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第四十四話:執念


――結論から言うと、楓はまだやられていない。

楓自身もよく状況を理解できていないだろう。その証拠に、目の前で千載一遇のチャンスが踊っているのにもかかわらず呆けてしまっている。

ブルードールは殴りかかってきた腕を、何を思ったのか突然くるくると肩から回し始めながら後ろに跳び、そのまま動かなくなってしまった。

それが、楓から見た先ほどの状況であった。うむ、理解ができなくとも仕方ない。

だが、外から見ていた場合はだいぶ違うものに見えただろう。

具体的には、ブルードールが周りの障壁ごと楓の体を貫こうとした瞬間、障壁が同時に発光してブルードールを弾き返したのだ。

「――まだ終わりではないぞッ!!」

未だに茫然自失する楓を叱咤するように舞台下から忍の叫び声が飛ぶ。とはいえ忍以外も叫んでいるのだが、楓の下に届いたのは忍の声だけだったということなのだが。

その声に、楓は頬を叩かれたかのように意識を取り戻し、わずかに離れた距離にいるブルードールに照準を合わせて障壁の槍を放つ。

本当なら直接殴りたかったのだが、今の楓は一歩歩くことでさえ大変な苦行なのである。そうそう無茶はできない。

無論、今まで障壁の槍を放たなかったように、これ自体もかなり制御が難しくダメージ対疲労のバランスが非常に悪いのであるが、何もしないよりはましだろう。

だが、そんな楓の懸念はすぐに払拭される。なぜなら、障壁の槍がブルードールに触れた途端ブルードールの体が強く弾かれ、舞台にめり込んでしまったのだから。

明らかな威力の強化に、楓は再び呆けてしまう。だが今度は自力で立ち直り、そして強化の原因に気づいた。

項垂れる自分に重なるように半透明の上半身がすぐ横にあった。それは何度か廉や氷雨で見た記憶があり、それが自分にも出たのだとすぐに納得することができた。

「(これなら――ッ!!勝てる!!)」

新たに付属された能力がどんなものなのかは分からない。だが、少なくとも基礎能力が上がっているのは肌で感じることができた。

まず、基本的なパワーとスピードが底上げされているのは間違いない。それに加え、障壁の展開能力も上がっている。硬度は試さないと分からないが、間違いなく上がっていることだろう。

だが楓は知らないだろう。二段階目に至ることは、この程度の強化ではないことを。

廉は基礎能力はそれほど変わらなかったものの、人体の殆どを掌握できるほどになった。それ故に身体能力の強化も容易になり、実質アームズも強化されたといっても間違いではないだろう。

そして氷雨はアームズ本体の巨大化と、氷結能力の強化である。少年に最強クラス、恐らく最後まで生き残るであろうとまで言わしめた鳴神の炎を耐え切り、廉の能力の干渉を跳ね返すほどの氷を作り出すことができたほどなのだ。

内訳で言うのなら、廉は基礎強化1、固有能力強化4、追加能力5といったところで、氷雨は基礎強化3、固有能力強化7、追加能力0というところか。

それまでの前例に倣うのなら、基礎強化2、固有能力強化3あたりであり、のこり5相当の追加能力があってしかるべきなのだ。

だが、ブルードールもただやられているわけではない。すぐに埋まった状態から這い出て初めて構えを取る。

あと一撃、それこそつついただけで倒れかねない状態とはいえ、元々折り紙つきだった楓の防御に攻撃まで付け足されたのだ。今までと同じ手段では先にブルードールの方が力尽きてしまうだろう。

対して、気力を取り戻した楓は障壁の槍を大量に作り、畳み掛けるようにブルードールに向かって投げつけた。

楓は気づいていないが、先ほどの攻防でブルードールは既に二段階目になって付加された能力を理解していた。

それは、『反射』だ。先程肩を回しながら吹き飛んだのは、楓の障壁を砕く勢いで振るわれた拳を反射した結果であり、故に実はもう肩は使い物にならなくなっていたのだ。

反射の力を持っているために、障壁をぶつけたのなら反作用の力も加わって威力が倍増するのである。

霰のように降り注ぐ、しかし威力は霰の比ではない障壁の槍に、ブルードールは怯えず退かず一歩を踏み出す。

大量に放たれ続けるとはいえ、その密度は疲労ゆえにたいしたことは無い。人一人が通れる隙間は必ずどこかにはある。

体を射線に対して半身に立ち、時には這い蹲り、時には跳びながら、少しずつ楓との距離を詰めていく。

どうしても避けられない状況になることもあるが、障壁に触れた程度ならそれほど威力は無いため、かする程度なら問題は無い。能力はあくまで反射であり、衝撃は倍増しても元が零だければ何の意味も無いのだ。

無論、多少深くえぐられる事もあるが、ブルードールは廉以上に鈍った痛覚をしているのだ。その歩みがとめられることは無い。

そしてついに、ブルードールは楓の射程内に足を踏み入れた。アームズとドールではその性質の都合上どうしてもアームズの方が射程が長い。東子ですら、恐らくドール以上の射程を持っているだろう。

瞬間、楓は障壁の投擲をやめ、二段階目に至る前とは違う、目に見えて強化された拳を振るう。

チョッピングライトのように打ち下ろされた右拳に対し、ブルードールは身を低くかがめながら左肩を滑らせて逸らし、そしてうなだれながら戦う楓の顔面に頭突きを叩き込むかのような勢いで一気に加速する。

だが、それは楓が咄嗟に作り出した障壁によって弾き返され、崩れた体勢のブルードールの後頭部に左の肘が叩き込まれる。

頭が楓の膝の辺りまできたところで何とか踏ん張り、倒れずにすんだブルードールは上体を起こす勢いも込めたアッパーカットを顎めがけて放つが、それも容易く障壁で弾かれ、今度は右肩があらぬ方向に曲がってしまう。

両肩を負傷したブルードールは体勢を整えようとバックステップするが、今度は背後に作られた障壁のせいで逆に楓の方へと押し出されてしまう。

表情は読み取れないが、驚きに近い感情の動きを感じ取った楓は、まともに動かない口を動かして笑う。

「(来るもの拒み、去るもの追わず。……でも、このテリトリーを侵そうとする輩が、そう簡単に逃げられると思わない事ねっ!!)」

アームズの右腕でブルードールの首元を掴み、そして上空に放り上げる。

そして空いた両手に作られたのは、廉の持つ十字架に匹敵するほどの――

「(四番サード唐傘楓。予告ホームランの狙った先は――!)」

――巨大な、バット。

落ちてくるブルードールをアームズで追いかけ、全身全霊を込めたフルスイングを叩き込んだ。

アービティアリィ・ハッカー程度のパワーでもドールの体を砕くことができたのだ。それ以上のパワーと能力がある楓なら、それ以上の芸当も決して絵空事ではない。

楓のスイングはブルードールの下半身をもぎ取り、その下半身を力ずくで引っ張ってとある場所に向かって放つ。

その、場所とは――そう。

「(――あの、くそったれのいるバックスクリーンよっ!!)」

人が必死に戦っているのを楽しみながら眺める、あの外道のいるところだ。

無論、モンスターイーターの弾丸が効かなかった相手に効くはずも無いが、流石にここまでてこずってしまうと少しくらいうさばらしもしたくなるものである。

決して軽くは無い質量にふざけた速度で放たれたブルードールの下半身だが、やはりあの外道に触れる前に消え去ってしまう。

それを見届けた楓は口の中にたまった血を吐き捨てながら、アームズの中指を立ててその後親指を地面に向けて振り下ろす。

対して少年は笑い返し、椅子から立ち上がる。

そして、彼が一歩踏み出した瞬間、少年は楓の目の前にまで瞬間移動した。

「――おめでとう。唐傘楓。まさに、大金星というところかな」

ぱちぱちと祝う気の無いおざなりな拍手をしながら笑う少年に、楓は睨み返す。

本当なら恨み言の一つや二つや三つや四つや五つや六つや……つまり罵詈雑言を浴びせたいところなのだが、いかんせん口がうまく動いてくれない。

皮肉にも聞こえる少年の賛辞は聞き流し、楓は廉に治療してもらうためにとっと戻ろうとする。

「だが、一つ君は思い違いをしている」

しかし、放たれた二つのものが楓の歩みを止めた。

一つは、思わせぶりな少年の言葉。そして、もう一つは――

「確かに、君の執念はたいしたものだよ。ブルードールがまったく歯が立たないなんてね」

――視界を遮る青。

「でも、ね。執念は、君だけが持っているものじゃないんだよ?」

正確には、氷河の(グレーシャーブルー)

崩れ落ちる楓を見下ろしながら、少年は再び笑う。

「君の仲間を思い返してみなよ。――金城廉は、下半身を吹き飛ばした程度で殺せたかい?」

わずかに残された力を精一杯振り絞り、ようやく楓に届いたブルードールの手。触れられたのは一瞬、だが、グレーシャーブルーならその程度で十分だった。

一センチ四方程度の氷の膜は瞬く間に楓の全身を覆い尽くし、楓の息の根を止めた。

その能力の発動でブルードールもすべてを使い果たしたのだろう。楓が完全に凍りつくのを見届けた後砕け散った。

少年は楓に背を向けて元いた場所に戻る。

……舞台に残されたのはただの塵と化したブルードールと物言わぬ氷像になった楓、勝者などそこにはいなかった。




































「……駄目、か」

廉が再び目を覚ましたとき、すべては終わっていた。

鳴神のように様々な手を尽くしても目を覚ますことは無く、今は規則正しい寝息を立てて廉のベットに横たわっていた。

それを見下ろす廉の顔に表情は無く、結果楓が目を覚まさないと分かった時も先述の一言を呟いただけである。

廉の傍らに立つ東子はそんな姿を見て不思議に思う。廉は楓のせいで様々なトラブルをこうむっていたとはいえ、彼らの絆は半端なものではなかったはずだ。

「……別に、つらくないといったらそれは嘘ですよ。」

東子の表情からそんなニュアンスを読み取ったのか、形だけの笑みを浮かべてそういった。

「でも、ですね。これから何が起こるかわからないというのに、いちいち苦しんでられないんですよ。もっと大切な人を失うことだって……いえ、なんでもないです」

途中で右手で顔を押さえながら口を噤み、踵を返してコロシアムへ戻っていった。

「……羨ましいな。いや、妬みだということぐらい分かってはいるが、君たちを見ているとどうしても、な」

『もっと大切な人』が東子である事は付き合いの浅い忍でも分かることであり、故に忍は羨ましく、妬ましくて仕方なかった。

東子は何も言葉をかけることができず、自己嫌悪をしながらコロシアムへ戻る忍の背中を眺めるしかなかった。

自分も同じく戻ろうとするが、伊集院が楓の横たわるベットに腰掛けながら楓の手を握っていることに気づいた。

最初は意味が分からなかったが、すぐに納得する。二人の出会いは最悪だったとはいえ、この夏休みで友人とも呼べるほどに仲が深まっていたのだ。覚悟していた廉と違ってショックも大きいだろう。

やはりこちらにも声をかけることができず、東子も先に行った二人の後を追ってコロシアムに向かった。

とはいえ廉の自室とコロシアムは扉一つを隔てているだけであるため、すぐに廉たちに追いつくことができる。

観客は先ほど凄惨なの試合と、楓の不在にどよめき、楓がどうなったのかを理解した。

そんな中で廉は一人腕を組みながら舞台を見据え、思考を巡らしていた。

「(楓、本当によくやってくれた。これで一勝一分け、次勝てば……少なくとも負けは無くなる)」

向こうがグレーシャーブルーを使ってくれたことで、氷雨の一勝はまず確定的になり、故に次勝てば六戦三勝一分け、勝ちが決まるのだ。

無論、そんなに甘くは行かないだろうが、それでもそれなりに現実的な皮算用といえるだろう。

「(……だが、次は誰を出すべきか)」

しかし、その皮算用を現実のものにするために必要なものである廉、楓と続く三人目がいないのだ。

まず、東子は問題外だ。戦力的な意味でも、廉の個人的な意思としても出させるわけにはいかない。

一番ふさわしいのは伊集院だが、クロックレイジネスにあてて確実な勝利を得るなどといったもろもろの理由で出すわけにはいかない。

となると……残るのは佐藤忍、唯一人だ。

だが、彼女はアームズを使った戦闘を経験したことは無く、勿論格闘技などの経験も無いそうだ。

ざっぱな使い方しかできないアームズとはいえ、逆に細かい動きができないためにそういった知略が必要になってくるものなのだ。

「(……せめて、五十嵐か耕作さん、鳴神先輩がいれば……!!)」

鳴神がいるなら、そもそも楓の出番すら無かっただろうし、耕作や優姫がいれば東子を危険にさらさずにすんだのだ。

加えてユーディットがいたのならそもそもこんな茶番に付き合う必要も無かったのだが……。

無いものねだりをしても仕方ないと、廉は気取られない程度にため息をつき、忍の隣に立つ。

「大丈夫ですか……?随分、ショックを受けているようですが」

かといって、むざむざ殺されるために忍を送ることは出来ない。あまりにも怯えているようならここで切り札を切るのも辞さない考えで、廉は忍に声をかけて様子を観察する。

忍は声をかけられても顔をあげることは無く、あろうことか小刻みに体を震わしていた。

それを見た廉は即座に心を決める。――今が切り札を切るときだと。

幸い、といっていいものか、楓が倒れたことによって廉にはおあつらえ向きのカードが手に入ったのだ。

廉は行動に移るため、忍のそばを離れてあるところに向かおうとする。

――だが、廉はまだ自分が二十も生きていない若輩者だと思い知らされることになる。

「……私は、今非常に恥ずかしい」

呟くように発せられた忍の声を聞いて、廉は一気に心が揺さぶられた。

「まだ年端も行かぬ少女が、あのような覚悟と力を見せつけたというのに……、私は、私は……何をしているというのだッ!!」

怒りでも敵意でもなく、忍の声に込められたものは――純粋な闘志。

あの体の震えは武者震いであり、怯えなどではなかったのだ。

自分を鼓舞する言葉などはいらない。忍はただ、意思を示すのみ。

「金城、次は私が戦う。――異論は無いな?」

闘志などというものとは縁遠い戦い方をしてきた廉には、忍のその言葉に異を唱えることなど出来なかった。

無言を応ととった忍は呆然とする廉の横を通り、一人舞台上に上がっていく。

「私を守り……死の淵でさえ敵を退けたこのアームズに……耕作の形見でもあるこのアームズに……黒星などつけるわけにはいかないのだッ!!」






アームズマスター廉 最終話 希望を胸に

廉「チクショオオオオ!くらえシン!グレートモンスターイーター!」

シン「さあ来い廉!私は実は普通の人間であり撃たれたら死ぬぞオオ!」

シン「グアアアア!こ、この最強の一角と呼ばれる四天王のシンが…こんな小僧に…バ…バカなアアアア」

シン「グアアアア」

優男「シンががやられたようだな…」

全身黒タイツの男「ククク…奴は四天王の中でも最
弱…」

同上「人間ごときに負けるとは魔族(?)の面汚しよ…」

廉「くらえええ!」

3人「グアアアアアアア」

廉「やった…ついに四天王を倒したぞ(内二人は見たこと無かったが)…これで■■■■のいる玉座の障壁が開かれる!!」

■■■■「よく来たなアームズマスター廉…待っていたぞ…」

廉「こ…ここがコロシアムだったのか…!感じる…■■■■のアームズ力を…」

■■■■「金城廉よ…戦う前に一つ言っておくことがある。お前は私を倒すのに色々と前準備が必要だと思っているようだが…別に普通に戦って勝てる」

廉「な、何だって!?」

■■■■「そして死んでしまったりトラウマを負った連中は私に勝てばなかったことになる。あとは私を倒すだけだなクックック…」

廉「フ…上等だ…オレも一つ言っておくことがある このオレに生死が不明な弟がいるような気がしていたが別にそんなことはなかったぜ!」

■■■■「そうか」

廉「ウオオオいくぞオオオ!」

■■■■「さあ来い廉!」

廉の勇気が世界を救うと信じて…! ご愛読ありがとうございました!








楓「……ねえ廉。なにやってんの?」

廉「訊くな」
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