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カルマがランドに赴いた影響21

 次の日、私は武器を持ったアイラと一緒に議場へ向かった。

 一応軽くて薄い鎧を服の下に着てある。

 相手の面子を考えると非常に心もとないが、胸ポケットに銀貨を仕込んでおくよりは良いだろうさ。


 議場に居たのは、レイブン、ガーレ、フィオ、リディアのみ。

 レイブン、ガーレは武器を持っている。トーク姉妹の護衛かね。

 お願いした通りの状況だ。流石リディア。

 今の所誰の眼を見ても私に対する好奇心しかうかがえない。

 ……素晴らしい。信じられない程に。

 あ、フィオは不満そうだった。

 多分アイラを配下のように連れているからだろう。

 ……ブレねーなこの子ちょっと緊張がゆるんだぜ。


 そして私が末席、入り口に最も近い場所に立って少しの時間待つと、カルマとグレースが部屋へ入って来た。

 

 さぁ、始まる。

 私は両手に感じる笛の感触を確かめて、落ち着くように念じる。

 これから私は人生で一番危ない橋を渡らないといけない。

 幾ら落ち着けと自分へ言っても鼓動が早いままだ……。


 ……私も以前のままではないはず。

 こういう場面でも冷静さを保てるようになろうと戦場へ行ったのだ。

 精神的に強くなっている。だから大丈夫だ。そう信じよう。


「では話しを始めよう。まずはリディア、現状の報告を頼む」


「オレステとウバルトの両方がこちらへ出兵する様子を見せております。数は両軍とも一万五千ずつ。どうやら話が通ってるようで、同時に攻めて来ましょう。ただカルマ殿がこれ程急に帰参するのは想定外だったらしく、準備に手間取っており出陣は四週間後と見ました。これはカルマ殿達のお手柄かと思われます」


「なっ! 多すぎるわよっ。両軍とも一万が限界のはず。それ以上は武器と金銭が足りないに決まってる。ちゃんと調べたの?」


「当然。間違いなくビビアナ・ウェリアが援助しております。いやはや中々手が早い。やるものです。勿論兵糧も十二分にある様子」


「……最初から大難であるとは思っていたが……此処までか。ダンよ。お主これでも勝機を作れるのか? 本当に作れれば当然厚く報いよう。だが、出まかせならば今言うのだな。いや、その前に尋ねたい事がある。お前はワシが帝王の後見人となるのを予想していたな? あれはザンザが死んだ事件を、そしてワシがケント様を保護するのを予想していたのか?」


 おお、トーク姉妹は凄まじく強い視線でこちらを見ている。

 他の人間は驚愕したという表情だ。

 確かに其処まで断定していたら、予知能力保持者も同然か。

 流石に無いだろ。予想はしてたけど。


「まさか。あの予想はお渡しした時に言った通り、万が一を考えて最悪の場合を書いた物です。トーク様が出世しても頂点にまで行かなければ、其処まで大きな問題とはならないと思っていました。そして現在国の頂点に立つのは、帝王の後見人であるのとまず一緒でしょう? だからあのように書いたのです」


「……そうか。それならば納得した」


 皆一様に安心した顔になった。……いや、トーク姉妹はまだ疑念を持っていそうか。

 だが、薄い。そうそう、下級官吏にそんな真似は出来ませんよー。

 出来たとしても教える訳ねーだろ?

 弱い立場の人間は能力を隠すものだぜ。

 それとも、私が出世のため自慢げに『全ては我が策の内』なんて言う人間にみえたのかね?

 ま、どうでもいいか……さて、まずは向こうの意思を確認しよう。


「私の話をする前に教えて下さい。トーク様はどう対処するおつもりなのですか?」


「籠城しかなかろう。元々であれば敵の数は最大で二万と見ておった。本来であれば我等も三万は集められようが、これだけワシの悪評が流れていては集めるのは不可能、となれば今居る一万弱のみ。それでも籠城して、耐え抜けば遠征軍であるあちら側の方が先に食料が尽きる可能性も十分あるとな。しかしこの状態では殆ど勝ち目がない。だからこそお主とリディアに期待しておる」


 現状認識が正確なようで結構。

 ……さぁ、どうなるか。


「ある程度期待にお応えできるとは思いますが、その為には条件があります。それはカルマ様が今後私に領地の動かし方について決定権を渡してくれる事です。私が決定権を持っている間は、お互いに協力出来るでしょう」


「な……に? 貴様、それはワシの上に立つと言っているのか? 気狂いの言葉に聞こえるが……」


「そうですね。そう取って貰っても構いません」


「はあぁ……失望したぞ。お前のような立場でそのような妄言を吐くとは。お前はどうやら気が触れているらしい。……だが謀反は謀反。ガーレ、レイブン、アイラ。こいつを捕らえろ。一応生かしておけ。これでは期待できぬが、勝機を作る方法とやらをまだ聞いていない」


 だよな。

 カルマが言い終ると同時に、私は今呼ばれた三人の動きを見る為、入り口に向かって全力で飛び下がる。

 同時に両手にそれぞれ笛を持ち、すぐさま吹けるように準備をする。


 右の笛なら逃げる準備がしてある場所へ走る。

 左の笛は吹きたくないが、草原族の人が緊急の使者だと言ってここに来て、私の解放が協力の条件だと言ってくれる予定だ。


 全てはアイラの動き次第。


 そして、そのアイラは……私に背中を向けて武器を構え、二人に対峙していた。


「アイラ、どういうつもりだ! その男は謀反人だぜ、取り押さえねぇと!」


「……僕はダンを守る。捕まえさせないよ」


「なんだと……。アイラ、お前裏切るのか! ……カルマ様、如何なさる? アイラを斬るのならばラスティル殿を呼ぶべきだ」

「あ、アイラ殿ぉっ!? お待ちくださいカルマ様、アイラ殿は騙されているっス。あそこに居る男は、どんな手管を使ったのかアイラ殿の家に住み、その間に少しずつ騙したに相違無いっス! どうか小職にアイラ殿を説得する機会を!」

「騒ぐなお前たち! 皆動くなっ! アイラ……どうして? 後ろのそいつは姉さんの上に立つなんて妄言を吐いたのよ? どうして庇ってるの? お願い、説明をして」


「……ごめん。僕はダンと約束した。だから、守らないといけない……」


 そうか……本当に約束を守るのかアイラ。

 確かにその可能性が十分にあると思ったからこそ、私は此処に居る。

 だけど、こうして現実になると……込み上げて来るものがある。

 カルマ達を守るためだと言っても、本人達から感謝されないのは分かり切っているのに。

 他に受け入れてくれる場所が見つからないとしても、これでは自分でその場所を壊している。

 当然承知の上、か。


 私が同情しては、アイラさんも不快に感じるだろうな。

 良いだろうアイラさん。貴方のその気高い気持ちに出来る限り応えよう。


「……まさか、アイラ、お前が裏切るとは思わなかったぞ。確かに一緒に住んでいれば情がわくとは思っていた。だが……何故だ? ワシに不満を持っていたのか?」


「僕は……カルマに不満なんて……」


「待ってくださいアイラさん。私が説明をします。カルマ様、私が何故貴方を助けようとこちらに帰らせたのだと思っているのですか? 貴方は現状死神に等しい。そんな貴方を下級官吏が助けようと自分の家まで呼んだのが、忠義故とでも思っていたのなら馬鹿としか言えませんね。

 私はこの乱れた世の中で生きる為、アイラさんに守って貰いたかった。それで、貴方に教えたように将来の予測をアイラさんにも教えていたんです。そして、貴方の死が近くなった時に積み重ねた信頼を使って、私と一緒に逃げて貰うつもりでした。しかし、彼女は私の配下となる代わりに、貴方達を助けてくれと望んだ。

 裏切り等とんでもない。アイラさんは貴方方の命の恩人ですよ。そして次に私がね。理性的に考えればお分かりになるでしょう」


 幾らか事情は違っているが、詳しく教える義理は無いさ。

 カルマ。お前は自分が死ぬしかないと分かってる。

 さぁどうする。理性を取れるか。それとも誇りと共に死ぬか?


「命の恩人だ、などと良くも言えたものね! 確かにランドに居ても厳しい状況だった。でも、この状態では全く変わらないでしょうが。それとも、お前にはこの状況で尚勝ち目を作れると言うつもりかしら?」


 おいおい。少しは冷静になれよグレース。

 私が全く根拠のない自信を持っているのなら、今もアイラさんがこっちに付いてる訳無いだろうが。

 お前の事はかなり評価してたんだぞ。

 それに上手く行けばお前を頼るつもりなんだ。しっかりしてくれ。


「そういうグレースさんはどうなんですか? 貴方がこの状況で何か手を持っているのならば、私の出る幕ではない。私は謝罪して去りましょう。アイラさんも私の配下にならずに済んだと喜ぶと思いますよ」


 ……外では誰も動いてないか。

 外で兵が集まってる時に鳴る筈の笛が聞こえてこない。

 カルマが兵を集める手に気づいてない訳はないし、こちらに気付かれず合図を送るのも不可能ではないと思っていたが……。

 指示を出せないのか、或いは話す気があるのか。

 悪くない状況だ。

 良いぞカルマ。お前が従ってる間は助けてやろう。アイラさんの献身を無駄にしないでくれよ。


「……外交で有利を作るわ。リディアも居るのだから、大軍相手に正面から戦うよりは有利を作れる。オレステとウバルトの片方だけでも止められれば、勝ち目が出て来る」


 おや、リディアを使うのか。

 そうだリディア、お前はどうする?

 この局面、お前が私に対して腹に一物を持っていれば必ず動くと思っていた。

 それ位私を含めて全員がギリギリだ。

 とは言え、こいつ程の異才が辺境の伯爵から何かを得る為、そんな小細工が必要とも思えなかったが……彼女の考えは推測できんからな。


「グレース殿、実は私もダンの配下なのです。一応ご意見申し上げると、その策しか無いでしょう。が、分の悪い賭けと言わざるを得ませぬ。よってそう申し付けられれば私はここを去ります」


 ぬっ……リディアもグレースと同じ考えを持っていたのか。

 私は全く気づいていなかったのに。

 外交か……確かにその手はあったな。

 やはり、私の地力はこいつらに及ばないし穴だらけか……。


「そんな、リディア貴方までも? ダン! 貴様、最初からこのつもりでリディアを……いや、そんな馬鹿な事は在り得ない……どうしてリディア程の人間がこの程度の奴の配下に? 貴様どんな卑怯な手を使ったのか!」


「おや、我が君に対してあまりに酷いおっしゃり様。皆さまの人物眼が宜しくないだけでございましょうに。よくよく見ていれば、正に天下の傑物と知れたはず」

 いや、史に残る英傑と言った方が一興か……。とか続けてやがる……。


 幾らなんでも在り得ねぇ……。

 なんだこいつ……どういう肝っ玉をしてんだ。この状態で冗談を言うとは。

 未だに三人は武器を構えてるんだぞ。

 私なんて表情を取り繕うのに四苦八苦している。

 ……全員めっちゃ反応に困ってるじゃねーか。

 冷静さも戻っただろうし、アシストと言えなくもないが……。


「えーと……一応言っておきますと、バルカさんの事は誤解です。何故かつい先日配下となって下さいまして。さて、カルマさんどうされますか? 私に決定権を渡しますか? それとも独力で何とかしますか? ああ、私の考えはカルマさんの考えには勝るとバルカさんに保証を頂いています」


「……聞いていると、どうもそなたはワシの上に立つ事に固執はしておらぬようだ。それなのに、何故そこまで拘る? そなたの案が良案ならば、ワシは喜んで受け入れ厚く報いように」


 おお……冷静さが戻って来た……いや、最初から冷静だったか?

 素晴らしい。此処まで状況が急変すれば、私ならもっと狼狽えるのは間違いない。

 今後カルマへより注意を払うべきか。

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