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Forgotten Saga 作者:水夜ちはる

第四章・廃都の残滓

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第2話

斜陽の王国に祭上げられた『英雄』の少女。
剣と銃と魔物と陰謀のダークファンタジー!

第四章・「廃都の残滓」 ――十六年前に滅亡した錬金術師の都に現れる亡霊とは
 ヴァルディールは渓谷の最奥にあり、その渓谷の底には渓流が流れている。
 その渓流は大小の堰が無数にあり、大きいものは大人の身長の五倍ほどのものもある。その渓流沿いの細道が、ヴァルディールに行き着く唯一の道である。
 かつては多くの人が往来した形跡が残されている。ところどころに整備された階段や人為的に削られた岩壁が見られた。かつてヴァルディールを包囲したフェルナーデ軍もここを通ったのであろう。だが、確かに左右を断崖絶壁、人が一人通るのがやっとの街道、いくつもの高い堰は難攻不落の城そのものだった。ここを攻める側は、恐ろしく苦戦を強いられたであろう。
 フェデルタらも過去フェルナーデ軍が悪戦苦闘を強いられたその道をたどっていた。彼らは何者かに襲われた後、日が昇るのを待ち、その廃道に出て先を急いだ。彼らは誰かに見られている感覚をずっと持っていた。だが、彼らはそれに気付きつつも先を急いだ。昨晩の襲撃によって、彼らは敵対的な誰がいることを知っていた。だが継続的な襲撃はなく、彼らの動きは観察にとどまった。フェデルタらは彼らに注意しつつも、前進することに集中することができたため、夕刻にはヴァルディールの城壁が見える森へと進むことができた。
 ヴァルディールの城は左右と背後を険峻な岩壁に囲まれ、城壁のある前面にはまとまった平地が存在する。平地はかつては農地であったのだろう、身を隠す場所もなく、高い城壁から侵攻する敵を狙い撃ちにするに効果的だった。
 道中からして天然の要害であるのに、城構えも堅城である条件に適っている。
 フェデルタはここを攻めたときのリュセフィーヌ候のしかめっ面を想像に禁じえなかった。
 だが彼ら二人にとっても、この城内に何者かが居ることを予想しており、そして二人はまねかねざる客だ。どう城内へ入るか、それが課題だった。
 そこでマリアは妙案をフェデルタに提案した。


 そこはかつてヴァルディールの王宮だった場所だ。
 十六年と言う月日は、かつて栄華を誇った王宮から栄光を錆びさせていた。国家の規模に対し、十分すぎる資金を費やして建てられたそれは、かつてのヴァルディールが経済的に反映していたことを示している。
 そこを彼らはねぐらにしていた。
「しかしあいつらは何者なんだ? 訳が分からねぇ」
 無精髭の中年の男が言った。大柄でいかにも腕っぷしが自慢そうな男だった。
「頭、そんなことはどうでもいいじゃねえすか。あいつらなかなかの物を持っていましたぜ、それだけでも十分金になりますぜ」
 彼の手下であろう、若い男が言った。
 マリアの提案とは、彼らに投降することであった。その提案にはフェデルタも驚いたが、主導権はマリアにあったしフェデルタに代案はなかったため、彼女に従った。
 二人は堂々と城壁に進み、山賊達に囲まれた。城壁の上からも包囲された二人には無抵抗で捕縛されたのであった。
「女のほうは上物だったな。あれも高く売れるぜ」
 頭の男が下品な笑いを浮かべた。
 そこへ赤茶けた髪を持つ、背の高い男が現れた。
「よせ、リカルド。我々は十分にヴァルディールの財宝を得たではないか」
 彼は山賊の頭に対して鋭く言った。その声は堂々としたものであり、威圧感すらあった。
 彼は精悍な顔つきで部屋を見わたした。
「みんな揃っているな」
 彼は仲間の顔全員が居ることを知ると言った。
「おい、アーヴェント……俺たちはな、お前と仲間になったがな、お前の手下になったわけじゃない。それをよく理解しているな?」
 山賊の頭、リカルドは立ち上がり赤茶けた髪の男に絡んだ。アーヴェントは目を細め、彼を見つめた。
「わかっている、怒るなリカルド。だが、あの二人の件は私に任せてくれないか」
 アーヴェントは静かに言った。静かな声だが、どこか人を従わせる力があり、リカルドは反論できなかった。
「集まってもらったのは他でもない。さっきも言ったがあの二人は私に任せてもらいたいのと、今後についてだ」
 アーヴェントは皆を見渡して言った。山賊達は十数名の集団であり、年齢や出自は皆ばらばらである。そのうちのほどんどがリカルドを頭に持つ集団だった。
「しかたねぇ、あの二人のことはあんたに任せるとするよ」
 リカルドは舌打ちすると、座っていた席に戻った。彼もまた山賊達を率いてきた男だ。それなりの度量があった。
「で、今後のこととやらだが、あの宝物庫のことだな?」
 リカルドが言うと、アーヴェントは頷いた。
 リカルドの言う宝物庫とは、この宮殿の地下最下層にある封印の施された扉のことを言う。巨大な石造りの扉に魔力的な封印が施されており、彼らはそれを開けようとしていた。
「あんたのところのレオニードの魔法でもどうにもならなかったんだろう? どうするつもりなんだ」
 アーヴェントの横にいた、中年の魔法使い、レオニードは神妙な顔をした。アーヴェントは三十を少し超えたくらいの容姿だが、レオニードはそれより十ほどは年を取っているだろうか。
「あれは魔法の術式ではないかもしれない。ヴァルディールはかつて錬金術が盛んだった都市だ。錬金術による封印かもな」
 アーヴェントの言葉にリカルドはため息をついた。
「ならお手上げじゃねえか。まあ俺たちは他に金目のものが結構あったからよ、それなりに稼がせてもらったんでいいんだが、あんたらの本命はその中だろ?」
 リカルドの言葉にアーヴェントは頷いた。
「それであの二人だ。あの二人のうち女は王宮錬金術師だ」
 アーヴェントが言うと山賊達がざわめいた。
「なるほど、それであの女に開けさせるということか。しかし、それだとフェルナーデの連中も、宝物庫の中身を狙っているということになるな」
 リカルドの言うことはもっともだ。
「だが、フェルナーデが動くとしてもあの二人が情報を持ち帰った後だろう」
 アーヴェントが返した。
 たしかにとリカルドは頷く。
「と言うことは、かなりのお宝が眠ってるってことか」
 リカルドはにやりと笑って言った。アーヴェントは彼から視線を外すと、煩わしいものを振り払うかのように言う。
「宝はすきにするといい。ただ二つ約束をしてもらおう……」


「まったく、大した妙案だぜ」
 フェデルタは呆れた声を上げた。その声量は大きく、隣の牢屋のマリアにもよく聞こえた。
 二人は城内にある、牢獄に入れられていた。
「すみません、でも無事城内に入ることはできましたね」
 マリアは悪びれず言った。
 ユリアンが魔物化した事件のときも、ユリアンを追ったフェデルタたちに隠れてマリアはユリアンを追っていたし、この女は食えないとフェデルタは思った。
「無事……か。無事入れたからと言って無事出れられるとは限らないぜ。下手すりゃ殺されていたかもしれない」
 彼らは武装を解かれていた。フェデルタの持っていた剣や銃はもちろんのこと、マリアが忍ばせていた短剣や数々の薬品は奪われていた。二人の素性は山賊たちに知られたことになる。
「あのとき、あなたが言ったわ。彼らに殺気がなかったって。普通の山賊とは違う、その考えは変わらないでしょう?」
 確かにマリアの言うことはフェデルタを頷かせるものである。しかしそれで納得がいくかと言われれば別だ。フェデルタは文句を連ねようとしたが、外部からの人の気配を感じて口を閉じた。
 数人の男たちが二人の牢の前に歩いてくる。
 その中心にいる赤茶の髪の男、アーヴェントはその中でも存在感があった。この男がリーダーか。フェデルタは本能的に感じた。
「フェルナーデの近衛兵と王宮錬金術師の二人組とはな……フェルナーデの中枢にいるべき人間がなぜこんなところにいる?」
「それを持ち物であっさりと見抜くあんたもあんただな」
 フェデルタは皮肉っぽく言った。フェデルタもマリアも華美なものを持っているわけではない。近衛兵や応急錬金術師の紋章などが入った持ち物は確かにあったが、普通の山賊達が普段目にするものではない。
 アーヴェントはにやりと笑うと、一歩前に出た。
 フェデルタとにらみ合う。
「質問をしているのはこちらだ。立場も分かっているだろう?」
 簡単な挑発には乗ってこない。確かにただの山賊ではないようだ。
「俺たちは王に命じられて、幽霊騒ぎの真相を調べに来ただけさ。と言っても警察に引き渡そうなんて思っていない。俺たちはそういう役目じゃないからな」
 フェデルタは素直に言った。フェデルタの目をじっと見たアーヴェントは眼光を緩めなかった。
「俺たちの仕事は真実を知り王に報告するまでだ」
「報告を受けたフェルナーデ王は、軍を率いて我々を討伐しに来るか?」
「さて、それはどうだろうな。俺たちはあいつと脳を共有しているわけじゃない」
 フェデルタは笑って、左手の人差し指で自分のこめかみをつついた。
 王を、自らの主君を「あいつ」と呼ぶ彼に、アーヴェントは軽い驚きの表情を浮かべた。近衛兵と言えば、王の身近に控え忠誠心の高い者が配されるはずに関わらずだ。
「あれは山賊討伐に精を出すような勤勉な王ではない……もっとも、あんたらがただの山賊でないなら、話は別だ」
 フェデルタは含みのある声で言った。
 彼は確信していた。アーヴェントの立ち振る舞いや、近衛兵の紋章を見破る知識、ただの山賊だとは思えなかった。
「なるほど、もっともだ」
 アーヴェントは苦笑し、フェデルタの言を暗に認めた。
「しかし、我々が用があるのは君ではなく、彼女のほうでね」
 アーヴェントはそういうと、もう一つの牢を見た。その牢の現在の住人はマリア・ベネットである。
 マリアの大きな瞳は、すでにアーヴェントを捕らえており油断なく見つめていた。
「と言うわけで、王宮錬金術師殿。我々は一つ課題を抱えていて、錬金術師であるあなたに一つ協力を願いたい」
 アーヴェントは柔らかな声で言った。それは女性に対する礼儀をわきまえていた音色だ。だが、牢の中の彼女に対してはやや皮肉っぽくも聞こえた。
「持ち物だけで私たちの身分を決めるというのはどうかしら。もしかすると私たちの持ち物は、本来の持ち主から奪ったものかもしれない」
 マリアは警戒心の強い声で言った。
「それはないだろう? あれだけ無駄なく錬成必要な薬品だけを効率よく持っている追剥などいない。それにあなたはまだ薬品を隠し持っている。いざとなれば、この牢を錬金術で破壊できるくらいはね」
 アーヴェントは笑って言った。
 マリアは彼の慧眼に驚いて肩をすくめた。彼の言うとおりだったからだ。彼女は反論するのをやめた。
「わかったわ。それで私は何をすればよいのですか?」
「この宮殿の地下にある宝物庫には、封印が施されていて錬金術によるものだとわれらは推測している。だが、我々に錬金術を使える仲間はいない。是非あなたには協力していただきたい」
 アーヴェントの要求に断る余地はない、マリアはそう思って首を縦に振った。
 アーヴェントはレオニードに目配せし、牢の鍵を開けさせた。マリアはゆっくりと牢をでるとアーヴェントに言った。
「彼の安全を約束してください。約束していただけるのなら、私にできる範囲で協力いたしましょう」
 マリアは厳しい口調で言った。ならず者との取引だ、油断はできない。
「わかった。約束しよう。私はこの者と少し話がある。レオニード、彼女を頼む」
 アーヴェントはしっかりと頷くと、レオニードにマリアを任せた。レオニードは深く礼をした。この二人は主従の関係にあるようだとマリアは思った。
 レオニードがリカルド以下山賊を率いて地下牢から消えると、アーヴェントとフェデルタの二人が残された。
「俺に何の用があるっていうんだ? 俺はあいつと違って錬金術は使えないし、財宝を目利きすることもできない」
「いや、宝物庫のこととは関係がない。君はあの時私の一撃を受け流した。なかなかの腕だ」
 フェデルタはアーヴェントの顔を見た。昨夜の襲撃のときのことである。襲撃してきた亡霊の正体は彼だったのだ。
「ほう……あれはあんただったのか。殺気がなかったのは何故だ? まさか腕試しをして、スカウトするためじゃないだろ?」
「そうだな、そのつもりはない。殺す気はなかったが手加減をしたつもりもなかった。それを君は避けたのだ。正直驚いた」
 紙一重だった、とはフェデルタは言わなかった。それは若い彼の矜持だった。
「まあそれはともかくだ」
 アーヴェントは懐から銃を取り出した。大型の装飾がついたフェデルタの銃だ。
「これは君のものか?」
「そうだが。あんたたちが奪ったものだろう?」
「そうだったな」
 フェデルタは怪訝そうに返し、アーヴェントは軽く笑った。笑い、そして牢のフェデルタにそれを投げ渡す。フェデルタは驚いてそれを受け取り、アーヴェントを見た。
「どういうつもりだ?」
「弾は抜いてある。それよりこれをどこで手に入れた?」
 アーヴェントの問いは不思議なものだった。確かにフェデルタの銃は装飾性が高く、そもそも銃自体が高価なものだったから、高く売れるに決まっていた。山賊にとって出自などどうでもいいだろう。
 フェデルタは銃を見つめ少し間を置いた。
「ずいぶん昔に貰ったものだ。そうだな……俺がずっと子供のころに」
 フェデルタは真実を言った。相手が信じるかどうかは別としてうそを言って意味はないと思ったからだ。
「そうか……それはこの世に二つとしてないものだ」
 フェデルタははっとしてアーヴェントの顔を見た。
「そしてそれは私のこの剣をと対をなすものだ」
 アーヴェントは腰の剣を手に取り、その柄に刻まれた紋章を見せた。それはフェデルタの持つ銃と同じ、四枚羽の鷹をかたどったものだ。そしてそれはヴァルディール家の家紋である。
 フェデルタは不覚にも我を忘れた。アーヴェントが剣を持ち立つ姿が脳裏によみがえる。それはフェデルタが幼き日、生まれた地を、生まれた家を永久に失ったその時である。それはヴァルディールの歴史が幕を閉じた日である。
「まさか……兄さん、なのか……」
 フェデルタは呆然と、その前にある事実を口にした。
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