無い無い勇者
「もう、いい加減にしてよねっ」
私は無力感に苛まされていた。
私は転生を司る女神。
生前の行いによって死者を転生させる役目を担っている。
年齢? 私の年齢を表計算ソフトに入力したら表示がおかしくなるくらいは生きてるけど。
そんな私のもとにやってきた少年。悪意が無く、異世界における魔力適性があったので勇者として転生させることにした。
もちろん、テンプレ通り思いっきりチート能力を授け、異世界に送り込んだ。
ああ、それなのに。
こいつは、「敬語が苦手だから」などという至極自分勝手な理由でいきなり王にタメ口を利きやがったのだ。
いくら対人スキルを磨く機会がなかったとは言え、無教養に過ぎる。
たとえ王本人が許しても、周囲がどう感じるか考えられない時点で終わっている。もちろん、すぐさま縛り首になった。実績のない勇者なんて一般人と同じだ。
ここでもし打ち首だったなら、強化した肉体でダメージを受けなかった可能性もあっただろうが、縛り首で酸欠では生き残るのは無理だ。
だいたい、王族と話ができるというのは選ばれた者だということが理解できていないとは話にならない。
王族というのは、敬語がどうとか以前に、一般人が直接話をして良い存在ではないのだ、無作法にも程がある
それでも、悪気がなかったということなのか、死に戻ってきた。
さすがに王宮に召喚されるのは懲りたというので、次はそんなことがないように王都郊外の草原に送り込んだ。
何を考えたのか判らないけど、もしかすると「都市の近くに危険な野生動物がいるはずがない」とでも考えたのか、突然森に入り込んで行った。
都市の近くだから安全とか、そんなことがあるわけない。
前の人生で危険な生物に出会ったことがないとしても、無警戒に過ぎる。
安全と思われている日本でも、札幌の近くにはヒグマが出没し、那覇の市内にはハブが生息している。どちらも死者を出した被害例のある野生動物だ。
本州には、更に被害の多い野生動物がいる。
政令指定都市でも、スズメバチに刺されて亡くなる人が毎年たくさんいるじゃない。
何を根拠に、中世的世界観の都市の近くが安全などと判断したんだろう。
すぐに大きなハチのような魔物に襲われてた。さすがに勇者としての適性があるからか反応は早かった。
だけど、撃退しようと森の中でファイアボールを撃ちまくるとか、無計画にも程がある。
当然あっという間に周囲の木に燃え広がり、勇者本人は炎に包まれた。
森の中で火の玉を作ったら燃えて当たり前じゃない、馬鹿なの、死ぬの?
死んだけど。
3回目、いくらなんでも学習しただろうと再び都市の中に送り込んだ。一応、王宮は避けた。
しかし、平和ボケとは恐ろしい。
夜に一人で街中をうろついているところを盗賊に囲まれた。
いくら日本で生活していた記憶が残っているからと言っても無警戒に過ぎる。
もう、チート能力もほとんど付けてないのだ、ばっさりやられてひとたまりもなかった。
人を殺したくないとか言ってる場合ではないだろうに、無抵抗にも程がある。
4回目、こんな天然に与えたくなかったが、もう私が与えることのできるチート能力も残ってなかったので俗にニコポと呼ばれる能力を付けた。
そしたら、必要ないだろうに確認のためか、あるいは何回も死に戻りしてやさぐれでもしたのか、娼館に乗り込みやがった。
あげくに、そういう病気をもらって来るとか、無分別に過ぎる。
このまま放っておいたら、魔王以前にニコポ能力を持った勇者によって世界に病気が広まって大変なことになってしまう。
仕方がないので、私が自分で勇者を始末することにした。
何故始末されるのか理解できないなんて、無自覚にも程がある。
もう、与えられるチート能力も尽き、こんどこそ、と送り込んだ5回目。
薬草採取クエストの最中、安全も確認せずに似た毒草を口にした。
確かに似ていないこともないが、無知に過ぎる。
もう、本当にいい加減にして貰いたい。
チート能力だって、無制限に与えられる物ではないのだ。
それが段々としょぼくなったのが原因だ、などと文句を言わないで欲しい。
能力を無駄に浪費しているのはお前自身じゃないのかと問いたい。問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。
それなのに、あくまで悪気がないらしいので、勇者としての適性がなくならない。
死に戻って、あいかわらず私の元にやってくるとか、無遠慮にも程がある。
もう与えることのできる能力がなかったので、6回目は金だけたっぷり与えて自分で何とかさせることにした。
最初の街で、宿屋に引きこもってしまうとか、無気力に過ぎる。
日本でならともかく、物価が不安定な異世界で生活能力のないままに金だけ使い続ける。
もちろん、盗賊や魔物の討伐どころか薬草採取すらしていないし、できない。
だいたい、ギルドに顔さえ出していないのだ。
金がなくなって餓死しても知らない。途方に暮れていても、助けるつもりはないよ。
かなり無理をして大金を持たせたのだ。何度も経済の破壊行為ができるわけがないじゃない。
無一文になったから何とかしてくれとか、無節操にも程がある。
そうだ、もうあんた、魔王になっちゃいな。
ハァ、だれが無責任だって?
小説n1000cc を狙って書いてみました
残念ながら、0981ccでした
むぅ、またそのうちキリ番狙ってみよっと