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サンタが戦車でやってきた。

作者: ロータスシード

 きゅらきゅらきゅら~


 キャタピラをがきしみを上げてあげて、大地を爆走する。

 砂埃が舞い上がり、エンジンの鼓動が破壊され尽くした町に響き渡って居た。

 そして、頭上を飛び交う火箭と遠くで轟く爆音。


 ここは、シマリアの首都タマスカスだ。

 長年の内戦で中世からの美しい町並みは、破壊尽くされたがれきの山。

 そして硝煙のにおいが消えない町の残骸に変貌しても、尚人々は必死で生き抜いていた。


 「何やってるんだ、見つかったら殺されるぞ!」

 「ぼくはもう動けそうにない…」


 ぼろぼろの服を着た少年は、道路で倒れ込む弟に話しかけている。

 しかし、弟は空腹と疲労の余り、へたり込んで動けそうにないようだ。


 きゅらきゅらきゅら…。


 キャタピタ音に彼らが振り返ると背後いたのは戦車。

 

 日本の最新鋭10式戦車だろうか?

 タンクが彼らの目の前に現れ、走りながら砲塔を兄弟の方に回転させていた。


 

 かれらに緊張が走る。


 「お兄ちゃんだけでも逃げて!」

 「バカいえ! 弟は兄より少しでも長生きするものだぜ!!!」


 ふるえて動けない彼ら。

 二人は庇いあいながら、抱き合っていた。



 そして、鉄の巨象は凶悪な鼻先である120ミリ滑空砲を彼らに照準を合わせる。


 ――ファイヤー!!


 120ミリ滑空砲が火を噴いた。


 ――閃光。

 ――爆炎。

 紫の火箭が少年たちへ向かってゆく。



 兄弟は覚悟を決めて目を閉じる。


 「聖夜なのに、俺たちのプレゼントは苦痛の生からの解放なのかよ…」

 「兄ちゃん。 もし生まれ変わったら、今度は平和な国に生まれたいね…」


 ぽふん♪

 砲弾は彼らに命中。

 そして、紫の煙が立ち上る。


 間抜けな音とともに、発射されたのはプレゼント。

 かれらの目の前に、お菓子が詰まった長靴が打ち込まれた。


「ハラショ~~~! メリークリスマス!!」


 きゅらららら~~~


 陽気な声が戦車から響きわたり、唖然とする兄弟を後目にタンクは走り去っていった。


 「何だったんだ?」

 「さあ?」

 「でも、このお菓子おいしそうだよ」




 爆走する戦車の車内。

 中には真っ赤な服を着た肥満体の髭親父がいた。

 親父は髭を撫でながらタンクに話しかける。


 「彼らには、食べ物で良かったかな?」

 「そうですね、彼らのスキャンの結果は栄養失調でしたから」


 戦車から無機質な音声が返ってきている。

 まるでナイ○2000のようだ。


 そして、機械音声は更に続けた。


 「……彼らが本当に欲しいものは、魔改造された私の砲身からは打ち出す事はできません」

 「お前の毒舌は変わらないな」


 操縦席で髭をさすりながら、言葉を濁す赤服の男。

 彼はサンタだ。

 聖夜に夢と希望を運ぶのが彼らの役目。


 しかし、紛争地帯上空を飛行中に領空侵犯をしたトナカイが撃墜された。

 我が物顔で紛争地帯上空を飛び回れば当然の結果である。

 ――昨今は、ドローンですら飛行許可が必要なご時世なのに。


 そこで彼らは仕方なく、トナカイの魂が乗り移る魔改造された戦車でプレゼントを届けているのであった。



 「次の届け先はどこだ?」

 「次は、アリさん。 ジョージさんですね…。 場所はふたりとも…」


 無機質な声が戦車に響いた。




 ドカカカ!


 「しねぇ 豚やろう!!」


 紛争地帯や、テロリスト御用達のAK-48が、凶悪な咆哮を放つ。

 1マガジン撃ち終わったアリは、物陰に隠れた。

 

 ――刹那。


 パララララ!

 軽い銃声とともに、無数の死に神が彼の頭上をとびさってゆく。


 「ひゅ…」


 アリは、口笛を吹こうとするのを口に手を押さえてやめていた。

 自分の無事を確認し、安堵する彼の頭上には満天の星空。


 星星をみて、アリは考えていた。

 今日はクリスマスだったな。


 …俺らの宗教には関係ないが……。



”” 


 敵からのカラシニコフの洗礼が終わったジョージは、物陰からM-16A2を構えトリガーを引く。


 パラララ~~


 彼女のソプラノのような軽い歌声が響きわたる。

 

 彼は、あっという間にマガジンを1つ打ち尽くした。

 

 かれはふと、腕時計に目を落とす。

 21時38分 12月24日


 ジョージは今日がクリスマスであることをに気がついた。


 そして、かれは子供の頃のクリスマスを思い出していた。

 決して裕福ではないが、食卓には七面鳥、プティングなどが並び、小さいながらもツリーを立てて家族で祝っていたことを。


 「ここじゃ、今年はお預けだな…」



 戦場はコンビニ営業だ、24時間、365日休みなし。

 

 つまりクリスマスも正月もラマダンも無いのである。

 あるのは、無慈悲な死出の旅だけである。



 きゅらきゅらきゅら~。


 戦車は二人の間に到着した。

 突然の訪問者に彼らは銃弾の嵐をあびせる。


 「死ね!!」


 「くたばれ、豚やろう!!」



 ぱららら~

 どががが~


 貴婦人の歌声と野獣の咆哮のデュエットが地獄への道しるべの様に戦場に響きわたる。


 しかし、戦車はかまわず銃弾の嵐の中を突入。

 

 キン キン キン


 鋼の体に無数の銃弾が命中し火花があがった。


 かちっ かちっ!!


 銃弾を撃ち尽くした二人の撃鉄を引く音がむなしく響く。



 うい~~~~ん


 戦車の主砲が旋回し、120ミリのモノアイがアリを凝視した。

 虚空の瞳に見つめられ、彼は覚悟を決める。



 死んだ…。

 ―― 一目、娘に会いたい。

 彼が思った瞬間。


 120ミリ滑空砲が火を噴いた。

 紫の閃光がアリへ向かってゆく。


 ぽふん♪

 砲弾はカレに命中し紫の煙が立ち上った。



 「いい気味だ、ヤギやろう!」

 

  うぃぃ~~~ん


 「げぇぇぇ~~!」


 ジョージがつぶやいた瞬間、砲塔が旋回し彼の方を凝視する。

 彼の背筋は寒くなった。


 「マジカヨ……。 何をトチ狂ってる、同盟国だろ?」


 しかし、無情にても120ミリ滑空砲が火を噴いた。

 紫の火箭がジョージに向かってゆく。


 「おーまいごっと!」


 彼は覚悟を決めて目を閉じる。


 ぽふん♪

 砲弾は彼に命中し紫の煙が立ち上る。



 ――突然の出来事に、何が起きたのか理解できないアリとジョージが居た。



  唖然とする二人に戦車は言い放つ。


 「アミ~ゴ~~~! メリークリスマス!!」


 きゅらららら~~~


 陽気な声が戦車から響きわたり、アホウの様な面をする二人を後目にタンクは走り去っていった。



 アリの目の前には、子供が作ったと思われる不細工な人形が落ちていた。

 胴体にはアリの名前がついている。

 それは、身代わり人形。

 おそらく彼の子供が、戦場に居るアリの身を案じて作った物だろう。


 一方のジョージの前には、丸焼き七面鳥のパックのクリスマスプレゼントが届けられていた。

 一人で食べきれるとは思えないほどの巨大さだ。(しかも、ママからのメッセージ付きで)


 文面はこのように綴られていた。

 (一人では食べれないでしょうから、近くの友人たちと食べてください。

 ママより)

 

 人形を持ち、故郷の方を見つめるアリにジョージは煙草を一本差し出した。


 「あんたの子供のこと、一緒にコイツでも食べながら聞かせてくれないか?」

 

 煙草を受け取ると、写真を見せるアリが居た。


 「可愛いだろう?」



 「不味い……」


 テーブルに載ってる豪華な料理を前に 男は一人つぶやいた。

 ――キャビア、オマールえび、トリュフなどをふんだんに使った豪華極まりない料理にも関わらずだ。

 ここはシマリア首都、タマスカスにある大統領宮殿の自室だ。

 国民から金を吸い上げて、各国から買い漁った高価な調度品が室内に飾られ、

 しましま模様の国旗が部屋にかかっている。


 彼の名前は、ヨルド。

 この国の大統領である。

 しかし、国は反体制派との内戦の最中であり鎮圧できずにいた。

 さらには、内戦の隙を狙って野盗も跳梁跋扈ちょうりょうばっこし国内は末期的な様相となっていた。


 ――こんな状況では、どんな料理もおいしい筈は無い。



 きゅらきゅらきゅら…


 窓の外にキャタピラの音が小さく聞こえた。


 何事かと窓を開けるヨルド。

 しかし、町は時々飛び交う火箭と銃声のいつもの光景が広がっている。

 ――電気も付かず真っ暗な街の様子。



 そして、戦車の音に混じって奇妙な声が聞こえだした。


 「日本製品のぉぉぉぉ~~~~ 性能はぁぁぁぁぁ~~~~ 世界一ぃぃぃぃぃぃ!!!

 ファイヤァァァァ~~~~」


 キラッ!!


 遙か彼方で、何かが光った!


 きゅ~~~~~~~ん


 サンタの120ミリ滑空砲が火を噴いたのだ。

 紫の火箭が彼の傍をかすめ、執務室に吸い込まれていく。


 「反対派め! 死んでもこの国の利権は渡さないぞ!!」

 ヨルドは虚勢を上げる。


 ぽふん♪

 砲弾は彼に命中し紫の煙が立ち上った。

 

 間抜けな音とともに、発射されたのはプレゼント。

 ――大統領の机の上に、メッセージカードと不細工なプディングが打ち込まれていた。


 「なんだこれは?」


 彼は、メッセージカードに目を落とす。

 それは彼の国外に避難させている娘からだった。

 幼い娘が頑張って書いたのだろう、手紙にはミミズがケイレンを起こしたような汚い字で掛かれていた。


 (パパやママといっしょにたべたくて、おばさんとつくった プディグです。

 パパがひとをころすおしごとをやめて、クリスマスをいっしょにすごしたいです)


 暫し考え込むヨルド。


 彼はプディングを少しかじると「うまい」と一言こぼし、残りを包み始めた。

 そして、彼はどこかに電話をかける。


 「こんな国なんぞ、くれてやれ」


 彼はプディングの残りを持って足早に部屋から立ち去っていった。




 大統領宮殿から飛び去るヘリ。

 戦車のハッチを開け、その姿を遠くで見つめるサンタが居た。


 「次の目的はどこだ?」

 「ドコに致しましょう? 配送先なら幾らでも有りますよ」


 戦車から無機質な合成音が響いていた。

 彼の配送は終わりそうにない。

そして、数日後タマスカスが無血開城したのは言うまでもありません。


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― 新着の感想 ―
[一言]  長年の内線で中世からの美しい町並みは破壊尽くされた、がれきの山。 内線では無くて内戦かと。
[一言] 「バカが戦車でやってきた」が元ネタですかね。 クリスマスの日は街の中のリア充を戦車で砲撃したい。 ラブホを重点的に、砲撃。
2015/12/10 02:02 退会済み
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