表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Asgard  作者: 橘花
10/32

10.動乱の気配

 10.Confutatis



 ウッドベリー強襲から五日後。


 その恐るべき凶報は大陸各国至る所に届いていた。




 此処、ヴェルディ領が属するイベリア王国が王都”シーサイド”にも。



「…………」



 王城の執政室で、報告書片手に眉間に皺を寄せる初老の男性。

 自慢の白髭を弄り、報告書を閲覧するその目には確かな知性が宿っていた。

 男性は、片眼鏡(モノクル)の位置を僅かに調整し、もう一度目を凝らし内容を確認する。



(ウッドベリーが崩壊。死者行方不明者四千人超。僅か半日足らずの強襲……犯人の手掛かり一切なし。『魔王』の復活。復興支援求む……)


「——んな訳あるか!馬鹿者!!」



 老いて尚、精巧な顔付きは歪められ、報告書を握り潰し投げ捨てる。

 ころころと転がっていく報告書は入口近くにいた男の革靴に当たった。



「はあ……アドルフ宰相。これは紛れもない事実です」



 煌びやかな鎧を装着した男性は報告書を拾い上げ、元あった机の上にそっと置いた。

 声から判るように鎧の男はまだ充分に歳若い、と呼べる範疇であった。



「分かっとるわ!」



 苛立たしげに吐き捨てるが、イベリア王国が宰相”アドルフ=ブロードウォーカー”は、これが現実に起こった事だということは理解していた。


 認めたくないだけだった。

 この国の一重要拠点でもあるウッドベリーの崩壊は余りにも損害が大きい。

 他国もこの状況を知った今、混乱に乗じて何か仕出かすかも知れないのだ。

 その対策である近隣諸国への警戒、更に崩壊したウッドベリーへの復興支援と原因の究明とその排除。

 国内外問わず早急に対処しなければいけない問題が多く、宰相は頭を抱えていた。



「それに、眉唾物ですがギルドランクS『紅剣のアレックス』もウッドベリー近辺で確認されたのを最後に、その後消息を絶っています」



 流れ者の比較的多い冒険者は一つの地に止まること自体珍しい。

 急に消息を断ったり、蒸発は良くあることだが、アレックスほどの実力者に限っては滅多に無かった。


 アドルフ宰相を訪ねた男性——王国軍のトップに身を置く”ハンコック=ニルヴァーナ”は、このアレックスの失踪が今回の事件に少なからず何か関係があると踏んでいた。



(決定的な裏付けはないが、何か嫌な予感がする。それに)


「それにウッドベリーの武官長の話によると、八星将が一人『千里眼のルミナス』が事態の鎮圧に向かった後、消息不明です」



 それを聞いたアドルフは短く舌打ちをした。

 それが本当であるなら最早この件はこの国だけの問題ではない。



 ハンコックは更に続ける。



「これは私の自論になりますが、アレックスもこの一件に関係していると思われます。侵攻自体、突如撤退したとの不可解な情報も有りますが、目撃情報によると……「貴様も『魔王』が復活したとでも言うのか?」…………」



 宰相はハンコックの言葉を遮り抑揚のない声色を響かせた。


 今や都に住まう民草、各種ギルドや研究機関問わずに巷は一つの話題で持ちきりだった。

 それが『魔王』の復活。

 誰も彼もがウッドベリーでの件を面白可笑しく吹聴し、吟遊詩人はそれを肴に詩を唄う。

 挙げ句の果てには事実を屈曲したゴシップ記事の登場や、ギルドの討伐依頼に魔王討伐を掲げる者もいた。



(馬鹿な民共は実際に自分の身の上に降りかからんと分からぬ物だ)


 自分が、安全な場所にいるからこそ出来る軽はずみな言動を起す国民の何たる愚かな事か。

 宰相は知らず知らずに唇を噛み締めた。



「いえ、それは流石にないと思いますが、何らかの脅威・・が誕生した可能性があると」


「脅威か……ふんっ。くだらん」



 宰相の腰掛ける椅子がギィと鳴った。



「ハンコック。貴様は軍を招集する権限が欲しいだけだろう。そんなもん幾らでもくれてやるから備えておけ。……脅威・・とやらにな」


「……有難う御座います。必ずや、王国の為に」



 王国軍のトップが軍を招集する権限を持たないのは別に可笑しい話ではない。

 反乱を防止する為に直接的な権限は、国王若しくは宰相以外に持たないのだ。

 それに有事の際以外は権限の委任すられない。

 故に今回、途轍もない危機を察知したハンコックは宰相であるアドルフに打診しに来ていたのだ。

 軍を自由に動かせる権限の委任を。

 遠回しにお願いしようとしていたが、どうやら宰相には全てお見通しだったらしい。

 ——全く頭が上がらないな、と王国軍軍団長ハンコック=ニルヴァーナは執政室を後にした。



「……念の為”アイツ”にも声を掛けておくか」



 一人きりになった執政室で宰相は呟いた。



 ………

 ……

 …



 ————????————



 ——イベリア王国より遥か北の最果て



「はぁ?『魔王様』が復活したぁ?」


「人間領で話題になっているそうですよ」



 その大地では、地面は干上がり草木一本自生しない。

 空から光は射し込むことはなく、年中分厚い雲に覆われている。

 暗黒の瘴気に満たされた不毛の大地に鎮座する古めかしい城。

 その一室で明らかに”人外”と思われる数人の男女が、鉄の長机を前に怪しげな談合を開いていた。



「馬鹿を言え。『魔王様』はまだ復活していない」


「ええ……それは周知の事実。でも人間領の一角では魔王が復活したと噂になっているわ」



 この、人成らざらぬ者達にも先日の人間領での一件は耳に入っていた。



「ふん。仮に魔王様が復活していたら街一つで済む筈なかろうて」


「その通りなのです。魔王さまなら今頃国一つ潰しているのです」



 違いない、と男の一人が相槌を打つ。



「でも『魔王様』をかたるなんて癪だよね」


「どうせ少しばかり力の強い魔物が勘違いしたのだろう。それに噂とは必ずしも誇張されるものだ」



 口論を交わすみなが皆、一様に同じ黒い装束を羽織っている。

 その表情は窺えない。



「……僕が見に行きます」



 少し間を置いて、それまで沈黙を守っていた影が一つ静かに立ち上がった。

 性別が判断出来ないほど線の細い声は、室内に不思議とよく響いた。



「へぇ。貴方が行動するなんて珍しいわね」



 予想外、とでも言うように女が目を丸くした。

 実際、この声の主の発言に驚いていたのはこの女だけではなかった。

 長机に着く者の半分は女同様目を見開き、もう半分は微かに笑う。



「……少し気になる事があります。問題が無ければ見に行ってみようかな、と」



 自信なさげには言った。



「気になる事、ね……まあ勝手に行ってくれば?どうせ誰も止めないし。止めれないし」



 一々報告する程の事でもないと女はひらひらと手を振った。


 彼らは基本的に他者に不干渉であり、年に数回の集まりの時以外自由であった。

 尤も、それにすら集まらない輩も少なくはないのだが。



「有難うございます。では」



 は小さく頭を下げると、静かにその場を後にした。



 ▼▼▼



此処・・か……」


「まさかこれ程とは」



 獣人の集落より魔獣の森を掻き分け進むこと約半日。

 魔獣の森を抜けた先、広大な大草原のど真ん中にそれは堂々と存在感を露わにしていた。



 ——『アインザッツ城』——



 圧巻。

 正にその一言に尽きる。


 その余りの雄大さに思わず息を呑むは二人の犬の獣人の青年。

 バルサムと、その親友アルヴィンである。


 不気味なほど静けさを保ち、腰を据える巨大な城を目前にして二人は思う。

 果たして本当にこのまま進んで良いのか。


 先日の一件で、見せ付けられた圧倒的な力。

 約三百もの兵士達のくびを、一息で跳ね飛ばした怪物達・・・が此処にいるのだ。

 そんな領域に自分達が足を踏み入れていいのか、と。



(だが、俺たちにも誇りぐらいある)


 強烈な爆風には曝されたものの、彼らの兄妹や子供達の生命に別状はなかった。

 それはひとえに子供達を身を呈して守った、ジルやアガリアレプトの主人であり、このアインザッツ城の主”カルシファー”のお蔭だった。


 集落を守り子供達を取り返して下さった救世主ともいえるお方に、何一つ礼すらしない程彼らの獣人の面は厚くなかった。



(だが——もし、もし既にお亡くなりになられていたら)


 そう考えるとバルサムの足は自然と震えた。

 何一つ恩を返す事が出来ないのだ。これ程情けない話はない。

 今更のこのこ現れた所で、激昂に触れて嬲り殺されるかもしれない。

 だが、それでも良い。

 このまま恩を返さず、礼すらせずに一生恥を背負ったまま生きるくらいなら、死んだ方がマシだ。


 そんな事を考えながらバルサムとアルヴィンは、足取りは重いながらも一歩一歩確実に進んでいく。

 アインザッツ城に向けて。



「『止まれ』」



 城門がはっきりと見えてきた時、背後から妙にトーンの高い男の声が聞こえた。

 それと同時に二人の身体は完全に動きを”止めた”。



(……な、んだ)


 身体が重いとか動かしたくないだとか、そういう次元の話ではない。

 どんなに力を入れても寸分も動かないのだ。

 まるで石像のようにでもなったバルサムとアルヴィンに新たな命令・・が下る。



「『死ね』」



 響いた声と同時に二人の手は腰へと向かっていった。

 その腕の行く先には護身用に差していた剣。

 そして彼らの手は剣を引き抜くと自らの喉元へ一気に吸い込まれていった。


 端から見れば自刃。

 二人揃って寸分の狂いもなく行われるその行為は芸術的ですらあった。



(——————死)



「『待て』」



 バルサムとアルヴィンの首筋から赤の線が一本流れる。

 自らの喉を突き刺そうとした剣は、薄皮一枚切った所で止まっていた。



「ほんの軽いジョークだ。そう怒らんでくれたまえ」



 深緑のベレー帽を目深く被った男は二人の背後から軽い調子で告げた。



「ハッ……ハァ……」


「ハッ…ハッ…………」



 緊縛が解け剣を取り落とした二人は、荒い呼吸を必死に整えようとする。

 それを尻目に男は再び口を開いた。



「——で、だ。ここへ何しに来たのだ。招かねざる獣人達よ」



 男が言葉発する度に放たれる強烈な圧力プレッシャー


 ——生物としての格が違う。


 バルサムは確かに感じとっていた。

 下手な行動をすればものの一秒で跡形もなく消されるだろう。

 自分の命が非常に軽い天秤の上で彷徨う最中、緊張で喉が渇き声を上げようにも最初の言葉が出ないバルサムは焦っていた。

 しかし——



「せ、先日はた、たすけていただき、……礼、を……”カルシファー”様……に……——ひっ!!?」



 予想に反して回答したのはバルサムの横にいるアルヴィンだった。


 彼もカルシファーに妹を救われているのだ。

 彼もまた、心の底から感謝していた。

 恐怖で震える声を絞り出し、目の前にいる男の問い掛けに応えるアルヴィン。

 だが、”カルシファー”という単語を出したその瞬間、男の表情は般若の如く鬼の形相に変貌を遂げた。

 そのあまりの迫力に思わず息を呑むアルヴィン。



「ほう。お前たちが例の獣人達か」



 そう言って男は舌舐め擦りをする。



「うっ……」



 更に、バルサム達を本能的に恐怖させたのはその男の異様に長い舌。

 爬虫類のように細く長い舌は男の鳩尾付近まで到達していた。



「なに遊んでんだ”アスタロト”」



 その時、恐怖で一歩も動けない彼らの耳に入ったのは聞き覚えのある声。



「……ジルか」


「コイツらはあたしが相手するからお前は”ゴミ共”を始末しといてくれ」


「仕方ないな」



 渋々ながらもアスタロトは了承する。


 最近急激に増えた人間達の偵察。

 今、魔獣の森の中に小隊規模の武装した人間達がいることに彼も気付いていた。

 その目的は調査だ。先日も一個小隊が城の直ぐ近くまで探索に来ていた。

 無論、全員葬られたが。


 アスタロトが行ったのを確認すると、ジルはバルサム達の方へ向き直った。



「よお。久しぶりだな」


「お、お久しぶり振りですジル殿」



 慣れない敬語を使ってか、妙に辿々しい口調になるバルサムだったが、ジルはそれを気にも留めずただ一言、



「——だが、今日は帰れ」



 門前払いだった。


 こうなる事は予想出来ていた。

 しかし、今のジルの一言でバルサムとアルヴィンはカルシファーが生きている事が判った。

 それだけでも充分過ぎる成果だった。

 そして、バルサムは懐から小さな袋を取り出しジルに手渡した。



「これを……」


「?なんだコレは」


「我ら犬獣人に代々伝わる秘薬です。……どうかお受け取り下さい」



 バルサムがジルに手渡した物、それは犬獣人族に代々伝わる秘薬だった。

 高価な材料を擦り合わし作られた効能の高い回復薬。

 それは非常に貴重な一品で、集落のほぼ全財産で造られた秘薬だ。



「…………」



 差し出されるそれを無言で見るジル。


 高々犬っころの薬。

 それがどんなに高能とはいえ生物的に格の違うカルシファーには焼石に水、だという事が判っていたのだ。



「ふん。今日はさっさと帰れ」



 しかし、暫く考えたジルはそれを乱暴に受け取った。

 そしてそのまま城へと踵を返した。



「あ、ありがとうございます!」



 無事薬を渡し終えた二人は安堵し、そして言われた通りに真っ直ぐ集落を目指し帰っていく。


 その足取りは行きより幾分か軽かった。



 ………

 ……

 …



「小隊長ー。もう帰りませんか?なんだか気味悪いっすよこの森」


「馬鹿野郎。気味悪いのは当たり前だ。此処を何処だと思ってるんだお前は」


「いてっ」



 魔獣の森を闊歩するのは青銅のプレートを着込んだ兵士達。

 腰に下げるロングソードのつばには薔薇の刻印が施されていた。

 それはえある王国兵であるという証。


 イベリア王国が王国軍、第三師団に属する一個小隊は哨戒任務に当たっていた。

 先日国内外を震撼させた、謎の集団によるウッドベリー強襲事件により瞬く間に王国軍が周辺に派遣されていた。

 任務内容はウッドベリー近辺の警戒と哨戒、あと情報収集だった。


 周囲を警戒しながら小隊長は思う。



(やはり何かが可笑しい……魔物が一切出ないなんて有り得ん)


 昨日消息を絶った別の小隊。

 その救助と探索も兼ねて魔獣の森に来ていたが、此処は地域でも選りすぐりの凶悪なモンスター達が跋扈ばっこする事で有名。

 だが、蓋を開けてみればモンスターは出現せず、なんて事はないただのピクニックと変わりなかった。



(この先には何がある)


 何かある、という事は確信していた。

 齢三十幾つかを越えて中隊長に最も近いと声高い小隊長は、思わず剣の鍔を握り締めた。



「!?待て!止まれッ!」



 その時、先頭を歩く小隊長の目に止まったのは草叢で光を放つ物をだった。

 部下たちを制し、その場で息を殺し光る物を注視する。



(まさかっ!)


 慌てて駆け寄る小隊長。

 その不安は的中した。



「ぐっ……」



 陽光を反射し光り輝く物体の正体は、彼等もその身に装備する青銅のプレートの端だったのだ。

 小隊長ら以下12名の眼前に広がるは、昨日消息を絶っていた別の小隊12名全員の死体だった。


 だが、その光景はあまりにも異様。

 兵士ら12名の死体は全てが揃って仰向けに、全く同じ方向で横並びに綺麗に整頓させられていたのである。

 争った形跡は全くなく、誰もが腰に剣を差したままだった。



「うげぇ——」



 一人の兵士が嘔吐した。


 そう、これだけならまだマシかも知れない。


 その死体の最も特執すべき点は、全員頭がしぼんでいたのだ。

 まるで、頭の頂点から中身を全て吸い出されたかのような死体の頭部は歪に変形していた。

 眼窩は窪み、辛うじて残っている頬骨に表皮が張り付いているだけだった。

 凄惨で且つ異様な光景を前に嘔吐するもの、唖然とするもの、固まるもの、息を呑むもの、様々なものがいたが、共通して誰も声を発せないでいた。


 しかし、その絶妙な均衡は図らずとも破られた。



「『整列』」



 それは奇妙な程、耳によく残る声だった。



「え!?」


「身体が勝手に……」


「なんだ!?」



 兵士達の困惑を他所にも自分達の身体は勝手に動いていく。

 そして綺麗に横並びになったところで、一人の男が目の前に現れた。



「実に君達は幸運だ。……おっとその前に『口を開くな』……いや話が逸れた。許したまえ」



 目深く深緑のベレー帽を被った男、アスタロトは続ける。



「君達は幸運だ。まだ私には良心というものがある。他の者だと君達に想像を絶する苦痛を与えて、嬲り殺してしまうだろう」



 尚も語り続ける男から溢れ出る尋常ではない悪寒。

 兵士達は直様逃げ出したかったがそれすら許されなかった。



「だが、私は優しいので人思いに殺してやる事が出来るのだ。感謝したまえ」



 後ろに手を組み、まるで教師の様に歩き回りながらアスタロトは尚も続ける。



「時間が惜しい、それでは早速いこう。『屈め』」



 その言葉と同時に兵士達は揃って膝ついた。

 動けもせず話すことも出来ない兵士達は、目の前の異様な男の動向を見守る事しかできない。


 ——暫し待て。


 アスタロトはそう言い残すと有ろう事か自身の口に腕を突っ込んだ。



「!?」



 その場に居た者は目の前で起こっている出来事が理解できなかった。

 否、誰がこの光景を信じようものか。

 開かれた真っ赤な口に腕、肩、上半身と次々と飲み込まれていく。

 対称に、毛細血管の浮き出た赤黒い皮膚が波打ちながら次々と生まれていった。


 ——例えば、身体の表側と裏側が入れ替わればこんな感じになるのか。

 呆然とその常軌を逸脱した光景を見ていた小隊長は思った。

 人間、理解出来ない物事を目の当たりにすると返って冷静になるのだ。


 骨格すら変則的に変形しながらもアスタロトの口は身体全体を飲み込んでいく。

 噎せ返る生臭い血臭と、鈍い音を響かせて。

 そして遂には完全に裏返り終え、人体模型のような人の形をした怪物が、其処に立っていた。



「フーー……やはりこの姿は落ち着く」



 先程の陽気な声とはうって変わって、腹の底から響くような重低音が森に木霊した。

 そして満足したようにアスタロトは首を鳴らすと、目を見開き涙を流す兵士達の背後に回り込んだ。



「まず、君からだ。最期に言い残す事は?」



 ぽんっと一番端の兵士の肩に手を置いたアスタロトは後ろから耳元で囁く。



「お、お、お、お願い、しま、します、たたた、たす、たす、け」


「そうか」



 姿勢はそのまま涙を流し懇願する兵士に相槌を打つとアスタロトは、その無防備な後頭部にゆっくりと口付けした。


 ——そして、そのまま勢いよく吸い込んだ。


 ズッ、と蕎麦でも啜る様な小気味良い音と同時に兵士の頭蓋骨は陥没し頭部は急激に萎んだ。



「んーー美味い!」



 人間の脳を主食とする西洋の怪物の昼食は、今しがた始まったばかりだった。




 ----------------------------------------------------------


 ■Name―《食人鬼マンイーター》アスタロト

 ■ベース―モズマ

 ■Level―95

 ■黒円卓議会席次―第10位


 ----------------------------------------------------------

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ