戦乱の帝国と、我が謀略 ～史上最強の国が出来るまで～

地盤を整える

初めてのお宅訪問

　作る料理も決まり、作った物の味にある程度満足出来てから、私は暇な時間があればアイラを探している。

　派手に聞きまわったりはしてないよ？　さりげなく聞いた出現ポイントを回ってるのだ。

　暇そうにしている時を狙いたい。

　探し続ける事数週間。やっとこさ木の下で寝ているアイラを発見する。

　白い髪がめっさ目立ってました。

　彼女以外誰も持たない白い髪の毛の所為か、何時見ても孤高な雪豹のような感じを受ける。

　会話もしてないのに想像で印象を持つのは危険だな……気を付けよう。

　よし、深呼吸だ。

　脳内に会話のフローチャートを思い出す。

　脳内で練習。

　こんな会話で大丈夫か？

　大丈夫だな、問題無い。

「お休みの所失礼します。アイラ・ガン様でよろしいでしょうか？」

　そう話しかけると、彼女は薄く目を開いてこちらを見た。

　少し眠そうだ。

　ぬぅ……失敗したか？　起きるまで待とうかとも思ったが、それはそれで怪しすぎるかと思って……。

「ん……何かよう？」

「私、倉庫で働いておりますダンと申します」

「それで？」

　寝起きで不機嫌だったりはしないようだ。

　特に何という事の無い表情でこちらを見ている。

　良かった。

「以前軍の鍛錬を見学した際に、アイラ・ガン様の雄姿に感動しまして、ぶしつけながら挨拶をさせて頂いております」

「ごめん、良く分からない。……それと、アイラで良いよ」

　えっと、分からないって何が？

　こっちをじっと見てくれてるし、別に会話を拒否された訳じゃないんだよね？

　つ、続けるよ？

「はっ。有難うございますアイラ様。それでご挨拶として、私の故郷の美食を御馳走させて頂きたいのです。宜しい日に夕食をご一緒して頂けないかと。申し訳ないのですが、私の家は手狭ですので、アイラ様のお屋敷の厨房をお借り出来ないでしょうか。ご不快でしたら申し訳ありません」

　すんげー迷ったが、見知らぬ人の家よりかは自分の家の方が安心できると判断した。

　私の家に有名人を招いて噂になりたくないというのもある。

「…………つまり、料理を作ってくれるの？」

「はい。都合の良い日がありましたら、是非お付き合い頂ければ、と」

　笑顔を作るのに力を入れ過ぎて顔の筋肉がつりそうだ。

　可愛いのだけど、感情が読めなくて怖いよこの子。

「お前、珍しいね……僕に近づいてくるなんて」

「そう、ですか？」

「うん。じゃあ、今日」

「はい？」

「今日が空いてるんだ」

　今日かよ！

「申し訳ありません、食材の準備がありますので、明日以降では駄目でしょうか？」

「じゃあ、明日」

　えーと、この人越獣人少女暇なの？

「では明日、私の仕事が終わった一時間程度後にお伺いしてもよろしいでしょうか？」

「うん。楽しみにしてるね」

　あら、開けっ広げな良い笑顔。

　感情を読めないのは、私を警戒していただけだったのかな？

「よろしくお願いします」

「ん」

　あっさりだった。

　うーむ。会話が終わってみればめっちゃ取っ付き易い人に思えたけど……何故ハブられてるんだこの人は。

　獣人で毛の色が白いというのはそれだけ違うのか？

　……まぁ、日本でも一人だけ金髪碧眼が会社に来たら、近づきにくかったりしたしな。

　私もここら辺日本人の感覚が抜けないのだ。人種差別が良く分からない。

　アイラ様に対しては、それが有利に出てる……と良いのだけど。

　さて、食材の確保をしないと。

　今日中に揃えて、明日出来るだけ早くアイラの家に行かなければ。

---

　アイラの家に着いた。

　昼に昼寝をし、食材も新鮮な物を手に入れてある。

　食いしん坊と聞いたので、彼女の分として三人前を用意した。

　これ以上の準備は出来ない。

　で、作る料理だが……。

　天の名を冠された料理、そう、天ぷらだ。

　アイラは見たことも無いだろう。少なくとも私は今までこの国では発見出来ていない。

　何故天ぷらか。

　家庭料理レベルでも素晴らしく美味しいからである。

　特にあげたては素晴らしい。しかもどんな素材であろうが基本美味しくなるのだ。完全にマーベラス。

　徳川家康さえ倒したかもしれない料理素あげ、それを100年かけて改良された天ぷらならば、私が作っても十分彼女を喜ばせてくれると信じている。

　正直な所、天ぷらとしてみれば今一だったりする。

　油の温度が少し低くて今一つカラッとならない。

　漬け汁も、醤油の古代版らしきものを薄めて大根おろしを入れたものだ。

　近所にあったゴールデンウィークの間ずっと、開店から閉店まで一時間以上待ちだった店とは比べるべくもない。

　季節の野菜と出来るだけ多くの肉類を取り揃えはしたが……。

　ぬぅ、この期に及んで言い訳を並べるとは我ながら見苦しい。

　今は信じる時だ。

　かつて一緒に料理をした母上の力を。

　これを作る為にした試行錯誤を。

　そして、日本食の力を！

　と自分に言い聞かせながら二時間、やっと完成する。

　よし。冷めないうちに食べて貰おう。

　うん？　なんで揚げたてをどんどんアイラ様の前に出さないんだって？

　悩んだけど、それをして食べ終わると同時に「はい、さようなら」となって会話出来なかったら悲しいかなって……。

「アイラ様！　出来上がりまし……た？　あの、何をされてるので？」

　調理部屋の入り口の横に、体育座りをしている白いのが居た。

　ミニスカート？　から伸びている鍛えられた太ももが眩しいっす。

　勿論視点を下げたりはしません。

　幾ら美少女だろうが、吉田さんより強い女性にそんな事をしたら頭抜けたアホです。

　あ、いえ、違います。私は吉田さんの容姿が悪いとは言ってません。

　むしろイケメン系だと思います。多分、普通に育って女性らしい格好をしたら容姿が良い方だったと思ってます。

　……うむ。視点が下がりそうだからって、支離滅裂な事を考えすぎだな私。

「待ってたんだ。美味しそうな匂いがして辛かったよ……」

　あら、まぁ、嬉しい事言ってくれるじゃないのこの子。

　しかも尻尾がブンブンされてますわ。それだけ期待してくれるっす？

「ああ、お待たせして申し訳ありませんでした。今運びますので、部屋でお待ちください。あの、所で涎をお拭きにならないと、お召し物が汚れてしまいますが……」

　正確に言うと既に服まで到達していた。

「……よ……涎じゃないよ。これは汗だから勘違いしないで」

　この言い訳を現実で聞くとは思わなかった……。

　男ならお前、その言い訳どこの田舎だったら通用するの？　とクソミソに煽る所だが……。

「失礼な勘違いだ。鍛錬……そう、鍛錬して汗をかいたの」

　貴方今待ってたと仰いましたよね？

　などとは突っ込まない。

　というか、元から指摘するべきじゃなかったかもしれん。

　女性にスカートのチャックが開いてますよ。と、言うべきか言わざるべきかという問題だな。

　……あれ？　本当に指摘するべきじゃ無かった？

　私以外に見てる人も居なかったのだし。

　もしも、これで不機嫌になるような人だったら……腕力の差もある訳で……。

　……話を流そう。出来るだけ早く。

「そ、そうですね。失礼しました。見間違っていたようです。では、今すぐ料理を運びます」

　ちょいと失言してしまったな。

　以後気を付けよう。

　それはそれとして、よだれを垂らす美少女……ええもん見ました。

　大変趣きが御座いました。

　食事を取る部屋までは私一人で運んだ。

　話には聞いていたが、本当に使用人が居ない。

　一応掃除はしてあるみたいだが……家名持ちの家にしては、埃がある。

　世話をしているという老夫婦だけでは掃除し切れていないのだろう。

　まぁ、私が考えるべき事では無いね。

　それよりも今はお食事会っす。

「アイラ様、ご飯です。この料理はこちらの汁に付けてからお食べください」

「うん。分かった」

　私も食べよう。

　うむ……やはり、ちょっとシナッとしてる。

　油の温度を下げないように気を付けたのだが……。

　それでも十分美味しい。

　練習して完成した通りの味だ。

　これで駄目なら私に手は無い。

　現状の環境で、これ以上美味しい料理を私は知らん。

　そう現在ケイ帝国最高の美食がこれだ。

　異論は受け付けん。貴族様がどれだけ高価な料理を食べてるかは知らんが、日本食では在り得ない。

　故に私が勝つ。スズメでは鷹に勝てぬ。それが物の道理よ。

　あーでも……冬にハチミツを使ってアイスクリームを作ったらこれより美味しいかも……。

　しかしハチミツはスンゲェ高価だ……。

　とか考えてると、目の前ではアイラがすんげぇ勢いで食べていた。

「アイラ様、お気に召しましたか？」

「うん」

　成功、なのだろう。多分。

　口が忙しく動き過ぎてて表情が分からないけど……尻尾がタケコプターだしな。

　流石天ぷらは格が違った。

　この力、世界が変わっても通じる。

　天ぷらを不味いという世界はない。

　よし、ここだ。美味しい食事を食べてご機嫌な間に会話して親しくなるのだ。

「アイラ様は素晴らしい戦いの技をお持ちですが、どうやって身に付けられたのですか？　どなたか教えて下さった方が？」

「うん」

　……えーと。

「私はカルマ様の下で働き出してまだ数か月なので、まだ一度しかカルマ様とお会いしてないのです。宜しければどのような方か教えて頂けませんか？」

「うん」

　……。

　どうすべきか……。

「グレース様ともお会いできたのが二回のみで……」

「ん……ごめん。今食べるのに忙しいんだ。美味しいし。お前も食べたら？」

「あ、はい」

　こう言われては致し方ない。黙って食べた。

　そして結局むしゃむしゃと食べただけで食事の時間が終わってしまった。

　アイラ様はよく食べた。

　お腹いっぱいになってる私の三倍用意したのに、全部食べきってしまった。

　そして無くなった皿を見つめておられる。

　……えーと、もしかして……。

　「もっと食べたいのだけど。……無い？」

　「え゛。あ、ありません。大目に用意したつもりだったのですが……すみません」

　「そう……。残念」

　あ、さっきまで盛んに動いていた尻尾が、力なく垂れ下がってる……。

　オウランさんの所でつい気になって聞いた時には、尻尾の動きが感情に直結すると決まってはいないと聞いたのだが。

　あるいは、それほどションボリしてるのか。

　引き締まってはいるけど、細い体の何処にそれだけ入るんですかね……。

　さて、飯を食い終わった後は皿洗いだ。

　当然一人でだ。貴族様に皿を洗わせる訳にもいくまい。

　それが終われば……帰る時間である。

　悪くは無い……悪くは無かったんだが……結局何一つ会話らしい会話出来なかったずら。

「おまえ、何て名前だったっけ？」

　あ、名前も覚えて貰ってなかったのね……。

　……今回の食事会あんまり成功じゃなかったかも。

「ダンと申します」

「そう、ダン。又、作りに来てくれる？」

　おお……まさか向こうから言ってくれるとは。

　やっぱり成功か？

　しかし、問題が……。

「喜んで、と申し上げたいのは山々なのですが、実はこの食事だけで私の食費が一週間分飛んでおりまして……」

　情けないと言われようが、まじ大問題。

　菜種油と肉、超高価であった。

　この人にお金を要求するという手もあるが……どうも貧乏そうなのだ。

　現在の私と彼女関係で貧乏人である彼女に金を要求しては、ハゲのカツラに触ったバクザンの如く理不尽な目にあうかもしれないので却下。

　となると……財布の限界を超えた要求をどうしたものか……。

「駄目、なの？」

　うっ……本気で来てほしいのがはっきりわかる。

　なんという落ち込んだ表情だ。

　素晴らしい機会ではある……。胃袋を掴むのは最強。

　ワシも昔は婿入りする為に、料理を上手くなるべきか悩んだものよ。

　仕方がない……奥の手を使おう。

「分かりましたアイラ様。一月に一回程度でよろしければ又作らせて頂きます。ただ、その代わり、私が自分の身を守れる程度に戦い方を教えて頂けないでしょうか」

　せっかく頭おかしいくらい強い人とお近づきになれたのだから、少しは活用しても罰は当たらんやろーて。

　それに何かを教えて貰っていればより親しくなれる。

　と、良いのだけど。

「それ位なら喜んで。……嬉しい」

　あ、尻尾が直立した……。

　うろ覚えだが、猫は尻尾が直立したら喜んでるとかなんとか……。

　うーむ、当て嵌まるのだろうか……。

　少なくともオウランさんの所で調べた限りでは今一だった。

　随意筋なのだから、良い大人が常に見えるように感情表現するとは限らない訳で。

　……悩んでも仕方がないね。

　喜んでないとお願いされない。素直にそう思っておこう。

　となると、今回のアイラ家訪問は上手く行ったのか。

　会話しないと単なるメッシーで終わってしまうが……それはおいおい考えよう。

　うん？　メッシーって何？　首長竜なの？　だって？

　これは昔産まれた言葉でね？　暇なとき呼びつけたらご飯を奢ってくれる男をそういう風に呼んだのだよ。

　草食系なんて言葉が存在しない時代の話だね。

　えーと……。

　あ、思い出した。メッシー君になりそうな私は金が足りないのだった。

　奥の手、つまりオウランさんに文を出して助けて貰うしかあるまい。

　……他の女性から貰ったお金で別の女性に奢る……すんげークズな状況になってしまった。

　いやいやいやいや、そうじゃない。

　凄まじく強い武将と親しくなるのは、色々と益があるはずだ。

　しかも獣人。エルフよりは夢が膨らむ。

　それに、この程度の金銭はお茶の儲けから考えて大丈夫な……はず。

　……文の書き方が厚かましくならないように気を付けよう。

　その金銭を無駄にしない為には、どうやったらアイラと会話できるか考えないといけないのだが……。

　難しい。どっかに対女性用軍師が落ちてませんかね。

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有り難くも勿体ない事ながらロト太郎様よりアイラ・ガンのイメージ絵を頂きました。

うむ。私一応狼系獣人しかモンゴル地域には居ない予定だったのですが、めっちゃ雪豹っすね？

あれですね。これは猫系獣人を出せと言う無言のプレッシャーですね？

くっ……確かに私も考えはしたのです。何故かエロイと約束されているウサギ獣人とか、気まぐれと決まっている猫獣人とか浪漫があるな、と。

しかし……どうも色々出す自信が無くて……。

ですがこうやって絵で見ると可愛い。誘惑に駆られます。

ちなみに、私が一番気に入ってるのは鍛え抜かれた胸筋により作られた、巨大な胸部……ではなく。

どうも孤独な雰囲気を感じられる表情です。二枚目とか其処らへん大変宜しいですネ。

彼女はエルフと人間の国で暮らしてる為かなり孤独です。すまんアイラ。つい。

皆様のハートにはこの絵の何処が残ったでしょうか？

ロト太郎様有難うございます。　(http://pixiv.me/roto033)

先日発見したので、掲載許可を頂きました。

上記がロト太郎様のピクシブurlになります。興味を持たれた方が居ましたらどうぞ。