挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
Forgotten Saga 作者:水夜ちはる

第二章・英雄誕生

7/51

第4話

斜陽の王国に祭上げられた『英雄』の少女。
剣と銃と魔物と陰謀のダークファンタジー!

第二章・「英雄誕生」――史上最年少、史上初の女性騎士団長の誕生――
「だから言っているだろう。酔いつぶれたのではない、少し疲れて眠ってしまっただけだ」
 レルシェルはうんざりした声で言った。アンティウスらと酒を飲み、その席で眠ってしまった彼女だが、その言葉通り足取りははっきりしている。だが、アンティウスらはレルシェルの家まで同行を買って出た。
「まあそう言わずに。ご婦人をこんな夜遅くに一人で帰らせるわけにはいきませんよ」
 アンティウスは苦笑いをしながら、騎士らしい言葉で返した。
「私も騎士だ。それに私を襲える者がいれば面白い。存分に相手になってやるぞ」
 レルシェルは鼻息荒く剣を振り回す仕草をした。
「まったくだ。これを襲うやつがいたら、襲ったやつを心配しなきゃならねえ」
 ギャランが冗談交じりに言う。褒めているのかけなしているのかわからないが、レルシェルの癇には障らなかったようだ。しかし彼の言い様は、まさしく正鵠を射ていて、訓練をつんだ北壁騎士団の中でも彼やアンティウスと言った、腕に覚えにある者でようやく彼女の相手が務まるくらいである。単なる暴漢や強盗程度は、彼女なら楽に撃退できるはずだ。
 だが、アンティウスは彼が持つ騎士道精神と男性としての矜持が、若い女性であるレルシェルを、深夜一人で歩かせるわけにはいかなかったのだろう。
 レルシェルもその心配りを感じており、憎まれ口を叩きながらも、彼のことを好意的に思った。
 良い夜に良い酒に良い仲間だ。レルシェルは夜風を気持ちよく思った。
 その刹那だった。彼女は吐き気のような不快な感覚を覚えた。大会のときに感じた違和感を強烈に感じたのだ。
「なんだ、これは……」
 彼女は思わずうめくように言った。
「どうしました?」
 アンティウスが心配そうに声をかけたが、レルシェルは不快な感覚のする路地を凝視した。
 路地には何者かが蠢く気配がした。それにはアンティウスらも気付いたらしく、二人は警戒心を高めた。
 闇から染み出した顔はレルシェルの記憶に新しい顔だった。それは彼女を強く驚かせた。その顔は彼女の兄弟子リヒャルトのものだったからである。
 彼は力なく両手を下げ、極度の睡眠不足の時のように目は落ち込み、精気はなく顔色は青白かった。
 レルシェルは戦慄した。彼女にはそれが人間だとは思えなかったからである。
「おい、おまえ……こんな時間に何をしてる?」
 ギャランが不審に思って近づいた。警戒心は抱いていたが、不健康そうな青年を見て、彼は少し気をゆるめていた。
「よせ、『それ』に近づくな!」
 レルシェルは叫んだ。本能的な言葉はリヒャルトの名ではなく、「彼」とでもなく、「「それ」と呼んだ。
 ギャランは訝しげにレルシェルを見た。
 ギャランがリヒャルトから視線を外した時、だらりとさげた彼の左腕が動いた。
 ギャランはそれを視界の縁で捉え、反射的に振り返ろうとした。本能的に死の気配をそれに感じたからである。
 見るものを驚愕させるに十分な速さで、リヒャルトの左腕はギャランの側頭部を捉え、長身の彼を一瞬にして吹き飛ばしたのである。
 屈強に鍛えられたギャランの肉体も為す術もなく、路肩のがらくたを粉砕して横たわった。
 人の力ではない。それを目の当たりにした二人は、理屈抜きで理解した。
「レルシェル……」
 リヒャルトは暗い焔が宿った瞳で少女を見て、低い声でつぶやいた。
 その瞳は憎悪と嫉妬に塗れていた。その意志の強さにレルシェルは嘔吐感を覚える。
「リヒャルト……卿は……」
 少女は眉に力を込めて睨み返した。そうでなければ、彼の負の心に飲み込まれそうだったからである。
 レルシェルは闇を凝視して愕然とした。リヒャルトの背後には何人かの惨殺された、遺体が転がっていた。リヒャルトの口元にはその血肉の痕があった。彼が貪ったのは明らかだ。レルシェルは言葉を失った。
「なぜ、おまえが……おまえだけが……」
 リヒャルトの声は死者の怨嗟のようだった。人の声には聞こえない。
 彼は魔物化していた。


 リヒャルトはジェラールの門下で一番の実力を持った弟子だった。だが、レルシェルが入門した後、彼女は持ち前の才能と努力であっという間に兄弟子を超えてしまった。リヒャルトが彼女に対抗しようが、彼女の伸びは彼をあっという間に置き去りにしたのである。彼は愕然とした。才能の差に己に絶望した。そのうえ、類稀な美貌と名門の血、そして実力とカリスマを持つ彼女は門下の羨望を浴びた。対照的にリヒャルトは門下で存在感を失った。門下生を初め、彼女の周りのものは彼女に尊敬を抱いたが、彼は嫉妬と憎悪を抱いたのである。
 そして開かれた剣術大会。ジェラールの門下生ではレルシェルとリヒャルトが出場された。結果はレルシェルは優勝、リヒャルトは一回戦突破に留まった。彼の名誉のために記すとすれば、一回戦突破でも十分な名誉と言える。だが、それを完全にかき消す存在が、彼より七つも年下の少女だった。
 彼は夜空の星にたとえるなら、他の星たちに遜色のない彩の一つに慣れたであろうが、隣に居るレルシェルが月のごとく輝きを放っていたのである。


 彼の積もり積もった負の感情は彼を魔物にした。感情のみが彼をそうさせたわけではないが、その怨念に近い感情が、彼を魔物に変えたのである。
 彼の左腕は見る間に巨大化し獣のような、巨大な爪と鎧のような毛皮に覆われた。
「なんなんだ、これは……」
 アンティウスは掠れた声でやっと声を上げた。常識的な彼の頭脳の理解の範疇を超えている。
 リヒャルトが一歩二人に近づいた。殺意の篭った視線が突き刺さり、レルシェルは我に返る。負の感情に彼女は恐れおののいたが、我を忘れなかった。
「アンティウス! ギャランを頼む。アレの狙いは私だ!」
 レルシェルは自らを奮い立たせるように叫ぶと、腰の長剣をすらと抜いた。セリオスから賜った聖剣のレプリカである。セリオスの言葉が真実ならば、魔物と戦うに力を貸してくれるはずだ。
「しかし……」
 アンティウスは戸惑った。あの化け物をあいてにこの華奢な少女が戦うと言うのか。
「はやくしろ!」
 だが、レルシェルの強い言葉は彼を動かした。彼は吹き飛ばされたギャランの救出に向かった。
 同時にリヒャルトは奇声を上げてレルシェルに飛び掛った。
 その速さは恐るべきものだったが、対応の準備が出来ていたレルシェルはそれを紙一重でかわすことが出来た。空を切ったリヒャルトのツメは石畳をえぐり、轟音が響き渡る。
 アンティウスはギャランを起こしながらそれを見た。信じられない光景だ。
「まったく、自分の身体の頑丈さに惚れ惚れするぜ」
 ギャランは頭から血を流しながら、弱々しい声で言った。
「ギャラン、生きていたか」
「当たり前だ。しかし、まずいな。あれは、危険だ」
 ギャランは吐き捨てるように言った。一つ一つ発音した言葉は単純だが、それゆえに危機感をアンティウスに伝えた。アンティウスも目の当たりにした光景に危機感を感じていた。
 反応力に優れたレルシェルが、万全の体制で紙一重でしか避けられなかったのである。そして、体格に優れたギャランが木の葉のように吹き飛ばされたのである。早さも力も、あの魔物は桁違いだった。
 アンティウスは生唾を飲んだ。
 もしあの魔物に勝てないにしても、レルシェルは北壁騎士団にとって、いや王国にとって将来を渇望される人物だ。ここで死なせるわけには行かない。
「ならば俺が……」
 アンティウスは死を覚悟した。あの魔物と刺し違えるのも難しい。だが、レルシェルを逃がす時間くらいは作れるだろう。彼はそう思って剣を握った。
 彼が死へ一歩踏み出したとき、彼の肩を掴み、止める者がいた。ギャランではない。彼の背後にはいつの間にか赤い髪の青年が立っていた。少年の面影を残した彼は、アンティウスよりも若い。
「よせ。あんたがいってもやつを止められんし、あんたが死んでも、あいつは引くことをしないだろうよ」
 青年は静かに言った。魔物を前にしてきわめて冷静な男だった。
「君は……」
 アンティウスは驚いて問いかけた。
「フェデルタ・コンラード。あいつから、名前くらいは聞いたことがあるだろう?」
 赤髪の青年はにやりと笑って言った。
 剣術大会で魔物の気配を感じて以来、その気配を頼りに魔物を追っていたのだ。リヒャルトは完全に魔物に変化したわけではなく、その気配も途切れがちで彼も追跡に手間取っていたのだ。
「君がフェデルタ……」
 アンティウスはレルシェルが良く話していた、幼い頃から共に過ごした兄弟に似た友人の話を思い出した。レルシェルが武術で、自らと同等かそれ以上に高く評価する男である。アンティウスは若いが堂々としたフェデルタの風貌に、実力と自信を感じた。
 鈍い音に二人はレルシェルに意識を戻した。彼女もギャラン同様、リヒャルトの暴力によって吹き飛ばされた。
 少女は二人の前で激しく石畳にたたきつけられた。うつぶせに倒れた彼女の後ろで纏めていた髪が解け、乱れる。闇夜にこぼれる砂金ようだ。
 アンティウスは青くなった。ギャランですら、一撃でやられたのだ。
「おい、その程度か? 代わってやってもいいんだぜ? まあそのときは、その剣を陛下に返上し、お前の目は節穴だ、と言ってやることになるがな」
 石畳に這い蹲る少女を前に彼は見下ろして言った。不敵に笑うその表情に心配という色はなかった。
 レルシェルはむっくりと起き上がると髪をかきあげた。口を切ったらしく、血を吐き捨てると不満そうな顔でフェデルタを睨みつける。
「不要なことだ。今のでやつの動きはわかった」
 彼女のダメージは思ったほどではなかった。アンティウスは驚いたが、しなやかな肉体がその衝撃をうまく逃がしていたのだ。
「ほう」
 フェデルタは感心したような顔をして頷いた。レルシェルはやっとのことでリヒャルトの攻撃をかわしてるような印象だったが、その中で彼の動きを見切ろうとしていたのである。最小限の回避は反撃への好機に直結する。
「だが、お前は命のやり取りは初めてのはずだ。できるのか? あれは、お前の顔見知りだろう?」
 フェデルタの声色が変わった。人を食ったような軽さが消え、レルシェルを気遣う重さがあった。レルシェルはそれを感じて、視線を逸らし、リヒャルトへ向き直った。
「北壁騎士団の団長を、そして聖杯の騎士を引き受けた時点で覚悟は出来ている。無用の心配だ……たとえ顔見知りであろうが、友であろうが、民の、国の害になる者であれば、容赦はしない……フェデルタ、たとえそれがお前であってもだ」
 レルシェルは低く、感情を殺した声で言った。
 その声には強い意志と覚悟があった。フェデルタはにやりと笑い、首を縦に振った。
 ならばそれを見届けよう。それが彼の答えだった。
 レルシェルは剣を正眼に構えなおした。髪は乱れ、顔も汚れていたが、その眼光に衰えはなかった。
「リヒャルト! 卿がそのような姿に堕ちたことを、あえて問いはしない」
 レルシェルははっきりとした口調で語りかけた。リヒャルトは人間の姿が残された右手で狂ったように頭をかきむしった。
「うるさい。お前に何がわかる! すべて俺から奪い去ったお前に!」
 リヒャルトには自我が残されていた。だが、その言葉は理性では御されていなかった。
「闇に堕ち、人に害をなすお前を許すわけにはいかない!」
 レルシェルは鋭く叫び、気合を発した。それが呼び水となって、二人は再び戦闘に入った。
 やはり圧倒的な速さと力でリヒャルトが襲い掛かる。
 負の心が人を魔物に変えると噂されていたが、その程度のことは人には誰しもあるものだ。嫉妬や怨恨を持つ者に、魔物の上位の存在である魔族が接触し、人を魔物に変えていくと言う。だが、それはフェデルタを初め聖杯の騎士ですら、推測の域を出ていない。リヒャルトもまた、魔族と出会ってしまった不幸な犠牲者なのか。
 レルシェルとリヒャルトは五回ほど打ち合った。とはいえ、力の差がありすぎるため、レルシェルはまともに受けることを避ける。
「ちっ……あいつは」
 フェデルタは舌打ちして忌々しそうに言った。
 レルシェルはリヒャルトの動きを見切っていたはずである。リヒャルトの動きに変化はなく、レルシェルには反撃の機会があったはずだ。だが、彼女は反撃を行わなかった。行いたくなかったのだ。その甘い考えとリスクは、命のやり取りをする上で忌避すべきことだった。
 そしてフェデルタはレルシェルが何を考えているのかわかった。そしてその愚かしい行動は彼女の命に関わるかもしれない。そう思ったとき、彼は無意識に腰の銃へ手を伸ばしていた。
 レルシェルの新緑の瞳が鋭く輝いた。リヒャルトの左腕の爪は彼女の左肩を捕らえた。深くえぐったそれは肉を削ぎ骨をきしませた。レルシェルは激痛を感じ、一瞬遅れて血飛沫が舞った。
「レルシェル!」
 フェデルタは叫んだ。予感をしておきながら、自らの決断の遅さを呪った。
「くそっ……またしても届かない」
 だが、苦しげな声を上げたのはリヒャルトのほうだった。レルシェルの剣は同時に彼の胸を貫いていた。それは致命傷だった。
「こんな姿になってまで、俺は君に届かないのか」
 リヒャルトは僅かに瞳を悲しみに揺らした。
 レルシェルはリヒャルトの爪を避けようと思えば避けられただろう。それを彼女はしなかった。それが彼女の最後の情けだったのか。だが、リヒャルトの今の力を持ってすれば、その半身を砕かれていた可能性もある。
「リヒャルト……もし卿が魔物などの力に手を出さなければ、ここで倒れていたのは私かもしれなかった」
 レルシェルは悲しそうにつぶやいた。彼女の言葉が真実かどうか、そんなことはどうでも良かった。その言葉には、彼女の優しさと希望が込められていた。
 リヒャルトは天を仰ぐように嘆いた。聖剣の力のためか、魔物に堕ちた者の理か、レルシェルにはわからなかったが、リヒャルトは闇に溶け込むように灰となって消えた。
 レルシェルは手に残された感触だけがはっきりとして、呆然と立ち尽くした。
「すごい……」
 アンティウスは感嘆の息を漏らした。
 しばらく立ち尽くしていたレルシェルの身体が、糸の切れた操り人形のように不安定になって、仰向けに傾いた。
 フェデルタは慌てて駆け寄り、彼女を抱きかかえる。彼女の左半身は、リヒャルトに抉られた傷で真っ赤である。破れた衣服から覗く、か細い肩が酷く頼りなげだ。彼女が体勢を崩した理由は貧血だった。
「フェデルタ。どうだ、見たか?」
 彼女は青い顔で勝ち誇って微笑んだ。安心していいのか悪いのかわからないような表情に、フェデルタはため息を付く。
「血だらけでどうだもあるか。勝つならもうすこしましな勝ち方をしろ」
 フェデルタは投げやりに言った。レルシェルは苦笑いをした。
「相変わらずお前は厳しいな。まあわざわざこうやって出向いてくれたんだ。たまには従者らしく屋敷まで送ってくれ」
「だれが従者だって?」
「お前に決まっているだろう? たまには仕事をしないと、タダ飯食らいと皆に言ってやる」
 レルシェルは力なく笑うと、そのまま眠るように目を閉じた。失血により意識を失ったのだ。このまま長く放置するわけには行かない。フェデルタは少女抱えて立ち上がった。
「レルシェル様は大丈夫なのか?」
 アンティウスが心配そうに覗き込んできた。
「大丈夫だ。意外とこいつは丈夫に出来てる。それと、そっちの大きいのは自分で歩けるか? うちに良い腕の治療術を使うヤツが居る。ついでに診てもらうといい」
 ギャランはよろよろと立ち上がった。まだ脳震盪が治まりきれて居ないらしい。
「何とか大丈夫だ。やっかいになるぜ」
 ギャランが言うとフェデルタは頷いて、リュセフィーヌ家の屋敷へ歩き始めた。外傷は酷いが、骨には達していない。セリカなら問題なく治療できるだろう。傷の大きさに多少ヒステリックな騒ぎになるかもしれないが……
 血と誇りに塗れて眠るレルシェルの顔を見つめ、フェデルタは思う。この少女は人の上に立つには、優しすぎるかもしれない。自らが傷つくことを恐れなさ過ぎるかもしれない、と。
「こいつは……英雄の卵だ。いやもう孵化しているかも知れないな。だが……」
 フェデルタはぼんやりと心配を口にした。
 歴史が語る英雄は、常に血に塗れている。彼らが虐殺者の汚名を着ないのは、その流した血に見合うだけの偉業をなしとげたからだ。数々の英雄たちがどんな思いで血を流していたのかは歴史書は語らない。
 顔見知りとはいえ、魔物に堕ちたリヒャルトを一人討ち、呆然とする背中が脳裏に焼きついている。
「だが、我々は……このルテティアは彼女を必要としている。情けないことだが、彼女を英雄として見ることで、未来に光が射した気分になっているんだ」
 アンティウスもフェデルタが途中で止めた言葉を察した。
 フェデルタも頷いた。彼の言うことはわかる。彼の言葉は大衆の思いを端的に纏めていた。
「まあこいつもその気になっているみたいだし、小さな英雄の誕生を俺たちは見守るしかないのかもしれないな」
 フェデルタの言葉に、アンティウスは完全に賛同しなかった。
「少し違うな。この人は確かに英雄になる資格がある。だが、英雄は神ではない。人間だ。人間は完璧じゃない。この人を護り支え、この人に足りないところ、この人の手や目に担って補う人間が必要だ。俺はそんな人間になりたい」
 フェデルタはアンティウスの言葉に返事を返さなかった。
 なるほど、アンティウスのような人間を惹きつけるのも英雄としての素質の一つかもしれない、とフェデルタは思う。
 レルシェルは優秀で潔癖で公正で器量の大きい人間だ。だが、どれも完璧ではない。その不完全さが彼女に人間的な魅力を感じる所以となる。フェデルタ自身、彼女を放っておけないのはそのためだ。
 この腕の中で眠る小柄な少女は、幸か不幸か英雄の道を歩き始めた。
 幼き頃より共に過ごしたフェデルタは、アンティウスと気持ちを同じにしていた。彼女が進む道が茨であれば、それを払おう。彼女が先頭に立つと言うならば、その背中を支えよう。彼は言葉の多い人間ではなかったが、静かに決意を腕の中の少女に誓った。

 フェルナーデ歴四一七年の時点で、レルシェルを英雄と呼ぶには少し足りないと言えた。だが、外患内憂にあえぐ王国は民衆の不満を逸らす英雄が必要だったし、民衆もそれを望んだ。かくして小さな英雄は誕生したのである。
 それはレルシェルと言う才能と魅力に溢れた人間だった。時代が作った英雄と言えたが、彼女は歴史の英雄群と比べ、他を圧倒するような才能を有してはいなかった。その彼女が本当の英雄となりえたか、それはもう暫くの時間と物語が必要だろう。

第二章・英雄誕生<了>
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ