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歪wing
作:悠栖


 久し振りに行った学校に傘を置いてきて、駅からコンビニまで走って、掴んだビニール傘は最後の一本だった。


「すいません、傘置いてませんか」
「ごめんなさい、全部売り切れちゃって……」


 申し訳なさそうな店員の声に振り返る。

 ……ちぇっ。目が合っちゃったか。


「あの、どうぞ。僕家近いんで」


 本当は十分ちょっと歩くんだけど。
 傘を欲しがっていたのはベビーカーを押している女性だったから、譲るほかなかった。

「ありがとうございます」


 何も買わずにコンビニを飛び出した。


  【...歪wing...】


 すぐに踏切に引っ掛かり、立ち往生してしまった。

 目の前には湿気よりもベタベタしたカップルがいて、青色で自分達の首から上を隠して抱き合っている。


 こりゃ絶対風邪ひくな……。


 雨に打たれたイライラする頭で、電車が通り過ぎた踏切の奥を見やる。


 ぎょっとした。


「なに、あれ」


 この土砂降りの空の下で、俺と同じように立ち尽くしている奴が居るのだが──濡れていないのだ。

 屋根も傘もない。なのに髪はさらさらと流れ、纏う衣服も渇いている。


 そいつは男か女かわからなかった。

 サイズの大きいTシャツにデニムパンツ。胸がないので男かとも思ったが、それにしては骨の線が細すぎる。
 髪の毛は栗色で、ショートカットが円らな瞳を映えるようにしていた。


 見ないふりするか。うん、そうしよう。
 非現実的なものは無視することに決めている。


 駆け足で通り過ぎると、その渇いた体は信じられない行動を起こした。


「ねえ、傘に入れてあげようか」

 両肩に体重がかかり、白い腕が俺を包みこんだ。

「はっ?」


 それと同時に、俺の頭に叩きつけていた雨粒はからりと姿を消してしまった。

 な、なにが、起きているのかっ?


「おうちどこ」
「えっ?」
「おうち。連れてったげるよ」


 一体この人はなにを言っているんだ。

 というか、人目につくので抱きつかないで欲しいんですけど。


「あのー……離してもらえませんか」
「濡れてもいいんだ」
「ていうか、何が起きてるのかさっぱりわかんないんですけど」
「おうちに着いたら教えてあげる」


 奇妙なことに、俺にのしかかる重力は人一人分もなく、周りの人々は俺達に目もくれなかった。

 ふわふわと纏い付く腕が気持ちがいい。


 なんだろ、これ。夢? はたまたおばけ?


「ほら、早く行こうよ」

 肩の上のふわふわは、耳元で心地のよい音を奏でる。


 俺はそのまま雨を避けて、そいつと一緒に家へ帰った。



「僕、天使なの」


 そういうと奴はおもむろに着ているTシャツを脱ぎだした。


「いや、いやいやいや、何してんの自分」

 慌てて止めるが、そいつは既に脱いだ後で、平らな胸板に幾分がっかりした自分がいた。

「ほら、見て」

 自慢気に見せてきたのは、背中だ。


「……おお」


 そこには確かに、天使の羽があった。

 でも長さにすると七センチ程度。左右も不揃いで、白くない。鳩のように薄灰色だ。


「なんか……イメージと違うな」
「そうなの?」

 すると天使はくすりと笑って、自分の背中を見るように肩に手を当てた。

「あくまでキミの印象だよね」

 天使が含み笑いをする。

「人間の作ったイメージでしか、僕らは現われない。キミが心に描く天使が形になって、僕が居るんだよ」

「はあ? つまりお前は幻なわけ? 羽が白くないのは?」

「キミの心が純白とは程遠いんでしょ」


 なんて失礼なことを言う奴なんだ。

「僕の喋る言葉も、キミのレベルに合わせてるんだよ。キミが言って欲しいように僕は答えてるだけ」

「なら俺が関西出身なら、関西弁で喋るのか?」

「そうなんじゃない。キミが上品なら僕も上品だけど。別にそうじゃないでしょ?」

「ええまあ」

 さっきからこいつに小馬鹿にされてる気がするのも、俺が大した人間じゃないからなのか。

 わかりやすい説明だこって。


「そんで何しに来たの?」

 もう時間も時間だったので、俺はカップラーメンにお湯をいれることにした。

「あ、僕も食べたい」
「はあ?!」

 どこの世界にカップラーメンを食べる天使がいるんだ?


「お前食べれるの?」
「うん。ちゃんと不浄物は出るから」
「……どこから」
「みんなと同じとこ」

 そう言って天使はユニットバスを指差した。

「……ああそう」

 イメージで成り立つくせに、人間の予想だにしない事がおまけでついてきている。

 それとも俺が
「天使もトイレに行く」と無意識に思っているのか?

 ああ、ややこしいなあもう!


「まあまあ、早く食べようよ」

 お前が言うか? と内心困惑しながらも、お湯のふたをめくって箸を割った。

 二人でカップラーメンをズルズルとすする。
 奇妙な空気が部屋の中を渦巻いていた。


 俺はなんとなく、気になっていた事を聞いてみた。


「お前さあ」
「なに?」
「男? 女?」

 天使がぴたりと止まって俺を見つめる。

 だってその肌は白くて弾力がありそうだし、まつげは頬に影を落としているし、唇はぽってりと赤く色付いている。

 学生の盛りの俺には毒だ。彼女とも別れたばかりだし。

 すぐ近くに届く人肌にすがりついてしまいそうなのだ。


「知りたい?」


 奴はにやりと笑った後、座ったままジーパンのボタンを外した。

「え?」

 音をたてて、チャックが下りていく。腰を上げてジーパンが膝まで下がる。


 俺はその様子に心臓を鷲掴みにされ、身動きが出来なかった。


 白く長い脚が電気の下に露わになる。


「ほら」

 無邪気に笑う天使は、後ろの床に手をついて膝を割り開いた。


「……え」


 その下腹部は、マネキンのようにつるりとして、弾力性など微塵も感じなかった。


 しかも尻にはガスの元栓みたいな蓋がひっついている。

 これがさっき言っていた、不浄物を出す部分だろうか。


「わかった?」
「あ、ああ」
「男でも女でもないよ。僕は天使。子孫を創る必要なんてないの」
「そ、そうですねー」
「だから掻き回そうと思ったって無駄」


 こいつのやることはむちゃくちゃだ。
 俺は自分の額を手のひらで抑えて、ほんの少しでも欲情した事を死ぬほど後悔した。


「じゃあ、誰が僕らを創ってるんだと思う?」


 カップラーメンを食べ終えた天使は、汁をすすりながら俺を箸で指差す。
 どうやら相当育ちが悪いみたいだな……。

「そんなもん、神様じゃねえの」
「あっ、今適当に言ったでしょ」

「でも正解」と言って奴はにやりと笑った。

「神様は地球を産み、海を創り、大地を浮かばせた。海の中に生命のヒントを与え、大地に生活の基盤を置いた。
 今それが崩れてきているのは、なんでだと思う?」


「……は?」

 急に羅列された言葉についていけず、俺はまぬけな声を出した。

「じゃあ、わかりやすく質問するよ」

 天使は立ち上がって、部屋のテレビのスイッチを入れた。

 時間帯は夕方のニュースで、いつものように抑揚のないアナウンサーの声がひとつの事件を取り上げていた。


「──さんが殺されました。現在逃走中の息子の──さんは、以前から親子関係に悩んでいたと……」


 ああ、嫌なニュースだな。

 でもよくある話だ。聞き覚えのない事件ではない、息子が親を殺すなんて。逆もしかりだ。

 何が言いたい、こいつは?


「なんでこの人は、親を殺したんだと思う?」

 相変わらず天使は、腹の内が読めない笑顔で問い掛けてきた。


「知らねーよ。むかついたんじゃないの」

 天使は首を左右に振る。


「違うよ。関係ないよ」
「じゃあ何よ」


「神様の差し金だよ」


 俺の頭に、はっきりと警報が鳴り響くのがわかった。


  * * *


 ふわふわの布団に包まれて、僕は目を覚ます。


『おはよう』


 頭の中に響いてきた声は、穏やかで、そして頑固そうだった。


『今日は二万人減らそう』


 命の数を調整する時間は、地球で言うとお昼ご飯を食べたあとだ。どうやら僕は寝過ぎてしまったらしい。

「ごめんなさい、神様。寝過ごしちゃった」
『いいさ。昨日はお前も頑張っていたから。ほら、見てごらん』

 僕は下界が映る泉を覗き込む。


『両国の戦争は激化しているよ』


 二万人も減ったら、あの大陸はどうなるのか。


 答えは、どうもならない。むしろ人間が減ったら汚染された大陸は喜ぶし、ここにいる僕らには関係ない。


『今日は少し難しいことを頼むよ』
「はい」

『七対三の割合で減らしてくれ』


 はっとした。
 昨日は運命的に減らすのは、両方とも同じ数だったのに。

 どちらかの戦争の味方をするんだ。


「どっちがいいですか」
『どちらでも』
「でも、正しいのは」

『どっちも自分が正しいと思っているさ』

 こうして生命を調節していることを、人間達は知らないのだろうか。

 知ったらどう思う?

 怒る?
 泣く?
 諦める?


 でも、後先考えずに動物や自然を殺しているのは人間でしょ。

 それらを産んだのは神様なのに。


 ──あれ?


 それじゃあ神様は?

 いいや。神様は僕らの創造主だから……。


 ──自分の創ったものなら壊していいの?


 どうしよう。

 心を、不安が、闇が、拡がって。


『ああ、ついに』


 あまりの痛さに自分の胸を叩いていると、神様が嘆きの声をお吐きになった。

『疑心を持つあまりに、お前は、ほら』


 僕は背中に違和感を感じて、横にある泉に映して見てみた。


『羽がくすんでしまっているよ』


 ──そんな。


 恥ずかしくて、恥ずかしくて、僕は絶対にしてはいけない事を冒した。


 下界の泉に飛び込んだのだ。


 どうしよう。僕はもう、天使失格だ。

 落ちて行く景色と一緒に、神様の声が響いた。


『疑心がやんだら、帰ってきなさい』


   * * *


 いつの間にか俺はベッドに横たわっていて、見えるはずだと思っていた天井が何故か見えなかった。

「なんだ?」
「なんでしょう」
「だから、そこをどけよっ!」

 天使が俺の上に跨がる。顔の距離なんて十センチもない。

 ところで、俺はこいつに聞きたいことがある。


「おい」
「どかないよ」
「俺の心が汚れているってのは嘘か」


 天使の透き通った瞳が揺れた。背中の羽も少し震えた。

 今見た夢を、俺は忘れはしない。


 こいつが神様とかいう奴を疑ったから、その羽が白くも大きくもないんだろ。


「……ばれた?」
「お前が見せたんだろ、今の夢」
「うん」
「なんで」

 不敵に笑って、舌なめずりをする天使は──まるで小悪魔だ。


「僕らがこんなことしてるって知ったら、人間はどう思うのかなって。興味があっただけ。僕の羽も白くなればいいなって。
 ……どう? 気分は」

「最っ悪だよ」


 俺は手の甲で視界を塞いだ。


 こんな話を聞いたことがある。


 どの科の動物にも特有の全体個数には上限がある。


 現在残っている生物の年間の平均増殖率はゼロに近い。
 それぞれの種が内部に、あるいは周囲に、総数を調節する機能を持っているのだ。


「レミングって知ってる?」
「……知らない」
「可愛い動物だよ。個体数が限界を越えると、みんな揃って死んじゃうんだ」

 天使は笑ってベッドから降りる。俺は上半身だけを起こして、狂ったそいつを睨み続けていた。

「みんなで行進して海にダイブ。その遺伝子を組んだのも神様さ」


 その神様ってやつを、殴れるもんなら殴ってやりたい。

 命をもて遊ぶな。総個体数の調節?
 人間がこれまで築いてきた歴史は、そんなくだらないもんで調整されていたのか。


「……なんて顔してるの」

 唇を噛み締めて俯く俺を、天使は心配したように覗きこんできた。

「信じなくていいじゃない」
「……は?」

「だって、いつだって人間は逃げてきたじゃない。都合の悪いことから目を背けてきたじゃない。そうでしょ? だって……」

「そうやってズル賢く創ったのも、神様だってのかよ」

 少しばつが悪そうにした天使は、今度は小さな子どもに見えた。

「困るのは君達なんだよ? 増えすぎたら、自然も、食料も、土地も家も、取り合いになって憎み合いになる。だから戦争でまた人が減るんだ」
「……満足かよ」
「え?」

 こいつの言いたいことは、よくわかった。俺の気持ちも固まった。
 ならこいつに、人間の反応を知りたがったこいつに、全てを説明してやる。


「俺はどうしようもないくらい虚無感に襲われた。だがな」

 そうだ。
 これが真実だ。


「実際どうでもいい」


 滑稽だ。その目は限界まで広げられていて、初めて知った事を飲み込むのについていこうと必死だった。


「……どうでも、いい?」
「ああ。どこの戦争で誰が死ぬように操作されてようと、どうでもいいね。死ぬときは死ぬんだよ」

 癌でも、交通事故でも、刺されても撃たれても、いずれ人間は死ぬ。

 いがみ合い憎み合いが神様の調整だってどうでもいい。
 人生を生きているのは、俺達自身なんだ。


「……どうでもいい、って」

 天使は震えて、頭を抱える。


「そんな、じゃあ、僕は何を疑ってたの」

 高揚し、早口になっている。思わず俺は後ずさった。


「何を心配してたの。どうして僕は、何も感じない人間のために、疑って、羽も、黒くなって」

「お、おい」

「なんで。嫌じゃないの。少なくとも僕は嫌だった。まだ生きれたかもしれない動物を、僕らが、殺して」


 ──プルルルル。


 携帯電話の呼び出し音が響いた。天使は体を揺らす。俺は奴から目を離さずに電話に出た。


「もしもし」

 ……もしもし? あんた、今すぐ帰ってきて!

「姉ちゃん? どうしたんだよ、何かあったのか」

 ……お母さんが、突然倒れて……。


「え?」


 ──視界が、ぐらりと歪んだ。


 赤いランプはいつまでも点灯中で、俺と姉ちゃんと親父はただ祈るしか出来なかった。

 こんな、タイミングの良すぎることは有り得ない。


 あいつだ。あいつのせいだ。
 俺の母さんも、あいつらに命を操作されたうちの一つだっていうのか。


「僕……」

 後ろを振り返ると、天使が蒼白い顔をして俺を見ていた。


「僕、僕のせいじゃないよ。そんなことしないもん。仕方ないんだもん」
「お前……」
「僕のせいじゃない!」


 ──ばさり。


 大きな音を立てて拡がったそれは……まるで、烏のように真っ黒だった。

 そう、真っ黒。


 黒くて大きな死神のような羽が、天使の背中から生えていた。


「いやだ……いやだいやだ、いやだ」

 顔を両手で覆って、この世の全てを拒絶している。

 天使は──いや、もう天使とは呼べないか。


 そいつの瞳から零れる涙だけが、きらきら輝いて綺麗だった。


   * * * 

 人がいずれ死ぬと言っておいて、許せなかったのはなぜだ?


 雨がまた降り出していた。俺はガラスの向こうを見て、その窓を開けて掌を差し出してみた。

 案の定、俺の掌は雫に包まれ、一体何をやっているのかと自嘲の溜め息をこぼした。


「母さん、薬飲む時間じゃない」
「あら、そうね。ありがとう」


 手術は成功した。体も回復した。
 俺の母さんが死ぬ時間は、どうやらまだ先だったみたいだ。


 ──僕のせいじゃない!


 黒く拡がったあの闇は、一体どこまで行ったのか。
 天か、地か。どっちにしろ俺はあいつには二度と会えなかった。

 会えるはずがない。羽を黒くしたのは俺だ。


 透明な屋根は頭上に降り注ぐ雨粒を弾き返し、またその骨の先からはぽたぽたと雫を垂らしていた。

 酷い雨だ。奴でさえも濡れてしまうんじゃないだろうか。


 ──それは杞憂か。


 何故なら、通りの先にひとつも濡れていないゴミ袋を見つけたからだ。


「なあ、傘に入れてやろうか」

 ゴミ袋がのそっと動いたかと思うと、黒い羽が開かれた隙間から見えたのは、変わらず白い顔だった。

 黒い天使は、俺の顔を見るなり立ち上がって飛び付いて来た。


「うわーん」
「だから抱き付くなって」
「帰れないよー……」


 羽をなくした天使は、空を自由に飛べなくなったらしい。

 そんなもん、俺の知ったことか。


「あんたがまだ疑ってるからじゃないの」
「え?」
「それが黒いの。神様とやらを信じてやれば」

 俺なんかの言葉に惑わされてないでさ。

「あってるんだろう、たぶん。信じてやれよ」

「……ねえ、神様のやってることって……」


 ──正しいの?


「んなもん知るか。俺は虫酸が走るね」
「そんな……」
「俺の産みの親は母さんだし、勝手に育ってきたし、これからもそうだろうな。神様なんて奴、結局何もしてねえよ」

「そんなこと、ないよ!」


 あと一息か。


「いーや。だって実際は動物達が進化したから今があるわけだし。海とか陸とか戦争とか、生き抜いてきたのは俺達だろ。全てを創ったなんて嘘っぱち、信じらんないね」

「嘘なんかじゃない!」
「じゃあ、神様ー」


 俺は空に両手を広げ、ずぶ濡れになるのも構わずに大声で叫んだ。


「俺を今すぐ殺してくれよー。見てんだろ?」
「やめてっ」
「調整とやらに、俺も入れてくれよ!」


「やめてってばああ!!!」


 一瞬、雨音が強さを増した。


 天使の体が濡れていく。


「神様は……嘘なんかついてない。間違ったこともしてない」

 みるみるうちに、黒い羽が濡れていく。


「神様が創らなきゃ、地球は産まれなかったのに」

 ペンキの塗料が剥げるように、黒が落ちていく。


「神様は、やらなくちゃいけないことをしてるんだ! 正しいんだ!!」


 そうして、泣きながら神を擁護する天使は、びしょ濡れになってその正体を露わにした。


「……わかってんならさ、そうやって言ってやれば」
「でもっ」
「帰れるじゃん。お前」

 天使は自分の背中を見て、その目を固まらせた。


 白く綺麗な羽が生えていたのだ。


 今にも大空へと羽ばたきそうに。


「あ……」
「ほら。帰れよ」

 そして見せてくれよ。
 天使がその羽を羽ばたかせる姿を。

 空へ空へと帰っていく軌跡を。


「ありがとう」


 日本中どこを探したって、天使に礼を言われたのは俺一人だけだ。


   * * * 


「……本日の日本時間午前三時に、大統領は終戦を宣言しました。両国は条約を結び、また……」


 テレビ画面に映るいつものアナウンサーは、抑揚のない声で、しかし嬉しそうにその結末を話した。


「続いてのニュースです。父親を殺害したとして逮捕されていた──被告は、全てを認めると同時に心からの謝罪をすると……」


 自分でも気付かないうちに笑みが零れていた。

「へえ」

 やるじゃん。お前、何か言ったんだろ?


 憎み合いが減るなら、代わりに病気とか増えてもしょうがないかもな。

 ……なんて思う俺も、あいつに感染したのかも。


「……なあ、神様。俺は痛くない死に方がいいな」

 ごろりと寝転んだカーペットの上で、結構真面目にそんなことを言ってみた。


 これからも俺はあいつを思い出すんだろうな。

 雨が降るたび。
 カップラーメンを食べるたび。
 悲しいニュースを見るたび。
 戦争が起きるたび。

 身近な誰かが、死ぬたびに。


   【...歪wing...】
     end















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