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カルマがランドに赴いた影響19

 今日カルマ達が帰って来た。

 だが私はまだ会いたくないのでリディアに、話し合いが明日になるよう伝言をお願いした。


『トーク様達もお疲れでしょう。今後を考えるとトーク様達の納得が必要に思えます。ゆえに一日疲れを取ってもらい、落ち着いてから話を聞いてもらった方が良いと思うんです』


 てなもんだ。

 何時もの如く単なる口実である。

 カルマと話し合う前にラスティルさんをどうにかしないと、とても話し合いなんて出来ん。

 私が目立った後に真田の所へ行かれたら大変である。

 リディアに一日置く余裕はあると聞いているし、急がなくても大丈夫っしょ。


 そして、夕食を取った後暫くして招いた時間にラスティルさんが来た。

 まず在り得ないとは思うが、ラスティルさんが私の行動を謀反だと考え拘束しようとすればアイラに守ってもらおうと考えている。

 ……そろそろ彼女が寝る時間なので不安があるけど……お願いしてあるし声を上げれば起きる……と思いたい。


「お元気そうで何よりですラスティルさん。ランドはどうでしたか?」


「良い経験が出来た。帰ったらお主に感謝しなければと思っていたのだ。勧めに従って良かったと思っておる」


「そう言って頂けて私も安堵しました。さてランドから帰ってきたら、真田という方の所へ行くべきではない理由について話をさせて頂きたいと言っていた事、覚えておられますか?」


「当然であろう。ランドではしょっちゅうその意味を考えていたさ。幾つか予想もしている。早速話してもらおうか」


「では話を始める前にトーク様が帰って来た理由と現在の状況を説明してください。どれだけご存じかによって話が変わってくるのです。ああ、私は少し理由があって全容を把握してます」


「ほお。倉庫務めのお主がか。相変わらず分からぬ男だ。さて……カルマ殿だが、大宰相とはなったがランドの官吏皆々から協力を得る事が出来ず、その上諸侯達から事実を百倍とした悪評を流されてしまった。このままランドに留まっていても諸侯達の軍により討伐されるは必定。それを何とか避けるべく自領まで帰って来た訳であるな。

 しかし、現在も近隣の領主達が悪評を大義として使い襲い掛かってくる可能性が高い。非常に危険な状態と言えよう」


「おお……完璧です。しかし其処まで理解しているのであれば何故逃げないのですか? ラスティルさんは客分。命を張る必要があるとは思えません」


「そういう考えもあろう。しかし負け戦だから、というだけで逃げては我が名が泣く。せめて一戦し、敵将の首を一つ取りたい。最も心中する気はないぞ」


 ……意味が分からない。

 負け戦で一戦したら基本死ぬっしょ。

 というか、籠城戦の可能性だって……って分かってるよね。

 何なんだこの人。

 アイラもそうだったが、この国の武将はこんなに簡単に死ぬような戦いへ行くのか?


「戦に行く時点で相当危ないと思いますが……流石としか言えません。お考えは分かりました。では私の意見を述べさせていただきます。

 現在ケイ帝国は終わっているも同然。誰もがありとあらゆる利権、しがらみに縛られ動けず、諸侯を抑える力も無い。後はどういった形で滅ぶかだけだと考えています。この点は同意なされますか?」


「……そう、だな。確かにカルマ殿がどのような良案を出そうが、誰も協力しなかった。王宮に攻め入ったビビアナを罰そうとしても不可能であった。否定は出来ぬ」


「其処で真田陣営ですが、現在男爵程度。しかし大望(たいもう)を抱いている。そうですね?」


「其の通り。何と言ってもユリア・ケイ殿はケイの血を継いでいると公言していた。ならばケイの中興を目指して当然。そうしなければ世から誹りを受けようぞ」


「そしてラスティルさんが今まで見た中で、最も慈悲深く民を考えている人達。だから彼女達が多くの領地を得れば得る程多くの民が幸福になる。故に彼女達を助けたい。と言った所でしたか?」


「うむ。そうだ」


 ヌルイね。それに物の見方が近視眼的に思える。

 ……いや、私にとって不都合な物の見方だからそう感じるだけかもしれない。

 何と言っても真田が居る。あいつが本気でそれを目指し、人格が苦労で変わらなければ成し遂げる可能性はある。

 死体の山の上に、だがな。

 死体の山は別に良いんだけどねぇ……。


「貴方のような優しい方にとってはとても相性の良い所でしょう。ですが私が考えるに彼らは民にとって害悪です。彼らが高い地位に産まれれば良かった。しかし現在彼らは何も持っていません。その上で大きくなろうとすれば、上の人間を引き連れている民と一緒に蹴落として行くしかない」


「それはその通り。しかし上の人間には民の害悪その物と言ってよい領主も居る。それに長い目で見れば、彼らが上に立つのが最も幸せな結果になろう? 戦で死ぬよりも多くの民を慈しめば良いのだから」


「それはそうです。しかし戦う相手としてその害悪である領主だけを選べるでしょうか? 隣同士は全て敵と言っていい時代が来ようとしています。それに民が望むのは何より戦乱が早く終わる事。しかし真田陣営が大きくなろうとすれば戦は続き、民にとっては有難迷惑となるでしょう。

 何よりユリア・ケイ。ケイを名乗る以上今の腐ったケイ帝国に縛られてしまう。もしも何処かの優秀な民を慈しむ貴族が全土を平定しかけても、ケイ帝国で無い以上逆臣であるとして認める訳には行かない。とかです」


「だが彼らは非常に強い民の支持を得ているのだ。それに多くの諸侯はケイの中興を掲げるだろう。今最強であるビビアナ・ウェリアこそケイの臣下だと主張しているではないか。共存は可能だと拙者は思う」


「そして二代も過ぎれば戦国の世に逆戻りですか? 皆それが分かってますよ。最終的には必ずこのケイ帝国全土を一人の元に統一しようとするのは間違いありません。

 そして何より最大の問題がある。真田陣営は勝てません。余りに小勢力過ぎます。勝つのはビビアナか、奇跡が起こってイルヘルミ、マリオ。このどれかしか在り得ない。

 真田陣営が幸運に恵まれ、侯爵程度の領地を得た頃にはビビアナとイルヘルミかマリオの覇者を決める戦いは終わっており、勝った方がケイの三分の二を支配している状態になるでしょう。後は無駄な抵抗をして無駄に死人を増やすだけとなる状態です」


 実際は違う。真田が私の予想上限近くのやつならば勝ち得る。

 当然そんな予想は教えないがね。

 大体、その予想上限の真田であれば私は殺すつもりなのだ。


「……お主、思ったよりも遥かに知恵が回るのだな。感心したぞ。しかし……真田殿の下に人が集まって来る早さは凄まじい。ひょっとするとひょっとしかねんぞ? 第一お主の予想も絶対ではあるまい?」


「確かに絶対ではありません。ですがビビアナとイルヘルミは誰かの下に付くような人間に見えましたか? 両方とも天下を我が物にしたいはずです。従わぬ者を全て倒して。つまり真田陣営は独立したならば、このどちらかは必ず倒さなければならない。付いていく民がどう考えるかは分かりませんが、私には成功率の凄まじく低い理想に付き合わされて死ぬのが幸せだとは思えません」


「その考えも分かる。所でダンは真田殿達が嫌いなのか? どうも話を聞いてるとそう感じる」


「正直に言えば嫌いですね。彼らは素晴らしい人格を持ち、若いのだと思います。だからこそ大きく動き、大きな事を成せるかもしれません。美しく正しい理想で多くの人に夢を見させもするでしょう。しかし私には世間知らず故のはた迷惑な行いにしか思えません。

 ラスティルさんもランドで見たでしょう? 世の中正しいかどうか何てどうでも良いのだと。彼らの話を聞いて私は自分が若い頃に正しいと思って行動し、色々な人に迷惑を掛けたのを思い出してしまいました。ようするに相性が悪いのでしょうね」


「ダンも若かろうに中年のような物言いをする。それにしても拙者が好んでいる人物達をはっきり貶すとは思わなんだ。ここまで正直に言ってくれるとはな」


「全てラスティルさんが好きで、恩があるからです。理解は出来ないでしょうし、恩着せがましく感じるかもしれませんが、私は今身を削って話しています。他の人にはこんな話をしません。ただそれも限界がある。更に私が話せるように改めて誰にも、どんな場合でも私について話さないと約束して頂けませんか?」


 ここまではちょっと頭の良い人なら誰でも出来そうな予想だ。

 それだけで説得できれば良かったが……無理だよな。反応も薄い。

 となると、私が何をして来たのか話すしかない。

 ……最低限でもこの人が明日行われる話し合いの場に居ない様にしないと。


「清々しいまでに見栄を張らず器の小ささを見せおったな……しかし、そこまで心配だというのに拙者の口約束を信頼してよいのか?」


「あんなに楽しみにされていたアイラ様との出会いを、恩を返していないなんて理由で何年も我慢されたラスティルさんであれば。それに、出会った時に見ず知らずの男である私を抱きしめて落ち着かせて下さったのは本当に有り難かった。その恩がありますから」


「う、うむ。そんな正面から言われると面はゆいぞ。……分かった。死のうとも話さないと誓おう。それにしても卑怯では無いか? 自分がどれだけ先を考えているか示して好奇心を刺激した後約束させようなどと」


「そういったつもりは無かったのですけど……すみません。さて、トーク様が帰って来た理由の一つに私がランドへ行く前、トーク様にどのような事態が起こるかの予測を教えたからというのがあります。これはご存じですか?」


「……いいや。皆目。事実なのか?」


おお……ラスティルさんが知らないのなら殆どの人間は知るまい。

もしかしたらトーク姉妹のみか?

これは喜ばしい。

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