青いサンタクロース
朝、カーテンを開けるとそこは白銀の世界。今年もこの季節がやってきた。
トム爺さんはいつものように暖炉に火を入れると、待ってましたとばかりに裏庭へと急いだ。
その年の初めて白い手紙が届いた日が集会の日と決まっている。
その集会には必ず“制服”を着て行かなければならない。
トム爺さんは“制服”を探して、裏庭の倉庫に潜りこんだ。
ところがところが。
何十年も同じところに置いてあったモミの木箱が見当たらない。
その中に“制服”がしまってあるのだが、この狭い倉庫の中のどこにも無い。
トム爺さんが途方に暮れていると、そこへアン婆さんがやってきた。
「おじいさん、朝早くからこんなところでどうしたんですか?」
「いやなに、ちょっとサンタの服を探していたんだ」
「あら、今日はまだ11月じゃない。気が早すぎますよ。それにジェームズだって、もうそんな年じゃないでしょう?」
「そう言えば、そうかもしれないな」
アン婆さんはトム爺さんがサンタであることを知らない。
サンタ服は孫のジェームズのために買ったのだと、アン婆さんに言い訳してあった。
というのも、自分がサンタであることは誰にも明かしてはいけないのである。
だから今はとりあえず諦めて、後でもう一度探そうとした時だった。
「あ、そうそう。サンタの服なら擦り切れてボロボロだったから、春に捨ててしまいましたよ」
アン婆さんが家事をしている隙を狙って、トム爺さんは電話をかけた。
かけた先はサンタ御用達のサンタ服専門店「マロース」のジェドのところだ。
彼は同時に中堅サンタでもあり、ベテランのトム爺さんを慕っている。
「やあ、トムさん。降りましたね、雪。待ちに待った集会ですよ」
「こらこら、軽々しく言うもんじゃないぞ。誰が聞いてるか分からないんだから。それだから繁盛しないんだよ」
「それがですね、ついさっき、イベントで使うからあるだけくれ、って客が来ましてね。嬉しいことにもう店の中は空っぽですよ」
「それは本当かい?困ったね」
トム爺さんが事情を話すと、ジェドは一つ提案した。
「どうしてもって言うなら、無くも無いですよ」
「あるのかい?」
「展示用のがあるんです。ちょっと目立っちゃいますけど、それでいいなら今日渡すついでに一緒に行きましょうか?」
トム爺さんは二つ返事でOKした。
「何だいこりゃ」
その夜、ジェドのそりに乗って集会に向かっていたトム爺さんは、それを見て面食らった。
ジェドが持ってきたのは、青いサンタ服だった。
「だから言ったじゃないですか。展示用ですよ」
「しかし青は無いだろう」
「私の街のシンボルカラーが青なんです。街の祭りの時には、店の前に飾っとくんです。記念写真を取る人で店がいっぱいになるんですよ」
ソウラッ、ソウラッ
ジェドはトナカイの足を早めた。
「こらニコラ、サボってるんじゃない。今日は遅れちゃまずいぞ。ほらほら、脚並みを揃えて」
そんなジェドを横目に、トム爺さんは不安で胸がいっぱいだった。
悪い予感は的中した。
集会を開く大きな広場では、すれ違うサンタ達は笑うか驚くかのどちらかだった。
それだけならまだよかったが、ついには大サンタ長に呼び出されてしまった。
「君、その格好は一体どういうつもりなのかな?」
「すみません。すぐに準備できなかったもので」
「あのね、長年やってる君なら分かるだろう? この赤色は司祭服に由来する、言わばサンタの誇りなのさ。君はそれを侮辱したんだよ。それも伝統あるこのサンタ集会でね」
「すみません、すみません、すみません」
「謝って済むものならいいのだけどね、やはりここはそれなりの罰を与えなければならない。そういう決まりになっているからね」
そう言って、大サンタ長はどうしようか腕を組んで考え出した。
だが、決めかねているらしく、ウンウン唸るばかりである。
そこで脇に控えていた、仕事の出来そうな秘書官が何やら耳打ちすると、それはいいとばかりに大声で裁定を下した。
「よし、君には永久にその青いサンタ服で仕事をすることを命じる。羞恥の心を以て贖罪とせよ。自らの犯した過ちをあがなうにはちと足りないが、神はきっとお赦し下さるだろう」
「そいつは嫌がらせに決まってますよ」
ジェドはそう断言した。
「だってトムさんはベテラン中のベテランでしょう?大サンタ長をやってたっておかしくない。だからあいつはトムさんが役職にもう就けないように、傷を付けたんですよ」
「まあそう言うなって。私は大サンタ長なんて器じゃあないからね。世界中の子供達に夢と希望と幸せを運べればそれだけでいいんだよ」
そうしてその年から、トム爺さんは青いサンタ服で世界中を飛び回った。
サンタ服の色は違うけれど、子供達にプレゼントを渡すことができるだけで十分だった。
他のサンタからは白い目で見られたが、中には同情してくれる人もいて、これはこれで神様の贈り物なのかもしれない、そう思うようになった頃だった。
「青いサンタ現る?」
アン婆さんがトム爺さんに見せた新聞記事には、確かに青いサンタ服を着た、空を飛ぶ、ぼやけたサンタの写真が載っていた。
それはまさにトム爺さんだった。
記事によれば、どうやら東の方の国で撮られたらしい。
夜中でもこんなに綺麗な写真を撮られてしまうとは、トム爺さんも思ってはいなかった。
このことを知って、世界中の子供達に嫌われてしまうのではないかと、トム爺さんは気が気でならなかった。
しかし、実際はそれとは逆の方向へ進んで行った。
「青いサンタを見た人は幸せになる」
最初はこんな噂が立った。
青い鳥からの派生かもしれない。
何はともあれ、世界中のあらゆる子供達が、青いサンタの来訪を心待ちにするようになっていった。
これが巡り巡って、「青いサンタはプレゼントと一緒に幸せを運んでくる」だとか、ついには「青いサンタのトナカイの鼻も青い」という訳の分からないデマゴギーまでが流れた。
そんなニュースを聞く度に、トム爺さんは顔が赤くなるのだった。
ジェドは、あの頃のトム爺さんと同じくらいベテランのサンタになっていた。
今年、ジェドはある一人のサンタ研修生を受け持つことになった。
その研修生は、ある時ジェドにこんなことを尋ねた。
「ジェドさんって、青いサンタの2代目なんですよね? 初代の方はどんな方だったんですか?」
それを聞いて、ジェドはトナカイを急がせながらこう言った。
「そうだなぁ。あの人は、」
ソウラッ、ソウラッ
「普通のサンタだよ」