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第一話:エクスプラメーション
第一話  エクスプラメーション


「ぐ、あ……!!」

明かりの無い自然に出来た洞窟の中、一人の少年が右腕を押さえながら芋虫のように地面を這いずり回っていた。

押さえている右腕は、一体何が起こったのか、鋭利な物で削られ、多大な衝撃を受けたかのように歪み、元の形が分からなくなるほどに捻れ、腕、と形容出来ない程となっていた。

他の体の部位も、自然に出来た洞窟である以上、当たり前のように舗装されていない地面を這いずっているので、全身と言う全身に細かな切り傷が刻みこまれている。

「かはっ!!」

痛みに耐えかね、一度仰向けになって息を吐く。

天井からは僅かに水滴が落ちてきて、ここが海辺の洞窟だということが分かる。

もう既に意識が朦朧となってしまった少年はこうなった経緯を思い浮かべていた。

「(なんでこんな事に……!!)」



































「……急にどうしたんだよ」

事の発端は七月下旬、殆どの学生の心を躍らせる夏休みを間近に控えた日だった。

主人公である『金城廉(かねしろれん)』も例外ではなく、元々低いテンションを僅かに上げながら昼休みを過ごしていた。

彼は濡れ羽色というような黒髪が腰下まで伸びて先端と真ん中と根元の三点で止められていて、割と鋭い目に、前髪の一房に紫色の紐が巻きつけられている。

身長は男子としては低目だが全体的には普通という、百七十にギリギリ届かないくらいである。

服装は彼の通っている公立砂川(さがわ)高校の制服の、公立故に単純なデザインのスラックスとポロシャツで、その胸元に二年生である事を示す青色の校章が付けてある。

窓際の席に座る廉は、本来の背もたれに肘を置き、窓側の壁を背もたれに使いながら自分の横の席に問いかける。

廉の視線の先にいる、癖の強い巻き毛をむりやりポニーテールにしている少女は、椅子を本来の向きとは逆にして、背もたれに腕を乗せながら答える。

「なにって……。あんたねぇ、高校生になってまでまだそんな枯れてるつもり?」

その声には悪意の無い呆れが存在し、影には策謀を張り巡らす喜びが隠れている。

彼女の名は『唐傘楓(からかさかえで)』といい、廉とは、小学校では別だったが、幼稚園に中学高校と続く腐れ縁である。

僅かに欧米圏の血が入っているらしく、色素の薄い猫目で、砂川高校の制服である紺のプリーツスカートに薄手のワイシャツを着ている。

しかし、全身を見てみても普通に一般日本人女性の下の上といったもので、欧米圏のプロポーションは受け継げなかったらしい。

楓は生粋のトラブルメーカーで、いつも幼馴染である廉が巻き込まれてしまう。

共に町を歩けばヤクザに肩をぶつけ、人のいない道では過激なストーカーが現れ、何もしなくとも植木鉢が振ってくるという始末である。裏道を歩こうなら間違い無く不良グループに絡まれてしまう。

そういったトラブルに楓が懲りれば良いものの、彼女は懲りるどころかそのスリルを楽しんでしまうくらいの度胸を持ち合わせてしまい、いつもその代償を払うのは廉なのである。

おかげで廉の喧嘩の腕は無駄に上がり、相手が武器を持っていない限り一対一なら負けない程となり、逃げ足は『三十七計の韋駄天』と称されるほどとなった。……本人としては非常に不本意なのだが。

楓がこういう話をする時は、大抵自分に厄介な出来事が振りかかる前兆なので、廉は興味なさそうに――実際興味は無いが――低い声で答える。

「……お前のせいで俺は生贄扱いなんだよ。そんな俺に近づく奴がいると思うか?」

廉の言っていることは大筋事実で、廉と楓は一セットとして見られ、楓に振りかかるトラブルは廉にも同じように来ると思われているのである。

大筋、というのは……。

「そうでもないだろー?この俺様がいるんだからよ」

そう、楓達に振りかかるトラブルを楽しむ男がいるからである。

名前は『霧霜氷雨(きりしもひさめ)』冷たい名前をしている割には非常に暑苦しい男だ。

校則違反である真っ赤に染めた髪をツンツンに尖らし、制服であるポロシャツではなく、何故かワイシャツにボロボロの学ランという格好である。

身長は割と高めで、本人が言うには百八十後半らしい。あくまで自称なので実際はもう少し低いだろうが。

ちなみに、砂川高校の冬服はブレザーであり、周辺の高校にも学ランの高校は無い。どっからとって来たんだといっても言葉を濁すだけで答える事は無い。

氷雨との出会いは、やはり楓のトラブルが原因である。

楓が近道だと暴走して通った裏道は、当然の如く不良の溜まり場で、楓の余計な一言で喧嘩が始まった。

相手は五人以上いて、即座に勝てないと判断した廉は楓を抱え上げると速攻で踵を返し、全力で走り去る。

前述の通り『三十七計の韋駄天』と称されるほどの逃げ足を持つ廉に追いつける筈も無く、すぐに突き放されてしまった。

しかし、そんな中で唯一廉に追走できたのが氷雨なのである。

氷雨は最初こそ捕まえる気でいたが、後半になるともう忘れてしまい、純粋な競争となってしまった。

で、そこで楓のトラブルメーカーっぷりが発動するのだ。

走っている途中、氷雨とはまた別のグループと遭遇してしまったのである。

そのグループは氷雨とも仲は悪かったようで、二人まとめて問答無用に喧嘩を吹っかけてきた。

廉に闘う気は無かったのだが、完璧に退路を塞がれてしまい、渋々ながら氷雨との共同戦線を張る羽目になってしまう。

共に走った仲だからなのか、既に氷雨と廉の間にわだかまりは無く、二人は充分に背中あわせで闘えるほどであった。

流石に全滅させる事はできなかったものの、元々廉に闘うつもりは無い。氷雨を見捨てて薄くなった部分を突破して逃げ去った。

その場はそれで丸く収まったかに見えたが、律儀に全員を叩きのめした氷雨が廉の住所を突きとめ家まで押しかけたのである。

どんな手を使ってでも追い返すつもりの廉だったが、氷雨に敵意は無くむしろ握手を求めてきた。

氷雨が言うには『共に戦った相手はダチ公だ』らしい。

その後いろいろな事情を楓から聞いた氷雨は廉をいたく気に入り、わざわざ廉の高校まで転校してきた、という経緯である。

「……で、いったいどうしたんだ?」

特に楓の話は聞いていなかったらしい氷雨は、廉の前の椅子に腰掛けながら事の経緯を楓に訊く。

「……別にアンタには関係ないでしょ」

問われた楓は不満そうに眉をひそめる。どうやら楓は氷雨の事をあまり良く思っていないらしい。

明らかな敵意を向けられた氷雨だが、特に気にせず、無理やり廉の肩に手を回す。

「そうカリカリするなよ。俺と廉は戦友と書いてともと呼ぶ仲なんだぜー?一心同体って奴よ」

廉は多少嫌そうな顔をするだけだが、楓の反応は顕著で、キリキリと眉を吊り上げる。

「こらぁっ!だからそういう事するなっていってんでしょっ!!また廉に迷惑をかけちゃうじゃない!!」

怒鳴る楓に、やんわりと氷雨の腕を払った廉が答える。

「俺にとっちゃどっちも同じだけどな……」

答えた、が、その言葉は楓に届く事は無い。ヘラヘラと笑う氷雨にさらに楓が突っかかる。

楓が怒鳴り、氷雨がそれを受け流して結局廉が損をする。これが彼らのいつものパターンなのだ。

だが、今日は少し違う。楓があっさりと引いたのだ。

「あーもういいわ。アンタにも言うから」

楓はポケットから一枚にチラシを取り出して廉と氷雨の間の机に置く。

「『夏の海岸ツアー 〜一夏の思い出を君に〜 』?なんだこりゃ」

ポップな書体ででかでかと書かれていた見出しを読む氷雨は素っ頓狂な声を上げる。

説明を見ると、夏休みに男女十人ずつで旅行をしてカップルを作ろう、というものらしい。

「そ。だってさ〜、廉ってば未だに彼女いない暦=年齢なのよ?幼馴染としては心配で仕方ないわけ」

大袈裟に呆れるポーズを取る楓に、廉は眉間を抑える。

「だから誰のせいだと思ってるんだよ……!」

「その陰気さじゃないの?」

廉のささやかな文句も、笑う楓に流されてしまう。

その掛け合いを見ていた氷雨も愉快そうに笑う。

「ふーん。ま、俺には鳴神先輩がいるから関係ないけどなー」

鳴神先輩とは、フルネームを『鳴神翼(なるかみつばさ)』といい、氷雨の所属する陸上部の先輩であり、彼の片思いの相手でもある。

三十七計の韋駄天の名を持つ廉を勧誘するために、廉のクラスである二の三に来た時、何故か氷雨の方が一目惚れしてしまい、廉の代わりに陸上部に入ったのである。

校則で髪を結ばずに伸ばす事が禁じられているため、鳴神は腰までの黒髪を二つに分けて三つ編みにして、べっこうぶちの眼鏡をかけている。

かなり大人しい外見の鳴神だが、部活となると三つ編みを解いて眼鏡を外し、活発な少女に変貌するのである。

氷雨にとってはそのギャップがたまらないらしい。

実家が古武術の道場ということから、多少武術も嗜んでいるという文武両道の大和撫子なのである。

余談だが、廉は諸事情によって陸上部には入らず、楓と同じ帰宅部なのである。鳴神と会うたびに勧誘してくるが、頑なに拒み続けている。

「なによ、まだ告白のこの字も出来ないくせに」

普段はおちゃらけている氷雨も、鳴神の前では思ったことを口に出せない純情少年と早変わりする。その代わりっぷりは見物である。

廉はそのまま話が有耶無耶にならないかと期待したが、結局は楓に押しきられ、ツアーに行くことを承諾させられてしまった。



































「(……ったく。楓はいなくてもトラブルを引き起こすんだな)」

そして、不本意に行かされたツアーの途中、廉は自由時間に事故に巻き込まれて海に投げ出され、今ここの洞窟に流れ着いたのである。

廉は仰向けになりながら上に手を翳す。

一度動くのを止めたせいか、もう完璧に動く気も体力も失せ、意識も本格的に朦朧としていく。

「死ぬ寸前って走馬灯がよぎるっていうが……、本当なんだな」

廉の脳裏によぎるのは、幼い頃の記憶。

無邪気だった楓、その無邪気さ故に荒んでしまった廉。

これは何と訊かれて差し出されたのは血のこびり付いた銃弾。

共に行かされたピクニックで、どこから取ってきたのか猛毒の蛇を首からぶら下げ。

極めつけはパック詰された白い粉を拾ってくる。

小指の無さそうなヤクザとの鬼ごっこは文字通り寿命が縮んだかもしれない。

小学校でようやく解放されたかと思えば、毎日のように遊びに来る楓によって心を磨り減らされる毎日。

「(そういえば……。この時ちゃんと彼女いたんだよな。楓のせいで台無しになったけど)」

初めて出来た彼女を家に招いた時、何故か楓の下着が廉のベットの上に、平手打ちをくらって錐揉み吹っ飛びしたのは最早トラウマである。

「(い、いい事無いな……)」

そんな馬鹿馬鹿しい記憶が廉に力を与えたのか、僅かに、本当に僅かにだが脚に力が戻ってきた。

歯を食いしばり、視界が明滅するほどの痛みに耐え、廉は少しずつ上体を上げていく。

「こんなところで死ねるか……!楓に文句も言っていないっ!!」

立ちあがった事によって全身に激痛が走るが、構わずに廉は前に進む。

もう既に廉の体は立ち上がって動ける体ではない。

皮肉にも、この状態に至った原因である楓への怒りが廉を突き動かしていた。

と、その時。

カラーン

廉の背後に、そんな澄んだ音がして何かが落ちてきたのである。

石が落ちた音とは違う、金属のような音に廉は振りかえる。

振りかえるのにも数秒を要したが、今のところ時間は関係ない。

「っ!今度は何なんだ……?」

振り向いた廉の前に、ふよふよと光の球が浮いていたのである。

光の発生源が見えない程眩しいのにもかかわらず、その光は洞窟の内部を照らしきれているわけではない。

実際、廉が後ろを向いていた時には全く分からなかったほどである。

明らかに不審なものだったのだが、廉には不信感よりも先に興味が巻き起こった。

唯一動く左手を、糸に操られるような動きで光の球に近づけていく。

そして、廉の手が光に触れた瞬間

ビカァッ!!

廉の視界と意識は白く染まり、何も見えなくなってしまった。
廉:……どうもこんにちは。流れ的に主人公の金城廉です

楓:流れ的……ってなによそれ

廉:いや、主人公がそれよりも濃いキャラのせいでフェードアウトしていくのはよくある話だからな

楓:否定できないわね

廉:否定してくれ

氷雨:あのさー、ここってなんか次回予告とかすっとこじゃねーの?

廉:……そんな事言われてもな、一話で次回予告というのも無理な話だ。それよりもこういう無駄な雑談のほうが受けもいいしキャラもつかめて一石二鳥だろう

氷雨:そういうもんなのか?

楓:そういうもんなんじゃない?

廉:つかめるかどうかはさておき、な。……まあ一応、責務だけは果たしとくかな



廉:次回トリックアームズ第二話『腕、もしくは兵器』……お楽しみに




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