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別れの挨拶と渡す物

 春になった。

 明日私はレスターに戻る。

 しかし、その前にオウランさんに色々手渡さなければならない。


 オウランさんは外で遠乗りをしていた。

 うむ、春になって嬉しそうだね。

 って、おやぁ? 私を見つけてビクッとしている。

 そして、気を取り直すように頭を一振り。


 ……読み書きの授業がそんなに嫌だったのかね。

 必要性は本人も認めてたのに……傷付きました。

 余計なお世話じゃないのになぁ。


 はぁ……、とにかく用件を話すか。


「オウランさん、私が帰った後も文字の勉強は続けて下さい。私の文を直接読んで、返書を書いて頂かないと困ります」


「うぅ。ごめんなさいダンさん。勉強、嫌いなんです。体を動かす方が好きなんです。あ、いえ、必要だと分かってますからやります。お願いですから見捨てないでください……」


「それは私の台詞ですけどね。私がケイで失敗したら匿って下さいね? 出来ればお嫁さんも紹介して頂けると嬉しい。若くて可愛い人が良いです。食べさせてくれる人だと凄く嬉しいです」


「あ、はぁ……お陰様で今年の冬は餓死者も出ませんでしたし、これだけの事をして下さったのですから何時来ていただけても大丈夫ですけど……お付き合いしてる女性は居ないのですか?」


「ええ、そんな気配もありませんが、何かございますか? ……いえ、そうじゃなくて、オウランさん、別れの挨拶と、最後にお渡ししたい物があります。私の天幕まで来てください」


 いよいよ、オウランさんに紹介するときである。

 見よこの竹簡の山! どーだ二連ピラミッドだぜ!

 ……しかし、オウランさんの顔はとてつもなく引き攣っておられる。

 おいおい……頼みますぜ?

 頑張ったんすよ?


「あの……この竹簡全てが……渡したい物ですか?」


「はい。これを読んで頂く為に文字を覚えてもらったんですよ」


「増えていく竹簡を見て嫌な予感はしていましたが……本当にこれ全部を読めと言うのですか?」


「あー……よし、ご説明します」


 私は分けられた山の片方を指さして話しだした。


「この山、ケイの城壁を壊す為の道具を思いつく限り書いています。ですが適当です。でも、今から頑張って作れるようにならないと困りますよ? 城壁を壊す手段は持って無いのですよね?」


「当り前じゃないですか。食料が欲しければ農村を襲えばいいのに、どうして態々城壁のある所を襲うでしょうか。たぶん遊牧民では誰も持ってないと思いますよ」


 ですよねー。

 一つの地域を自分の物とし、定住する意思の無い遊牧民らしいお考えで。

 こういう考えでなければ、王朝の変換期に土地を手に入れる事も可能だったろうに。

 ケイの人間は遊牧民のこういう思想のお陰で助かってる、という自覚は無いんだろうなぁ。

 ま、襲われる側が助かってるとは中々思わないわな。


「そのままですとケイの領主が敵になった時、こちらから攻撃出来なくなります。戦えなくなった人や大工仕事が得意な方にお願いして、書いてある条件で作れるようにしておいた方が良いでしょう。ここに書いてある書物全てに言えますが、誰にも、特にケイの人々に知られないようにして下さいね? 危機感を抱いて襲い掛かってきますから」


 草原族が攻城兵器を作れば、使う相手はケイの街以外ありえない。

 攻められる前に攻めようと思う奴も出て来るっしょ。


「恐ろしい物を渡してこられますね、ダンさん……」


「恐ろしいとしても絶対に必要ですから。三十年後にこれの所為で悪い事態になっていたなら、恨んで下さって結構です」


 三十年後までには大体目に見えてると思うんだ。

 いや、終わってるかもしれない。

 オウランさんに保証出来る価値が、ここに書いた物にはある。

 うーむ、伝えたかった事を伝えられたので、自信と安心を得て精神が強くなった気がする。

 

「あ、オウランさん、私への態度なのですが、人前では『使えなくはない程度の小物である』そういう評価を下してると周りが感じるような対応を。カルマ様といったケイの人間には必ずそう感じて貰わないと困ります。決して私を高く評価してると誰にも思われないように……えーと、実は評価低かったりします?」


 だとしたら、ちょっと恥ずかしいね。

 ……いや、まて。聞いてる時点で恥ずかしい奴だろこれ。

 なんてこったい。

 口から言葉を出す前に、一瞬で良いから考えようと十年以上思ってるのに……。


「まさか! これだけ色々と良くして頂いて小さい人物だなんて思いませんよ」


 お、おーう。

 普通に返された上に感謝された。

 いかん、良い人過ぎて辛い。惚れそう。

 可愛いだけで惚れちゃう病は高校で卒業したはずなのに……。

 何度目だこの感想は。


「でも、人前では小物……侮ってる感じを出せと言われても、あまり演技は得意じゃないのです。必要ですか?」


 はっ。

 いかんいかん。大事な話をしてるのだ。

 冗談でも色事を考える時では無い。

 うむ、あくまで冗談だから。


「必要です。カルマ様への使者に私の事を話す時は、良く考えて頂きたい。今後、オウランさん達は強くなります。強くならないと、周りの氏族から潰されます。で、その時私が貴方方に影響力を持っている。と、カルマ様のような権力者が考えれば、私は良いように利用されて命さえ危なくなるかもしれません。

 まぁ、そうなる前に逃げるつもりですが、皆さんに意思を伝えられる人物程度の評価で固まってた方が、動き易いのです」


「分かりました。えーと、使えなくはない程度の小物、ですね。何とかやってみます」


 よし。ディモールトにベネだ。


「他の木簡ですが、ここのは以前話した内容を一応文章にした物。戦い方とかですね。忘れた気がしたら読んで確認を。で、こっち。私が死んだ場合に備えて、先々の予想に基づいたお勧めの行動が書いてあります。私が死んだという情報が入ったら読んでください」


「死ぬ……確かに誰でもすぐ死んでしまいますからね……」


「はい。せめてうっかり死んじゃったとか無いように頑張りますよ。とにかくこれ、本当に私が死なない限りは読まない方が良い。私が直接丁寧に教えないと不味い内容ばっかりですので。読む場合も、まずお一人で読むのをお勧めします」


「不味い、内容……。どうか、お命を大事にしてくださいね? お茶の売買でわたし達の食料は余裕があります。お一人程度は幾らでもお世話できますから」


 本当に心配そうにオウランさんが言ってくれる。

 余りの頼もしさに涙しそうである。


「有難うございます。正直な所、そう言って頂けなかったら不安で堪らなかったでしょう。頼りにしています」


「安心してください。氏族の長としての誇りにかけて二言はありません」


 相変わらず年下のお嬢さんに生活を保障して貰ってるな私。

 男の沽券に関わるからやめよう。なんて考えは欠片も浮かばない。

 だって私の状況でそんな事言ってたら、頭の中が花畑。

 だからそう考えられる自分に頼もしさを感じる程だ。


「後は……オウランさんの状況、どれだけの氏族を配下にしたか、とか困っていないかを一応教えてくれると嬉しいです。……あっ!

 ケイに、貴族達に歯向かうつもりが無いと示すように努力してもらえませんか? カルマ様が、食料を得たので襲う必要が無くなり、自分と良い関係を築きたがってると考えるように。将来的に他の部族を配下に置く場合も、第一は事実の秘匿を。第二にはケイを襲わせない為にやっていると思われるようにした方が良いと思います」


「また演技、ですか……」


「面倒だとは思いますけど、オウランさんが力を増やしたと知ったら、ケイの貴族が兵を出して攻めて来そうな気がしません?」


「はい……します……。わたし達とケイの関係は基本敵どうしですから……。そのような危険を考えた上で、わたしに他の氏族を、草原族を纏めろと言うんですね?」


「はい。今後ますます頼れるのは自分の力だけの時代が来そうなので。少しでも力が多ければ、その分出来る事も増えるでしょう?」


 オウランさんはうつむいて何かを考えてるようだ。

 当然か。力を増やすには争わないといけない。

 いや、この年齢で新しい武器を得て調子に乗らないのは、当然じゃなくて非凡だな。


「皆で相談しましたら、今得られてる富とあの道具を使えば多くの氏族を支配下に置けるし、その必要があると皆思っているのが分かりました。

 しかし、ダンさん。貴方は何故ここまで色々としてくれるのですか? 以前要求された物事ではとても釣り合いません。嫌ですけど、わたしは長として貴方を疑わないといけない」


 そう言うと、彼女はまっすぐこちらを見ている。

 少しでも、私の考えを見つけようと。


 若い、なぁ。


 本当に良い人をカルマから紹介して貰った。

 好きか嫌いかで行動を変えるつもりは無かったけど、心から助けたいと思わせてくれる。

 ……凄く少ない可能性だったとはいえ、彼女がおくれたかもしれない平和な生活を不可能にした私が言って良い事ではないか。


「簡単に言うと遊牧民が、貴方方の生き方自体が好きだからです。それに前にも言いましたが、私を匿ってくれる場所というのは、予想通り酷い戦乱が起これば草原の井戸よりも貴重となる。

 全てが予想通りになれば酷い時代が来ます。ケイに住む人間の二人に一人が死ぬかもしれません」


「それほどですか……。正直に言うと疑っています。だって、貴方はエルフではあっても庶人なのでしょう? だというのに其処まで先が分かるなんて……。お茶と馬の道具もそうです。氏族の誰も知らなかった。……どうやって思いついたのですか?」


「……すみません。それは秘密です。ただ言えるのは、私は決してオウランさんに危害を加えません。いや……オウランさんが私に危害を加えようとすれば分かりませんが……。もしも、ずっと親しく出来たら、私が逃げ込んだ時に迎え入れてくれれば、どうやって思いついたのかを話せる日が来るでしょう。中々笑える話ですよ」


「秘密、ですか。残念に思いますが仕方が無いのでしょうね。何時か話して貰える日を待っています」


「私もですよ。ではオウランさん、何よりもご自分の体に気を付けてください。貴方の未来が明るい事を願います」


「はい。ダンさんもお気をつけて。ここの書簡は大事に読みます」


 これで、全て終わった。

 行くか、カルマの所へ。


 大規模な農民の乱は起こりそうだが、その後に戦乱が起こるかは確信が持てん。

 計画の為には少しでも正確な情報が必要だ。


 はぁ……出来たら遊牧民の可愛い子と結婚して暮らしたいのだけどね……。

 ……待てよ、エルフだから嫌とか言われる可能性も……。


 ……い、今は関係ないな。うん、関係無い。

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