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……実は、ユーディット編以降は大筋のストーリーだけでそれほど煮詰めて考えてなかったんです。だから多分書くのはかなり遅れると思います。
第三十八話:開幕


「――あの馬鹿野郎ッ!!一体どこをほっつき歩いてんだっ!」

廉はそう叫び、クッションに携帯電話を投げつけた。

後もう数時間で決戦の日である明日になる深夜、万全な状態で迎えたかった廉の目論見は予想通りの男によって崩された。

修行に出ると姿を消した氷雨に全く連絡がつかないのだ。

臆病風に吹かれて逃げたとは考えられない。なにせ、闘争心という面では廉以上なのだから。

恐らく、移動にかかる時間などを全く考慮していないだけなのだろう。

緊張が高まって苛立ちを隠せない廉は頭をかきむしり、乱暴に椅子に座る。

他の面々も例外ではなく、各々に緊張の面持ちを隠せないでいる。

特に顕著なのは忍だろう。今まで全く戦いに無縁であり、しかも初めて出会ったアームズが規格外と来たもんだ。恐れるなというほうが無理だ。

「ど、どうしたのかな……?まさか、何か事故でもあったんじゃ――」

「それは無いから落ち着きなって。あいつ、力だけは無駄にあるんだから」

落ち着けずにうろうろと歩き回る東子を楓が嗜め

「落ち着いてくださいませ……。今からそんな緊張してどうするのです」

「あ、ああ……。分かってはいる。分かってはいるんだが……くそっ!」

恐怖故に体の震えが収まらない忍を、伊集院がなだめている。

ユーディットとの戦いの後、廉達が他のアームズに会う事は無かった。

単に絶対数が減っただけなのか、それともユーディットと廉の戦いを見た黒幕が下手に数が減るのを危惧した為なのかは分からないが、ともかく彼ら以外のアームズに出会うことも無ければ空間が開かれることもなかった。

おかげで廉達は訓練に時間を割くことが出来、目に見えた成果を得る事が出来た。

その中で一番伸びたのはやはり廉だろう。完璧とは言い難いが伊集院の剣術をインストールし、身体強化の時間もかなり長くなった。

「後に時間で明日か……。ったく、奴らの性格上日にちが変わった瞬間に召集されかねないってのに……あの馬鹿」

しかし、いないものはしょうがない。現状は廉、楓、伊集院、東子、忍の五人で戦うしかない。

「(忍さんは未知数だし、東子さんは問題外、伊集院は戦いに向く能力じゃないと来た。楓は信頼できるが、シンクラスが出てきたら手も足も出ないだろう)」

二段階目まで至ったのは氷雨と廉のみ。シンクラスと戦うのなら、やはり二段階目ぐらいは必要だろう。

二段階目の氷雨の力はよく分からないが、あれほどの破壊を撒き散らした鳴神と対を張れるのだ。決して弱くはないだろう。

かといって廉自信もシンと戦って勝てる保証は無い。その上、同列の人間がいるというのだから笑えない。

「(……ああもう。まさか、逃げられないってのがこんなに辛いもんだとは思わなかったよ)」

今まで逃げ回った男は遂に、背中に様々なものを背負って戦う事を決めた。

だが、その状況は決して芳しくは……無い。



































――予想通り、日付が変わった途端廉達は隔離空間に呼び出された。

そこはまるで東京ドームのように広い空間で、ちゃんと客席があり、中心にはマウンドの変わりに石造りのリングか拵えてあった。

そして、バックスクリーンにあたる位置には、腹が立つほどに豪奢な作りの玉座が備え付けてあった。

「――まるでローマ時代のコロッセオですわね」

それを見た伊集院は眉を顰めながら呟き

「はん。だとすると俺達はさしずめ猛獣と戦わせられる哀れな剣闘士って所か?」

無駄に趣向の効かせた演出に廉が嘲け笑い

「……はは。今から出てくる奴らに比べたらまだ猛獣のほうが可愛いんじゃないの?」

楓は特に緊張する事も無く、廉にそう返した。

「始まる前からそんな事言わないでよ……。ほら、忍さんが倒れそうになってる」

そのように戦いを目の前にして闘志をみなぎらせる三人とは対照的に、東子と忍の心は冷え切っていた。

なんとか勇気を振り絞ろうとするが、体は強張って上手く動いてくれない。

その姿を廉に見られていると気付いた東子は虚勢を張るが、廉の視線の色は変わらなかった。

バッ!!

「――ッ!?」

廉がとりあえず一歩踏み出した途端、天井に備え付けられていた電燈が一気に消え、その代わり玉座にだけスポットライトが当てられた。

『レディース・アンド・ジェントルメーン!!』

するとどこからともなくあの少年の姿が現れ、片手にマイクを持ちながら芝居がかった口調で声を張り上げた。

『ようこそ皆々さま。一人足らないようだけど臆病風に吹かれて逃げないでいてくれて嬉しいヨ!そんな君達に――』

「モンスターイーターァッ!!」

少年が現れた途端、廉は手持ちの金属でモンスターイーターを構築し、狙いも大雑把に少年に向けて撃ち放った。

轟音と共に霰のような銃弾を浴びせられる少年は、しかし事も無げに笑う。

『――一発逆転のチャンスをあげようっていうんだかラ、静かにしてもらえないカナァ?』

銃弾は少年の皮膚に触れた途端その姿を消したのだ。

「……ちっ。やはりそう簡単にはいかないか」

少年に当たらない軌道の銃弾でさえ、壁に触れた途端に消え去った。

廉は無駄だろうと予想できていたのか、特に執着せずにモンスターイーターを分解する。

「……とまあ、今何をやってもここは相手の土俵なんです。無駄な事はしないでくださいね?」

そして特に振り返る事も無く、やや厳しい口調で忍にそういった。

「気付いて、いたのか……」

忍の手にはラルウァマヌスが発現し、今にも跳びかからんばかりに足には力が込められていた。

だが、廉に出鼻を挫かれてしまい、とびだすタイミングを見失っていたのだ。

シンで奴らの力は痛いほどによく分かっている廉は、口で言うより手っ取り早いと鬱憤晴らしも兼ねてモンスターイーターを放ったのだ。

『はっはー!随分とまあ君も荒んでしまったもんだネェ?戦いを嫌う君の戦う姿を見るのが楽しみだったのニィ……』

残念だよと全く残念そうに見えない口調で少年はそう続けた。

廉は視線で人が殺せるのなら、無限地獄でも見せられるほどに視線に力をこめ、少年を睨む。

「荒ませたのはどこの馬鹿だ?俺だって二度とこの拳を握り締める事は無いだろうと思ってのにさ」

だがそんな廉の敵意も少年は楽しむように笑う。

『そんなに怒らないでヨー。――僕だって君に戦わせるつもりは無かったんだヨ?』

含みを持たせるような少年の声に、廉ではなく東子が疑問を投げかける。

「……どういうこと?だって、アームズは廉の知り合いに多いんでしょう?だったら……」

『――君は分かってないネェ』

少年はヤレヤレとオーバーアクションで首を横に振る。

『僕は別に戦いを見たい訳じゃあ無いんだヨ。特に、□□□□の能力で狂った馬鹿同士の戦いなんて見ても何も面白くないんダ。そんなものより――』

「――縁者を殺してしまった悔恨と、縁者を殺されてしまったものの絶望を見たかった。そうだろう?」

結論を先取りして言った廉に少年は『ご名答!』と愉う。

『最後に残るのは天先ユーディットと、鳴神翼、この二人だと思ってたんだけどネェ。予想ってのは当たらないもんだネ』

食ったものの能力を奪い取るユーディットと、どの面でも汎用的な強さを見せつけた鳴神が残るのは当たり前、と考えていたのだが、ユーディットは廉程度に逃げられ、鳴神はそれ以前に戦おうとしなかった。

『でも、何がどう転ぶかわからないものだネ。金城廉、君にはとても楽しませてもらったヨ』

これ以上会話を続けていても不快になるだけだと、廉は会話を打ち切る。

「御託はもういい。とっととそこから降りてくるなり、取り巻きでも降ろすなりしろ」

そう言って一人前に進み、ゆるく腕を組みながらアームズを発現させる。

そしてアービティアリィ・ハッカーの中指を立て、少年に向ける。

「まさか、自慢話を聞かせに来たわけでもないだろう?とっととおっぱじめさせろっ!」

すると少年は微笑み、右手を掲げる。

『……ああ。丁度観客も揃ってきたみたいだし、ネ』

観客?と廉が眉をひそめると、少年は掲げた手の指を弾く。

『折角、ここまでお膳立てをしたんだ。それを僕達だけしかいないってのはちょっともったいないと思わないかい?』

「――はっ!?」

すると、少年が現れたときのように、空席だった観客席が全て人ごみで埋まったのだ。

廉はその観客達を見まわし、驚きに表情を固まらせる。

無論、廉以外も驚愕し、忍に至っては青ざめてしまっている。

しかし、それだけでは別に驚かないだろうと、廉は確証は無くともそう思った。だが――

『――だから、君達の友人にも参加してもらう事にしたよ』

その中に、見知った顔がいくつもあるというのだから、驚くのも仕方ない事であろう。

『生憎、僕は君達の過去を知らないから旧友を連れてくる事は出来なかったけど――。まあ、充分としておこうかな』

無論、戸惑っているのは廉達だけではない。突然呼び出されたのであろう人々は、寝巻き姿のままざわざわとざわめき、精一杯現状把握に努めている。

廉は奥歯を食いしばり、少年を睨む。

だが少年はその敵意すら楽しむかのように笑う。いつのまにか、その口調は無邪気な少年のものでは無くなっていた。

『さて、僕が今から彼らに説明するからさ。君達はちょっと準備でもしてきてよ』

少年がもう一度右手を掲げ、指を弾くと廉とその後ろの楓達の足下に穴が開かれた。

咄嗟に縁を掴もうとするが、その縁も掴んだ所から崩れ去ってしまい、廉達は為す術も無く落下していく。

その姿を眺めた少年はマイクを通さず、誰にも聞こえないような声量で呟く。

『さぁ。精々楽しませてね?それが、僕の存在意義なんだから……』



































「いつっ!?」

廉が落下した場所は、まるで控え室のような場所だった。

無骨なコンクリートで囲まれた部屋に、壁に並ぶロッカー、中央のガラステーブルを挟むように三人がけのソファーが置いてある。

そしてガラステーブルの上には、ポットやお茶や軽食などが並べられていた。

廉はソファーに落ちたためそれほど痛くは無かったが、金属部分に膝がぶつかってしまい、小さく呻き声を上げる。

「きゃっ!?」

そんな廉の上に楓が落下してくる。

丁度楓の肘が廉の鳩尾に突き刺さり、廉は声無き叫びを上げる。

「あ……。ごめん」

「……そう思うのならとっととどいてくれ。普通にお前の膝が痛い」

とっととどければいいのに、楓は廉の上に座りなおし、適当に掌を合わせて謝る。

楓が苦笑いを浮かべて避け、廉は再び立ちあがろうとする。

「……あら。役得ですわね」

……が、そんな廉の上に今度は伊集院が落下してくる。

廉の姿を見た伊集院は受身を取ることなく、むしろ両手を広げて廉に抱きついた。

「……奴をぶん殴る理由がもう一つ増えたな」

廉は伊集院に抱きつかれながら立ちあがり、伊集院を引き剥がす。

もう次に何が来るか予想はつくが、あえて廉は動かない。

「はうっ!?」

予想通りに落ちてきた東子を腰を据えて抱きとめた。

状況を理解できない東子は目を白黒させるが、見上げた先に廉の顔があることに気付き、顔を真っ赤にして暴れ出す。

廉は特に抗う事も無く東子を立たせ、廉はその場所から移動する。

別に、忍を抱きとめる事自体やぶさかではないが、流石に殴られかねない。

はず、なのだが……

「ど、どいてくれっ!!」

廉の動きをモニタリングでもしているんじゃないかのように正確に、廉の真上から忍が落下してきた。

「ふふ、ふふふ、ふふふふふふふふふふふ…………!!始まる前からコケにしてくれるとは面白い趣向じゃないか……!!」

忍の尻に敷かれるように廉はうつ伏せに倒れ伏し、拳を握り締める。

「あら、悦ばないんですの?」

「……一体いつになったら俺は君のM認定を解いてもらえるのかな?」

掌で口を隠しながら笑う伊集院を恨めしげに見上げ、立ちあがる。

廉は上を見上げるが、落ちてきた孔は無い。……予想は出来たが、ここまで未知のものばかりを突きつけられてしまうと、流石に恐怖とはまた違った薄ら寒いものを感じてしまう。

「(……さて、準備といってもな)」

あの少年はそう言ったが、実際準備など殆ど必要無いのだ。

少なくとも廉以外は必要無く、廉自体もさほど必要なわけではない。

「えーっと……ロッカーの中には傷薬とか包帯とか……必要そうなものは揃ってたよ」

「っても廉がいるから必要無いよね」

故に暇な楓と東子は一緒になってロッカーを漁り、

「あら、この扉は廉様の自宅に通じているのですね」

「落ち着け……落ち着け……!ふー……っはぁ……」

伊集院は近くのドアの先を確認しただけで探索を止めてソファーに座り、忍は両手で頭を抱えながらぶつぶつと呟いていた。

「(……よくもまぁ、あんだけビビってて逃げないもんだな)」

忍の気持ちは廉にもよく分かる。……だが、それでも戦おうとする気持ちはよく分からなかった。

初めて戦ったアームズは規格外。その戦いの結果は最も凄惨な結果であり、過程も既にトラウマになっているだろう。

いくら廉とて、最初からこれでは、すぐに心は折られていただろう。

今は戦ううちに多少なりとも心が強くなり、仲間もいるため苦痛に感じても屈する事は無いであろうが……。

……それほどまでに、耕作へ向けた感情というものは強いものなのだろう。

「(……耕作さんが羨ましいよ。そんなに、真っ直ぐな感情が向けられていたなんて、ね)」

表現方法こそ捻じ曲がっていたものの、その根底にあるのは共に居たい、近づきたいといった純粋なものだった。

ユーディットの歪んだ恋心に気付いてしまったからこそ、……廉は羨ましくて仕方が無かった。

尚、この廉の思考の一部始終を楓辺りが知ったならば、問答無用ではったおしているだろう。

あれほど東子に愛情を注がれているというのに、と。

無論、廉とて気付いていないわけではないが、今まではユーディットに心が残っていたため、そして今はユーディットの事で女性不信になっているために気付かないことにしているのだ。

色恋沙汰を恐れているくせに他人の事を羨ましがる、随分と矛盾したものである。

そこで思考を切り、廉は一人一度自宅へ戻る。

真っ向からぶつかって勝てる相手ではないことはよく分かっている。万全に周到に完璧に策を張り巡らして、そこでようやく奴らの背中が見えてくるのだから。

部屋に戻り、未だに目を開く気配の無い耕作と鳴神を見下ろし、そして戸棚の奥から取り出した写真立てを眺め、廉は溜息をつく。

「(――全く、本当に俺って奴は学習能力が無い)」

自虐的な笑みを浮かべ、写真の中の人物に話しかけるように廉は呟く。

「すまない。やっぱり、俺は馬鹿だったよ……」

だが、次の瞬間にはその弱気な表情はなりを潜め、戦意に満ちた凶暴な表情に移り変わる。

「……だが、同じ轍を踏みはしない。勝つにせよ負けるにせよ、後には勝者しか残さない……!!」





廉:戦いの火蓋は切って落とされた。知り合いが見届ける中、俺達は異形の戦いへと赴く。だが、その一戦目は驚くべきものが相手だった――!!
次回『VSアービティアリィ・ハッカー!?』


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