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カルマとザンザの出会い2

 コルノ党と戦い初めて三時間、いよいよ先行きが雲ってきたわ。

 布陣が終わった時にコルノ党なのに隊列が整っていて、統率が取れているのを感じたのは間違い無かった。

 今までのように簡単に崩れてくれず、完全な潰し合いになってしまった。

 部隊を率いる将軍はこちらが遥かに優れているから被害は向こうの方が多いけど、兵数の差があり過ぎてこのままじゃこっちが潰されてしまう。


 何よりもザンザはどういうつもりなの!

 両翼とも押す気が全く無いじゃない!

 押されてあたし達が包囲されるよりはいいけど、両翼に邪魔されて機動力が強みのレイブンもアイラも動けなくなるなんて。


 本当は分かってる。

 最初からこうするつもりだったのでしょうね。

 ここまで徹底してやるとは思いたくなかったけど。

 さて、どう凌いだものか……。いや、もう撤退するべきか。

 あ、まずい。


「ガーレ隊に伝令! 出過ぎである戻れ!」


「は! 復唱します! 出過ぎである戻れ!」


 いけない、心配していた通りになる。

 あ、レイブン何やってるの!

 そこで下がったらガーレ隊が益々孤立するじゃない!

 ……いや、これを活用すれば助けられるかしら。


「レイブン隊に伝令! 再編成した後、距離を活かして突撃しガーレ隊を救出せよ! こちらは退路を確保する」


「はっ!」


 レイブンなら同じ事を考えてそうだけど一応ね。

 後は少しずつ下がって撤退か。

 それにしてもザンザめ……。

 これでもしも敗戦の責任を押し付けて来たら、絶対に許さないわよ。


 ドン! ドン! ドン!


 ! 何処から太鼓の音が? あ……コルノ党の横腹に突っ込んでいくのは王軍?

 あの真っ黒な旗は……確かイルヘルミ・ローエン。

 コルノ党が撤退していく。

 整然とした撤退ね……大将は誰だったのかしら。

 何にしても助かった。

 後はザンザが何を言ってくるか。

 あたしにとっては今からが本番か。

 大分疲れてるのだけど、そうも言ってられないでしょうね。


 

 

***



 ザンザに呼ばれて集まった軍議の場にザンザが入って来た。

 あら?

 イルヘルミ軍の者は誰も来ないのかしら。

 噂に聞くイルヘルミ・ローエンが見られると思ったのに。


「皆の者、大儀であった。今日は皆の働きにより勝つことが出来た。よくやったぞ」


「「「はっ。有難うございます」」」


 良く言うわよ……。

 あれだけあからさまにこっちを試しておいて。


「お尋ねしても宜しいでしょうか大将軍様」


「許す」


「最後にコルノの横を突いた隊の者は来ないのでしょうか」


「ああ、イルヘルミの軍だな。あいつは逃げたコルノ党を追撃させているのでここには来ぬ」


「はっ。お答えくださり有難うございます」


 それは残念だわ。

 あの軍、遠目に見ても練度が高かった。

 指揮官と是非会ってみたかったのに。

 ……でも、あいつらに戦功を取られたら堪らないわね。


「ククク……グレース、心配が顔に出ているぞ? まぁよい。皆の者、簡単にではあるが戦勝の宴を用意してある。そっちの幕舎に移って先に始めておけ。カルマ殿、グレース。お前たちは残れ」


 来たわね。

 教えて貰いましょうか、あんな真似をした理由を。


「さて、もう分かってるとは思うが、儂の目的はお前たちが命令に従うかの確認だった。ついでに、理不尽な命令を受けたと感じた時の対応もな。ま、合格だ。お前たちは儂の役に立ちうる奴等だ」


 でしょうね。

 それにしても、戦でそんな危険な真似をするなんて……負けたらどうするつもりだったのよ。

 いや……もしかしたらあのイルヘルミ軍もザンザの手引きだったのかしら。


「はっ。お褒めの言葉を頂き恐縮です。それで、戦功はどうなりましょうか」


「ほぅ。思ったよりも短気なのかなグレース。安心しろ。お前たちが第二功だ。第一は当然儂だ」


 たったあれだけしか働かないで第一功なんてふざけてるけど、そんなもんよね。

 少なくともあたし達を小さく評価するわけじゃないみたいだし。

 戦功についてはもういいけど、本題がまだあるはず。

 これだけの話で終わるとは思え無い。


「本題に入ろう。お前たち現在のランドの状況を知っているか?」


「はい。十官達とザンザ様が権勢を争っていると聞きますが、その話でしょうか」


「うむ。状況は少し前までは不利だった。しかし、この反乱によって軍の重要さが大いに増し、五分にまでなった。終わる頃には有利にしてみせよう。全ての将軍は儂の評価を待つ立場なのだから、当然儂に付くだろうしな。大体軍の者は誰もが十官と仲が悪い。

 しかしだ。儂は所詮成り上がり者、由緒ある貴族とはどうしても距離がある。だから、儂が引き上げた信頼出来る者が欲しいのだ。お前たちトーク家は精々三代目だろう? ランドに来て儂の援護をせよ。儂に従っていれば伯爵、あるいは侯爵にまでなれるかもしれんぞ」


 やっぱりか、そんな所じゃないかとは思っていたけど。

 危なくはある。

 しかし、断る手は無い。

 上手く行けば大きく出世出来る。

 それに、あたしの考えではザンザが勝つ。


「はい。お話し確かに承知いたしました。我が才の全てを持ちまして、ザンザ様の栄達に力を尽くさせて頂きます」


「うむ、よかろう。さて、カルマ殿。ずっと黙っていたがお主もそれでよいな?」


 他に選択肢なんてあるとは思えないし、姉さんだって……。

 え。ど、どうしたの姉さんその表情は……。


「一つ申し上げたき儀が御座いますザンザ様。終わった事は仕方がありません。しかし今後はわたしの配下達が無駄に死ぬような策をなさらないでください」


「お、お待ちをカルマ様!」


「黙れグレース。それでカルマ殿、もしも儂がそのような策を考えた時にはどうすると?」


「……その時は従う訳には参りません。わたしには家臣達の命を守る義務が、いえ、わたしが家臣たちを守りたいので拒否をするでしょう」


 ね、姉さん!

 せっかく問題無く終わる所だったのに!

 そいつの機嫌を損ねたら、それこそ家臣たちは死に損なのよ?!


「置物のように黙ってるだけかと思ったが、言うではないか」


「わたしも配下を持つ領主ですので、必要があれば口を出さざるを得ません」


「……元より無駄に死なせるつもりなど無い。効率が悪すぎるわ。第一今回も殆ど死ななかったであろうが。この程度の死人で不満を持つのなら、流石に考え直さねばならんな」


「やはり、あのイルヘルミの軍はご存じだったのですね?」


「大将軍は儂だぞ。どの軍団がどのあたりに居るか程度弁えておる」


 そして、こちらに来るように指令を出してあったのかしら?

 ……もしかしたら、イルヘルミも従うか試されていた?


「分かりました。ご配慮に感謝を。今後ともよろしくお願いします」


「よかろう。部下に強い意思があるのも悪いことばかりではあるまいしな」


 ……はぁ、結果としては良かったか。

 いえ、流石姉さんと言うべきね。

 使い潰されないように牽制出来たのは大きい。

 

 全ては悪くない所に収まったけど、あの男が言っていた通りになっている……。

 ……それだけが嫌な感じのする所ね。

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