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真夜中の電話
作:弥生 祐


 ――ひどく暗い夜でした。月明りのかけらも見えない夜。闇というより黒一色と表するべきでしょうか。そんな真夜中に女性が一人、(たたず)んでいます。まだ若く、年の頃は三十前でしょう。どこか病的な雰囲気を漂わせる、白磁にも似た頬が透き通るほど美しい方です。

 傍らには所在無さげな電話BOXが、ポツンと寄り添っていました。最近では珍しい、薄いピンクのダイヤル式です。黒の世界にあって、文字通り異色な電話といえるでしょう。

 彼女は受話器をいささか慌てるように、手に取りました。逸る気持ちを押さえられないのか、続けてダイヤルを素早く回します。馴染みの番号なんでしょう。回す指先はよどみなく滑らかでした。

 受話器が軋みます。必要以上に、握る手に力を込めています。数回目のコール音。更に何度目かの後に、世界が広がりました。

『もしもし弥広(やひろ)、わたしだけど――』

『…………』

 呼び掛けに返答はありません。一瞬、番号を誤ったのかと彼女は視線を落としました。でも耳元では誰かの存在、その呼吸を捉えています。

『ねえ、弥広。いるんでしょ、わたしよ。ねえ』

『…………』

 沈黙という名の静寂。静けさを通り越した無音。時に過ぎる度合は、人の鼓膜を疼かせます。

 ――どうして返してくれないのでしょう。どうして声を聞かせてくれないのでしょう。

 彼女に根付いた疼きは、次第に大きさを増し、張り巡らした根の先から、困惑という芽を育てました。

『弥広、怒ってるの? ……そう、よね。こんな夜中に電話したら迷惑よね。 でも…… ねえ、声ぐらい聞かせてよ』

『…………』

 どうしたというのでしょう。彼女がかけた先は、十年来付き合って、先頃婚約を交したばかりの恋人です。母と自分しかいない彼女の生家に、婿養子となってくれた優しい恋人なのです。

 ――こんな風に無視を決め込むなんて。そう推測した時『……もしもし?』と、響いてきた焦がれる声に、彼女は安堵の息を漏らしました。

『もう、いるんじゃない。驚かせないでよ』

 疲労を感じる声は、きっと今日も、遅くまで残業していたのでしょう。染み入る声に涙が出てきそうになります。ですが続いた恋人の問い掛けに、表情が凍りつきました。

『あなた、どなたですか』

『え?』

『こんな時間に間違い電話なんて、迷惑ですが――』

『な、何を言ってるの弥広。 わたしよ、祐子よ』

 彼女は懸命に伝えます。夜中に電話をかけてごめんなさい。どうしても声が聞きたくなったの、と。しかし彼は冷たく言い放ちました。

『……あんた、誰だよ』

 少しトーンを低くした、訝しる声。覚えがあります。いつも彼女は横で聞いてました。自分にではなく、嫌な態度をとった赤の他人に向ける彼の声色。

『ねえ、怒ってるの。それとも――』

 彼女が咄嗟に思いついたのは、自分以外の誰か、他に交際する女性が出来たんじゃないか、という考えでした。

『――まさか別に好きな人が出来たの? ねえ、そうなの。そうなんでしょ、ねえ』

『…………』

『どうして、どうして―― わたしには弥広しかいなかったのに。どうして』

『……まさか、本当に祐子なのか』

『そうよ。さっきから何度も言ってるじゃない。うう……』

 分かって貰えて緩んだ気が、涙腺ではなく、のどを震わします。すぐに気付いて貰えなかった憤りは消えていきました。

『す、すまない、祐子。しかしおまえ、どこからかけて』

『……そうね。ええと、どこかしら、ここ。近くに電話BOXがあったから、多分どこかの国道沿いかしら』

 彼女は辺りを見渡しました。でも視界に入るものは、ただ一色、黒い色のみです。

『どこかしら。分からないわ』

『……多分、俺、分かるよ。そこがどこか』

『え、本当に。じゃあ、迎えに来てくれない。なんだか寂しくて、わたし』

『…………』

 一瞬の沈黙が再び生まれました。

『……すまない。俺はまだ、死ねない』

『え? どうゆう意味、それ。ねえ、弥広?』

 彼の言葉の意味が分かりません。まだ電話をかけたことを怒ってる、そう彼女は思いました。

『そうよね。ごめんなさい。こんな真夜中の電話だもん。やっぱり怒るのも無理ないわよね。でも…… でも……』

 きっと彼は明日も母の見舞いか何かで忙しいのでしょう。それでも彼女は電話を掛けたかったのです。声が聞きたかったのです。どうしても、どうしても……


まるでストーリーを考えずに書いてしまいました(構想五分ぐらい 汗)

文章表現に乏しい私では、面白みが無いですね。
まあ、気楽に読んで頂ければいいか……なんて自分で慰めたりして(爆)














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