副隊長は隊長を愛しすぎている。
※所詮、現実はこんなもの。を読んでから読む事をお勧めします。
黒翼騎士団・六番隊隊長『剣姫』――エラルカ。
見た目だけ言うなら何処にでもいる村娘のようだ。この国では珍しくない茶色の髪に、灰色の瞳を持つ。
背は女性にしては高く、可愛いと言うより美人という印象を見る者に与える。
一目みただけではとてもじゃないけれども彼女が黒翼騎士団でも屈指の強さを持つ『剣姫』と呼ばれる女性などとは納得できない。
実際に俺だって騎士団の入団試験を受けた時にはじめて彼女を見た時、とてもじゃないけれどそれだけの実力があるように見えなかった。
――――本当は実力なんてないのではないか、と疑うほどに彼女は見た感じ普通だった。
とはいってもそんな思いはエラルカ隊長の実力を目のあたりにしたら吹き飛んだ。今年の騎士団の入団試験で、一人圧倒的に力を持っていた奴が居た。そいつは第一試験である騎士志望同士を戦わせるそれにおいて、圧倒的な実力を示した。第二試験は騎士団のメンバーと戦う事にあった。そいつが圧倒的だったからか、エラルカ隊長が「私が相手をしてあげる」と笑って、相手をしたのだ。
その第二試験において―――、そいつはエラルカ隊長に手も足も出なかった。そいつ…、俺と一緒に六番隊に所属することになったディルトールは魔法も使えたわけだが、それでもエラルカ隊長には叶わなかった。
その圧倒的な姿を見て、俺はエラルカ隊長に憧れた。
圧倒的な力量差を見せつけられたディルトールなんて、エラルカ隊長に尊敬の目を向けてならなくなった。ついでにうちの副隊長のバル・トリスタも規格外に強かったため、ディルトールはバル副隊長には尊敬と畏怖を向けるようになった。少なくともディルトールはバル副隊長に逆らいはしないだろう。
………バル副隊長は、何故か貴族の、それもトリスタ公爵家の次男なのに黒翼騎士団に入った変わり者だ。
トリスタ家は平民の俺でも知っているような武の一族である。白翼騎士団は名ばかりの騎士が多い中で、トリスタ家の一族は騎士としての実力を持っているような一族だと聞いたことになる。
普通なら貴族の子息として、バル副隊長は白翼騎士団に入る予定だったらしいが、本人の強い希望により黒翼騎士団に所属しているらしい。
何故、バル副隊長が黒翼騎士団を望んだか―――――、それはバル副隊長を間近で見ることが出来る俺達六番隊隊員にとってはすぐにわかることである。
「エラルカさん」
「……バル、ひっつくなと何度いったらわかる?」
「エラルカさんが見えたからつい……」
「うっ…、そ、そんなしゅんとした顔をするな。私が悪い事をしたみたいでしょ」
バル副隊長は、エラルカ隊長が大好きだ。それはもう、周りで見ていてすぐにわかる程度には。気付かないエラルカ隊長が鈍感なだけだ。
だって、バル副隊長は自分の幼い外見(あの人今十八歳なのに童顔だから)を利用して思いっきりエラルカ隊長にスキンシップしてるし。エラルカ隊長って、かっこいい女性って雰囲気なのに話してみれば子供が好きだったり、可愛いものが好きだったりとギャップが激しい。
隊長として仕事している時はかっこいいんだけど、エラルカ隊長って普段は普通の女性と変わらないから。………ちなみにそんなギャップにやられてエラルカ隊長に好意を寄せた奴は問答無用でバル副隊長にぶちのめされるわけだが。
エラルカ隊長ってバル副隊長のしゅんとした顔に弱い。それを知ってて思いっきり甘えてるバル副隊長。というか、本当にエラルカ隊長は鈍感すぎる。あれだけわかりやすいのにどうして気付かないのか…。ちなみにディルトールは試験でエラルカ隊長にやられてから、エラルカ隊長に子犬のように付きまとっていたため、バル副隊長に思いっきりしめられたわけだが…。
そもそも本人に聞いたんだが、バル副隊長ってエラルカ隊長の戦う姿に目を奪われたのがエラルカ隊長に惚れた始まりらしい。まぁ、確かにエラルカ隊長の戦い方って洗練されていて、無駄がなくて、同じ剣を持つ身としては惹かれるのはわかるけれども。
それでまぁ、興味持ってバル副隊長は黒翼騎士団に入る事を決めたらしい。元々バル副隊長って剣技の才能はあったらしく、さっさと昇進して副隊長にまで上り詰めたのだという。
エラルカ隊長もバル副隊長も規格外なのだ。最年少で隊長と副隊長になったような人達だし何だか俺らとは次元が違う。
でも疑問なのはあれだけ「好き好き」ってオーラ出しといて、バル副隊長がエラルカ隊長にきちんと気持ちを伝えてない事かな。
それは俺以外の六番隊のメンバーにとっても不思議らしく、一度聞いてみたことがあるけれども「エラルカさんはまだ初恋引きずってるみたいだからね」と笑われた。エラルカ隊長って乙女な部分あるから初恋を引きずっているのは理解出来る。
というか、バル副隊長のことだからきっちりとエラルカ隊長が初恋を吹っ切れたと思ってから告白したいと思ってたんだと思う。あの人、エラルカ隊長の心を自分だけで一杯にしたいとか考えてそう。
そんなわけで過度なスキンシップをしたり、エラルカ隊長に近づく男をことごとく排除していたりバル副隊長はしていたわけだけど――――、ある時、六番隊の隊長室に入ろうと俺とバル副隊長が扉に手をかけた時――――、中からエラルカ隊長の声が聞こえてきた。
「あー…何処かに私を愛してくれる人いないかな」
そんなエラルカ隊長の言葉。
それを聞いた俺はエラルカ隊長ってなんだかんだで可愛い人だよなぁと思って若干和んだわけだが(尊敬は抱くが、恋愛感情はない。そんなもの抱いたら殺されそうだし)、はっとなった。
隣を見れば「あー、エラルカさんって本当可愛い」と何だか獲物を狙うような顔をしているバル副隊長が居る。
……って、エラルカ隊長、そんな男を求めるというか、恋をしたいみたいな発言してたらバル副隊長黙ってないよ!? だってそういう発言しているってことは初恋を吹っ切れてるって事だから…。
只でさえ、バル副隊長がエラルカ隊長の事大すきって行動しすぎであれなのに(エラルカ隊長は気付いてないけど)、絶対この人本腰いれるよ! 邪魔したら怒られ…いや、寧ろ殺されそうだし、俺ら大変なんだけど!?
と、そんな思いは次の日からさっそく実現された。
――――バル副隊長はいきなり、朝から「エラルカさん、大好きです。俺と結婚してください」などと付き合ってもないのに求婚をし始めたのだった。
それから戸惑うエラルカ隊長に向かって「エラルカさんは可愛いから」「あれだけ圧倒的な剣技を扱えて、強いのにギャップが激しくて可愛い」「女性向けの恋愛小説とか読んで夢見てるのも可愛い」「正義感が強くて真っすぐな所も好きです」「やると決めたら絶対にやり遂げる所も好きです」「小動物とか大好きで実は隠れて餌やってたりするのも可愛い」―――可愛い可愛い、好きです好きですっておいいいいいいぃいいい。俺たちも居るのに何で恥ずかしげもなく、エラルカ隊長のどういう所が好きか語りだしてるんですか、バル副隊長!
しかも声かけようとしたら射殺さんばかりに睨まれて、結局バル副隊長の気が済むまで続けられるのだった。
そんな事をされたエラルカ隊長の顔はそれはもう真っ赤で、「な、何言ってるのよ」と恥ずかしそうで、それでいて戸惑っていた。
その後冷静になって「バ、バルの事そんな風に見たことないから」といっていた。「だから、その…」そんな風に言い淀んだエラルカ隊長に「じゃあ見てもらえるようにこれからしますね」と笑ったバル副隊長のそれからの求愛行動は凄かった。
――――そんなエラルカ隊長が結果として、バル副隊長に求愛行動に根を上げたのはそれから半年後の事だった。
ちょと上手くかけてない気もしますが、とりあえずこんな感じになりました。
『所詮、現実はこんなもの』のその後です。
……ウタ目線の話やロウのことも書きたいなと思います。何故か設定だけは思いついてるので。