カルマがランドに赴いた影響15
さて今、私の目の前ではアイラがカルマの文を読んでいるのですが……。
どんどん表情が曇っていってます……。
「こんなに、苦労してるなんて知らなかった。カルマ、凄く苦しそう。……ダン、カルマ達がランドで上手く行く方法は無いのかい?」
これは、よろしくない。
文一つで同情されては困る。
……いや、状態を把握できてないなら当然の話か?
だが不可能なのは本当なのだ。
幾ら悲しそうな顔をされてもどうしようもない。
いんぽっしぶる いず いんぽっしぶる。
「バルカ様、お考えをお願いします」
ちょっとリディアさん、こっち見ないでください。
押し付けたんじゃないんです。
説得力に差があると思ったんですよ。
「……仕方の無い方だ。アイラ殿がお聞きになった悪評は全土で広まっております。そして、広めている者から明確な害意を感じ取れる。ならば悪評だけに留まらず、軍を起こして直接カルマ様達を殺そうとして当然。悪の宰相を倒すこの戦いにケイ全土は注目するのは間違いなく、名を高めて世に数多居る人材が自分の下へ訪れるようにしたい群雄達が、雲霞の如く集まるでしょう。私の試算だと兵数は十万を軽く超えるのです。防ぎようが無ければ戦いようも無い」
「グレースは、リディアを凄い褒めていた。……見た記憶が無い程の才能だって。そのリディアでも無理? それとも、ダンが主君だから?」
む、アイラの前ではバルカ様と呼んだりして不透明にしてたつもりだったが、バレてたか。
いや……待てよ?
「アイラ様、どうして私が主君なのですか? バルカ様が私の配下になるなんて在り得ない話だと思うのですけど」
「うん? 二人とも自分が配下みたいにお互いを意識してるよね? でも、リディアは臣下を意識したりしないと思ったから。……違った?」
えっ何ソレ。
そんなの分かるの?
……いや……分かるかも……って、いやいや、厳しいだろ。
こ、こえええええええ。
私が一緒に住んでて稀に抱いてしまった下心。とかもバレてるのだろうか。
これまで以上に気を付けなければ……。
「何とまぁ。人物眼が自慢の軍師も青くなるような方だ。確かに私はダンの配下。しかし、無理なのはそれが理由ではありません。現在グレース様を始め皆が全力を尽くして尚この状況なのです。私に何が出来ましょうか。お忘れかも知れませんが、此処に来て一年も経っておりません」
「……」
俯いて黙ってしまった……。
しかし誰であろうがカルマを大宰相として成功させるのは無理だと思う。
話が急展開過ぎるのだ。
昨日まで辺境の伯爵程度だった人間が、いきなり中央の大宰相だなんて準備も何もあったものじゃない。
私だってこんな急展開が本当にあるのか疑っていたし、カルマとケイ帝国に諸侯を何とかする要素が欠け過ぎている。
不可能だ。
「アイラ様、隠さずに申し上げます。私がトーク様を助けようとしている理由は貴方が望まれているからです。そして、貴方が私の配下になっている間しか彼女を助ける気はありません。身の安全を確保出来ませんので。
その上、トーク様がこちらに帰って来て私の指示に従う確率は一割程度でしょう。ですが、これが私の限界です。後はアイラ様が決めて下さい」
「……ダン、本当に……意地悪な人だったんだね……」
う、ぐぅ……。
何と言われようが他に方法が無いのだよお嬢さん。
カルマの条件は余りに悪いし、彼女が領主の当然の行いとして私を捕らえ殺そうとするのは今後何時だって起こり得る。
アイラが向こうに付けばどうしようもないのだ。
真田の情報を集める為には、ある程度の無茶をする覚悟はある。
しかし無駄な危険は御免である。
既に無駄な危険を冒してるのでは、と思っている位だ。
カルマ達を使って、間接的に真田へ影響を与えられる可能性を考えなければ既に逃げていたかもしれない。
「僕は配下になると約束した。……約束は守るよ。ただ、一つ教えて欲しい。カルマが帰って来ても隣の領主から攻められると言っていたよね? それはどうするんだい?」
ぬがっ。
それは……教えられない。
「すみません。トーク様達だけで何とかするよりもマシであり、私が居ないと実行が難しいとだけしか教えられません」
「え? ……あ、そうか。僕は信用されてないのか……」
有体に言えばそうなる。
「すみません。もしもアイラ様が計画をトーク様に話してしまい、彼女達が私抜きでもそれを実行できると考えてしまっては困りますから。バルカさんから今言った事の保証は頂いています」
「うん、そうだね……。ダンだったら当然だ。かえって安心したよ。少なくとも適当な嘘を言って騙そうとしてるんじゃないと思えたから。それだけ慎重なダンなら、実際は何も無いなんて言って僕から恨みを買ったりはしないだろ?」
「……もしかして、脅されてますか?」
「あはっ。そう見えた? 違うよ。本当にそう思う。そしてカルマがダンに従ってくれれば、多分生き残れるんだろうなって。そうだろう? リディア」
「はい。勿論何が起こるかは分かりませぬが、私の読みでは生き残る公算の方が高い」
「うん。良かった……。ダン。カルマをお願い。カルマ達は僕にとって友達だし、あそこにはフィオも居るんだ。何とか助けて欲しい」
「分かりました。最善を尽くします」
それからすぐに私はカルマに箱の鍵と、帰って来るようにという内容の文を早馬で送った。
***
ランドに来て四か月。近頃皆の表情に余裕が無くなって来た。
いや、かく言うワシが一番酷いかもしれぬ。
最初はとても良かった。
ランドに到着する直前、王宮での変事と先帝の嫡子ケントがランドの外に逃げたかもしれない。と、ランドに滞在させていた臣下から知らされたのが始まりか。
すぐさま捜索した結果、誰よりも早くケント様を保護出来たのは正に天運であった。
あの時のかつてない感動を今も思い出せる程だ。
その後も、王宮での変事によって諸侯に対する疑いの感情を持ったケント様を守って信任を得、大宰相にまでなれた。
皆も大喜びであったが、今考えればあの時にこの状態は決まっていたのかもしれぬ。
思い起こせばこちらを見るウェリア家の二人やイルヘルミの目には、隠しきれない嫉妬と怒りがあったからの。
大宰相となって直ぐにケイ帝国の状態の酷さが今まで以上に分かった。
そして、分かり切ってる不味いところも山ほど見えた。
だからグレースと相談しつつ、一番良いと思える手を打とうとしたのだが……。
ランドの官僚も諸侯も、反対の為に反対すると表現出来る程こちらの話を聞かないとはのう。
結局目立って悪い行いをしていた者を除き、兵を使ってランドの治安を回復させる程度が限界であった。
ランドの民は喜んだが、今諸侯の領地で話されている悪評にはそれさえも横暴な行いの一つして話されていると聞く。
……最後の頼みであるリディアが帰って来いとしか書き送ってくれなかったのは残念であった。
一応グレースに彼女からの文は見せたが、
「姉さん、それは確かに良い手に思える。意地を捨てればね。でも、本当にあたし達が帰った場合悪評を認めたと世間は見るし、多くの兵達が離れると思うの。そして弱った所を隣の貴族たちが攻めて来るでしょう。その対処法があたしには思いつかない。だから、あたしはその手を取る気は無いわ」
と言っていた。
確かにその通りだとワシも思う。
皆リディアが大した人物だと言うから期待していたのだがな。
しかし……本当にどうするべきか。
残る手は、武力によって無理やり統治し、王領と我が領の兵でもって対抗するしか思いつかぬ……。
「カルマ様、レスターから早馬で文が届きました」
ん? リディアからか?
いや、違う。あのダンという男か。
鍵……そう言えば箱を渡されていたな。
こっちに来て忙しくすっかり忘れておった。
文より先に箱の中身を読んで欲しい、か。
せめて気分転換にでもなればよいのだが。
……
…………。
何だ……これは……。
手が……震える。背筋が、粟立つ。
帝王の後見人?
あの時、ザンザを支える第一の諸侯となるのが目的だったワシが、帝王の後見人になると予想していただと?
「誰かある! グレースを直ぐに呼んで来い!」
文の内容は……手はあるから帰って来て頂きたい……。
……グレースが来るまでに冷静さを取り戻さなければ。
あやつは、ダンは単なる下級官吏であるぞ。……いや、違う、単なるではないのかもしれない。
だが、ワシの臣下だ。遥か下の下級官吏に怯える領主など居るものか。
……あやつは、あのとき万に一つと言った。
少なくとも確信がある風情では無かった。それは間違いない。
そうだ、この状況を全て読めている人など居るものか。
冷静に、内容の良しあしのみを考えなければ。
とにかくグレースと話し合う。それからだ。
***
「……トーク様の予測される将来の一つはこうです。
1.ザンザが死ぬ。
2.帝王の後見人となり、ケイ帝国で並ぶものなき地位を得る。
3.諸侯の嫉妬を買い、トーク様の悪評が全土に広まる。
4.諸侯が作る連合軍と戦い敗北。
何よこれ……。姉さんがこの箱を受け取ったのは、レスターを出発する前夜なのね?」
グレースも顔色が悪くなっておる。
さもありなん。自分では絶対に不可能な技を目の前に示されては。
「ああ。そうだ。アイラに連れられて来たあのダンという男が渡してきた。万が一の時に、自分の言葉を信用できるようにと言ってな。こっちの文には代償が必要だが、帰ってくれば何とか出来る可能性があると書いてある」
「こんな予測……万が一と言ったって可能なのかしら。しかも……帝王の後見人だなんて。もしかしたら、あの日あたし達がケント様を保護するのを予測していたというの? 下級官吏が手に入れられる程度の情報で? だとしたら……そのままの意味で人じゃないわよ。かの大軍師リウにだって出来る訳がない……魔術が使えると言い出しても納得してしまうわ」
「そう取れなくはないが、流石に無かろう。だが恐ろしい予測なのは変わらぬ。全てこの通りになっていて、最後は諸侯と戦って敗北。当然殆どの者は死ぬしかあるまい。
……グレース、ワシはリディアから貰った文を直ぐに否定したが、ずっと帰った方が良いか考えていたのだ。グレースはどうだ?」
「……考えていたわ」
「正直に言ってほしい。このままランドに留まっていて、どうにかなると思うか?」
「……いいえ。全く光が見えていないもの。それに悪評はどう考えてもあたし達に対して兵を挙げる前準備。早ければ一年以内に攻めて来るでしょうね」
であろうな。
足りない物が多すぎるし、不足を埋める方法が全く思いつかないのではどうしようもない。
「帰ろう、グレース。その方がまだ希望がありそうだ」
「……はぁ……。結局、リディアの言う通りか。……帰るとなれば、彼女の策に従う? 姉さんは病気療養の為に帰参。それも出来るだけ突然に。でも、本当にこれで良いの? あたしは……とても悔しい。諸侯の中傷を受けて一戦もせずに逃げ帰るなんて」
「ワシだって悔しいぞ。しかし全ての理由に筋が通っている」
「うん……。無力ね、あたしは。まさか、ザンザに付こうとした結果がこんな事になるなんて」
「しかし結果は出てしまった。今はやれる範囲で最善を尽くすしかなかろう。では、ワシは準備ができ次第ケント様に挨拶をし、それから病気になる。準備は任せたぞグレース」
「分かったわ姉さん。所で、もしかしてダンとリディアは話し合ってるのかしら? 二人とも帰って来るように言ってるし……。それ以外に策が無いからと言えばそれまでだけど。それにこの予測、父がランドに住む貴族であったリディアの情報と智があれば……可能かもしれない」
「ワシもそれは考えていた。少なくともダン一人でこの予想が出来たと考えるよりかは、よっぽど妥当ではある。その場合リディアの智はワシの予想を超えていることになるが……。まぁあのダンが下級官吏なのは間違いないのだから、現実に可能かをリディアと相談してくれていた方が安心出来るのではないか?」
「そうね……でもそうだとすれば騙された気分よ。初日以外ではまったく親しい素振りを見せていなかったのに」
「帰ってから幾らでも問い詰めればよい。何にしろ無事に、少しでも今後有利になるようにしながら帰るとしよう」
「ええ。任せてちょうだい」
こうなった以上急がなければ。
まずはリディアと、彼女を通してダンに帰ると報せるか。
もしも彼が書いた考えとやらが駄目だとしても、諸侯に囲まれたランドよりは辺境のレスターの方が守り易い。
それだけでも帰る意味がある。
だがそれだけでは先行きが暗いな。
あやつの言う手段が有効な物であって欲しいのぅ。
……いや、望み過ぎか。
この危機的な状況で、ワシの配下がとてつもなく有能だったかもしれぬのだ。
喜んでしかるべき。
いかんの。近頃難しい状態が続いて考え方が暗くなっておったか。
文には一応他にも案が無いか尋ねるとしよう。
優秀かもしれぬ者を遊ばせておく余裕は無いのだ。
ロト太郎様から又もや絵を頂きました。
此度は大人のリディア・バルカになります。
以下のように仰せです。
今回は大人リディアさんを描きました。
服装は子供のころと違い、黒系統になっています。
デザインは以前物見櫓さんが描いた物を参考にしました。
子供の頃は名家の娘という事もあり、本人の意見より大人の意見が優先されるのでは?という事でふんわりとした子供らしい服になっておりました。
毎度の如く空いたスペースには別表情を。一部の人たち向けですね、はい。
との事ですが、はー、八頭身美人になって有り難いんじゃー。
すっごい腰細いんじゃけど、ダン君は一緒に歩いたら身の程知らずって散々言われてそうじゃ。
それでも横を歩きたくなりますね。
しかし、この服装、つまりワンピースですが美人でないと着るのが辛いと女性陣の間で言われると聞いております。
それを自分の意見としてあっさり選ぶ性格だとロト太郎様の主張でしょうか。
はい。そういう人のつもりです。
最後に、空いたスペースの表情が一部の人向けと仰ってますが意味分かりません。
誰でもご褒美だと感じるのでは無いでしょうか?
うしおととらでも言ってた。王は見下ろすものだって。
ロト太郎様が深くリディアを理解して下さり、大変うれしく思います。
尚ロト太郎様のpixivurlは http://www.pixiv.net/member.php?id=12051806 になります。