」

「うむ、確かに、重京の守りが固いのなら、鷹ヶ城の騎士団は余剰か。

どうかね、五十嵐将軍?」

「はい、赤穂将軍の白銀騎士団に来ていただければ大変助かります。」

「うむ、では、赤穂将軍。鷹ヶ城と古鷹砦の兵力を重京へ移動させよ。」

「はい、そのように致します。」

「それと、他に騎士団の一部を応援に出せそうな者はおるか?」


 その問いかけに伊達将軍が手を挙げた。


「おお、伊達将軍。将軍の騎士団からどれくらい出せるのか?」

「はい、国王様。私の騎士団は以前帝国に攻められていた時に増設した輸送部隊が手空きにございます。

 引き続き、兵糧を重京に輸送する任務を出来ると愚考いたします。」

「うむ、それは確かに大切であるな。では、伊達将軍。その様に頼む。」

「は、拝命致しました。」

「他にはおらぬか?加賀将軍。貴候の騎士団はどうかね?」

「わ、私の騎士団ですか。あいにくと、私の騎士団は陸戦は不得手でして、それに、シュウ王国の海賊の相手が忙しくてですね……」

「そうか、残念だな。我が国一番の戦力なのだが。

 しかし、帝国だけではなく、シュウ王国の海賊も相手にしなければならぬのだな。

 加賀候。早急に海賊を殲滅し、東の安全を確保したまえ。

 余としては、帝国との戦に集中したいのだ。それから、将軍の騎士団も帝国との戦いに参加できるように、陸戦もある程度訓練しておいて欲しい物だな。」

「っ、わ、分かりました。善処します。」

「うむ、では、今後の行動であるが。皇国としては、当分の間、戦力の回復と足場固めに努めて行く事とする。

 東方の安全の確保を加賀候に、西方の足場固めを赤穂候と五十嵐将軍に。

また、それ以外の将軍も戦力の充実に努めてもらいたい。

 では、本日はこれまでとする。解散。」


 この国王様の宣言を最後に会議は終了した。


 今回は会議の後に、国王様との面会はない。さすがに、男爵とはいえ、そう何度も国王様と直接話せる機会はない。

 他の貴族の目もあるので、報告は書面で、指示は全将軍参加の会議でなされる。それ以外の相談等は赤穂様経由で行っている。

 その後、俺の元に届けられる予定の銅貨の量が半端ない事が判明したために、後日、兵糧と一緒に伊達将軍に運んでもらうことになった。

 今回はほとんど兵を連れて来ていなかったので、大変助かる。

 因みに、伊達将軍は、鷹ヶ城占領時も兵糧を運んでくれた将軍である。

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