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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

私は何だ?

 空から赤紫に染められた涙がとめどなく溢れてくる。化学物質に汚染された雨が、灰の降り積もった寂れた大地に降り注ぐ。真っ白な地面が薄っすらと染色されていった。じんわりと、体を侵食し、むしばんでいく病魔のように。視界に映るのは火山灰に埋め尽くされた焦土と雷と共に浴びせられるワイン。空気中を漂う極最小単位の塵の群れによって、光は遮られ、薄暗い闇が地表を支配している。汚れだけで埋め尽くされた世界――その中で、一際異質な存在がいた。
 光の侵入が許されなはずの闇の中で、思わず目を逸らさざる負えないほどの眩さ。人の形を模した光の集合体が、そこに存在していた。
 光線が紡ぎだす像は、赤紫の染まった雨に触れない。汚れを拒絶するかのように、自身が保持する圧倒的熱量によって、紫色の液体を次々に蒸発させ白煙へと還す。人が歩くかのように形を変え、迷うことなく突き進む。その度に虚無の空間から青白い火花が散る。大気上の塵は神聖な光に触ることすら許されずに、圧倒的熱量によって燃え尽きてゆく。
――コレガ……ヒトトヤラノツミカ
 声を発したかのように空気が震える。無機質で、抑揚のない不気味な声。およそ生命体がだすとは思えない平たい音。頭部と思われる光の球体には三つの穴。その内口と思われる一つから、言葉が発せられたのだ――光でありながら、意志を持つかのように。
 声の主は輝かしい脚部をひたすらに上下する。目前の光景ですら非常に不鮮明な中、燃え尽きたなれの果てであるはずの灰に火をともしながら、光で構成された何かはわき目も振らずに直進する。油が熱せられ、跳ねるような音が真っ白から赤に灯された大地から聞こえてくる。――突然、立ち止った。
 ぐるりと、先端に備え付けられた球体を胴体へと繋ぐ、恐らく首と思われる個所が回る。必然、眩い人間を思わせる何かの視線もそちらへと向けられる。そこに在ったのは……さびれた建物。コンクリートを元に作られたそれは、所々老朽化し、崩壊を始めているが、いまだに建築物としての役割を果たしているように見える。
 光の像は、動かない。ピクリとも動かず、彼は目前のコンクリートの建物をにらみ続ける。奇妙な緊張が空間を支配していく。ちかちかっと、だれもいないはずの廃墟からごく小さな点滅が見えた――刹那、緑色の線が人を模した何かの頭部を吹き飛ばす。
「やったか……」
 誰もいないはずの空間から人の声が紡がれる。それを皮切りにしたかのように、ぞろぞろと物陰に潜み隠れていた者たちが次々と姿を現す。薄汚れ、糸がほつれた粗雑な服。色調は水色に統一されており、豊かさのかけらも感じ得ない。だからこそ、手にもつL字型の硬質な物体がやけに目立つ。両手で抱えられたそれは、先端に緑色の炎を灯し続け、人差し指にかけられたフックが引かれるのを今か今かと待ち望んでいる。レーザー兵器を所持した人間たちは、頭部が消え去り動作を失った標的を囲む。一瞬の静寂、しかし、絶対的優位にいるはずの彼らには時の流れがやけに遅く感じただろう。男たちの体から汗がとめどなく溢れていた。金属を握る手がしめりで滑りそうになる。しびれを切らしたかのように武装した男の一人が手をあげた。一斉に、引き金に掛かる指に力がかかる。
――オロカナ
 だが、緑の光線は空虚で交差した――何も貫かずに。頭という生命活動を維持するにおいて最も重要な部位を失ったはずの存在が、男たちの目前から消え去ったのだ。何の前触れもなく、瞬く間に。獲物を狙っていたはずの狩人たちの顔がゆがんだ。
――キサマラハ、カリウドデハナイ
 バタッと何かが倒れる音が響く。男たちは一斉に銃身を倒れた仲間のそばに立つものに向ける……向けたはずだった。
 何もいない。
 正確には、人型の炭が二つ、黒煙をあげながら地面に力なく倒れこんでいるのは見える。けれど、砲口を向けるべき肝心の的が既に姿を消している。
――キサマラハ、サバカレルモノ
 冷徹な声が男たちの鼓膜を揺さぶり、温情のかけらもない宣告が獲物の心臓をわしづかむ。人が倒れる音とともに、鮮血が舞う――いや、血を噴き出すことすら許されない。鞭のようにしなる光の腕によって首を切断されると同時に、傷口が光熱によって強制的にふさがれたのだ。
――シュシン“エルザ”ニヨリウミダサレシワレラ、“サバキノシト”ニ、シヲセンコクサレルタメダケノソンザイ
 組織的な動きは完全に崩壊していた。姿を追うことすらできずに、味方が破竹の勢いで数を減らしていく。誰からの指示もなく、抵抗すらできない状況で、次に火に包まれるのは自分ではないかと、次に真っ二つに切断されるのは自分ではないかという恐怖のみが獲物たちの心を締め付ける。
――コノホシヲケガシタツミ、イノチヲモッテツグナウガヨイ
 数の大半を失ったところで、怯えきったウサギどもはようやく疾風の如く駆け抜けていた狩人であるトラの姿をとらえる――いや、裁きの使徒と自らをよぶ光が動きを止めたのだ。銃をかまえる人間たちの前に審判を下すものは悠然と佇む。的をとらえきれなかった銃が火を吐くには絶好の好機である。しかし、彼らは撃たない――違う、撃てない。光の腕の先にある何かから目を離せないのだ。
 人間たちの眼前に現れたものは太陽――周囲に差すごく僅かな光線が一点に集められていく。恒星は見る見るうちに巨大化していく。薄汚い男たちは震える体を必死に動かし、逃げ出した。扱うエネルギーの大きさ、いや、もはや規模が違う。使い物にならない銃を投げ捨て、なりふり構わず、彼らは走り出す……遅すぎた。
 慈悲なき光の鉄槌が、逃げまどう小さな存在に振り下ろされる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 裁きを終えた使徒が、円盤状の巨大な窪みの上に舞い降りた。何もない……本当に何もない。人間たちが隠れ潜んでいた廃墟、銀色の光沢を見せていた兵器、膨大な熱量によって炭化した死体、光の鞭によって切り刻まれた人間の体、全てが灰に還った。
 役目を終えた光の集合体。けれど、彼はその場から動こうとしない。何もないはずの周囲に意識を払っている。
「喰らえ――」
 背後から勢いよく棒で突かれたような衝撃が使徒を襲った。彼の目と思われる二つの空洞が広がる、驚きのあまりにだ。何もかもが塵へと還ったはずの空間で、警戒しいていたにも関わらずに、感知することもできずに腹を緑光の剣によって貫かれたのだから。
場が凍結する。数瞬の静寂が二人の間を流れる。
――ヒカリニカタチガアルトオモッタカ?
 使徒が消える。同時にビームサーベルを突き刺していた男――既に葬られた人々の指揮をとっていた若者の後ろをとり、先程受けた傷など微動だにせず、切り裂くや否や、瞬く間に傷口を塞ぐほどの光熱を有した光の鞭を首元に運ぶ。
 若者は動かない。逃げることもせず、抵抗することもなく、生きながらえることを諦めたかのように。
――ワレワレノイシハテンノイコウ……キサマヲツミヲツグナエ
 その時、若者がピクリと動いた。
「光が自我を持つことがあると、本気で思っているのか?」
 振り下ろされようとしていた使徒の手が、硬直する。目の前の罪人の言葉を彼は理解することができなかった。使徒の口が開かぬうちに、若者は次々と言葉を放つ。
「お前らはエルデによって生み出されたと、この星を汚した人類を滅ぼすために生み出されたと、本気でそう思っているのか? 何も疑わずに?」
――アルジノコトバヲウタガウヨチナドアルハズガナイ!!
 抑揚のなかった言葉に、感情がこもり始める。それは焦り。自分の内に抑え込まれてきた何かが弾けようとしていることに対する恐怖。
「……ならば、何故お前たちは私たちの前でわざわざそれを告げる!!」
 使徒の表情が、苦痛にゆがむ。あまたの兵器をものともしない体を有していても、内からの崩壊にはもろい。思えば、彼には自分の存在意義を人間どもに伝える義務などない。理由など伝えずとも、ただ殺せばそれですむ話なのだ。だが、彼は語り続けた。まるで、自分に言い聞かせるように。それも無意識のうちにだ。
「お前のその記憶は……いつわ――」
『黙れぇぇえええええ!!』
 若者の体が閃光にまみれ、けし飛ぶ。役目を今度こそ終えた使徒。だが、彼の心に生じた疑念は、抑えきれないほど膨れ上がっていた。
「主神、エルザよ」
 赤紫色の雲に覆われた空に向かって、彼は吠える。自己の中にあった確かな存在意義が崩れ始める中、彼は答えを求めざる追えなかった。
「私は、何だ……私という存在は、一体何だ!?」
――疑うことはありません
 突然、彼の頭の中に声が響く。はじめて聞く、けれど、やけに耳になじむ音だと彼は思った。
――あなたは私エルザの使徒。それが『当り前』。それが『真理』
 何故かは分からない。だが、彼の心の内にあったドロドロとした疑念がスーッと引いていく。
――呟きなさい……それが『当り前』 『当り前』
「当たり前、あたりまえ、アタリマエ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「マザーユニット“エルザ”による初期化フォーマット完了。個体の実験を再開します」
 ナビゲーションルーム内を、無機質な音声が通る。画面に映し出された人を模した光は、再び人を殺すために活動を再開した。
「何故、疑念しかもたぬ」
 白衣をまとった男の一人が、椅子に腰かけながら呟く。
「当初の目的である人に対する殺意をもった兵器を生み出すばかりか、設定に対する疑念のようなくだらん感情しか発生しない……何故だ?」
「良いじゃないですか、気長にやれば」
 傍らに立つ男が相槌を打つ。
「失敗したらまた初期化すれば良い。なにせ「当たり前」って言葉を受信するだけで設定した情報を信じて疑わない手具の棒に逆戻りなんですからな」
「「当たり前」は魔法の言葉ってやつだな」
 二人は同時に笑いだす。何故気づかないのだろう?彼らもまた、その言葉に操られていることに。当たり前という言葉を口にした瞬間、体にのしかかる罪悪感から逃れようとしていることに、何故気づかないのだろうか?そのことに気づかずに死刑囚をモルモットにした生体実験という悪魔のような研究を続けている私たちよりも、疑念を抱くことができた彼らのほうが、よっぽど優れた意思をもっているのではないか?……やめよう、これをといたところで、結局私も魔法にかけられているもの。逃げることなどできない。また呟くとしよう。「当たり前、私のしていることはここじゃ当たり前。当たり前」
え~読んでくださった方々、ありがとうございますorz
そしてすいません……後半からのgdgdは時間がなかったんです(泣)俺のバカ。もう、辛口掲示板とかでビシビシ言っちゃってください。指摘を一つ一つかみしめて、精進しようと思います。それではまた/
空想科学祭2010

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