1,ブラックコーヒーロマンス
また、始まったよ。
初秋。九月半ばのこの時期は、来るべき文化祭に向けての準備が忙しくなる時期だ。
有原誠が所属する部活・文藝部も毎年恒例の小冊子作りに追われていた。
文藝部の部員数は四名なのだが、部室にいる人数は六名だ。
有原誠と笠原愛は興味本位ながらも正式に入部しており、何の問題もない。
ただ、堂島礼二と伊藤悠里はサボりの場所として居座っている。部員数と室内利用者数が合わないのは、この二人が原因だ。
しかし、正直なところ、この二人は居ても居なくてもいい存在なわけで、部室を利用する者達からすれば、最も居てほしくない人物は、部長の太宰人志だったりする。
口煩いことで有名な人志なのだが、特にこの文化祭準備期間中が最も彼の言動を過剰にさせる。
理由は一つ、小冊子に掲載する作品を厳密に評価するからだ。
それ自体は良い事なのだが、人志の場合、それが少々行き過ぎているため、部員達の士気を下げる結果となっている。
中でも、部のみならず学校全体として見ても、重度の内気と言える折笠眞弓は常に人志から批評を受けている状態だ。
そして、今日も、また批評を受けていた。
「折笠君の小説はさ、文章の基本的な作法がなってないんだよ。これじゃあ、読者は見てくれないよ」
二台の折りたたみ式テーブルを並列させ、その上で殆んどのやり取りが行なわれている。
しかし、このチェックの作業の時だけは違う。
眞弓は自分の席を立ち、反対側に座る人志の元に歩み寄った。
直後、眞弓は人志から、数十枚の原稿用紙を突き返された。
書き直し、ということだ。
そう、チェックの作業の時は、部長の元まで手渡しするのが部の中の暗黙のルール。それ以外では受け取らないのだ。
眞弓は原稿用紙を胸に抱き締めた。
「ありがとうございました」
眞弓の内気が少しだけ解ける時がある。それは、人志から評価を受けている時である。
文化祭まで残り一ヶ月。
文藝部の小冊子に掲載する作品は、まだ一つも決定していない。
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