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トリックアームズ
作:ノマト



第六話:氷河の青


第六話  氷河の青


目の前の光景を理解できず、廉は遠くから立ち尽くしていた。

氷雨のアームズは廉と同じく肩からのもので、蒼く半透明の水晶のようなもので構成され、刺々しく伸びている。

アームズの効果なのか、氷雨の足元に倒れている楓の体の所々に薄く氷が貼りついている。

もしかしたら蒼い水晶はそのまま氷をイメージしているのかもしれない。

氷雨は廉に気付かないままその場で膝を付き、アームズで楓の体に触れる。

すると、氷雨の触れた部分から凍っていき、すぐに氷が楓の半身を覆い尽くしていった。

それを見て、ようやく廉が意識を取り戻す。

今の状況なんてものはどうでも良い。ただ、今やることは楓を助け出すことだ。

「氷雨―――――――――――――――っ!!!!」

廉は全力で叫び、氷雨に向かって殴りかかる。

叫んだことで氷雨もようやく廉の存在に気付く。

「う、えぇ!?お前もかよっ!!」

廉の渾身のフックが氷雨の顔面に向かって放たれる。

氷雨は咄嗟にアームズを構えるが、激昂した廉のパワーは氷雨のガードごと後ろへ吹き飛ばすほどのものだった。

やはり、伊集院から聞いただけのと、実際楓の倒れているところを見た時の怒りの差は大きいものなのだろう。

後ろのベンチや植えてある木々を薙ぎ倒しながら氷雨は吹き飛んでいく。

氷雨の能力には射程範囲があるのか、吹き飛んでいくにつれて楓の氷も溶けて行く。

楓の体には脇腹に一発の銃創があり、氷雨の氷が溶けた事によって血が噴き出していた。

恐らく、伊集院との時に鳴った銃声の時のだろう。

それ以外に外傷は無く、廉はホッと一息をついてからアービティアリィ・ハッカーで傷口を作りなおす。

銃弾は貫通していないため、一度筋肉を蠢かせて銃弾を取り出してから傷口を塞ぐ。

そして廉は立ちあがり、氷雨が吹き飛んでいった方を睨む。

一歩前に出ると、廉の背後にいつもの半透明の壁が現れ、外界から三人を隔離する。

廉が氷雨の方に歩いていくと、丁度芝生の辺りに入ったところで氷雨が現れる。

「おいおい随分な挨拶じゃねえか。いつもなんだかんだ言って逃げる廉が今日は随分と積極的だなぁ?」

氷雨は二人の間にある木々をアームズで薙ぎ払いながら近づき、顔を突き合わせてメンチを切る。

「へっ、随分と狂暴な目をしてるもんだな。楓が心配するのも分かるよ」

廉は何も言わず、右腕を構えて氷雨の顔面を狙う。

対して氷雨は同じように拳を合わせて防ぐ。

「事情は知らねえ。でも、俺のライバルがようやく戦う気になってくれたんだ。楽しませてもらうぜっ!!」

拳に力を加えて弾き飛ばし合い、距離をとって双方共にアームズを構える。

「俺のアームズの名前は『グレーシャーブルー』だ。遠慮なんかしたらぶっ潰すぞっ!!」

「『アービティアリィ・ハッカー』だ。安心しろ、お前にかける情けなんか無いっ!!」

それほどの距離があるわけではないのに、二人とも全力で駆け出す。

「グレーシャーブルーッ!!」

氷雨が叫びながら顔面に放った拳を、軽く首をずらして避け、距離をつめてボディーブローを放つ。

それを、氷雨はバックステップで避け、今度は振り上げた腕を狙う。

「遅いんだよっ!!」

対して廉は振り上げた拳を戻して受けとめ、足に力を込めて押し返す。

「う、おぉっ!?」

後ろに飛び退いている氷雨の態勢では耐え切る事が出来ず、後ろに倒れて廉にマウントポジションを取られてしまう。

「アービティアリィ・ハッカーッ!!」

マウントポジションから廉はアービティアリィ・ハッカーを構え、氷雨に当てるつもりは無く顔を狙う。

そんな廉の意思を感じ取っていたのか、氷雨は避ける事はせずにグレーシャーブルーで廉の顔面を狙う。

ガアン!!

廉は氷雨の顔面のすぐ横を殴り、氷雨は廉の顔面の手前で寸止めをする。

「どうした……?まさか今更殴れないなんて言うんじゃねえだろうな?」

馬鹿にするような笑みを浮かべ、言う氷雨に廉も同じような表情を浮かべる。

「何言ってるんだよ。言っただろ?お前にかける情けなんか無い……ってな」

氷雨は知らないのだ。廉のアームズの能力を。

「アービティアリィ・ハッカー。お前、英語も出来ないのか?」

アービティアリィ・ハッカーの殴ったところから土が盛り上がり、氷雨の顔を抑えこむ。

「これで殴ってしまったらすぐに勝負はついてしまう。それじゃあ困るんだよ、この苛立ちの捌け口が無くなってしまうからな……!!!」

廉はアームズを消し、素の拳で氷雨の顔を何度も何度も殴りつける。

今、廉は良く分からない違和感を感じている。

ユーディットと伊集院。この二人にはどう足掻いても正攻法では適わなかったのに対して、氷雨には充分に圧倒できている。

自分はフェミニストなのかと考えてしまうが、だとしたら随分とアームズは感情に敏感な事となる。自分でも気付かないような感情を見るのだから。

もしくは、知らないうちに氷雨を憎んでいたのか。

何度目になるだろうか。氷雨の顔に痣を刻みこむほど殴った頃、右腕をグレーシャーブルーで捕まえられた。

「へぇ、まともに殴り合った事が無かったからどんだけかと思ったけど……」

すぐに左手で剥がそうとするが、びくともしない。

氷雨はグレーシャーブルーに力を込め

「ぬるすぎるぜ。そんなんじゃ俺のグレーシャーブルーは溶かせねえんだよ!!」

廉の右腕をガシャンという音と共に砕いた。

「―――――――――っ!?」

痛みは無く血も出ない、廉の右腕は凍り付いていた。

廉が驚いた隙に氷雨は自分の頭を固定するものを破壊し、立ちあがる。

「お前らしくもねぇなあ……。アームズに特殊能力があるのはおまえだけじゃねえんだぜ?」

深い、コバルトブルーのグレーシャーブルーを前に出して中指を立てながら続ける。

「グレーシャーブルーは触れたものを凍らせるんだ。単純だけどよ……強いぜ?」

対して廉も、右手を押さえながら立ちあがる。

廉の右腕は細かい氷となり、ただの肉片となって廉の足元に散らばっていた。

しかし廉は不適な笑みを浮かべ

「お前らしくも無いな。とどめも刺していないのに勝ったつもりか?」

左のアービティアリィ・ハッカーで自分の肉片を殴りつけた。

「アービティアリィ・ハッカーは触れたものの組成を変え作りかえる。基本的な能力は低いが……ま、頭の使い様だな」

同じような言葉で言い返して笑う。

肉片は蠢いて腕の形となり、右手の断面を合わせてくっつけると元通りに繋がった。

右手の感触を確かめるように手を開いたり閉じたりしていると、氷雨も笑い出す。

「あっはっはっはっは……!。やっぱりお前だ、お前こそ俺のライバルに相応しいぜっ!!」

「冗談はよしてくれ。お前如きが俺のライバルになれると思うかっ!!」

仕切りなおした二人は最初と同じように叫び、同時に駆け出す。

スピードやパワーはほぼ同等。これほどの力を伊集院の時に発揮できれば心が軋む事も無かった。

繰り出した拳は拳同士でぶつかり、まるで鏡合わせのように二人は立ち回る。

殴り合っているうちに、廉は思わず笑いが込み上げて来るのを感じた。

笑いの源泉が何かも分からないまま、廉は衝動のまま笑い出し、スピードを上げる。

「ついて来れるか氷雨!!」

「馬鹿言ってんじゃねえっ!!」

廉がスピードを上げると、同じように氷雨もスピードを上げる。

しかし、廉は自分の能力を良く分かっている。このままスピードを上げていっても先に廉の方が限界に達してしまうだろう。

しかし、これは決闘なんて高尚なものではない。卑怯上等の喧嘩なのだ。

アンダースローのような姿勢で砂を握りこみ、それを氷雨の顔に投げつけながら殴りつける。

その砂もただの砂ではなく、アービティアリィ・ハッカーである程度の量を固めて投げつけたので、どちらかといったらまきびしのような形となっている。

アームズなら別にどうとでもなる程度の切れ味だが、まきびしは広範囲に散らばっているためアームズ二本では弾ききれない。

本来なら一旦退くのが定石なのだろうが、氷雨はあえて前に出る。

「こんなもんでビビると思ってんのかよっ!!」

まきびしが小さな傷をつけるが、氷雨は気にせず拳を振るう。

「まさか、ただの挨拶代わりだよ」

繰り出していた拳で氷雨の攻撃を防ぎ、もう一方の手でアームズの根本である素の腕を狙う。

腕からアームズを伸ばす事は出来るが、あくまで根本は腕であり、失えばアームズで戦う事は出来ない。

「はっ!それも挨拶代わりだって言うんじゃねえだろうな!!」

一歩間違えば腕一本を失うどころではない状況で、むしろ氷雨は笑顔を浮かべる。

「グレーシャーッ!ブル―――――ッ!!!」

氷雨ももう一方の方の手を繰り出して受けとめ

「ぶちわれなっ!!」

触れているのがアームズあるのにもかかわらずアービティアリィ・ハッカーの表面が氷で覆われ始めた。

アームズにアームズの能力は効かないと思いこんでいた廉は焦るが、冷静に考えれば納得も出来る。

「(当たり前か……。俺や伊集院の能力は人体に触れてこその能力だ。氷雨にその常識は通用しない)」

廉のアームズは組成等の改竄であり、もはや物質かどうか定かではないアームズに効く筈もないし、伊集院に至ってはアームズではなく人体を操る能力で、アームズに触れられても効かないのは明白である。

対して氷雨のグレーシャーブルーは単純に凍らせるだけの能力なのだ。対象がアームズだろうと人体だろうと関係ない。

氷雨の言う通り、単純だからこその強さである。

アームズが傷つくと本体である腕も傷つくのか、廉の腕にも氷が張っていく。

「やるな氷雨……。だがまだまだだっ!!」

廉がアービティアリィ・ハッカーの掌を握ると、本体の腕の表面が僅かに揺らぎだす。

嫌なものを感じた氷雨はすぐに砕こうとするが、腕と違ってアームズの腕は割と頑丈でまだまだ壊れる事はない。

「アービティアリィ・ハッカー!!」

ドシュウッ!

「ちぃっ……!?」

廉の掌から白い何かが飛び出し、アービティアリィ・ハッカーを掴んでいるアームズの本体である手を貫いた。

咄嗟に手を押さえて飛び去ってこちらを睨む氷雨に、廉は掌から飛び出した白い何かを腕の中に戻し、アームズを向けて笑いながら言う。

「何驚いてるんだよ。アームズが(アーム)武器(アームズ)にできないわけないだろう?」

そう、廉は咄嗟に自分の腕へとアービティアリィ・ハッカーを使い、腕を構成する骨を取り出して刃にしたのである。

傷口を凍らせて止血した氷雨は再び立ちあがり、グレーシャーブルーを構える。

「けっ、割と無茶すんじゃねえか……。砕かれたらどうするつもりだ?」

氷雨の質問に廉は答えず、また鏡写しのようにアービティアリィ・ハッカーを構える。

無論、氷雨としても答える暇があったらとっとと再開したいと思っているので、獰猛な笑みを浮かべ、叫ぶ。

「第二ラウンドだ。まだまだ終わんねえぜ――――――っ!!」

「ふんっ!もうそろそろKOにしてやるよっ!!」

氷雨は駆け、廉は地面を殴って武器を作り出す。

「アービティアリィ・ハッカー!!」

「グレーシャーブルーッ!!」

廉が作り出した大量の投石器を前にし、氷雨はグレーシャーブルーを振るう。

しかし、一個二個壊した程度では廉には届かない。数とは偉大なものだ。

「飛べっ――――――!!」

廉が指を鳴らすと、投石器は同時ではなく、僅かに時間差で石を放った。

氷雨はひとまず投石器の破壊を諦め、飛んでくる岩石に対峙する。

「上等だ!それがお前の戦い方なんだからなぁっ!!」

避けるという選択肢など、氷雨の頭の中には無い。

それは氷雨の性格によるところが――無論、氷雨にとってはそれが全てだが――多いが、それだけではない。

何度目になるか分からないが、ともかくアームズで強化されるのは腕や動体視力、反射神経ぐらいなのだ。

廉や氷雨は喧嘩で鍛えただけあってそれなりの身体能力を持っているが、大量の投石を避けるという常識ばなれした能力は無い。

絶妙の時間差で飛んでくる投石を、グレーシャーブルーの力を全開で弾き飛ばそうとする。



「――そして散れっ!!」

廉が弾いた指を開くと、投石が幾つもの槍に分解された。

組成を弄くれる廉になら、空気抵抗で分解するように作る事は造作も無いことなのだろう。

視界を埋め尽くすほどの槍の群れを前に、あえて氷雨は笑う。

「ははっ!!勿論、それも予想済みだぜっ!!」

腰を落とし、完璧に迎撃態勢に入った氷雨は今度こそ全力で弾き飛ばす。

グレーシャーブルーのスピードは凄まじく、雨のように降り注ぐ槍を全て弾き、それどころか僅かずつ前に進み始める。

「――――――――――――――――――――!!!」

もはや声にもならない雄叫びを上げる氷雨に、しかし廉は表情を変えずに笑顔のまま投石をぶちこむ。

一歩ずつ進む氷雨は、一旦そこで立ち止まる。

「だーもう飽きたっ!!やっぱり男は殴り合いだろうがよっ!!」

上等だ!それがお前の戦い方なんだからなぁっ!!……といっていたにもかかわらず、すぐに飽きる氷雨。

一旦下がって投石の範囲外に逃れると、氷雨は叫ぶ。

「グレーシャーッ―――――」

声を溜めに溜め、グレーシャーブルーを野球のピッチャーのように振りかぶる。

そのグレーシャーブルーの手には何かが凍って、バスケットボールほどの大きさで形を作っている。

しつこいほど溜めに溜めた氷雨は、投げると同時に放出する。

「ブル――――――――――――――――――――ッ!!!!!!!!!!!」

文字上では良く分からないが、しいて言うなら結構離れた位置にいるはずの廉が耳を抑えたほどの五月蝿さである。

グレーシャーブルーの凄まじいパワーで投げられた何かが凍ったものは、風を斬る音が聞こえるほどのスピードで廉の顔面に寸分違わず向かっていった。

しかし、いくらスピードが凄まじいとはいえ、あんな投げ方ではどこを投げるのかが丸分かりである。

廉は首を軽くずらすだけで氷を避け、トドメの為にと取っておいた今までのものより速い投石を、投げ放った姿勢の氷雨に向かって放った。

本当は遅めの投石で油断させたところで、一際速いトドメを放つつもりだったらしい。

廉の攻撃に気付いた氷雨は笑い、あえて避けずに肩で受け止め、拳を思いっきり振れる姿勢に戻す。

「っ!?」

今のタイミングならなんとか避けることも可能だった。それなのにわざわざ受けとめた氷雨を廉は理解できない。

無論、避けたところを追撃するための一発も用意していたのだが。

ともかく、ようやく傷らしい傷を負った氷雨に立ち直る暇を与えさせないため、廉は氷雨の所へ駆けていく。

そしてその行動は、思いもよらないものに後押しされる。

ブオォッ!!

背後からの暴風によって。

「うっ……!?」

その場に立っていられないほどの暴風は、廉の体を容易く氷雨の方へと吹き飛ばす。

吹き飛ぶ先にいる氷雨は肩の傷を無視し、いつでもアームズを振るえるようにする。

「俺のグレーシャーブルーなんでも凍らせる。それは空気だって例外じゃねえ」

氷雨の言葉で廉は大筋を理解する。

「なるほど……、空気を凍らせ、俺の背後で溶かしたわけか」

この世のもののほとんどは凍らせると体積が小さくなる。それは空気でも、だ。

空気を凍らせて圧縮した氷雨はそれを廉に投げ、廉の背後で溶かして体積を戻し、爆風を作り出したのだ。

ちなみに、弾かれたら弾かれたで今度は態勢を崩せる。どちらをとってもいい方に転がるのである。

氷雨は地上で廉は空中、普通なら廉の方が不利な状況だが、アームズならその常識を覆せなくも無い。

「男一匹金城廉。ここでやらなきゃ男じゃねえぞ!」

「別にお前にどう思われてもいいんだけどな……。負けるのは勘弁だっ!!」

廉は不安定な姿勢にもかかわらず、がっちりとした姿勢でアームズを構える。

「第二ラウンド、そろそろ終わりにするぞっ!!アービティアリィ・ハッカーッ!!」

ガガガガガガガガッ!!

グレーシャーブルーで凍らせたり、アービティアリィ・ハッカーで策を張り巡らす暇が無いほどのラッシュが廉と氷雨の間で行われる。

「まだまだ……、ゴングは鳴ってねえぜっ!!」

結局ラッシュが行われたまま廉は着地し、拳を突き合せた反動でもう一度距離を取る。

「……もう逃がしゃあしねえぜ!!」

しかし、氷雨はすぐに距離をつめ、投石器を作る事を許さない。

もう逃げられないと腹を括った廉は、氷雨と同じように腰を落とす。

廉がやる気になった事に氷雨は満面の笑みを浮かべ、またスピードを上げる。

それから十秒ほど続いていたラッシュは、痺れを切らした廉によって止められる。

氷雨が放った甘めの右拳の手首を受けとめ掴み、左のフックを放つ。

掴まれた氷雨も廉の左フックを掴んで受けとめる。

すると示し合わせたように二人は体をそり、双方が双方の額に頭突きを放ち合った

ガッ!!

ぶつかった後二人はしばらく止まり、そして同時に笑い出す。

「はははっ!!楽しいなあ廉っ!!」

「……ああっ!!全くだ!!」

弾かれるように二人は離れ、またまた同時に叫ぶ。

「いくぜえぇぇぇぇぇ―――――ッ!!」

「やってみろっ!!!!」

二人は前に駆けながら右側でフックの拳をぶつけ合い、弾き合うと今度は左側でフックの拳をぶつけ合う。

「アービティアリィ・ハッカー――――ッ!!」

「グレーシャーブルー――――ッ!!」

二人は叫び、もう一度右側でフックを放ち合う。

しかし今度はかち合う事は無く、すり抜けるように双方の拳が双方の頬に吸いこまれていく。

ガッ!!

某ボクシング漫画のようなクロスカウンターが起こり、双方が双方の頬を殴りながら止まった。

廉が組成を弄くったり、氷雨が凍らせる事も出来ずに同時に崩れ落ちる。

……いや、もしかしたらどちらもそんなつもりはなかったのかもしれない。

仰向けに倒れた廉の表情に浮かぶのは、今までの壊れていたものとは違う、純粋で爽快な笑顔なのだ。

僅差で氷雨に分があったのか、氷雨は廉のように倒れる事は無く、立ちあがって廉の隣に座る。

「……どーだ、スッキリしたか?」

廉は、ユーディットや伊集院相手に何故力が発揮されていなかったのかや、氷雨との戦闘で込み上げていた笑いの源泉も分かった。

「……ああ、でもお前に感謝するのは癪だな」

二人は顔を合わせ、笑いだす。

氷雨が、戦いを望み、楽しんでいたからである。無論、詳しい理由は廉自身もわかってはいないだろうが。

ある事件により、廉は戦い自体を酷く嫌うようなっていたのである。……まあ、多少例外もあるが。

戦いは必ず憤りや悲しみを生むのである。そのツケを払うのは結局弱者なのだ。

実際、廉が戦いによって生まれたストレスを発散したのは無力……少なくともアームズに対しては無力なチンピラどもだった。

そんな廉が、ただでさえ戦いとは無縁だったユーディットや伊集院に力を振るえるわけは無い。

しかし、氷雨は違う。

戦いの副産物である憤りを生むことは無い。何より氷雨自身が戦いを望んでいるのだから。

氷雨はちょっとした苦笑いになり、種明かしを行う。

「いや……。礼は楓に言うんだな」

鳩の豆鉄砲が実はゴルゴだった時のような顔を浮かべる廉をよそに、氷雨は続ける。

「楓に呼ばれたんだよ。お前の様子がおかしいからちょっと来てくれってな」

だからあんなところに氷雨がいたのである。

「で、来てみれば楓は目に精気のねえ奴らに囲まれてるし、助けようと思えば腕から変なの出てくるし、そいつらぶちのめして楓止血してりゃあお前に殴りかかられるし、こりゃあチャンスだと思って戦おうとしたらお前の腕壊しちまうし、なおって安心したかと思えばお前の様子もおかしいし……だぜ?もう頭混乱しっぱなしだよ」

表情を一瞥してからもう大丈夫だなと、廉に立ちあがるよう促す。

「……氷雨、俺がこうなったのは……」

立ちあがりながら事の顛末を説明しようとする廉を、氷雨は片手で制する。

「興味ねえよ。俺は人の傷口に塩を塗るような良い趣味持ってるわけじゃねえしな。俺はお前と戦えた、それだけでいいんだよ」

それより、と廉の正面に立ち、アームズではない、普通の腕を構える。

「ま・さ・か、あれで終わりだと思ってるんじゃねえよな?」

人知を超えた力を手に入れてもいつも通りな氷雨に、廉もようやくいつもの調子を取り戻せる。

廉は笑顔を浮かべながら後ずさり

「はあ……。どこまでいってもお前はお前なんだな」

軽く手を振りながら踵を返し、全力で逃げ出した。

壊れた笑みではない。純粋で爽快な笑顔を。



































その後、アームズを駆使した逃走劇は廉に軍配があがり、廉は自分の家で寛いでいた。

楓には自分に恨みを持つ奴らが……と有耶無耶にして家に送り、氷雨は普通に振りきった。

走る速さは同じでも、アービティアリィ・ハッカーで壁を作られまくっては氷雨でも追いつく事は出来ないだろう。

ベットの上に寝転がり、こんな状況を作り出したふざけた奴をどう燻りだそうかと考えていると、廉の携帯に一通のメールが届いた。

内容は廉の都合に巻きこまれたんで海にでもつれてけという楓からのものであった。

廉は速攻で断ると送り返すが、数秒も待たずに同じ内容で倍以上となった文が返ってきた。

「あー……」

廉は腹が立ったので同じ分量のスペースで埋め尽くした文を送り返してやるが、これまた倍以上の文が送り返されてくる。定額制で無ければ出来ない芸当である。

不毛な戦いになると悟った廉は先に折れ、了承したと送り返す。

「まった……。面倒な事になりそうだな……」

廉は携帯をマクラに投げつけ、寝転がって呟いた。

奇しくも、こういう予想ばかりが当たるのである。彼の人生は。


楓:ひゅー、ずいぶんと熱血だねぇ。

廉:冷静になってみれば、なんて恥ずかしい事をしたんだ俺……。

楓:ま、過程はどうであれ立ち直れたならあたしとしては何も言うこと無いわね。

廉:一応、だけどな……。

氷雨:なんだぁ?まだ引きずってやがんのかよ。

廉:無茶を言わないでくれ……。いうならばトラウマクラスなんだからな。表面上は立ち直ったっていっても俺がやったことや状況は何一つ変わってないんだから。

氷雨:そんなもん気にしたら負けだぜー。図太く行こうぜ図太く。

廉:……その図太さが時折羨ましくなるよ。

楓:ま、これで一応話は一段落したし、次からはギャグパートね。そう、青い海、白い砂浜、水着の美少女っ!!

廉&氷雨:…………………………………

楓:……言いたい事があるなら言いなさいよ。

廉&氷雨:美、少女ねぇ……

楓:ハモらないでよっ!

氷雨:どちらかといったら微少女じゃねぇ?特に胸の辺りが。

楓:……うっさーい!!あたしはまだ成長期、これから大きくなることだってあるはずよっ!!

廉:………………………………成長、ねぇ。

楓:そこっ!意味ありげに呟かない!

廉:ハハハイイジャナイカ。ソレガカエデノミリョクナンダカラ。

楓:棒読みで言うなーっ!

(楓、走り去る)

廉:ちなみに、楓は確かギリギリBカップのはずだ。

氷雨:なんでそんなこと知ってんだよ。

廉:……いや、高一の時の健康診断であいつが誇らしげにそう言ってたんだよ。だから多分間違い無い。

氷雨:……てことはそれまでAだったって事か。

廉:……だろうな。

廉&氷雨:………………………

氷雨:……次回予告でもするか。

廉:……ああ

氷雨:眠る町を引き裂く一筋の煌き。振れるものすべてを凍らし、しかし心の中には熱いソウルが滾る……。

廉:嘘をつくな。

氷雨:……だってよ、言うならば次はプロローグ的なもんで言うこと無いんだよ。

廉:だからって遊ぶな。……俺がやる。

廉:次回『突撃(不本意)!隣街の夜明け』
  海へ行く、以上!!











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