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カルマがランドに赴いた影響6

 オウランの命令により全ての配下となっている氏族は集められ、氏族長たちは一つの天幕で軍議の始まりを待っていた。

 オウランよりケイから援軍として来る将軍が到着次第軍議を始めると伝えられていたので、その者を待つ形だ。


 そのオウランはといえば、不安を表に出さないように耐えていた。


 不安の理由はダンからの指示通りに戦いの準備を整えたのに、馬の道具を使わないで欲しいと言われたからであった。

 その代わりに一人の将軍が援軍として来るとの連絡はあった。

 しかし個人が自分の氏族の者大半と、幾つかの信頼出来る氏族にあの道具を使わせるよりも戦場で活躍できるのはありえなく思えた。

 これから戦う相手はオウランと草原族での勢力を二分している。

 道具無しで当たれば勝てるかどうかは五分と五分である。


 それでもオウランがダンの文通りにしたのは、三年も経たずに草原族の半分を支配出来たのが、ダンのお陰であると感じていたからだ。

 だからこそ、オウランは不安に耐えながらも戦の準備を完了させた。


 実際にその将軍を見た時に、実力が信頼出来そうもなければその者を帰らせて、あの道具を使えば良いと考えていたからこそではあったが。


 そんな天幕の中にアイラが入ってきた。


 氏族長達がアイラを見る。

 すると、今まで誰も喋っていなかった天幕の一部から囁き声がオウランの耳に聞こえだした。


「あの白い毛は……アイラ……アイラだ」

「どうしてここに? アイラが援軍なのか?」

「馬鹿な……何故アイラが草原族の味方をする?」

「だが、そうとしか考えられまい?」

「だとすると……この戦は……」


 それらの声はオウランを戸惑わせた。

 入ってきた獣人は一度見たら忘れられない白い毛を持っていたのに、記憶に無い人間だった。

 しかし、一部の者は良く知っている様子を見せている。


 よく見ると、知っていそうなのはカルマの付近に住んでいる氏族である。

 しかも、怯えている様子まであった。

 オウランが戸惑っているのを見てか、第二位の地位にいるジョルグがオウランだけに聞こえるようにしつつ尋ねた。


「オウラン様、アイラが援軍だったのですか?」


 ……ジョルグさんも怯えている?

 智でも武でもわたしが最も頼りにしている師範が?

 過去一度もこんな様子を見た記憶が無い……。


「ええ、多分そうです。彼から将軍を一人援軍として向かわせると文が届いています。師範は彼女をご存じなのですか?」


「ご存じも何も……ああ、オウラン様が戦場に出た時にはもう我々はカルマの領地を襲っていませんでしたね……」


 確かにそうだが、だから何だというのだろうか。

 オウランが続きを聞こうとした所で、アイラが封のされた木簡を手渡そうと近寄ってきた。


「これ、ダンから渡してくれだって」


「う、うむ。そなたは、アイラ殿で宜しいか?」


「うん」


 子供のように頷くのを見て更に不安が増すのを感じる。

 いや、まずは文を読もう。彼女は単なる使者かもしれない。

 大事な情報があるからこそ、ダンは文を渡したはずだ。


「オウランさん、そのアイラ様は恐らくケイ最強の武将です。馬術、弓、接近戦、全てにおいて超える人間が居るとは思えません。

 彼女が望むだけの兵を率いてもらい、相談の上自由行動を許可すれば正に一騎当千の働きをしてくれると思っております。又彼女はご覧の通りの白い毛を持つ獣人な為孤独です。どうか親切に、暖かく迎えて頂けるようお願い申し上げます。

 とはいえ私は軍事に自信がありませんので、将軍である彼女と良く相談されては如何でしょうか。口下手ですが、聞く耳を持たれている方です。

 後、アイラ様は食事が好きで大量に食べられます。いっぱい食べさせてあげて下さい。申し訳ありませんが勝ちましたら彼女への報酬もお願いします。色々指示をしてしまいご不快でしょう。しかし、皆様の被害を少なくして勝つ為には最良の手段だと思ったのです。

 オウランさんのご健康と戦勝を願っております」


 ……え? この人が、ケイ最強の武将? 確かによく鍛えてあるけど……。

 ケイ最強の武将が、獣人だなんて……。ただの良い若者に見える。

 自分も若者であるのに、近頃オウランは苦労の為かその事実を忘れがちである。

 そんなオウランがダンの保証を何処まで信用して良い物か悩んでいると、他の氏族長から声が掛かる。


「オウラン様、こちらのアイラ殿は今回の援軍として来られたのですか?」


 まだ悩んでいたいけど、この言葉を否定するのは良くない。そうオウランは判断をした。


「ああ、そうなる。この文を送って来た奴はケイの情報を送る以外出来ない無能なのだが、わたしの機嫌を取ろうとでも言うのか、カルマ殿の将を援軍として送れると言ってきたので許可したのだ。我等の騎馬隊を率いらせるのを勧めるとここにはあるな」


 オウランの声を聞いた反応は二通りにはっきりと分かれた。

 アイラを知ってる様子を見せた者は喜びを、そうでない者は不快さを表に出した。

 そして、喜んだ者達は口を揃えて言い出した。


「オウラン様! これでこの戦勝ちましたぞ! まさかお若い貴方様がアイラを連れて来るとは……恐れ入りました」


 一方、アイラを知らない者にはこの言葉を不快その物と言える。

 自分達では無く、突然現れた奇妙な毛色の者が戦勝を決めるなど、誇りが少しでもあれば言えようはずもない。


「何を言うか! 草原族以外の者が隊を率いると言われて何も思わんのか! 誇りは無いのか貴様たちは! オウラン様、どうかお考え直しを。我等のみで十分で御座います。このように奇妙な毛の色を持つ者が一軍を率いるなど不吉で御座います」


 オウランは下手をすれば決闘騒ぎになると思い、心の中で頭を抱えた。

 戦の前に誇りが無いのか、と言ってしまえば簡単には収まらないものだ。

 しかし、言われた方は怒る所かむしろ同情しているような表情を見せていた。


「お主ら悪い事は言わん。それ以上アイラ殿を疑わない方が良い。さもなければ、お前たちは戦が終わった後に身の置き所が無くなるぞ」


 そう言った氏族長からは、心からの心配が見て取れた。

 しかし言われた方としては情けない奴としか思えず、より侮辱する発言をしようとした所をジョルグが止めた。


「貴様らいい加減にせんかぁ! ケイの方もおられるのだぞ恥とは思わぬのか!」


「「は、ははぁっ!」」


 師範は本当に頼りになりますね。そう思いながらオウランは口を開く。


「うむ。お前たち、アイラ殿を知っているのなら他の者達の為に詳しく話せ」


 ここでわたしに話せと言わない辺り、わたしも上に立つ者として慣れて来たのでしょうか。

 とオウランはこっそり思いながら配下の話を待つ。


「はっ。そちらのアイラ殿を知ったのは私の父が殺されたときでございます。父は我が氏族最強の者だったのですが、雑兵のように二合で殺され、私たちは命からがら逃げだしました」


「父を? 他にも親しい者を殺された者はいるか?」


 そうオウランが聞くと、かなりの者が同意の声を上げた。

 しかし、恨みを抱いてる様子が予想よりも薄い。

 不思議に思ったオウランが理由を尋ねると、返って来たのは自慢するかのような言葉だった。


「確かに私達は親しい者を殺されました。しかし、私の場合はやろうと思えば皆殺しに出来たのに情けを掛けられたのも存じております。それに一度でもアイラ殿の戦いを見て頂ければ分かると思いますが、あれは人とは思えぬ強さでした。素手で虎の住処に行けば死んで当然でしょう。それで虎を恨むのは愚か者かと。アイラ殿はそれ程に隔絶した方です。

 又、一人の戦士としてあれ程の強さ、憧れを覚えずには居られませぬ」


「つまり、お前たちはアイラ殿の下で戦うのに不満は無いと?」


「不満どころかこれで我等の勝利は確実。オウラン様おめでとうございます」


 未だにオウランとしては理解出来ない話に思えた。

 それでも、突然来た者に率いられて不満を持たない者達が居たのは好都合。

 その結論に達したオウランはそれ以上考えるのを放棄した。


「分かった。では、アイラ殿の下で戦うのに不満の無い者は……大体二割か。皆彼女に率いられて戦え。残りはわたしとジョルグが率いる。

 戦いは二日後。誇りある戦いとする為、相手にも知らせなければならぬからな」


 そう言ってオウランが一旦軍議を終わらせようとした時、今まで何を言われても口を開かなかったアイラがオウランに尋ねた。


「待って。僕はどう戦ったらいい? 全員殺していいの?」


 突然の質問に虚を突かれはしたが、質問の答えは決まっている。

 その為にもダンからの援軍を待ったのだ。


「いいや。相手も同胞だからな。出来るだけ死人の少ない勝ち方をしたいと思っている。理想は相手の氏族長ジャムハを出来るだけ早く殺す事。そうすれば他の者は降伏するだろう」


「ジャムハ……どんな格好の奴?」


「戦う前にわたしと話す相手だ。とはいえ理想は理想だぞ? 中々手ごわい奴だし、首を取るのは難しい。アイラ殿にはまず戦いに勝つのを考えて頂きたい」


「たぶん、大丈夫だよ。邪魔な兜を付けないのは久しぶりだし、武器も愛用のを持って来たから。考えがあるんだ。後で聞いてほしいな」


「あ、ああ。それはいいぞ」


 この場に居る誰にも分からない事だが、二人のこの会話によってこれから起こる戦の結果が決まった。

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