表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/215

ラスティル吐く

 グレースから聞いてはいたけど、訓練場には将軍が三人とも居た。

 ラスティルさんは中々持ってるね。

 うんだば、一応私が紹介させてもらいますか。


「将軍の皆さま、鍛錬中失礼致します。こちらのラスティル・ドレイク様が皆様の鍛錬に参加したいと仰っています。グレース様の許可は取ってありますので、よろしくお願い致します」


「ラスティルと申す。槍には少々自信が御座る。是非御三方と手合わせ願いたい」


 やだ、ラスティルさんから静かな自信を感じる。カッコイイ。

 あ、順番はどうするのだろうか?


「ドレイク様、手合わせの順番に希望は御座いますか? 三人を相手にすれば疲れると思いますが……」


「そうだな……アイラ殿、最初にお願いしてもよろしいか?」


「ぬぅ、こちらも疼いておるのだが。アイラどうする? 某が一番手でも良いぞ?」


「僕が先にするよ。希望されてるし」


「そうか、仕方があるまいな」


 直ぐに二人とも置いてあった木の武器を持ち、広場に出て向かい合った。

 ……準備運動は? と思っちゃう二十世紀産まれの私です。

 しかし、木の武器……。木の槍でやっても下手したら死ぬと思うんだよね。

 将軍になる程のエルフになると、魔力で肌を覆って矢程度なら防げるみたいな話も聞くけど。


 その所為か、微妙に薄着なんだよな……。

 ……あれ? アイラ様の武器、槍と思ったけど槍じゃない。

 なんか色々付いてる。

 なんだあれ、初めて見るぞ。

 と、始まるな。


 二人が同時に武器を突き出すのが見えた。

 お互いが突いてるだけに見えるが、武器が横に弾けてるという事はどっちかが横を叩いてるのだろうけど……良く分からん。

 ラスティルさん本当に強かったんだな。

 お山の大将かもしれないなんて思っててすみませんでした。


 私が心の中で手を合わせて謝ってる間も、二人はオラ無駄な感じで武器をぶつけ合っていた。

 あれだ、多分前後に歩きながら、足払いをお互いに仕掛ける奴だ。差し合いってやつ……なんじゃないかな。

 間合い管理が重要なんですよー。波動の撃ち方が難しいんですわー。


 私が頓珍漢な事を考えてると、一層大きく木がぶつかる音がして二人が武器を突き出したまま動きが止まった。

 それと同時に、アイラ様が片手に持った武器でラスティルさんの槍を抑えたまま走り込み、両手がふさがっているラスティルさんの腹に拳を突き込む。


「ゲハァ!」


 お、おーう……美人がゲロ吐いてる……。

 やっぱりアイラ様の方が強いか。

 どう考えても人間超えてるもんこの人。

 コルノ党を相手にした時、遠くから見てたけどこの人の場所は良く分かった。

 だって、一か所だけ人が飛んでるんだぜ?

 猖獗(しょうけつ)を極めるという言葉を実演して見せてくれた。

 あんな無茶をしてたら武器がポッキポキだと思うのですが、どうしてたんでしょうか。


「おまえ凄いね。槍の扱いが僕より上手い。でも、槍に拘り過ぎだ」


 おお、アイラ様は請われなくても指導する人だったのか。

 意外だ。

 あ、でも私への指導も丁寧に教えてくれるし意外って程でもないか?


「は、ははは。この槍は拙者の誇りですゆえ……」


「それはあまり良くないと思う。石でも殺せるし。さっき槍手放すのを躊躇ってなかったらもっと続いてたんじゃないかな」


「確かに……自慢の槍と良く分からない武器の突き合いで押し切れず焦っていたかもしれませぬな……」


「……皆そういう所はある。けど、余計な事考えない方が良いよ。弱くなるから。……多分。僕は考えないから良く分からないけど」


「誠に……ご指導感謝致す。大変感じ入り申した」


「ん」


 ……この子、簡単に言いますね。

 その余計な事を考えないって、何をしていてもどえらく難しくないっすか?

 オリンピック選手だって、ミスった後演技が雑になるはザラっすよ?

 人間に可能なのかそれ。


 所で、さっきどうやって槍を止めたんだろうか。

 あ、アイラ様の武器にある穴に、槍が入ってる? これで絡めたのか……。

 あの見た目的にもオラ無駄な状態で?

 ……本当にヒューマンなの? ハリーハリーハリーハリーハリーって言いだしそうに思えて来た。


 それにしても見た記憶の無い形をしてるな、アイラ様のこれ。

 槍に、斬る為の斧みたいなのが付いてて、矛みたいでもあるけど……うーん? いや? 見た事があるような?

 ……駄目だな、思い出せん。


 それはそれとして、二人は仲良くなったようだ。

 ラスティルさんに獣人への偏見とかは無さそう。

 えがったえがった。


 ラスティルさんはそのまま、残り二人とも手合わせをした。

 レイブンとは互角で、ガーレ相手には勝っていた。

 哀れガーレ……脳まで筋肉っぽいからって引き立て役だとは……。

 先日獣人に囲まれた時以来、この人の幸せを願っているのだが。


 冷静に考えて、武器が長柄の斧ってのが悪い。

 そりゃ槍相手には不利ですわ。

 空気抵抗面積が違うんですもの。


 ガーレよ、将軍とのタイマンは止した方が良いぞ?

 一突きで終わった。って横山大先生に描かれちゃうぞ?

 エルフ最弱候補筆頭と言われる私が言っても説得力が無いから言わないけど。

 ……うん? 今なんかこの人に相応しい将軍の名前が頭に浮かんだような。

 思い出せん。なんかこーいう人が居たような気がするんだけど……。

 ま、いいか。


 組手が終わったのを見計らい、ラスティルさんと飲み屋へ一緒に行く約束をした。

 ラスティルさんが汗を流してる間に、私は一度家に帰ってお金を取っておく。

 訓練場でもそうだったが、飲み屋でのラスティルさんは非常に機嫌がよろしかった。


「親父! 酒と適当に食い物をくれ! さて、ダン。素晴らしい武人を教えてくれて感謝している。まさか世にあれ程の人が居るとは……」


 とてもいい笑顔っす。

 満足してくれて私も嬉しい。

 しかし、はっきりと格の違いを見せられても笑顔とは……出来た人っすな。

 このままここに居てくれると有り難いが、中々の自由人っぽいし難しそうなのが唯一の困り所だ。


「喜んで頂けて嬉しく思います。こちら、ここまでの旅費ですが足りますか?」


 金額としてはサポナ領からの旅費を計算したものに一割程度を足してある。

 ぶっちゃけこれが限界。

 オウラン貯金は使っているとあっちこっちに違和感を与えそうだから自重しているのだ。


「おや? このような物を頂く謂れは無いと思うのだが?」


「あー、もしもアイラ様達がドレイク様のお眼鏡に適わず無駄足を踏ませてしまった場合、せめて旅費だけでもと思ってためていた物です。

 それにドレイク様が以前言ってたように、グレース様に紹介しただけで俸給を増やして貰えました。その御裾分けもした方が良いかなーと」


「ふふっ。思ったより律儀な人だなダンは。しかし、これは少々大金だ。下級官吏の身で大丈夫なのかな?」


「ええ。貯金はしてありますから」


「ならば有り難く頂こう。今夜は拙者がここから払わせてもらおうか。しかし……ドレイク様とは他人行儀な。以前のようにラスティルと呼んで欲しい」


「良いのですか? 実は家名を持っておられるとは知りませんでした。失礼をしていたのなら許して頂きたいと思っていたのです。家名を持っておられる方には家名で呼ぶのが礼儀と聞きましたが……」


「ああ、知らなくて当然だよ。拙者の家名はコルノの乱での功により与えられた物だからな。領地も無い貴族など平民同然。それに家名で呼ばれるのはまだ慣れてない。友には名で呼んで欲しく思う」


「分かりましたラスティルさんお言葉に甘えます。さて、私の方はずっとここで下級官吏として働いていただけですが、そちらは何か面白い事がありましたか?」


「それはもう。以前書き送ったジョイ殿の他に、ユリア・ケイ、ロクサーネ、アシュレイという義姉弟に会ってな。長女のユリア殿に至ってはケイ帝室の血を引いていると名乗っているのだが、それに見合う人徳を持っていた。残り二人も庶人だというのに拙者と同等の武人。まさか野にあれ程の人物が居るとは……」


 え……それって……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ