表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/215

名声を投げ捨てるアイラ

 話してる内に下ごしらえが済んだ。

 うんだば、夕食を作り終える前に運動しますかね。

 その方が筋肉を作るのにもよろしかろ。


「さて、下ごしらえは済みました。仕上げる前に戦い方を教えて頂けますか?」


「いいよ」


 運動して下手な考えを追い払おう。

 せっかく類まれな将軍と知り合いになれたのだ。

 戦場に出る羽目になっても、何とか生き残れるようになりたい。


 文官になれたが職場の先輩に聞いた所、兵糧の管理などで戦場に行くそうだしある程度戦う気構えは必要だろう。


「……何それ?」


「えーと……私としては手柄を立てるよりは、生き残れるようになりたい訳でして……それだと、主君を守る役の人がしている片手に盾、片手に剣の恰好が一番かなと……。馬に乗っていたら基本逃げるつもりですし」


「……」


 あ、なんか凄く考え込んでいる。

 尻尾もブンブン振られてる。

 いや、尻尾は関係ないか。


「いい、と、思う。……戦わない方が良さそうだし」


「あ、やっぱりそうですか?」


「うん。エルフにしては弱い」


 うっ……美少女に弱いって言われるとやっぱり悲しい。

 仕方ないんだけどね、殴り合いなんて中学校までしかしてないし。

 ええもん……中途半端に心得があるのが一番危険って色んな作品で言ってたもん……。

 それにしても、構えただけでモロバレなんですね……。


「で、ではご指導をお願いします」


「基本の動きから教える。家でも練習して」


「分かりました。頑張ります」


 という事で、基本の型を教わる。

 家に帰ってしっかり復習しなければな。

 教えを受けた感想としては、言葉は少ないけど凄く良い師匠を持てたと思う。

 将来的に組手をして貰ってあそこまでの強さを実体験すれば、いざという時敵にビビるという事態も避けられるだろう。

 あれ? 何時も達人とやってたから、敵の動きが遅く見える……。

 ってやつの亜種である。


 三十分の鍛錬が終わり丁度良い運動だった。と、濡れた手拭いで体を拭いているとアイラが庭の隅っこに行った。


「フィオ」


「はぅあ! ア、アイラ殿……奇遇っスね」


 また来てたのか。

 怖いなこいつ……権力があってしつこいとは、本当に不味い奴と知り合いになってしまった。


「そ、それよりアイラ殿! やはりあやつは危険人物じゃないっスか! アイラ殿の前で服をはだけるなど、アイラ殿に不埒な事をしようとしているに違い無いっス」


「……そろそろ怒るよ」


「ひぅっ!? で、でもアイラ殿、男は」


「次に来たら……暫く話さないから」


「そ、そんな! 小職はアイラ殿を想って!」


 おお、体を抱えて外に連れて行ってくれた。

 アイラも大変だな、あんなのに纏わりつかれて。

 他人事じゃないよ……マジで関わりたくないのだが……無理か?


「有難うございますアイラ様。私の所為で面倒をおかけしてしまい申し訳ありません」


「ううん。来てくれたダンに失礼なフィオが悪い」


「いえ、下級官吏の私より、貴族のフィオ様を大事にするのが普通だと思います。それなのに気遣って下さって感謝しております」


「……僕はハグレだけど獣人だからね。獣人に貴族は関係ない」


 そーでもないと思うよ?

 貴族=力を持っているだから、獣人だろうがある程度配慮をして当然だ。

 まぁ、この人の人生観だとそうなのだろう。

 意識してる訳じゃなさそうだが、圧倒的に強い故の思考だろうか。


「そうですか……何にしても出来るだけ彼女の目に触れないようにします」


「フィオが何かしたら言って。怒るから」


 何!


「ほ、本当ですか!? アイラ様、お願いしてもよろしいので?」


「うん。フィオが悪ければ」


「勿論私も身を慎みますとも。アイラ様の好意を踏みにじったりはしないと誓います」


 た、助かった……命綱を手に入れた。

 身分が上の相手に嫌われては、下手をすれば首が危ない。

 職じゃなくて、本物の首が、だ。


 この子、可愛くて、優しくて、強いのか。

 これだけ揃えば敵は居ないな。

 乾いた大地のアイラとなるのも間近だろう間違いない。


「本当に助かりました。では、出来るだけ早く夕食を作りますね。お部屋でお待ちください」


「うん。……頑張ってね」


 いいですとも!

 パワーを天ぷらにそそぐべく私は頑張った。

 努力は報われ、天ぷらはアイラ様を喜ばせてくれた。

 私の面目と命綱は保たれた……。

 有難う、過去の料理人の皆さん……この世界が過去なのか未来なのかも分からないけど。


 とにかく良かった。

 聞きたかった事は大体聞いてしまった気はしたが、せっかく持って来たので今お茶を入れている。


「これも美味しい……」


「有難うございます。これは草原族の人達が作ったお茶で、今十官の方々も飲んでいるそうですよ」


 うむ。

 ゆっくり飲む様が可愛い。

 そんな少女と差し向かいだというのにこの落ち着き……我ながら悟り世代と言われるだけはある。

 一応言っておくと、別に小五なんたらでないと駄目なんて事は無い。


「あ……もしかしたら不快に感じられるかもしれませんが、名声を気にしないのならお金を多く貰えるかもしれない策を思いつきました」


「……? それ、どういうの?」


「私が考えますに、カルマ様は戦場での名声が欲しいと思われます。そこでアイラ様が戦場でカルマ様と同じ格好をし、顔と尻尾を隠して名前を名乗らなければいい。そうすればカルマ様とアイラ様を勘違いして、カルマ様の名声に武勇が加わるかと。

 所詮勘違いですがそれでも名声には違いがありませんし、使いようもあるでしょう。この考えをグレース様に相談して、お認めになれば本来得られるはずの名声の代わりにお金を要求してはどうでしょうか?」


「……戦場で顔を隠してアイラだと名乗らなければいいのかな?」


「はい。アイラ様が名声を全く欲しがらないのなら、ですけども」


「分かった。グレースに聞いてみる」


 この会話の後は軽く雑談をしただけだ。

 いやー、まさか今の思いつきに考える余地があるとはね……。

 本気で名声、ひいては人々に褒めたたえられる事に興味が無いのか。

 名声があれば人を集めやすいし、かなり使い道のある力なのに。

 まだ十七歳とかのはずだし、ちやほやされたい年頃だと思うんだがねぇ。




---



 数週間後、私が倉庫で真面目に備蓄米の量を調べているとアイラ様が来た。


「アイラ、様? どうなされました?」


「来て、ダン」


 と言いながら腕を掴んで引っ張られる。

 優しい美少女に腕を引っ張られては逆らえない。

 というか、腕力の差があり過ぎて逆らえない。


 連れて行かれた先は、グレースの執務室だった。

 つまり、先日の話か。

 本当にしたのか……スゲーなこの子。

 グレースはこっちを見て意外そうな顔をしている。


「誰が吹き込んだのかと思ったら貴方だったの。で、何を吹き込んだのかしら? アイラは兜をかぶって戦うから給金を増やしてとしか言わないし。説明して欲しいと言ったら貴方を呼んだのだけど」


「あ、はい。えーと、アイラ様、先日の名声とお金の話でよろしいのですよね?」


「……うん。説明して欲しいんだ」


「分かりました。アイラ様が言いたいのは、これから戦場ではトーク様と同じ格好をして兜で顔を隠し、トーク様の振りをするという事です。

 そうすれば、戦った相手はアイラ様をトーク様だと勘違いし、アイラ様の武勇をトーク様の物だと思うかもしれません。

 もし、それがグレース様の考えに沿うのでしたら、名声の代わりとしてアイラ様により一層の給金を頂けないかという話です」


「……ちょっと待ちなさい。考えるから」


 そう言うと、難しい顔をして黙ってしまった。

 椅子を勧める位はしてくれないかなぁ。


 十分後、考えは纏まったようでグレースは顔を上げた。


「確かに。カルマ様の武名が増えるのは喜ばしいわ。カルマ様とアイラにはどちらの手でも弓を引けるという共通点があるし、結構上手く行くかもしれない。良いでしょう。その案は採用します。給金にかんしては後でアイラと話をするとして、貴方、いつの間に知り合いになったの? こんな考えを吹き込むなんて……」


 難しい顔をしている。

 確かに普通は言わないよねこんなの。

 私もまさか受け入れるとは思わなかった。


「知り合いなどとんでもないお話です。軍の鍛錬を見てアイラ様の武勇に憧れた私が挨拶させて頂いたのみで。その時お茶をご一緒して下さり、給金を増やしたいと聞いた際に思い付きを話させて頂いたのですが……まさか真面目に考えてくださっていたとは思いも寄らず」


 む、アイラ様がこっちを見ている。

 今の発言に何か不満があったのだろうか?


「貴方、感心する程に胡散臭いわね。それにしてもよくこんなセコイ考えを思いつくものだわ。普通の将軍なら怒るわよ?」


 グレースが私を観察してる感じがする。

 怒るような事を言って反応を確かめようとしてる?

 なんと答えた物か……。


 沈黙は金、だな。

 黙って頭を下げよう。


「はぁ……とにかく了解したわ。下がって良いわよ。アイラ、給金は少し考える時間を頂戴。どれだけ効果があるか考えてからにしたいの。でも、耳は兜の形で何とかするとして、尻尾も隠さないと駄目なのよ? 大丈夫なのかしら?」


「ん。……分かった。窮屈だけど、多分大丈夫。我慢する」


 やでやで終わったか。

 さて、仕事に戻るかね。


「僕、ダンと知り合いじゃなかったの?」


 え? うお、悲しそうだ。

 ぬぅ、意外に心を開いてくれてたのか?

 ……天ぷらの方が私よりも比重重そうだが。

 ま、結果に割合は関係ないね。

 天ぷらと私は一つだし。


「先ほどは下級官吏の私が、アイラ様を知り合いと言うのも奇妙に思えましたので」


「じゃあ、知り合い?」


「もしもアイラ様がそう思って下さるのなら嬉しく思います」


「うん。……友達に近い知り合い」


 おや、嬉しそう。

 しかも友達に近いとな?

 ……この子の友達ってすんげー大切にしてくれそうだけど、ハードル低くない?


 それにしては知り合いが少ないように思えるが……異民族だからか?

 この子も大変だあね。


「有難うございますアイラ様。今後ともよろしくお願いします」


 実際今後ともこの子とは良い関係で居たい。

 頑張ってお互いが得をする関係にしていくとしますか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ